そして迎えた学年別ダッグトーナメント。
既に全学年第1試合が終わり、第2試合に入ろうとしていた。
一夏の初戦は訓練機での参加の4組の生徒だが、わずか5分で終わってしまった。
そして注目の第2試合の相手は、ボーデヴィッヒと篠ノ之ペアだった。
「ついに当たったか」
「そうね」
俺は観客席にはおらず、2年の先輩方の中に紛れていた。
理由は簡単で、刀奈と一緒に居たかったから。
刀奈と俺はモニターを見ながら呟く。
「一番厄介なのが来たな」
「まあペアの相手が箒ちゃんだからマシな方じゃない?」
「そうなんだが、先程の戦いを見るとな」
ボーデヴィッヒペアの初戦の相手は鈴とオルコットのペアだった。
遠近のバランスの良いペアだった2人に、ボーデヴィッヒは実質1人で勝ち上がったのだ。
ボーデヴィッヒ本人の『境界の瞳』や軍人としての身体能力がかなり活きている。
「一夏には特訓をしてあるから大丈夫だとは思うが」
試合が始まると真っ先に篠ノ之が落とされた。
さて、ここからが本番だ。
一夏がボーデヴィッヒに向かって加速し、剣を振りかぶった。しかし一夏はボーデヴィッヒを蹴飛ばす。
「やっぱりAICは厄介ね」
「近接しか戦えない一夏にとっての正に天敵だからな」
AIC,ボーデヴィッヒでいう所の停止結界は物体を止めることができる能力だ。もちろんそれは物理に限ったことではない。
ボーデヴィッヒは初戦で鈴の衝撃砲をAICを使って停止させたからだ。
一夏は上下左右に動き回りながら接近する。こうすることでAICにかかりにくくするのだ。
しかし、AICも万能ではない。
AIC使用中は極度の集中状態になるので周りが見えなくなるのだ。だからこの勝負の鍵はデュノアにある。
集中しそうになったらこまめに射撃、且つ一夏に攻撃しやすい所に誘導すると、器用に役目をこなす。
一夏がまたAICに捕まった。しかし今回はデュノアが一夏の後ろにいるので、援護射撃ができない。
「かかったな!!」
ボーデヴィッヒの大型砲台が火を噴く。
「まだ終われないんだよ!!」
吠えるように叫んだ瞬間、雪片の刀身が輝く。そして、目の前に迫りくる砲弾を切り裂いた。
「何!?」
あの輝きは!?まさか!!
「銀、あれって…………」
「ああ、恐らく零落白夜だ。まさか2次移行もせずに発動できるとはな」
会場が一気に沸いた。
一方でボーデヴィッヒは、吠えた。
「貴様が教官を真似るな!!!」
砲撃したのちに、ワイヤーブレードで一夏を追い詰める。
だがデュノアが銃撃し、気をそらす。
2方からの攻撃に攪乱され、苛立ってきたボーデヴィッヒは攻撃が荒くなってくる。
プラズマ手刀で切り詰め、ワイヤーブレードで絡め取ろうとするがボ-デヴィッヒの背後のデュノアが射撃を行うため、後一歩足りない状況が続く。
「そこだ!!」
「貴様!!!」
デュノアに銃撃されたことで気が逸れたところに、瞬時加速で距離を詰めた一夏が零落白夜で大ダメージを負わせた。
これは勝敗が見えたな、と思っていると、ボーデヴィッヒの様子が変わり…………
「ああああああああああ!!!!!」
紫電を撒き散らしながら黒い何かに飲み込まれ、黒い何かは形を変え、あるISを象った。それは…………
「暮桜!!!」
一夏が叫んだ。
緊急事態を告げるブザーが鳴り響き、観客席にいた生徒や視察で訪れた社員達が慌てて逃げ出す。
俺はオープンチャンネルで一夏に呼びかける。
「一夏!アイツの正体は恐らくVTシステムだ。現役時代のお前の姉レベルの強さだ。とにかく逃げて気を引かせろ!」
「わかった」
俺と刀奈は急いでアリーナの中を目指す。
到着すると偽の暮桜は一夏を追っていた。
「ッチ!!」
振り切ろうとするがしつこく折ってくる暮桜。
ジリジリと一夏との距離が縮まっていく。
「一夏!!」
デュノアが銃撃で狙うも動きが早すぎて当たりもしない。
俺は黒要塞を纏う。しかし代名詞である鎧は全部解除して。
「偽物!!お前は俺が相手になる!!こい!!」
偽暮桜は俺に反応するとこちらに向かって加速してきた。
俺は両手にそれぞれ刀を展開する。
右に黒の刃、左に白の刃、これが俺の第2の近接武器、鉄(くろがね)と銀(しろがね)だ。
先制は偽物。鋭く突き流れるように回転切りへとつながる。それを受け流して攻撃する。刀は黒い何かを切り裂いたがすぐに再生してしまう。
「再生能力なんてVTシステムにはなかったはず」
「だったら清き情熱で」
「ダメだ。中のボーデヴィッヒにもダメージがいく可能性がある」
何か手は無いか!!…………あった。
かなり難しい上に俺がどうなるか分からんが死にはしないだろう。
「一夏、デュノアにエネルギーを送ってもらえ。一か八かの賭けに出る」
それだけ伝えて再び偽物の相手をする。
攻撃が掠るだけでもエネルギーが切れるほどの低基礎エネルギーだ。
攻撃を避けて、受け流して、切り裂いて、回復されて、この1連を何度も何度も繰り返している。
刀奈も加勢するが格の違う相手になかなか攻撃の隙を見つけられない。
「銀、終わったぜ」
「いいか一夏、ボーデヴィッヒの姿を一瞬でもいい。一瞬でいいから外に出せ」
「わかった」
一夏は必死に食らいつくが鋭く早い攻撃は1撃1撃が重く、一夏は悪戦苦闘している。
それを援護するように背後や下から攻撃し、ついに偽物の剣を弾いた。
「決める!!!」
零落白夜がニセモノの胸からへそ辺りまで切り裂く。そこからうっすら見えた、衰弱しきったボーデヴィッヒの姿。
俺は無我夢中でボーデヴィッヒを引っ張り出した。そのまま一夏に投げ渡す。
しかし黒い何かは搭乗者を失って代わりになる人間を取り込もうとする。
俺はそれに捕まり、飲み込まれた。
飲み込まれ、光が届かない中で、俺に流れ込んでくるバグとエラーの数々。
ボーデヴィッヒのIS[レーゲン]が俺と同じように流れ込んでくるそれに苦しむ。
<我ヲ、受ケ入レヌツモリカ!!>
人を象ったVTシステムが俺の中に侵入しようとしてくる。
<何故、我ヲ拒ム!?>
(それは、今はお前に頼る時ではないからだ)
<汝ハ比類ナキ『力』ヲ求メテイタハズダ>
(確かに力を欲したりもしたが、それはコレカラ来る対戦の為だ)
(仲間を傷つける為じゃない)
<我ハ、汝ノ言ウ「対戦」ノ時、目覚メヨウ>
<『力』ノアル、強者トノ手合セ、我ハ待トウ>
<汝ガ『力』ヲ求メルソノ日マデ>
VTシステムは姿を消した。それに伴ってエラーやバグの嵐も消えていった。
後に残ったのはレーゲンと俺だけだった。
レーゲンが口を開いた。
「私の主を助けていただいてありがとう。彼にも伝えておいてください」
「わかった」
そしてレーゲンも消えた。残った俺は虚無の空間に浮かんでいたがやがて意識が途切れた。
― 視点 楯無 ―
私はありえない物を光景を見ていた。
銀が世界最強に果敢に挑んでいく中、私はただの足手まといでしかなかった。
銀と一夏君でラウラちゃんを助けた瞬間、銀がVTシステムの飲み込まれた時、私は―――――飛び掛かっていた。
生徒会長らしくもなく、感情にまかせて、狂ったように、VTシステムに攻撃していた。
けれどもそれは途中で遮られる。
「ダメです楯無さん!!中の銀がどうなっているか分からないんですよ!!下手に攻撃して銀にダメージが届いたら―――」
「っ!!!!」
血の気が引いていくのが分かった。
今の攻撃で、銀がダメージを食らったかもしれない。そう思うと私は脱力した。
VTシステムは球状になったまま変化を見せない。
私はそれに力無く、拳を叩きつける。
「辛いよ………」
泣くことが、己の無力さが、ただ見ていることしかできない自分が、辛い。
簪ちゃんとの仲を戻して、更識の当主になって、ロシア代表になって、強くなったつもりでいた。
けれど現実は残酷で、私の無力さを突きつける。
私はただ、彼に、銀に、縋り付いていただけだった。
何もできない。それが何よりも辛く、悔しかった。
でも、変化は起きた。
VTシステムは突如として、光輝き、やがて消えた。
その中にはラウラちゃんの待機状態の専用機と、それを守るようにして体を丸める銀の姿があった。
「銀!!」
私は駆け寄った。ラウラちゃんの専用機を一夏君に渡すと、銀の胸元に耳を当てる。
ドクン、ドクン………
心臓の鼓動が鼓膜を振動させた。
生きている。
私は銀を抱きかかえて、ISを纏ったまま、医務室に直行した。
「東先生!!」
「そんなに大きな声じゃなくても、ってその子どうしたの!?」
私が抱えている銀を見て表情が一転する。
「さっきVTシステムに飲み込まれて、光ったと思ったら意識が無くてそれで―――」
「いい?落ち着いて。深呼吸して。ともかく診てみるわ」
「あ、先生!」
「何?」
「できれば他の人はできるだけ見せないでください」
「何か事情があるのね。分かったわ。けど少し手伝ってね」
私は東先生についていく。
レントゲンでの全身撮影とCTスキャンの2つだが、制服のまま撮る訳にもいかないので先生は慣れた手つきで変えていく。あとから聞いてみよう。
一通り終わると銀をベッドに寝かして先生に銀の身体について説明した。
「なるほど。まあ肉体に異常はないから大丈夫だとは思うけれど………」
「そうですか………」
私の不安は少し軽減されたが、また新しい不安が溢れてくる。
起きて第一声は何と言われるだろうか。きっと彼はおはようから始まるだろう。
けれど次に来る言葉は何だろうか?別れ話を出されるのではないだろうか?
「そう不安になってても仕方ないんだからさ、もう腹を括ってみなよ」
そう、潔くなれたら私は彼の横に相応しくなれたのだろうか?
何を考えても不安しか出てこない。
「一旦、そこら辺のベッドで休むといいね。疲れてると何を考えても悪い方向に考えちゃうからさ」
「わかりました」
私は布団に潜ると微睡みの波に身を委ねた。
夢を見た。自分の思い出を、見ていた。銀との思い出を、見ていた。
更識の屋敷でのこと、デートした時のこと、IS学園に来てからの事。
そこにいる私は、いつも幸せそうだった。
けれど、問題が起きた時。
例えば、簪ちゃんとの仲を戻した時。
例えば、デートの途中でナンパされている少女を見つけた時。
例えば、今回のVTシステムとの戦いの時。
どの時だって問題の解決にあたっていたのは銀だった。
動く前に銀が動いたということもできる。自分では対処できなかった。そういって逃げることもできた。
私は逃げなかった。けれど、動きもしなかった。ただ見ていただけだった。
きっと私は、銀という人間に、甘えていたんだ。
けど銀はそんな私を受け入れてくれた。
なら私も、銀のことを、銀の発言を、無茶を受け入れてみよう。
私には、それくらいしかできないから。
「さて、アンタ。もう起きてんでしょ?」
「よく分かりましたね」
寝たふりをやめて体を起こす。
「今まで寝たふりした奴を別の学校でみたからね。
それよりも起きてたならあの子に大丈夫だって言ってあげればよかったじゃない」
「楯無は俺と似てますから」
「?」
「自分よりも相手のことを優先するところが似てるってだけですがね」
「ハハッ、確かにそこは似てるね」
だから俺は刀奈が自分を傷つけるような事態になる前に動いていたのだが、それが刀奈を傷つけていた。
「やっぱり人間は無償で何かを得ることはできないんですね」
「そりゃそうでしょ」
「楯無が起きたら、俺の望みについて話しますよ。到底受け入れてはもらえないでしょうけど」
「それはどうかな?」
え?と聞き返す。
「この子はアンタが思ってるよりもずっと、アンタを理解してるよ」
「そうですか。でもきっと理解はしても納得はしないでしょう」
「アンタの望みはそこまで対価の重いモンなのかい?」
「ええ。楯無から見たら、最も手放したくない物でしょうね」
「そうかい。ま、最悪の結果にならないように努力することだね」
それだけ言うと先生は部屋を出て行った。
『この子はアンタが思ってるよりもずっと、アンタを理解してるよ』
俺が思っている以上に、か。
自分を最も深く理解しているのは自分だが、最も理解したくないものも自分だ。
刀奈は俺の、最も理解したくないものを理解しているのだろうか?
そう考えると俺は布団に包まる。
理解していて欲しいと願う俺がいる一方で、理解していないでくれと願う俺がいるのを、俺は理解していた。