ゴガッシャァァァァン!!!
バキキキキ!!
そんな騒々しい音で更識楯無の1日は始まった。
更識は裏の世界で有名な一族で、暗殺を主とした一族だ。
そして更識楯無は16歳、更識の歴史上最年少で当主となった人物だ。
そんな裏の世界の住民であるがゆえにこういった不測の事態に真っ先に反応した。
(敵襲!?)
上着を羽織り、騒音の元へと駆けつける。すぐに家の人間が集まってくる。
辿り着いた騒音の元はまさに惨状だった。
屋根から大きな穴が開き柱や支え、床をぶち抜いて、しかしそれでも更に30mほど地下に埋まっているのが屋根をぶち抜いた何かの正体だろう。
慎重に砕け散った柱などを伝いながらナニかの元へと到着する。
あれだけの衝撃にも関わらず傷1つない漆黒の装甲に包まれた何かは突如、青い光を放って消えてしまった。
その中からは暗闇でもわかるほど真っ白の痩せた男性だった。
「!?」
楯無は驚愕したがそれよりも先に男性を背負い、穴を駆け上がっていった。
異常に衰弱していた彼はまさに死の淵にいるようだった。
暗殺家業の長といっても突然衰弱しきった人間を見捨てるような人間ではなかった。
「急いで救護班を!!早く!!」
すぐに駆けつけた救護班に担架で運ばれていく男性を速足で追っていく。
「他は破損状況の確認と片づけをよろしく」
残った人達に指示を出し、後を追った。
それからしばらくしてお付きのメイド、布仏虚が楯無を呼んだ。
「お嬢様」
「何?」
「彼の容体は安定しましたが、少し見てもらいたいものが」
楯無は虚の後に付いていき、先ほどの男性が横たわるベッドへと連れてこられた。そこには手術を担当した医者もいる。
「お嬢様、これを」
虚が男性の胸元を指さす。そこには人間にはあるはずのない結晶のようなものが埋め込まれていた。
それは仄かに輝きとても美しいと思ったが、明らかに異常であった。
「これは?」
「分析の結果、ISのコアと判明しました」
楯無はまたも驚愕した。
世界に300程度しか配られていないISのコアを人に埋め込む。そんな人とは思えない実験を、手術をまだ行っている場所があったことにも、目の前の男性がその被験者だということにも。
虚は続けた。
「このコアは通常のものとはことなるモノで多大なるバグとエラーのせいで中を解析することはできませんでした」
「このコアを取り出せるの?」
疑問を投げかけるを虚と医者は顔を歪め、首を横に振る。
「このコアは完全に一体化してしまっていて神経の役割も果たしております。無理に切除すればこの者の命に係わりますゆえ、切除は不可能です」
「どう……しようもない、のね?」
「はい」
彼からコアを取り出すことが不可能という無慈悲な宣告を受け、楯無は唇を噛む。
しかしそれを堪えて「他には?」と問う。
「はい、彼の血液を分析したところ、人以外の遺伝子が検出されました」
「つまり?」
「彼は遺伝子レベルで肉体を改造されたことが判明しました」
肉体改造だったのであれば闇組織などがあげられたが遺伝子レベルでの肉体改造を施すにはもっと大きな組織でなければできない。
(これだけの技術となると…………規模の大きな組織ね。だとすれば…………)
ISというものが広まってから新たに生まれた闇組織が楯無の頭に浮かぶ。
(亡国企業(ファントムタスク)…………いえ、彼をここまでする必要がないわね。…………となると…………)
それ以上の組織が思い浮かばなかった楯無はある可能性を考えた。
(国?…………でもなんで?)
「お嬢様?」
虚の声で思考の海を漂っていた楯無の意識は現実へと引き戻される。
楯無の顔を覗き込む虚の顔が視界に入る。
「いえ、何でもないわ」
そうですか…………と不思議そうだったが咳払いをして話を再開する。
「彼のDNAを調べた所、彼は…………」
虚の口から出たその言葉に私は目を見開いた。
今までに感じたことのない身体の重苦しさと怠さを感じ、少しずつ意識が戻っていく。
瞼が鉛のように重い。いや、持ったことないけど。
しかし、いつもと違う点がいくつかあった。
まず体勢、液体のなかで浮遊していた日々では感じることのなかった重力。つまり仰向け。
次に、背中。柔らかい物が優しく俺の体重を包み込み、飲み込んでいる。あの研究所に入れられる前に何度も感じたことがある。
布団だ。俺は布団の上で寝ているのだ。
そして最後に空気。研究所では匂いも、湿度も何もない無機質な空気だったが、今俺が吸っている空気には湿り気がある。畳の匂いがある。
俺は間違いなくあの研究所から脱出できたのだ。
それと同時にあることに気づき、微睡んでいた意識を完全に覚醒させた。
(ここはどこだ?!)
布団、畳、朝日、俺はだれかの家の寝室にいた。
「あ、起きた」
窓とは反対側、横引きの扉がある方から声がした。声質からして少女のもの。
バッと振り返るとそこには声の主と思われる少女がいた。
外向きに跳ねた青い髪に真紅の瞳、そして少女の年齢に不釣り合いなプロポーション。
そして彼女は、今現在の俺の脅威だ。
俺は彼女を知っている。
更識楯無。
対闇部更識の長である人物だ。本名までは知らないがありとあらゆる戦闘技能を持ち合わせているらしい。
そして恐らく、俺の意識のないうちに俺の身体を調べられているだろう。
ここで応援を呼ばれれば一発で捕まってしまう。
だが相手もプロだ。そう簡単には逃がしてはくれないだろう。
「……何が目的だ。俺の情報を使って脅すつもりか?」
「ウフフ、それも良さそう……あ、じょ、冗談よ冗談」
最初の言葉で身構えると焦って冗談を繰り返す。
やけに馴れ馴れしい。姿勢を崩し、身構える様子もない。
(一体どういうつもりだ?)
構えを解くと本題へと入る。
「本当の所、どうするつもりだ?」
「私達は貴方のことを保護するつもりよ?」
(白々しい。そんな都合のいい話があるかよ)
「ダウト」
「フフ、残念。ホントよ」
疑いの視線を強めるとその理由を話した。
「私達は貴方の身体の事を知っているわ。その上貴方は一般人以上に筋力が落ちている。歩くことすらできないはずよ?」
そうだ、その通りだ。実際体を起こしているのも辛い。
「だから貴方の身体の事情も含めて情報を誰にも漏らさずに貴方を保護しようと提案したのよ?」
それに、と楯無は続ける。
「貴方もそんな身体じゃ大変でしょう?」
その言葉には様々な意味が含まれている気がした。
食糧、住居、体調、その他…………確かに大変だ。
状況的に乗るしかなさそうだ。
「…………仕方ない。乗ったよ」
「そう、よかったわ」
互いに承諾の意を込めて握手を交わした。
「まあとりあえず貴方は筋力トレーニングから始めないとね」
「…………めんどくせぇ」