俺と楯無さんが、龍のいる海域に戻るとそこには未だに大乱闘が続いていた。
楯無さんは驚愕し、怒りに顔を染めた。
そんな俺達に声がかかる。
「ようやく来たか織斑一夏」
「お前…………状況は?」
「見ての通り、不利が続いている。このままだと銀が危ない」
「どういうこと?」
楯無さんが疑問するのも分からなくもない。
全方位への高威力光学兵器に超硬質の装甲に守られたあの龍が易々と落とされるとは思えない。
「もしここにISの修復が完了した織斑千冬や篠ノ之束が来たらどうなると思う?」
「まさか!!」
「亡国企業の方は自分の戦力にしようとしているが篠ノ之束は違う。銀を生かすつもりはない」
もし亡国企業が銀を拘束、捕獲した瞬間に銀は篠ノ之束によって殺される、ゾアとかいう奴はそう言いたいのだ。
ただ俺にはそれを否定できなかった。今の束さんならやりかねないから。
「更識楯無を呼んだのはそれが理由だ」
「?」
「銀はこの状況をどうやっても打破できない。高確率で死ぬだろうが、それを回避する方法がある。それがお前だ」
「どうやって回避できるんだ?」
確かに楯無さんほどの技量なら戦力になるだろうけどこれだけの技量を持った相手に大群で攻められたらひとたまりもない。
「戦うわけじゃない。銀にかかる負担を軽減させてやればいい」
銀にかかる負担、恐らくVTシステムによっる精神負荷のことだ。
しかし精神負荷を軽減させるなんてできるんだろうか?
「今からお前の意識をISネットワークを通じて銀の精神世界に転移させる。俺達は更識楯無に危害が及ばないように守護する。あとは更識楯無の意志次第だ」
「決まってるじゃない。銀の為なら死んだっていいわ」
「分かった。では…………銀を頼んだ」
楯無さんのISが光を放って待機形態へと戻る。楯無さんは気絶しているようだ。
俺は楯無さんを抱えると、ゾアからの指示を待つ。
「俺が防御に徹する。織斑一夏は回避に徹しろ」
「了解だ」
俺達は敵の襲撃に備えた。
私が目を開けるとそこには、暗黒だけが広がっていた。
重力も、物質も、光も存在していない、暗黒だけが存在する世界。
「(どこ、どこにいるの銀?)」
私は無我夢中で銀を捜した。
けれど光の無い世界は、私の視覚を奪い、無重力は私から方向を奪う。
進んでいるのか、戻っているのかも分からないまま突き進む。
そんな中で、僅かな光を見つけた。
光は、次第に姿形を変え、人を模した形となった。
「…………」
「ついて来いってこと?」
「…………」
光は答えず、暗黒を突き進んでいった。
進む、進む、まだ進む。時間の感覚すら狂っている。ここにきてからどれくらいの時間がたったかも分からない。
そして光は、止まる。
人型の光は、私の先を指差す。
「あっちに行けばいいのね?ありがとう」
それだけ言って先へ行こうとした私に、優しい声が聞こえた。
「彼を頼みましたよ、刀奈」
「えっ!?」
後ろを振り返ると光は空間に溶けるように消えていった。
きっと今の光は、銀のISコアに、僅かに残った意識なんだろう。
まったく、銀はISの意識にも好かれているのね。
「分かったわ。貴女のお願い、ちゃんと果たすわ!」
私は力強く前に突き進んだ。
やがて、音が、正確には声のような音が聞こえた。
それと同時に威圧感のような何かが、私の足を止めた。
「この先に銀が居る」
姿が見えた訳でも、声が聞こえた訳でもないのに、何故か確信できた。
私は、気を引き締めて威圧感の中を突き進んだ。
音も、威圧感も次第に大きく、はっきりと伝わってきた。
音だと思っていたものは声で、威圧感のようなものは負の感情だった。
「っ…………!!」
私ですらたじろぐ怨嗟の声と負の感情の嵐を、銀は耐えてきたんだろうか?
途方もない時間を、この嵐の中で過ごしていたんだろうか。
辛かっただろう、苦しかっただろう。けれどそんな状態でも私達を助けてくれた。
「もう少しだけ、耐えて」
自分に、銀に、自己暗示するように言って激しさを増す嵐の中を進んでいった。
「見つけた!!」
私の視覚が、嵐に揉まれる銀の姿を見つけた。
銀の身体には黒い靄のようなものが絡みつき、縛り上げていた。
しかし私と銀の間に、遮るように黒い人型が現れる。
<汝、何者ゾ>
「私は更識刀奈」
<カタナ…………ソウカ、ナラ通ルガイイ>
人型は道を空ける。
私は銀に駆け寄った。
「銀!!」
「あ、あ……刀奈か」
衰弱しきった銀は、虚ろな目で私を捉える。
「すまない。約束を果たすのは難しそうだ」
弱弱しくタハハと笑う銀を私は抱きしめた。
少し驚いていた銀も、力を抜く。
「貴方が約束を破る時は、私が死ぬ時なんだから。一人でなんて死なせないわよ」
「そう、か…………刀奈、頼みがある。聞いてくれないか?」
「うん、おねーさんに任せなさい!」
涙で濡れている顔を、自信で笑わせる。
昔のように、自信に満ち満ちた、銀に力を貸す笑顔を浮かべた。
gyaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!!!!!!
「どうやら更識楯無は、銀との接触に成功したみたいだな」
龍が一際大きな咆哮を上げるとゾアがそういう。
そのことは俺達に1つの事実を教えた。
混戦状態だった海上は、龍の復活によって一方的な戦いへと変わっていった。
次々と落ちていく敵IS。しかしゼフィルスとスコールは落ちていない。
「くっ、何で強くなってるのよ!!」
「スコール、ここは撤退すべき―――」
「分かってるわよ!!そんなこと!!」
計画が失敗に向かっていることを知って、相手も苛立ちが募っていき、仲間にあたるまでになった。
「こうなったら、織斑一夏だけでも!!」
標的が俺に変わる。
けれど龍は、背後から攻撃を放ち続ける。
俺達に近付くことすらできない状況に、敵達は撤退を決定する。
「ここまでね」
残っている仲間達は、落とされた仲間を回収しスコールの後に続く。
俺は息を吐く。
「これで一件落着―――」
「とでも思ったか?」
「え?」
gyaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!!!
龍は旅館の方向へと進撃を開始した。
「何で!?」
「銀の目的を忘れたか?」
銀の目的、そう言われて思い出した。目の前の事件に気を取られて忘れていた。
銀の目的、それは千冬姉と束さんの抹殺。
「止めないと」
「させると思うか?」
ゾアが俺の目の前に立ち塞がる。
「お荷物を持った状態で通れると?」
「くっ!!」
確かに楯無さんが居る状態でこの強敵を通り抜けるのは不可能だ。
しかし、ゾアの背後から接近する影が、現状を変えた。
「一夏の邪魔をするなぁぁぁ!!!」
「箒!?」
「我、一時ノ救済ヲ求ム者ナリ」
【拾・山羊衝音】
バァン!!
大音量と共に箒が吹き飛ぶ。
しかし後ろに続いていたシャルが、盾殺しの異名を持つ『灰色の鱗殻(グレースケール)』を至近距離で発砲する。
ゾアは一瞬にしてシャルの後ろへと回り込み攻撃する。
吹き飛んだシャルは痛みに耐えながらも驚愕の言葉を発する。
「『背追反加速(バックチェイスブースト)』!?最上位加速技を使えるなんて!」
技の名前を聞いた俺は、ゾアがどう動いたかを理解した。
『背追反加速』は、対象の後ろへと瞬時加速の連続で移動し、体にかかる凄まじい衝撃を堪えて背後への追撃を行う技だ。
使える人間は、現役を引退した加速部門優勝者である、アリシア・セルベリンスだけと教科書に書いてあったハズだ。
「動くなぁぁ!!」
箒がゾアの背後から突っ込んでくる。
「我、彼ノ者ヲ落トス力ヲ求ム者ナリ」
【玖・毒矢一閃】
極太の光が箒に降り注いだ。
光は、紅椿の装甲を溶かしていくが、箒は止まらなかった。
「しまっ!?」
「落ちるのは貴様もだ!!!」
「食らって!!」
箒はゾアにボロボロのまま突っ込みホールドした。動けないゾアをグレネードと灰色の鱗殻で爆炎で吹き飛ばした。
シャルは、俺に言った。
「箒は回収してくるから、一夏は早く皆の所へ!!」
「ゴメン、シャル!!」
シャルに謝って旅館へと急いだ。
千冬姉、束さん、無事でいてくれ!!
旅館から数百mの所でようやく龍に追いついたが、僅か数百mではもう進行を止めることはできない。
先に旅館へと向かい退避をさせようとした。
しかしハイパーセンサーで確認するとバスは無く、旅館の窓から見える部屋の中にも、どの部屋にも荷物1つなかった。きっと千冬姉が退避させたんだろう。
きっと千冬姉も退避しただろうと思っていると…………
「止まれぇぇぇ!!!」
千冬姉が龍に猛スピードで斬りかかっていった。
それこそ、目視すら叶わないほどの速度で。
龍は、攻撃を物ともせずに千冬姉を吹き飛ばす―――ことはなかった。
ガァァァァァン!!!!
gyaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!!!
頭部を斬りつけられた龍は、かなりの衝撃だったのかグラリと傾く。
「んな!?…………あ!!」
そこで俺は、千冬姉の姿を見てその怪力の正体に気付いた。
「暮桜!?」
千冬姉の愛機であり、世界最強に輝いた際に駆っていた機体『暮桜』。それを今、再び、千冬姉が駆っているのだ。
「まだまだぁぁぁ!!!」
ガコォォォォン!!!
gyaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!!!!!!
立て続けに切り払い、専用機を纏った千冬姉が龍を吹き飛ばす。
一方的な攻撃。
しかし何故か、この状況を良く思えなかった。
家族を殺そうとしている相手に立ち向かう千冬姉、たったこれだけのこと。正しい行いなはずなのに、俺の身体は2人の間に割り込んでいった。
「止めろ!!!」
「一夏!?」
ガァァァン!!!!
「がぁっ!?」
千冬姉の切り裂きを食らった白式は、衝撃に飲まれ、海上へと急降下を続け…………
そして
ドボォォォォン!!!
衝撃と爆音と水柱が俺を襲った。
「一夏ぁぁぁぁ!!!!」
叫ぶ千冬姉と空中を落下する楯無さん。
千冬姉は躊躇うことなく海に突っ込み、龍は楯無さんを優しく咥えて海上への落下を防ぐ。
俺の身体は絶対防御を貫通した衝撃が襲い、ボロボロになっていた。
「ち、冬ね…………」
意識が急速し薄れていく。
体の感覚すら無くなり、視界も黒に覆われる。
最後に感じたのは、風で冷えた海水の冷たさと、暮桜の装甲の冷たさ、そして千冬姉の吐息の暖かさだった。
― 視点 銀 ―
やはりこうなったか。
目の前の出来事を見て、以前から予測していた事態に溜息を吐く。
最善主義者な一夏がこの争いに突っ込んで怪我を負うことは分かっていた。
ただそれは俺が復讐を望む上で必ず起こることで、回避のしようがないことで、けれどもやはりやるせない気持ちで見ているしかなかった。
「一旦引くか」
「何でよ!?折角のチャンスを!!」
「守るべきものがあるのはお互いに同じだ。それに、刀奈の身体傷を付けるのは俺だけだからな」
刀奈の言う通りこれほどのチャンスを逃したくはないが、もし攻撃すれば刀奈や一夏にも危害が及ぶ可能性がある。余計な負傷者は出したくない上に、刀奈を傷付けられたら俺がどうなるか分からない。
怒り狂ってこの辺り一面を壊滅させてしまうかもしれない。それこそ、俺が研究所を消滅させたときのように…………
しかし刀奈は俺の発した言葉の一部しか耳に入っていないようで、まったく外の情報が入ってないようだ。
「撤退開始だ」
俺達はカルマやゾアが身を潜めていた極秘アジトへと向かい、織斑千冬は一夏を抱えてIS学園へと撤退する。
互いに身を休める時を設けた。
その間、どれだけ体を癒せるか。それこそがこれから起こる大決戦の勝敗を決める。
― 視点 千冬 ―
学園へと撤退してから12時間が経った。
一夏の容体は最悪だったが一命は取り留めることができた。
一夏の傷はISの何かしらの力が働いているのか、恐るべき速度で回復していて、既に骨折や切り傷、打撲などは回復していた。
しかし一夏の意識は目覚めないままだった。
「織斑先生、そろそろ時間では?」
「そうだった。後は任せたぞ、山田先生」
「はい。織斑先生も頑張ってください」
私は治療室から出た。
これから行われる『更識銀及びその仲間の抹殺作戦』の会議の為に、学園の最奥にある極秘会議室へと歩き出した。
「これより作戦会議を始める」
極秘会議室の最前席に座って号令をかける。
この部屋に集まったのはISコアを預けられた国全ての首相や国王に天皇などの最高権力者と各国最強の国家代表達。
会議は現在知りえる敵戦力と敵状況を開示し、どういう陣形で攻めるかという話題になっていた。
「攻めてきたところを包囲して総攻撃だ!!」
「少数の相手に対して大群で攻撃すればいくら龍であろうと手も足も出まい」
最初は包囲してからの総攻撃という案が最有力だったが、少しすると
「更に仲間を増やしてくる可能性だってある!!」
「そうだった場合、IS学園だけは死守しなければならない!!」
「IS学園に戦力を集結させるべきだ!!!」
と言った案も出始め、意見は2つに割れた。
それでは埒が明かない。
「静粛に!!これより投票にて作戦を決める!!」
場が静まり返る。
そして次々に投票を行い結果を待つ。
結果は最初の案だった。
「では敵の情報が入り次第、作戦を決行する!!」
そう言った瞬間だった。
扉が勢いよく開かれ、山田先生が入ってきた。
「どうしたんだ山田先生」
「今テレビで…………
更識君が宣戦布告を!!」
「何!?」
すぐさま部屋の大型モニターに映す。
そこには…………
「私は、織斑千冬と篠ノ之束によって肉体を改造された織斑百春だ。苗字の通り織斑千冬の家族だった。しかし篠ノ之束と織斑千冬によって売られ、苦しい肉体改造を施された。だが私はこうして生きている。私はそんな人と言いたくもない天災と最強に対して、復讐の大決戦を開始する!!時間はあと17分後、午後1時に開始する!!
今の話を聞いて尚も織斑千冬を人と思える輩は俺達に立ち向かってくるがいい!!以上!!!」
ブチン
ザ――――――――
更識銀改め、元家族である織斑百春はそう告げて通信を切断した。
会議室には、テレビから流れる砂嵐の音だけが響いていた。