インフィニット・ストラトス  漆黒の要塞の復讐   作:双盾

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漆黒の龍の進撃

目の前には、惨状が、正に地獄絵図という言葉以外に思いつかないほどの惨状が広がっていた。

海上には、破損したISの武装が浮いていて、炎がちらついている。そして、火傷を負った操縦者が武装の破片に捕まって、漂っている。

上空でも、恐怖に駆られ、逃げ惑う国家代表達。

けれど死者がいないのは、銀なりの善心だろう。

 

 

gyaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!

 

 

雄叫びを上げて束さん目がけて突進してくる龍。

束さんは、脱力して動けない。

 

「束さん!!おとなしくしててください!!」

 

束さんを抱えて旅館へと撤退する。

旅館の方向から、鈴やセシリアが向かってきていた。

 

「一夏!!どこ行ってたの、よ…………」

 

「な、何ですの……あの龍は」

 

「あれは、銀だ…………VTシステムが発動したみたいだが、ラウラの時とは様子が違う!!」

 

「とにかく、止めるぞ!!」

 

ラウラが眼帯を取って龍へと向かう。

 

「止まれ!!」

 

ラウラがAICを発動させて、龍の進撃を止める。

ラウラに続いて行った箒が言った。

 

「一夏はいそいで姉さんを旅館へ!!こんな人でも、私の姉だ………」

 

「箒…………分かった。すぐに戻ってくる!!!」

 

箒達が龍を対応しているのを横目で見ると、更に加速して旅館へと向かった。

 

 

 

 

旅館に着くと、千冬姉が飛び出してきた。

 

「束!!大丈夫か!?」

 

「ただ力が抜けただけみたいだ。それより箒達が龍の足止めをしてる!急いで加勢しないと!!」

 

「龍だと!?どういうことだ」

 

俺は手短に起きたことを話した。

銀がVTシステムらしきものを発動させて、龍と化したこと。

世界中から集められた銀捕獲部隊が壊滅したこと。

その海域に広がる惨状について。

死者がいないことについて。

 

「何だと!?至急加勢に向かおうと言いたいが、打鉄もラファールもすべて使用不能だ。私どころか教員すら出撃できない」

 

「そ、んな…………」

 

「待って」

 

脱力していた束さんが、震える足を無理矢理立たせてこちらに言った。

 

「封印してある暮桜、あれを使うしかないよ」

 

「しかし、あれは学園にあるだろう。行って帰ってくる間にこちらが壊滅してしまう」

 

「何も方法は無いのかよ!!!」

 

拳を旅館の壁にぶつけて叫んだ。

そんな中に、場違いな声が響いた。

 

「止める方法はあるぜ~?」

 

「貴様!!その方法を話せ!!」

 

俺達を、千冬姉を倒して撤退させた張本人が明るくヘラヘラと楽しげに、言った。

千冬姉が胸ぐらをつかんで問いただすと、にやりと口元を歪めて言った。

 

「そこの大犯罪者と織斑千冬が死ねばあいつは止まるんだぜ?それ以外の方法は無いね~」

 

「貴様、そんな出鱈目を!!」

 

「アイツの目的は復讐、天災と最強の殺害であって、それ以外の殺害は目的じゃない。現に死者はいないんだろ?

 けど、この2人がいる限りアイツが止まることはないし、損害は増え続けるぞ?」

 

「くっ」

 

「だが、」

 

一通り説明すると、千冬姉が手を放した。

すると再び言葉を続ける。

 

「それ以外の方法が無いわけじゃない」

 

「早く話せ!!」

 

「落ち着けよ千冬姉!!」

 

「どーも、一夏君。さて、方法だが」

 

俺達は無言で方法を聞く。

 

「まずは、天災と最強が計画を止めて、尚且つ今までの罪を償うと約束できるならアイツを止めることができるんだが?」

 

計画。この2人にとっては家族を売ってまで進めるほどの大切なモノ。けれどその計画は沢山の死者を伴ってきたモノでもある。

2人が計画を止めて、罪を償う。これを銀は望んでいるんだろうか?

銀は、本当は、誰も殺したくは無いんじゃないのか?

平和な解決を望んでいるんじゃないのか?

 

「それは、銀が言ったことか?」

 

「そうだ。銀が2つ出した復讐の終了条件だ」

 

そうなんだ。これが、銀の本当の願いなんだ。

銀の願った最善は、誰にも知られることはなかった本心は、誰も殺したくはなかったはずなんだ。

けどそれは、銀本人ですら気づかないほの心の奥底にしまわれていた願い。叶う可能性の最も低い願い。

2人が計画を止めないことを見越して実行したのが今の銀なんだ。

 

「で、でも計画を止めるわけには…………」

 

「どんな犠牲者が出たって、たかが低能な馬鹿共なんだから、死んだって価値のない人間なんだから、そんなことで計画は止められない」

 

「どうして2人はいつもそうなんだ!!!」

 

「一夏…………」

 

「いっくん…………」

 

俺の叫びに力薄く俺の名前を返す2人。

俺は続けた。

 

「価値のない人間なんていないのに!!勝手にそう決めつけて!!見下して!!その結果こうして死者も、損害も出ているのに!!現実から逃げて、無理矢理納得させて!!

 いつまでそんな子供みたいなことしてるんだよ!!馬鹿はどっちだ!?」

 

俺の叫びはまだ止まらない。

叫んでも、叫んでも、声がかれても足りない。

知らぬ間に頬を涙が伝う。

 

「あのまま銀が壊し続けて、全世界が壊滅して、そして計画が成功したとして、それが世界にとっての最善だったのかよ!?これだけの死者を、損害を、未来の為ってだけで終わらせるのかよ!?

 俺はもう限界なんだ!!世界が壊れるのも、人が殺されていくのも!!」

 

俺の叫びはここで途切れた。

絶え絶えの息を落ち着かせると、俺は、2人を見据えて言葉を放った。

 

「こんなことになるんなら、こんなことが続くんなら俺は!!命が尽きたとしても2人を止める!!」

 

「それはダメだ一夏!!」

 

「どうしてだよ千冬姉!!今までの犠牲の中に、家族だったはずの銀がいたんだろ!?そこに家族の犠牲がもう1人増えるだけだろ!?銀は捨てたのに俺は捨てない?そんなの間違ってる!!」

 

千冬姉は黙る。束さんも何も言わない。

俺は2人に背を向けた。

 

「俺は銀を止める。例え死んだとしても、後悔したくないから」

 

「一夏!!」

 

俺は千冬姉を無視して、鈴達の加勢に向かった。

 

 

 

 

「一夏!!」

 

「鈴、遅くなった。それより銀の方は?」

 

「それがおかしいの」

 

鈴達が居る空域に行くと、鈴が近付いてきた。

鈴は説明を始める。

 

「銀、攻撃はするけど、致命傷になるような威力の攻撃はしてこないし、私達を避けて通ろうとするの」

 

「銀が…………もしかしたら、まだ自我が残ってるのか?」

 

「あり得るわね」

 

俺はPICでフワリと上昇して、銀の真正面で対峙しているラウラの横に立った。

 

「ラウラ、AICを解除してくれ」

 

「しかし一夏!!」

 

「いいから、頼む」

 

「一夏………分かった」

 

ラウラはAICを解除すると、一歩後ろに下がった。

俺は龍に叫んだ。

 

「銀!!聞こえてるなら返事をくれ!!」

 

龍は反応を見せなかったが、メッセージが届いたことを示す着信音が響いた。

受け取ったメッセージを確認してみると、そこには

 

『一夏カ、何ダ』

 

銀からの返答だった。

俺はメッセージを入れて返した。

 

『銀、頼みがある』

 

『何ダ』

 

 

『俺が束さんたちの代わりになるから、2人を見逃してくれないか』

 

 

このメッセージを後ろから覗いていた鈴が、俺を殴った。

 

「鈴さん!?どうしたんですの!?」

 

「一夏どういうことよ!!」

 

「どうもこうもないぜ?俺は束さん達が死ぬのは嫌だ。だから俺が2人の代わりになるってだけだ」

 

「どうして一夏が身代わりにならなきゃいけないのよ!!」

 

鈴の本気で怒る顔は久しぶりに見たな…………

けど俺は折れない。

 

「束さんは千冬姉の唯一の友達で、千冬姉はあんなんでも俺の家族だ。2人が傷つくのは見たくないんだ」

 

「けど…………だったら」

 

「これは俺の問題だ…………っていって言えたら楽なんだけどさ、俺そういうこと言えないからさ」

 

ピコーン

 

『ソレハデキナイ』

 

銀からのメッセージにはこう書いてあった。

 

「なんでだよ銀!!」

 

『俺ノ出シタ条件以外ハ、ドンナ内容デアッテモ受ケ入レナイ』

 

『コレハ俺ノ決メタ事ダ』

 

きっと銀は俺が何を言ってもこれは曲げないだろう。

それでも、俺は銀を止める。どんな手を使っても…………

そんな時、俺達の背後から急速に接近する何かがあった。

 

『一夏!!避ケロ!!』

 

「ハッ!?」

 

俺がサイドに避けることによって背後からの影が龍の装甲に当たる。

攻撃を迫ってきていたのは黄金のISだった。

顔は隠れて見えないが声は女だった。

 

「貴方が更識銀かしら?」

 

「誰だ!!」

 

俺を含めて鈴達が武器を構えた。

 

「私?私はスコールよ。それより後ろ、見なくていいの?」

 

「何!?」

 

振り返るとまず目に入ってきたのは閃光の雨だった。

 

ドドドドドドドォォン!!

 

俺は白式の雪羅で身を守ったが、鈴とセシリアとラウラがエネルギーを削りきられてしまった。

その先にいた敵のISを見て、セシリアが言った。

 

「サイレント・ゼフィルス!?」

 

箒に抱えられたセシリアが言った言葉。『サイレント・ゼフィルス』

聞きなれない単語の意味をセシリアが続ける。

 

「奪われた英国の機体が何故!?」

 

「私が使っている、それだけだ」

 

「「「「「「!?」」」」」」

 

敵の発した声に皆が驚愕した。

発した声が、質が、千冬姉にそっくりだったからだ。

最も過剰に反応したのはラウラだった。

 

「貴様は何者だ!?何故教官に似ている!?」

 

「教官?ああ織斑千冬のことか。そうだろう、私の本名は…………」

 

 

 

「織斑マドカだからな」

 

 

 

そう言ってまた閃光の雨が降り注いだ。

けれどその起動は俺達を擦り抜け、龍への降り注ぐ。

 

gyaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!!

 

龍は雨を擦り抜け敵へと攻撃する。

最初に攻撃してきた女に尾での殴打を、ゼフィルスに光の一閃の嵐を放つ。

殴打を避けられるが、光の嵐は徐々にゼフィルスを追い詰めていく。

しかし双方ともに、余裕が見える。

 

「私達が2人だけで挑むとでも思った?」

 

パチン

 

指を鳴らすと海面から高々と水飛沫が次々と上がる。

飛び出してきたのは敵の味方。その数は次々と増え続けて、ついには空一面を覆い尽くすほどの大群となった。

 

「簡易コアの作り方さえわかれば軍勢だってできるのよ。フフフ、さあ!攻撃しましょう!!!」

 

「銀!!!」

 

軍勢が龍に攻め入る。操縦者たちもかなりの手練れのようで攻撃を躱しては攻撃を繰り返す。

一方的な戦いだが加勢しようものなら速攻で落とされる。

そんな時、首根っこを引っ張られ「ぐぇっ」と声が漏れる。

 

「一夏とやら」

 

「お前は!!」

 

「話を聞け。頼みがある」

 

不可視化し、俺達を翻弄してきた敵。こんな状況で、言わなければならないほどの内容だろうか?敵が言う頼み。その内容は、

 

「学園から生徒会長を連れてこい」

 

「楯無さんを?なんで―――」

 

「緊急事態だ。急げ。篠ノ之束やお仲間さんの方は俺達が食い止めておくから」

 

一方的に、押し付けるように言って混戦状態の龍の付近へと飛んでいく。

そいつは隠れていたもう1人の仲間と対話すると旅館の方へと飛んで行った。

隠れていたヤツは、俺に向かって

 

「早く行け!!!」

 

怒鳴りつけるなり龍へと飛翔した。

 

「クソ!!どうなってんだよ!!」

 

訳も分からずただ指示に従って、学園の方に飛ぶ。

すると、敵が俺に気付いて、

 

「行かせないで!!」

 

俺に向かって銃弾の嵐が降り注いだ。

躱す隙間さえない程の数。俺は最高速度で振り切ろうとするが、距離はあっという間に縮み、銃弾の雨に晒され―――――ることは無かった。

振り返るとそこには、先程俺を怒鳴りつけたヤツが銃弾から俺を守っていた。

 

「織斑一夏、貴様を守護できるのはこの付近だけだ。急げ!!!」

 

敵に向き直ると

 

「ここはこのゾアと、第3世代機『ゾディアック』が、織斑一夏の守護を務める!!!銃弾1つ掠らせはしない!!」

 

吠えた。

銃弾の雨は止むことなく振り続ける。

 

「我、護身ノ力ヲ求メル者ナリ」

 

【漆・獅壊障壁】

 

目の前に、銃弾を遮るようにして現れた金色の障壁。

降り注ぐ銃弾を受け止める。その瞬間

 

パァン!!

 

銃弾の1つが弾けると、それに続くように次々と破裂していった。

 

「衝撃を物体の内部に転移して内部から破壊するこの障壁は、物理に対して無敵を誇る!!獅子の威厳にひれ伏すがいい!!」

 

障壁は更に面積を増し、銃弾を破裂させながら敵に向かって進撃する。

それを躱し切れずに激突した敵の装甲が、武器が、破裂していった。

俺はその隙に、学園へと向かっていった。

 

 

 

 

敵を、銃弾を、ゾアの手助けで乗り切ると、ハイパーセンサーがIS学園を捉えた。

 

「とまりなさい!!」

 

この声は!!

 

「楯無さん!」

 

「一夏君!?どうしたの!?」

 

「緊急事態です!!銀が!VTシステムが!敵が!」

 

「一夏君落ち着いて。ゆっくり説明して!」

 

気付かないうちに声を荒らげていたらしい。

ゆっくり深呼吸して1つずつ説明していった。

 

「そんな……銀がVTシステムを…………分かったわ。至急応援を要請してみましょう」

 

楯無さんは学園に連絡を入れた。

しかし様子が段々と変わってきた。

 

「何でですか!!え…………っ!!もういいです!!」

 

「何があったんですか!?」

 

怒りで息を荒らげている楯無さんに聞く。返ってきた答えは耳を疑う内容だった。

 

「篠ノ之束の護衛に回れって……余裕がありそうだったら銀の抹殺に向かえって」

 

「!?」

 

あの会話の内容は確実に世界に広まっている筈。なのに何で束さんが正義と謳われるんだ!?

 

「上の方は篠ノ之束を応援することによって何かしらの恩恵が与えられることを期待しているんだと思う。でも!!だからって事実を掻き消してまで銀を殺すだなんて!!」

 

「楯無さん、とにかく急がないと!!」

 

こうしている間にも、皆が、銀が、束さんが、危険に晒されているかもしれないのに、こんなところで時間を取っている場合じゃない。

けれど命令に逆らえば楯無さんがどうなってしまうか分からない。

そんな中楯無さんが決意の表情を見せた。

 

「いい機会だわ」

 

「?」

 

「ロシア代表だなんてやめてやろうじゃないの」

 

楯無さんが発した言葉を俺はすぐには理解できなかった。

楯無さんが代表をやめる。これはそう簡単にはいかないことなはずだ。

ロシアから、世界中から批判の声が届いてくるはず。それどころじゃない。学園からの退学だって大いにあり得るのに…………

 

「私の全てである銀を殺すくらいなら、世界を敵に回してでも銀を守るわ」

 

「!!!」

 

俺は楯無さんが銀にかける思いの大きさを見損ねていたらしい。

ただの恋愛だと思っていたけれど今俺が見たのは恋愛を越した、恋愛なんて言葉では軽すぎる、言うなれば依存。

自分の立場や状況ですら無意味と捨てさせるほどの愛を、銀に向けていたんだ。

俺は止めようとした。けれど

 

「…………」

 

言葉は出なかった。

俺が言う最善は、最良は俺にとっての物で、楯無さんの中での最善ではない。

自分の理想を押し付けている。これじゃあ千冬姉や束さんと同じだ。

 

「わかりました」

 

だから俺は楯無さんを止めなかった。

これが最善でなくても、最高になることを祈って、銀の元へと案内した。

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