「くっ、堕ちろ!!!」
「そう簡単には堕ちたくないんでね」
「真面目に戦え!!」
「やなこった」
俺ことカルマは織斑千冬のお守りを任されていた。
専用機『陽炎』を駆り、攻撃をかわしていく。
「束!!」
「行かせるもんかよ」
「ッチ!!時間稼ぎが目的か!!」
「おう」
戦うことはしない、というか、極力参加は避けたい。
この機体には、武器が2つしか搭載されていない。それも両方とも短剣。
元々が攻撃することを主としていない機体だからこそ、武器は必要最低限の物しか搭載されなかった。
「この!!」
「おっと、危ねぇ」
「千冬姉の邪魔をするなぁーーー!!!」
「一夏とやらまでかよ!?」
奇襲に成功されそうになったが、間一髪で躱して体勢を立て直そうとするのだが、
「一夏には指一本触らせないわよ!!」
「そうですわ!!」
「僕らだって代表候補生だ!!」
「私の結界から逃げられると思うなよ!!」
「皆、ありがとう」
「お前達」
ああー、イイハナシダナーっと。
「逃げることと隠れることには自信があるんでね」
体を弄られる前にかくれんぼをしたことがあったが、結局俺が見つかってないのに第2回戦が始まってるんだから。あれ、結構悲しいぞ。
「千冬姉は銀の方に―――」
「行かせるかよ」
「うわぁ!?」
踵落としで撃墜して行く先を塞ぐ。
「千冬さん、あたし達が道を空けるから早く!!くらえ!!」
「ざ~んねんでした~」
「くぅ~っ、ムっかつくわね!!!」
「逃がさないぜ!!」
そりゃどーも。
四方八方からの攻撃に、戸惑っている俺を見て、織斑千冬は銀のいる方向へと行こうとするが、俺はそれを止めようと動くのだが。
「させるか!!」
「AICか。迷惑な能力だ。こうなったらこっちもやる気、出しますか」
俺はこの機体の能力を発動させた。
「ば~いば~い」
「なっ!?どこへ消えた!!」
AICが解かれた。今だ!!
「束!!ぐっ!!また貴様か!!」
「行かせねえっつったろうが」
「あんなところに!?待て!!」
「さらば!!」
再び能力を発動させて、逃げた。
彼女たちは俺とは全く逆の方向へと視線を動かすのだが、そんなところにいるはずもない。
俺は、またも篠ノ之束に向かおうとする織斑千冬に攻撃を入れる。
「逃げんなよ。俺を倒してからにしな」
「貴様が堂々と戦え!!」
「戦いに正々堂々なんてある訳ないだろうが」
もし、そんなものがあったのならば、俺は真っ先に落第するだろう。
俺の機体、陽炎の能力は、完全ステルス機能『夢幻』だ。
赤外線からエコー、電波探知や目視ですら不可能にする能力だ。
ただそれは不可視になるだけであって、実際にはそこにいるのだ。
しかし彼女たちは気付かない。
見えないものは怖いから、怖いものは見たくないから、見ようとしない。恐怖で頭が働かなくなるのが本当の恐怖だ。
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
皆が無言になる。
神経を集中して、警戒しているのだ。
なら、そんな状態に爆音が聞こえたら、どうなるだろう?
俺は、手榴弾を爆発一歩手前にしてから、放り投げる。
ドカァン!!
「そこ!!」
「これで終わりですわ!!」
「落ちろ!!」
「当たれ!!」
「見つけたぞ!!」
「うおぉぉぉ!!」
爆発した榴弾に向かって一斉射撃を行うが、その場所には俺はいない。そしてその場所のすぐ近くに、織斑千冬がいて、一斉射撃を浴びてしまう。
「ぐぁぁぁ!!」
「千冬さん!?」
「先生!?」
「しまった!!」
「不味い!!」
「どこへ消えた!?」
「千冬姉!?」
織斑千冬の駆る打鉄は大破し、もはや加勢どころではなくなっている。
俺は笑った。
「あーっはははははは!!ひぃ、お腹痛いぃぃ」
「貴様!!」
「はーはー、実に悔しいだろう?何もできないのは。それを俺達はずっとずっと見て、味わって、耐え続けてきたんだ」
滑稽なことだ。最強と恐れられてきた人間も、未知を相手にしたときは、手も足も出ない。
ボロボロになって、何もできずに落ちていく無様さ。
「ここで引いてくれないか?」
「くっ…………」
「教官、ここは引きましょう」
「いくら千冬さんでもその状態じゃ無理よ」
「仕方ない、引こう」
「おう、そうしてくれ」
俺は再び姿を消して、後をついていく。
会話を盗み聞きするのだ。
「いいか?合図したら背後に一斉射撃だ」
「りょうか―――」
「聞こえてるからなー」
「何!?いつの間にそこに!?」
「お前たちについていって、怪しい動きがあれば捕縛するからな」
「クソ!!」
姿を消して、場所を、距離を変えながらついていく。
その後は終始無言だった。
俺の目的は復讐ではないが、仲間の無念を晴らすために、こうして醜態を晒させた。
「(皆、俺達に、銀に力を貸してやってくれ!!)」
仲間の魂に訴えかけるが、答えは返ってくることは無く、ただただ風の音が鼓膜を揺するだけだった。
カルマが織斑千冬の相手をしている間、俺は、全ての元凶である篠ノ之束と再び、対峙していた。
腹部から血が滲んで、痛みに耐えながらの戦闘だ。
これが正々堂々でなくても、卑怯な手であっても、歴史では、勝った方が正義とされる。
どれだけ正しい行いをしても、結局は負けたら終わりなのだ。
「お前が歪めた世界は、もう終わりにしよう」
「まだ終わらせない!!まだ終わらせるわけにはいかない!!!」
例え手負いであっても、織斑千冬以上の戦闘技術を持っている相手だ。手負いとなっても相当の戦闘技術で、俺を攻めたてる。
剣戟は激しさと、必要技術を増していく。
俺の刀の特性を理解したのか、刀の側面を弾くようにして連撃する天災と、合間合間に鋭い斬撃を入れる漆黒の騎士。
能力上は篠ノ之束が、技術上では俺が勝っている。手負いでなければかなり押されていただろう。
しかし慢心する天災は、奇襲を食らった。
「天災でも、最強でも、無敵じゃないなら勝機はある!!」
「お前みたいな屑が私を見下すなぁぁぁぁ!!!!」
攻撃の1つ1つが重くなり、攻撃の間隔も短くなる。
だが、俺が持つ力(負の感情)は、こんなものではない。
「重力操作制限解放、最上位物体操作術『全てを捌く、反逆の刃』発動」
武器展開の光が俺の周りに煌めき、何十本というほどの、白と黒の刃が展開された。
「裁きを下せ!!俺の同志達!!!」
「何で私の邪魔をするんだよ!!!!」
多数の刃が篠ノ之束を全方位から攻めたて、追撃する。
篠ノ之束は加速し、後退しつつ、刃を弾く、防戦一方へと変わる。
俺を睨んで、涙を流しながら叫んだ。
「何で皆、私を受け入れようとしないんだよ!!!いつもいつもいつも!!!バケモノ呼びで恐怖して!!!蔑んで!!!逃げてばかり!!!
私はただ!!!」
刃を凌いで、叫んだ。
己の本心を。
「皆に、知ってほしかった!!見てほしかっただけなのに!!!何で!!!」
「自らが正しいと信じて、自らの意志で動いて、その結果そうなってしまったのならばそれは自業自得というんだ!!自分の失敗の責任を他人に押し付けてんじゃねぇよ!!!」
「っ!!!!」
雨のように空を切り裂いて敵を追う刃が篠ノ之束を飲み込もうとしたその時だった。
篠ノ之束が、遥か上空から急降下してきた白い流星によって下方へと落ちていく。が、多数の刃を回避したのは、篠ノ之束の幸だろう。
白い流星を見ると、それは、白式だった。
「一夏!?」
「いっくん!?」
俺も、篠ノ之束も驚愕し、動きが止まる。
白式を操縦していた一夏は俺達の中間に浮遊して吠えるように言った。
「もうやめてくれ!!これ以上、殺し合いをしないでくれ!!!」
悲しさだけで構成されたその声を、言葉を聞いた。
一夏は続けた。
「銀!!お前の恨みを俺は知らない!!けど!!束さんを殺すのは間違ってる!!
束さんも、したことは許されないけど!!償うことはできる!!!」
叫びの後に訪れた静寂と波の音。
それを最初に破ったのは、俺だった。
「もし仮に、俺が攻撃しない、殺さないと言ったとして、篠ノ之束はどう償う?よく分からん計画とやらの為に、計画が実行されたことによって死んでいった人達に、どう償いをさせるつもりだ!?」
「それは…………」
「いっくん、私は計画を止める気はないよ」
「何でですか!?その計画は、本当に必要なんですか!?他人を殺す価値の有るものなんですか!?」
「…………」
篠ノ之束は言い詰まる。
一夏に気圧されて。
それでも、諦めをしない天災は、言葉を発した。
「でもこれが未来への最善なんだよ!!今教えても、理解してもらえない。けど―――」
「未来は未来で作ればいい!!今の状況と、犠牲が最善かを答えろ!!!」
「っ!!!!!」
この状況は、損失は、損害は、最善を求めてしまった結果だ。
どこが最善だ。こんなの、最悪以外の何でもない!!!
「動くな!!!」
しかし、俺達の叫びを交わす空間を、高めの女性の声が壊した。
周りを見ると、全世界の国家代表や代表候補、軍人達が俺達を包囲していた。
「貴方は包囲されているわ!!おとなしくしなさい!!このテロリスト!!!」
銃口は、刃先は、1人に向けられた。
俺1人に。
一夏が弁解しようとする。
「ちょっと待ってくれ!!銀はテロリストなんかじゃ―――」
「篠ノ之博士に対して攻撃するテロリストがいると報告を受けてきたのよ!!貴方以外にテロリストなんていないわ!!!」
「…………」
俺に武器を向ける彼女達の瞳に映る俺は悪に染まっているのだろう。
人間は正しい方向へ、正義へと向かおうとする。例えそれが、歴史によって偽られた、人物だったとしても。
例え、歴史によって正義になったと知っていても。
俺はこれが嫌いだった。
これが正義で、これが悪だと決めつけられて、悪にされて、攻撃されて…………
そしてそれに抗えない自分が悲しかった。
「…ぅぃいんだ」
「何?」
「もういいんだ。これが例え悪だったとしても」
「何を言っているの?」
俺は、泣きながら、決意の言葉を、
「俺は、俺の信じた正義を貫いて、世界を戻す!!」
<汝、我ヲ求メルカ?>
「(いや、最強を超える力を求める!!)」
<汝ノ願イ、聞キ届ケタリ>
「<God kill System 起動>」
― 視点、一夏 ―
俺は、視界に捉えたモノに恐怖を感じていた。
銀のISからドロリと、黒いドロようよモノが溢れだした。
俺は、アレに近いモノを見た。
ラウラがVTシステムを起動させたときに溢れえ出たモノに、酷似しているんだ。
「何…………アレ」
「まさかVTシステム!?」
「何で!?」
束さんを含めた全員が驚愕していた。
そうしている間にも、銀の姿は変わっていく。
しかし、VTシステムとは決定的に違う点があった。
VTシステムは、人類最強を模した姿、千冬姉の暮桜を象るはずだ。
けどアイツは、暮桜どころか人の形すら取らず、更に大きくなっていった。
そして、最終的に象ったのは――――
「龍………!!!!」
gyaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
雄叫びを上げると、漆黒の龍は、蜷局を巻いて、戦闘態勢に入った。
視線が捉える相手は、束さんだった。
龍は一直線に束さんに向かって突進してくる。
「ぜ、全員!!篠ノ之束を死守せよ!!!」
「了解!!!」
専用機を纏った人達が銀だった龍に突撃する。
けど高々2、3mのISが全長30mを超える龍に勝てるはずはない。そう知っていた。
攻撃が効くはずない。そう思っていたが、現実は更に残酷な状況を生み出した。
龍の表面を覆っていた全ての鱗のような装甲が、その表面が波打った。
そして次の瞬間、
全ての鱗の表面から銃口が生まれた。
銃口が赤く輝き…………そして、
全方向へ、無数の閃光が発射された。
ズドドドドドドドドド…………!!!
300を超す数のISが、その殆どが、爆発し、撃墜され、海上へと落ちていった。
残ったのは、指揮を務めていた部隊長と数人の国家代表、それと、雪羅によって守られた俺と束さんだった。
「こ、こんな…………い、いやぁぁぁぁ!!!死にたくない!!死にたくないぃぃぃぃ!!!」
泣き叫びながら逃げ出す部隊長に部下が続く。
狩る側と狩られる側の立場が、逆転した。
この龍こそが、銀が抱いていた恨みの結晶で、集合体で、集大成なんだ。
どんな状況でも、変わることのなかった、深く暗く、黒い恨みが世界に姿を現した瞬間だった。