女子の情報伝達力と結束力は凄まじいもので、隣のクラスに中国からの転校生がきたらしいという噂がこちらの方にも流れてきた。
そして結束力というのは女子はよく群れているが決して邪魔になるようなことはしない。自分に対する報復を恐れるが故かもしれないが、それでも結束力が強いことに変わりはない。
「そっか、中国かぁ…そういやアイツ、中国に帰ったんだよなぁ」
「アイツ?」
同じクラスで俺達とよくつるんでいる本音が一夏の発言に対して疑問する。
一夏は懐かしそうに答える。
「小学生四年生の時に転校してきてからの第2の幼なじみになるんだ」
「へえ~」
どうせコイツのことだ。その幼馴染も女でコイツに惚れているってオチだろうな。
「どんな子?」
「箒とは違うベクトルで煩かったけど明るくて活発なやつだったよ。名前は…………」
バァン!!
「凰 鈴音よ!」
勢いよく扉が開かれ、そこで少女が仁王立ちの状態で一夏の言葉の続きに来るであろう誰かの名前を言った。俺は「あれだけ勢いよく開けられたのに壊れてないとは、IS学園は扉まで凄いのか」などと思っていた。
一夏はその少女を見ると驚きながら聞いた。
「お前、鈴か?」
「ひさしぶりね一夏!!」
一夏の確認の問いにツインテールの少女は久しぶりねと返した。つまりこの少女が一夏のいう第2の幼馴染で間違いないだろう。
しかしこれにいい顔をしない人物がいた。
篠ノ之だ。
自身の持ち味というかアドバンテージである幼馴染を持った人間がきたのだ。そして、自分より明らかに行動力が高い。
そんなことを考えているんだろうなと思いながら俺は再開を果たした2人を見守っていたがすぐに自分の席に着く。
「おい」
「なによ」
バァン!!
少女の頭上に振り下ろされる無慈悲な出席簿。その犯人は織斑千冬。
「もうSHRの時間だ。教室に戻れ」
強烈な威圧感を放つ織斑千冬の前に少女は成す術も無く退散していった。
「それではSHRを始める」
昼、俺と一夏、篠ノ之と本音、そして刀奈の5人で食堂し来ていた。
「待ってたわよ!一夏!!」
「麺が伸びるぞ」
「う、うるさいわね!わかってるわよ」
俺達が座ると皆でいただきますと手を合わせ、食べ始める。
「それで鈴、いつ帰ってきたんだ?」
「一昨日ね。まあIS学園に行けるって決まってから30分で準備したんだから」
「短っ!?」
「それより一夏、この人達誰?」
「遅っ!?まあ紹介するよ。クラスメイトの本音と銀、4組の簪と簪の姉で銀の恋人の楯無さん」
興味なさげに聞き流していた少女こと凰 鈴音だったが恋人という単語に反応し、もう一度聞き返す。
「え、何?この人ってアイツの恋人なの?」
「あ、ちなみに2年でロシア代表で生徒会長だ」
「え、あ、ウソ。すみませんでした」
「あははーいいのいいの、気にしないで。タメ口でいいからさ」
刀奈は笑って返す。凰 鈴音も少し戸惑いながらもタメ口を使って話す。
「わかったわ楯無………さん」
「やっぱり呼び捨ては難しいかー。仕方ない楯無さんでもよかろう」
「一体何のキャラだよ楯無」
呆れる俺に戸惑う凰 鈴音、楽しげに笑う刀奈に苦笑する一夏、そしてずっと不機嫌そうな顔をしている篠ノ之という何ともカオスな(混沌の)空間が完成した。
「あそうだ楯無さん。あとから相談したいことがあるんだけど」
「んん!?」
篠ノ之のセンサーに何か反応したらしいが刀奈はそれに気づかない。
「オッケーよ。いつがいい?放課後?」
「じゃ放課後でよろしく!」
「むむむ………」
篠ノ之は「これはまずい」みたいな顔をしているが、俺は気にしない。
「ごちそうさま!それじゃああたしは教室に戻るから!放課後よろしく!!」
「またあとでね!!」
この少しの時間で刀奈と凰 鈴音の距離が驚くほど縮んだ。これこそが人間の神秘!!そんな風に感じた。
放課後、凰 鈴音の相談とやらに乗るために隣のクラス1-2に赴いていた。
「えーっと鳳 鈴音(おおとり すずね)ちゃんいるー?」
「違うわよ!!アタシは凰 鈴音(ファン リンイン)よ!!」
「あ、見つけた。じゃーこの子借りてくねー!」
刀奈は凰 鈴音の首根っこを(というか制服の首元を)掴んで引きずっていく。しかし段々と凰 鈴音の顔が青くなっていく。
「楯無!!こいつを窒息死させるつもりか!!」
「あっとゴメンね」
「ケホッケホッ、何てことするのよ!!」
窒息死を免れた凰 鈴音は咳をしてから刀奈に向かって抗議する。しかし刀奈は人を殺しそうになったにもかかわらずニャハハーと笑っている。
「さっさと移動するぞ。めんどくさい」
「めんどくさいって…………キャ!?ちょ、待って!!そんなアタシを米俵を担ぐみたいに肩に乗せないで!!降ろして!!」
「うるさい。楯無、さっさと行くぞ」
「それじゃ、こっちよ」
凰 鈴音の叫び声は目的地に着くまで止むことは無かった。
しばらくすると刀奈の言う目的地である相談室に到着した。
ガララッ
中には長方形の机と向かい合うように置かれたソファがあり、まるで校長室のようになっていた。これで相談室とかどんだけだよ。
刀奈は扉を閉めると鍵をかける。
「さてと、銀。鈴音ちゃんを降ろしてあげて」
「だからアタシは凰 鈴音よ!!」
ゆっくりと降ろしたが第一声がこれである。よほどの何かトラウマみたいなものがあるのだろう。
ボスン、とソファに腰掛けると凰 鈴音と向かい合うようにして俺と刀奈が座る。
「さてさて、何を相談したいのかな?ん?」
「楯無さんも気付いてると思うけどアタシは一夏が好き」
「「知ってる」」
「ってアンタもわかってたの!?えっと名前が」
「銀でいい」
「まあ呼び方はどうだっていいのよ」
どうでもいいのかよ。まあ全然話が進まないがそれは凰 鈴音の所為であって俺の所為ではない。
ハァと息を吐いて凰 鈴音が続ける。
「アタシは一夏が好き。だけどどうやってアプローチすればいいかわかんないの」
凰 鈴音の顔は恋する乙女の顔になっていた。刀奈もこんな顔をするときが昔あったな、などと懐かしいと感じる。
「だから恋人の2人に相談してるの。何かいいアプローチ方法ってないかしら」
恋とはいいものであるが、その反面で恐怖し、苦しいことでもある。
自分が恋することによってその人との関係が壊れてしまうかもしれないと恐怖し、現状維持に徹し、自信を苦しめる。そんなことでもある。
ただ彼女は壊れるより先に距離を縮めるというタイプのようだ。けれど距離を縮める手段がない。だから俺達に知恵を求めたのだろう。
「うーん、私達と貴方達とでは状況も関係も違うからどうしようもないけど」
「俺は俺でそれとなく聞き出してみよう」
「そうして。ということで鈴音ちゃん」
「鈴でいいわ」
「じゃあ鈴ちゃん。銀から情報が入ってくるまでどうしようもないからしばらくは女子力を鍛えましょう」
そうして第1回凰 鈴音告白プロジェクト集会は終わった。
ここからは俺しかできないことだ。凰 鈴音の為にもなんとか聞き出してみよう。
…………その前に、あの一夏(バカ)に恋愛が理解できるのだろうか?
俺達はクラス対抗戦に向けてアリーナでトレーニングをしている。
俺達といっても今回はいつもの4人だけではない。
俺と刀奈と一夏と本音以外に、英国代表候補生のオルコットに何故か一般生徒と同じ扱いの篠ノ之。いやほんとに最後、何でいるんだよ。
「銀は一夏君を担当して。私はセシリアちゃんと簪ちゃんと箒ちゃんを担当するから」
「了解した」
「よろしく頼むぜ銀」
俺達は少し離れた場所で専用機を展開する。会話はオープンチャンネルで済ませている。
「みてろよ銀。ここ数日での俺の成長を!!」
「来い」
一夏は刀を構えて接近してくる。刀での切り上げを躱すと左足での蹴りが続き更に後方への飛び退き回避で距離を取る。
攻撃が不発だったらすぐに距離をとれと、俺が刀奈に教えた戦法だ。
「そういえばお前さ」
「何だ」
足払いを避けながら一夏と会話する。
「気になる女子とかいないのか?」
「何言ってんだ?」
ブレイクダンスの要領で繰り出される連続蹴りをいなすと続く言葉を放つ。
「ここにいる女子は殆ど美人ばっかりだ。まあ楯無には及ばないがな」
「ノロケかよ!!」
先程より力の入った突きからの袈裟切りを身を捩って回避すると会話を続ける。
「ともかく、恋愛対象になりそうな女子はいないのか?」
「まだいないな!!」
滑り込みからの切り上げをスレスレで避ける。
「じゃぁお前が恋人にするならどんな女がいい?」
「そんなもん好きになったやつに決まってるだろ!!」
サマーソルトキックを仰け反って回避するとここまでかと一夏を組み敷く。
「なかなか上達してるが、まだまだだな」
「強すぎるというか硬すぎんだよ!!」
文句を垂れる一夏に手を差し伸べる。手を掴まれると一夏を引っ張り上げる。
情報もそれなりに入ってきたし、一夏の成長も確認できた。戦果は上々だろう。
その後も一夏への戦闘指導は終わらなかった。