改めて男装したデュノアと一夏が出ると俺達はふぅー…………と長い溜息を吐く。
「はー、久しぶりに焦ったわね」
「ここまで焦ったのは何ヵ月ぶりでしょうか」
「まあ何にせよデュノア社にとっとと連絡して終わるぞ」
弛んだ空気は一瞬で、再び気を引き締めるとデュノア社長の携帯の電話番号に電話をかけた。
prrrrr prrrrr prr
「誰だね?」
第一声から傲慢そうな言葉が来る。
「どうも、IS学園生徒会庶務の更識銀です」
「…………何の用だ」
「もう気付いているんでしょう?貴方の娘、シャルロット・デュノアについてです」
「そんな奴は知らん。用が無いなら切らせてもらう」
明らかに逃げの体勢に入っている。ならば一気に畳み掛ける。
「では今からそちらにデータを送ります。それを見てもそう言えますか?」
そう言って俺は調べた情報をデュノア社長の携帯に転送する。
それによって一時的に電話が切れる。
しかししばらくして俺の携帯に電話がかかってくる。
「はい」
「何が目的だ?」
デュノア社長は声色を更に低くして問う。恐らく顔は険しく強張っていることだろう。
「貴方がこちらの取引に応じてくれれば何事もなく終わります」
「取引だと?」
「ええ。こちらとしてもデュノア社の大きな問題を世間に広げるのは本意ではありませんから」
しかしデュノア社長には拒否権は無い。この取引に応じなければ世間一般にこの事件を知らしめると、こちらが脅しているようなものなのだから。
「…………内容は」
「こちらからは私のISの稼働データを送ります」
「何だと!?それは本当か!?」
俺がこちらの取引に出す物を言うとデュノア社長が声を荒げる。
こちらが送るのは稼働データであって、機体データではないので、武装の情報が漏れることは無い。
稼働データは、あちら側が求めてやまない物だ。それが取引に成功すれば手に入るのだから、必然と声も大きくなるだろう。
「こちらは何を出せばいい?」
「条件は2つ。1つはシャルロット・デュノアの卒業後の命と環境の安全。もう1つはデュノア社以外に俺の情報だと知られないことだ」
「その程度なら問題はない。すぐに準備しよう」
「では交渉成立です。データをそちらに送ります。それでは」
電話を切って、デュノアに連絡する。
しばらくしてデュノアが電話に出る。
「デュノア社長との取引が終わった。成立した。これでデュノアの命の安全は保障された」
「ホント!?更識君、ありがとう!!」
「銀でいい。更識はこの学園に3人いるからな」
「わかった。ありがとう銀!!」
連絡を終えるとソファにもたれかかる。
「お疲れさま」と刀奈がタオルで包んだ保冷剤を渡してくれる。
タオルで程よく冷たさが軽減されているので、しばらく額に押し当てていた。
「これで面倒事は1つ減ったわ!」
「お前、そんな堂々と面倒事なんていうなよ。否定はしないが」
「明らかに面倒事でしょう?」
「虚さんまで…………」
生徒会役員がこんなんでいいんだろうか?と思うが深くは考えないでおこう。
とにかく今は、この達成感に呑まれていよう。
翌日、気怠い月曜日がやってきた。今は行間休み。授業が終わり、教師が出て行った瞬間、地響きが聞こえた。
「「「「織斑君!!!」」」」
「「「「デュノア君!!」」」」
「「「「更識君!!!」」」」
俺達3人は囲まれてしまった。
集まってきた生徒はクラスメイトだけでなく、他のクラスからも集まってきたので非常に煩く熱い。
「一体なんだ?」
「「「「これ!」」」」
「ああ、これか」
女子生徒達が突き出した紙は刀奈が配布した学年別タッグマッチについての緊急告知文だった。
「「「「私と組んで!!!」」」」
全員が口をそろえて言った。
しかし俺は
「すまないが他を当たってくれ。俺はそれに参加せずに、楯無と過ごす」
「「「「…………ッチ、リア充が」」」」
「聞こえてるぞ」
俺がダメだと知って他の2人の所へ行くが、
「俺はシャルルと組むからごめんな」
「僕も一夏と組むから、ごめんね」
と言って、結局生徒たちは全滅した。
「そ、そんなバカな――――――!!!」
「神は死んだ――――――!!!」
「目が!!目がぁぁぁぁぁぁl!!!」
女子生徒たちは断末魔を残して去っていくが、最後のは少し違うと思う。
デュノアは少し悲しそうだ。
「何か悪いことしちゃったかな…………」
「いや、何もしてない…………と思う」
「HENTAIな奴らにはちょうどいいんじゃないか?」
ここのクラスには百合な奴もいれば腐った奴もいる。正に変態の巣窟だ。そんな奴らには丁度いいのではないだろうか?
まあこのクラスには今も不穏な噂が流れているようだしな。
「はい?」
「あくまで噂ですが学年別タッグトーナメントで優勝すれば一夏さんか更識さんとお付き合いできるとか…………」
昼休み、俺達は屋上にて昼食を取っていた中、今流れている不穏な噂についてオルコットに聞くとこう返ってきた。
その中に俺が含まれている所為だからかととある女子の「副妻のチャンス!!」とかいう奇声に納得した。
一夏は何か心当たりがあるらしく、あー…………成程と呟く。
「実は…………」
「成程な。話に尾ひれどころか翼が生えた結果、ああなったと」
話を要約すると、今朝、篠ノ之が押しかけてきて優勝したら付き合えと宣言したらしい。それを聞いた女子が人に話し、尾ひれ背びれがついて、最後には翼が生えたという訳だ。
極めて一方的且つ身勝手な行動だと思うが、こんなことをされても篠ノ之の好意に気付かないこの一夏(バカ)が原因だと思うことにした。つまりお前が悪い。
「クラスの名声よりも恋が欲しいって感じだな」
「優勝賞品みたいで可哀そう」
「簪、そんなことはない。このバカにはこれくらいがちょうどいい」
「よくねぇよ」
ま、篠ノ之が優勝する確率はかなり少ない訳で、放っておいても大丈夫そうだが、これを知った奴らがこれ見よがしにと実力をつけていってるが、注意する必要は少ない。
むしろ注意して挑むべき相手は簪、鈴、オルコット、ボーデヴィッヒの4人だろう。
その中でも特に注意すべき相手はボーデヴィッヒだ。学園のウェブページに載っている情報が確かなら、あれはかなり厄介だ。1対1であればほぼ負けることは無い。幸いなことに今回はタッグマッチだ。勝機はある。
「何にせよ、まず一夏が取るべき行動は対ボーデヴィッヒの戦闘だ」
翌日、俺は敵の偵察のために鈴とオルコットのペアのいるアリーナに足を運んでいた。
ちょうど2人で打ち合っていた所だった。
しかし、そんな2人に向かって一直線に突き進む何かがあ2人の打ち合いを中断させる。
「危なっ!?」
「きゃっ!?」
「誰よ砲弾なんてぶっ放してくるのは!!」
砲弾の軌道から大凡の発射方向を見ると、そこには専用機『シュヴァルツェア・レーゲン』を纏ったボーデヴィッヒが立っていた。
「アンタ、いい度胸してんじゃない」
「中国の『甲龍』にイギリスの『ブルー・ティアーズ』か。……ふん、データで見た時の方がまだ強そうではあったな」
挑発的なその物言いに鈴の堪忍袋が天元突破した。
が、そんなことをさせるはずもなく、俺が静止させに入る。
「そこまでだ。無駄な私闘は俺の見てないところでやってくれ」
「あんた」
「貴様!!」
鈴は驚き、ボーデヴィッヒは憤怒の視線を向ける。
「生徒会としては放っておけないんでな」
「アンタ、生徒会に入ってたんだ」
「邪魔をするな!!」
2人の温度に差があるなと思いつつも、オルコットを見た。
「なぜ止めなかった?」
「そ、それは…………」
「私を無視するとはいい度胸だな。まずは貴様から!!」
「うるさいぞボーデヴィッヒ。こうなったら不本意ではあるが織斑千冬を呼ぶかな」
「「「!?」」」
俺が出口に向かって歩き出すと後ろから3人の静止の声が聞こえた。
「「「待て(待って)!!」」」
「何だ、一々」
「アンタ、私たちを殺す気!?」
「そうですわ!」
「俺はお前らを殺したりはしない」
再び出口に向かうと今度はボーデヴィッヒが口を開いた。
「貴様は強者に頼るだけの弱者だったか」
「利用するだけだ。まあ今の事を織斑千冬が知ればお前も見放されるだろうな。ボーデヴィッヒ」
「っ!!」
体を「ビクリ」と震わせたボーデヴィッヒは武器を収納っするとISを解除する。
「フン、興が削がれた」
ボーデヴィッヒは逃げるように出て行った。今回のことは報告しなかったが彼女達に対して織斑千冬の名前での脅しが効果的なことが分かった。