インフィニット・ストラトス  漆黒の要塞の復讐   作:双盾

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愛と事件と傲慢

目が覚めたのは午前4時半。

体を起こして周りを見回す。

刀奈はまだベッドで睡眠を貪っている。精神的に疲れたのだろう。

 

「起きるか」

 

ベッドから出て気が付いた。

誰が俺の制服を変えたんだ?

昨日に先生と話した時は気付かなかったが恐らく昨日の時点でもう変わっていたんだろう。

多分、俺が起きる少し前に変えられたんだろう。俺が起きたのは、刀奈にベッドに寝かされる少し前だったからな。

シーツを剥ぎ取り布団を畳んで、シーツも畳む。

制服に着替えてからシーツを汚れ物を入れるためのカゴに入れる。

歯磨きを終えて、刀奈が起きるのを待つことにした。

 

 

 

 

「う、ん…………うにゅ?」

 

刀奈が起きたのはその1時間半の時だった。

 

「起きたか刀奈」

 

「あ、銀。おはよー…………って、銀!?起きてたの!?気分は大丈夫!?気持ち悪くない!?それから…………」

 

「どうどう、落ち着け。一旦、顔洗って冷静になってこい」

 

「う、うん…………」

 

刀奈を一旦、顔を洗わせに洗面所に送りだして戻ってくるのを待つ。

しかし帰ってきた刀奈は寝癖が酷く、俺は溜息を吐く。

 

「少し待ってろ」

 

「はい…………」

 

布系統の物が置いてある棚から小さめのタオルを取り出し、濡らす。

それを刀奈の頭に押し付けて寝癖を直していく。

髪を濡らしながら刀奈が聞いてきた。

 

「体は大丈夫なの?」

 

「ああ」

 

「あの後の事はちゃんと覚えてる?」

 

「VTシステムのことか?」

 

「そう」

 

「あの後は…………VTシステムの意識と会話したよ。アイツは強い相手を求めていた。自身よりも強い奴が見つからなかったとも、言っていた」

 

「VTシステムは消滅したのね?」

 

「いや、俺の復讐の相手との戦いがくるまでの休戦ということで今も俺に取り付いているよ」

 

「害はないの?」

 

「アイツは俺が居てようやく存在できるモノだから俺には何もしてこない」

 

俺は来たるべき復讐のために生きて、アイツはその強敵との対戦の為に俺の中でその時を待つ。

俺はアイツを戦力として認識し、アイツは俺を一時的な憑代と認識している。

互いがお互いに価値を見出し、協力関係を取った。ただそれだけ。

 

「心配かけたな」

 

「っ!…ホントに!!心配したんだから!!!」

 

「済まない」

 

泣き出す刀奈にフッと笑みを浮かべながら頭を撫でる。

 

「お前が泣き虫なのは変わらないな」

 

「何よ…………グスッ」

 

「成長しても、刀奈は刀奈だと思っただけだ」

 

どこまで成長して、変化しても、変わることなないことだってある。人も、物も、状況も、関係ですら。

きっと刀奈はずっと俺を支えてくれる。それは、それだけは何故か変わることは無いと、確信できた。

 

「俺のことも、聞いてくれるか?」

 

この問いに対する答えも、知っていた。

 

「う、ん。おねーさんに聞かせなさい!!」

 

涙を拭って、自信満々にそう答える刀奈の顔は、いつか見たような、迷いのない笑顔だった。

 

 

 

 

「俺は、刀奈も知ってるだろうが最強と天才の2人に対して計り知れない恨みを持ってる」

 

「知ってる」

 

「その2人に戦いを挑もうとしているのも」

 

「知ってる」

 

「恐らく俺は、それを実行したら、高確率で命を落とすだろう」

 

「…………」

 

「刀奈はそれを止めるか?」

 

「…………」

 

無言。

刀奈はしばらく考える素振りを見せた後、答えを出す。

 

「止めないわよ」

 

「…………何故?」

 

「止める気が無いって言えば嘘になる。本心かって聞かれても嘘。けど、私は銀の意見を第一に考えて、行動するわ」

 

刀奈は成長したのは外見だけだと思った俺は、人を見る目が無かったのだろうか?

それとも、刀奈が俺の知らない所で成長したのだろうか?

何にせよ、今の刀奈が俺の刀奈だ。

 

「刀奈……」

 

「けど1つ、1つだけ聞いて欲しいお願いがあるの」

 

「何を願う?」

 

「例えその時が来ても、死なないで」

 

「何故命令にしなかった?」

 

命令であれば、俺は拒否しない。けれども刀奈は拒否権を与えた。何故か。

 

「私は銀に命令なんてできる立場じゃないから」

 

「そんなことは」

 

「だって私はいつも、銀に甘えて、縋って、頼ってばかりだった!!

 私は貴方に、何一つ力になれなかった!!」

 

俺の答えを遮って返ってきた言葉は、刀奈の抱え込んでいた不安と後悔の言葉。

しかしどれも、俺が刀奈の為と動いた結果の物だ。

刀奈の言葉を、俺は否定する。

 

「そんなことは無い!」

 

「だ、だって私は」

 

「どんな状況で、何一つ行動を起こさなくても、刀奈、お前がいるだけで、俺の名を呼ぶだけで、俺に接してくれるだけで、俺は!!助けられてきた!!!」

 

「…………」

 

「だからそんなこと言わないでくれ…………俺は、俺には………もう刀奈しかいないんだ…………」

 

俺が平和を、平穏を求める度に、行動する度に、刀奈に負担をかけていた。

だがそれは、刀奈がいたから、守りたいものがあったから動けた。

刀奈は俺を救ってくれた。それだけで俺は刀奈に、返し切れないほどの恩を受けた。

例えどれだけの恩を返しても、愛を返しても、刀奈から受けた恩には及ばない。

 

「銀」

 

「何だ」

 

「ありがと。そこまで私を頼ってくれて。愛してくれて」

 

「…………」

 

「私は銀に出会えて、本当によかった。

 私は貴方を頼るから、貴方も私を頼って。もっと縋って、甘えて」

 

「分かった」

 

俺は刀奈を頼ったことが無かった。刀奈に負担をかけたくなかったから。

ただ、それももう終わりだ。

刀奈に縋って、甘えて、頼って、依存するほどに互いに愛を送りあおう。

だから俺は彼女の願いを受け入れよう。

 

「刀奈の言う、願いは叶えるつもりだが、いや、守るよ」

 

「ありがと銀。絶対守ってよ。もし、守れなかったら、私…………」

 

 

 

「自殺、するから」

 

 

 

「銀のいない世界はきっと、私の存在価値のなくなった世界だから」

 

「…………」

 

「銀以外の価値観なんて意味無いから。銀は私の全てだから」

 

「俺も同じだ。だから俺も刀奈を殺さないように努力するさ」

 

人間に不可能はない。それは俺自身が証明だ。

だから俺は、どんな強大な相手であろうと、生き残って見せる。

 

 

 

 

 

世界にはそれぞれ常識があって、それぞれ違うものだ。

そしてここ、IS学園では非常識が常識に塗り替えられつつある。

 

「み、皆さん、おはようございます……」

 

1-1教室を訪れた山田先生は何故かやつれていた。

 

「今日は、ですね……皆さんに転校生を紹介します。転校生と言いますか、すでに紹介は済んでいるといいますか、ええと……」

 

先生は曖昧且つ意味不明な説明に生徒は混乱するが、扉を開けて入ってきた人物を見て、ざわつきは一瞬、収まった。

 

「失礼します。――シャルロット・デュノアです。皆さん、改めてよろしくお願いします」

 

「ええと、デュノア君はデュノアさんでした。と言う事です」

 

デュノアは性別を偽っていたことを公開した。無論、デュノア社もそれを公開し、謝罪した。

デュノア社長が経営危機の状況で混乱して、謝って性別の項目を男性としてしまったという、無理矢理な気もする理由でデュノアのについてコメントした。

もちろん、デュノア社は凄まじい苦情や、怒りの電話やファックスが送られてくることだろう。

しかしそんなことは学生が考えるべきことではないので思考から排除した。

 

「デュノア君って女だったの!?」

 

「美少年じゃなくて、美少女だったのね!!」

 

「そういえば昨日、デュノアさんと一夏君って一緒に大浴場に行ったわよね!?」

 

「大浴場で大欲情…………フフフ、これは薄い本が捗るわ!!」

 

一夏、そんな大問題を起こしたのか。

一夏とデュノアについて会話が加速していく中、最後の発言に何人かが噴出した。

この中にジャパニーズ春画の作者が居るのは驚いたが、是非とも本人の了承を得てからにしてほしい。

 

「(一夏、後で話がある)」

 

「(俺は何にもしてない!!信じてくれ!!)」

 

「(信じてはいるが、証拠がないからだ)」

 

プライベートチャンネルで伝える。

できればこの騒動はクラス内に留めておきたかったがそうはいかないらしく、突然ドアが大破し、轟沈ではなく破壊寸前にまでなった。

 

バァン!!

 

そこから飛び出してきたのは…………

 

「一夏ぁ!!!!」

 

おうふ、鈴がISを展開した状態で進撃してきた。駆逐されるのは一夏。

すでに衝撃砲にはエネルギーが充填されている。

そして背後からは…………

 

「フフフ、一夏さん?」

 

笑顔で怒気を放ちながらISを展開し、銃口を一夏に向けるオルコット。

更に横からは…………

 

「この痴れ者が!!」

 

真剣を持った篠ノ之…………ん?どこから真剣だしたんだ?

3方向からの同時攻撃は一夏に逃げ道を与えず、ただ一夏は追い詰められていく。

そして、攻撃は一夏に直撃し――――――なかった。

一夏の窮地を救ったのは飛び出してきたボーデヴィッヒだった。

ボーデヴィッヒはナイフを投げてライフルの軌道を逸らし、篠ノ之を体術で抑えて拘束し、衝撃砲をAICで受け止める。

そんな人間離れした動きができるのはボーデヴィッヒだからだろう。

 

「あ、ありがとう。たすkムグゥ!?」

 

「お前を私の嫁にする!!決定事項だ!!異論は認めん!!」

 

突然のキスからの嫁発言。婿ではないのだろうか?

ポカンと口を開けるクラス一同。しばらくの間を置いて、

 

「ああああアンタ何してるのよ!!」

 

「うむ、私の副官から、好意を伝えるにはこれが一番と聞いた」

 

「貴女の副官と一体どんな人ですの?」

 

「おい一夏。よかったな。これで結婚相手にはこまらんな」

 

「何をニヤついている一夏!!!」

 

「「「きゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」」」

 

ボーデヴィッヒのこの行動はクラスに再び、波乱(非日常)という日常を生んだ。

結局、この騒動は、そのすぐ後にきた織斑千冬によって鎮圧された。

 

 

 

 

その日の昼休み、刀奈と虚さんのいる生徒会室に俺はいた。

いつものように書類の処理をしていたのだが、刀奈がそれを遮るように質問してくる。

 

「そういえば銀達ってもうすぐ臨海学校よね?」

 

「そうだが?」

 

「なら水着を見に行きましょう!!」

 

「何故?」

 

水着なんぞ選んだところで意味なんてないのに。

 

「へ?なんでって泳ぐでしょ?」

 

「俺の身体のことを忘れていたのか」

 

「そうだった!」

 

ISのコアが埋め込まれているこの体を、生徒や先生の前で晒すのはまずい。

ついでに言ってしまえば外に出るつもりはない。

 

「だったら私の水着を選んでよ!!」

 

「刀奈がそう言うのならな」

 

「ついでに鈴ちゃんのデートも見たいし」

 

「そっちが本命だな。後覗きはやめろ。帰ってきてからの楽しみとして取っておけ」

 

「ぶーぶー。銀のケチー」

 

ぶーたれる刀奈を放って書類の処理に戻ると、今度は珍しく虚さんが発言する。

 

「やはり銀さんは凄いですね」

 

「何がですか?」

 

「両手にペンを持って2枚同時に書類に記入していくなんて。私にはとてもできないことですから」

 

俺は自分の両手に視線を動かす。2つのペンが別の動きをして、書類に文字を書き込んでいく。

これが最も効率がいいと思ったのだが、他の人はやらないので何故だろうと思っていた。しかしそれはやらないのではなく、やれないの間違いだったことを初めて知った。

難しいと考えたこともなかったが、他の人では到底できないことらしい。

 

「効率重視だからですかね?難しいと思ったことは無いんですけど」

 

「少し、羨ましいですね」

 

「そんなこと言われたのは初めてです」

 

「ふふ、そうでしたか」

 

そうしてまた、書類にペンを走らせる音が響いた。

 

 

 

 

とりあえず、水着を見るために近くの大型ショッピングモールにやってきた。

 

「どっちが似合う?」

 

「どちらでも似合うが?」

 

「どちらかと言えば?」

 

刀奈が持っているのはタイプの全く違う水着だ。

 

「じゃあ左のビキニタイプのでいいんじゃないか?」

 

「ならそっちね」

 

楽しげに選ばなかった水着を戻すと選ばれた水着を持って会計へと向かう。

 

「待て、ここは俺が支払おう」

 

「別にいいわよ」

 

「化粧品やらを買うのだろう?いつもは経費で落としているらしいが本来は違反だぞ?」

 

「うっ、ならお願いするわ」

 

普段、あまり金を使わないので財布は厚くなっている。

本のページかと思う程にぎっしり詰まった札束のなかから何枚かを抜き取って店員に渡すと、いくらかの小銭が返ってくる。

水着の入った袋を刀奈に渡す。

すると横から声がかけられる。

 

「そこのアナタ」

 

「…………」

 

「ちょっと聞いてるの!?」

 

「何用か?」

声をかけてきたのは女性。その雰囲気といい、口調といい、始めの頃のオルコットに似ている。

おそらく、今のご時世に染まってしまった結果がこれなだけだろう。だけ、ではないかもしれないが。

 

「そこの女の水着奢ってたわよね?アタシのも奢りなさい」

 

「赤の他人のものを奢るようにとは教えられていないので」

 

「男の分際で口答えするんじゃないわよ!やろうと思えば社会的に抹殺することだってできるのよ?」

 

「貴女ごときでは俺を殺せない。刀奈、行こう」

 

「待ちなさいよ!!」

 

ゴン!!

 

俺の頬に、女性の物と思われる拳が叩きつけられる。

刀奈が反応し、動き出そうとするが、俺はそれを止める。

 

「…………」

 

「何よその目は」

 

「この人間以下の獣如きに与える金も、時間も、言葉もない。あとは警察にまかせよう」

 

すると、向こうから人が駆け寄ってきた。服装からして警察官。

警察官は俺達を見つけると、最初に俺を睨み、放った言葉は

 

「貴方を逮捕します」

 

これだ。

 

世間に呑まれた人間はもはや正常ではない。正義を謳っている警察ですら、事情を聴くことをしなくなった。

 

「事情聴取が先では?」

 

「貴方がこの2人に迷惑をかけたんでしょう。貴方以外にそんな人はいません」

 

「俺の事を知っているんですか?」

 

「男は皆同じでしょう?」

 

「なら、これを見ても、そう言えるか?」

 

俺は制服の内にしまってある学生証を手渡す。

そこには在籍学校と、氏名が書かれている。

学生証をみた警察官と女性は目を見開き、俺を見る目が変わった。

 

「す、すみません!貴方が更識銀氏だとは知らなくて」

 

「で?そこの女。これでも俺を社会的に抹殺できると?」

 

「ひぃ、ごめんなさい!ごめんなさい!!」

 

「社会的に抹殺されるのはお前だ。今までの報いを受けてろ」

 

「嫌よ!!嫌!!やめて!!離してよ!!」

 

「おとなしくしてください。先ほどはすみませんでした銀殿」

 

「いいです。いままでの映像はちゃんとカメラで撮ってあるので、これを使って警察も、世界も、脅しますから。そうすれば、貴方達もそれ相応の罰を受けて、男に対する価値観も変わるでしょうから」

 

では、と刀奈と共にそこを離れる。

そこに残った2人は、青白くなって震えている。それがこの世界に染まってしまった人間が受けるべき罪だ。

 

「ごめんな刀奈。無駄な時間をかけたな」

 

「いいわよ。貴方の本来の怒りはあんなものではないんでしょう?」

 

「刀奈との時間をあれ以上失いたくなかったからな。あと1分遅かったら殺していたかもしれない」

 

「我慢するのはいいことだけど、発散することも必要だからね?」

 

「ああ、俺は刀奈で発散してるんだ。だから俺のストレスを解消するためにも、俺を引っ張って行ってくれよ」

 

「分かったわ。さ、次の店よ!!」

 

この日は外出時間ギリギリまでショッピングモールの中を巡った。

カメラで撮影していた映像は世界に流すと、凄まじい再生回数を生み出した。あの2人は近々、裁判にかけられることとなったらしい。

刀奈との時間を奪った報いだ。

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