迎えたクラス対抗戦。
一夏の初戦の相手は誰が考えたであろう凰 鈴音だった。
「鈴、俺はかなり強くなったからビビって逃げんなよ」
「そっちこそ、あんたよりアタシの方が強いんだから」
今回は俺も刀奈さんも、簪も本音も、オルコットも来ているのだ。だから負けられないと試合前に意気込んでいた。
「どっちが勝つと思う?」
「私と銀が鍛えたんだから一夏君が負けるはずないわ」
「フッ、野暮なこと聞いたな」
カウントが始まる。
3、お互いに武器を構え、
2、お互いを見据え、
1、息を吸いこみ、
0、急加速で一夏と凰 鈴音が激突する。
凰 鈴音の機体、第3世代機『甲龍』は赤と黒の色の攻撃的な形だが情報によると超低燃費だがパワーが強いということとなっていて機動力重視の白式が力負けするのは明確だった。
しかし、それだけが甲龍の持ち味ではない。
「グッ、なかなかやるじゃない」
「楯無さんと銀達に付き合ってもらったんだ。言っただろ強くなったって」
今のところは機動力を駆使して四方八方から攻撃を仕掛けている一夏が優勢だが、甲龍の秘密兵器はまだ使われていない。
しかし凰 鈴音もやられてばかりではない。
厚い刃を持つ青龍刀で攻撃を弾き、反撃する。だが一夏はすぐに体勢を立て直し、切りかかる。
凰 鈴音は一夏の速度に対応しきれず、ジリジリとエネルギーが減っていく。
そしてついに一夏は凰 鈴音のシールドエネルギーを3割削ることに成功した。
そこで凰 鈴音は後退し距離をとる。
「どうした?もう終わりか?」
「違うわよ。秘密兵器を使うだけよ!!」
凰 鈴音がそう言った瞬間、一夏が見えないナニカに吹き飛ばされた。
会場のほとんどの人間は何が起きたのか分かっておらず、一部の人間がそれを理解し驚いていた。刀奈とオルコットは後者だ。
「な、何が起きたんだ!?」
「な、何?」
篠ノ之と簪は分かっていない様でオルコットと刀奈が説明する。
「衝撃砲ですわ」
「中国の最新技術で完成した不可視の武器よ」
「不可視だと!!回避はできないのか!!」
秘密兵器こと衝撃砲。これは言ってしまえば超強化空気砲だ。
空間を圧縮し、砲弾として発射する。不可視の衝撃は相手に回避を許さずエネルギーを削りきる。そんな武器だ。
けれど、ちゃんと対策はしてある。
「問題ない。一夏には秘策がある」
「「「秘策(だと)?」」」
「まあ見てなって」
一夏は地面にたたきつけられたが起き上がると腰の後ろに隠してある何かを掴んだ。
それは俺が試合前に秘策として渡した、対衝撃砲用の道具だ。
その名を、
「食らえ!!煙幕弾!!」
「それがどうし…………キャッ!?」
一夏は煙幕弾を凰 鈴音に投げつける。それを衝撃砲で破壊した瞬間、大量の煙幕(スモーク)が噴出し、アリーナ内を煙で覆う。
刀奈が問う。
「これが秘策?」
「しかしISのサーモセンサーで場所が分かってしまいますけど」
オルコットが付け足して言う。
「まあ見てなって」
会場のモニターにサーモカメラで2人が映される。
一夏は凰 鈴音の衝撃砲のロックオン警告を聞いているだろう。
凰 鈴音は捉えた一夏に衝撃砲を発射したが一夏はそれを避けた。
それに会場はざわめいた。
「衝撃砲の砲弾が見えた!?」
刀奈が驚く。原理は簡単だ。空気砲に煙を貯めて発射すると形が見えるのと同じだ。
しかしオルコットが冷静に言った。
「しかしこのスモークもすぐに消えてしまって、また不可視の砲弾になってしまいますわ」
「それはいいんだよ。不可視ではない今のうちに衝撃砲の特性を理解できる。一夏の成長速度だったらそれが可能だ」
やがて、煙幕は消えて凰 鈴音は再び猛攻撃を開始する。
しかし先程の煙幕の中で衝撃砲の特性を理解したのか衝撃砲を躱していく。
そう、衝撃砲は直進しかしない。
そして、
「そらっ!!」
「しまっ!?」
片方の衝撃砲を破壊することに成功した。
そして続けざまにもう片方も破壊したが、腕に有った衝撃砲で吹き飛ばされてしまう。
しかし一夏は急停止し、体にかかるGを堪えて凰 鈴音に突撃し、勝敗を決める。
はずだった。
『超高熱源ロック中 回避を推奨します』
「やべっ」
「ひゃ!?」
一夏は凰 鈴音に体当たりしその場を離れる。その次の瞬間、その場所を極太のレーザーが、アリーナのシールドを貫通して穿った。
2人の決着を邪魔したビームの主がアリーナへと侵入してきた。粉塵が晴れて姿を現した乱入者は正に異形だった。
頭部と胴体は一体化していて俺と同じく全身装甲の身体を持ったISだった。
(――――――――)
「っ!?」
「銀!?大丈夫!?」
あのISのコアとリンクしあのISコアとの会話を試みたが、最初に流れ込んできたのは凝縮された苦痛と怨嗟の濁流。
「ガッ、ハガァ、ゼハぁ、はぁはぁ…………」
「ちょっ、しっかりして銀!!」
「だい、じょうぶ、だ、楯な、し」
「大丈夫じゃないでしょうが!!何があったの!?」
「あのISコアとコンタクトをとったが、耐えられないほどの苦痛と怨嗟の声でおかしくなりそうだった」
リンクを切ったからよかったものの、もし切っていなかったらこちらがおかしくなっていたかもしれない。
そして、最後に、切る直前に聞こえた声。
(たすけて)
衰弱しきっていて、悲しそうで、あれだけの苦痛と怨嗟の嵐の中耐え抜いて言った「たすけて」という言葉。
きっと拷問より酷く辛い時間を過ごしてきたんだろう。
「絶対に、助ける!!」
「無茶よ!!そんな身体で!!」
「そうですわ!事情はよく分かりませんがここは退避したほうがいいですわ」
「そうだぞ!一夏がなんとかしてくれる!」
揺らぐ視界の先にはあの異形のISに奮闘する一夏と凰 鈴音の姿が見えた。
満身創痍の凰 鈴音でさえ、客席の生徒の退避が完了するまでの時間稼ぎとして戦っている。この程度で折れる訳にはいかない。
それに、篠ノ之束の手によってここに送り込まれたあのISから何かしらの情報を得られるかもしれないのだ。千載一遇のチャンスを逃す気はない。
「おり…………更識、出る!!」
専用機を纏ってシールドの、穴の開いた部分からアリーナ内に侵入し、対面する。
「すぐに助けるから、少し待っててくれ!!」
そして俺は一夏と凰 鈴音に指示を出す。
「一夏、お前はとにかく攻撃、凰 鈴音は撤退しろ!!」
「わかった」
「まだいけるわよ!!」
「満身創痍の奴がいても足手まといになるだけだ。失せろ!!」
「っ!!分かったわよ!!!」
逆切れしつつも凰 鈴音は撤退する。刀奈とオルコットは生徒の退避で忙しいようだ。
これを対処できるのは俺達だけなんだ。
「やってやるぜ!!」
そういって展開したのは大剣とも呼べない、武骨な剣だった。
全長3.5m。剣の表面はデコボコと凹凸があり、刃は研がれておらず、そもそも刃という概念がない。言ってしまえばこれは超重量で角をぶつけることが攻撃という武器なのだ。
そして、この大剣の素材はこの鎧と同じく、超硬質の合金。破壊される心配もない。
『超高熱源ロックオン 回避を推奨します』
「んなことに構ってる暇は無いんだよ!!」
大剣を振りかぶるが、それより早く敵はビームを発射した。
俺は大剣を、音速超えの速度で、投げた。
大剣はビームを2つに切り裂いてビーム発射口のある右腕を吹き飛ばした。
そして、遅れてくる衝撃波、俗にいうソニックブームによって敵は壁際まで吹き飛ばされる。
「さあ、その子を離せ!!」
「銀?どうしたんだ?あそこには誰もいないぞ?」
一夏が疑問を投げかけるが無視して突き進む。
敵は、左腕のビーム発射口にエネルギーを送るがチャージ速度が遅い。
「今からたすけ」
「一夏ぁああああああ!!!」
大音量で篠ノ之箒の声が放送室からハウリングしながら響く。
「男なら…………男ならそのくらいの敵に勝てなくてなんとする!!」
その声に標的が俺から篠ノ之に変わり、「ヒッ!!」と放送室の篠ノ之の恐怖する声が聞こえた。
自身が本当の意味での死を目の前に立っていると今更気付いたのだろうか。
しかし発射される前に左腕を踏み潰してエネルギーを爆発させる。
もう武器はない。敵はまともに動けないのでこちらのなすがままになる。
「待っててくれ。すぐに助ける」
ガチャリ、
ガチャガチャ、
ジジジジ、
キィィィ、
回線や装甲を外して、切断して、最奥にあった結晶、ISコアは一部が変色してしまっている。ウイルスの浸食が始まっているのだ。
「まだ、間に合う」
両手でコアを包み込み、再びコンタクトを試みる。
(―――――――――)
「ぐっ!!!」
やはり流れ込んでくる形容しがたい負の濁流は、このコアの意識を確実に蝕んでいる。
すぐにコア正常化プログラムを起動し、ウイルスを解除し、削除していく。
コアの変色部分は次第に正常を現す青色に変わっていき、そして全てのウイルスを消滅させた。
(ありがとう)
「(どういたしまして)」
俺はそこで意識を失った。