― 視点 銀(百春) ―
【午後0時59分】
あと1分で作戦開始の時刻となった。
俺は振り返って仲間を見る。
誰一人として怯えた表情はない。
俺は雄叫びを上げた。
guooooooooooooooooooooooo!!!!!!
(勝利を我が手に!!!!!)
『おおーーーーーーーーー!!!』
反応が返ってくると俺達は空へと飛びだした。
総勢500の軍勢が進撃を開始した。
― 視点 千冬 ―
「敵発見しました!!」
山田先生が敵の存在を教える。
それに続いてアメリカ国家代表が声を上げた。
「お前ら!!行くぞ!!!」
『おおーーーーーー!!』
しかし、続く言葉に誰もが息を呑んだ。
「敵、およそ500!!」
「…………」
「500だと!?」
静まる空間に怒号が響く。
声の主であるドイツ代表は確認の言葉を発し、山田先生は縮こまりながらも答える。
「は、はい。敵は約500です」
「何と言うことだ!!作戦変更、学園を死守せよ!!」
急な作戦変更に急いで陣形を組み直す国家代表。
「接触まで3分です!!」
「迎撃攻撃始め!!」
ミサイルが発射され、それに迎撃部隊が続く。
遥か前方にミサイルの嵐が見える。
その先にはあの黒い龍も見える。
gyaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!!!!!!!!!!!
龍が更に加速し、先行する。
そして龍を中心に紅の閃光が発射され、ミサイル全てを爆破した。
誰かが漏らした。
「何だよアレは…………バケモンじゃねぇか」
そう漏らしたのはドイツ代表。
戦慄の表情を浮かべているのはドイツに限ったことではない。
「怯むな!!」
「!?」
「防御隊は相手の足止めを!!攻撃隊は龍に対して総攻撃だ!!」
私は仲間を鼓舞するためにも先行する。
「邪魔者は消えろ!!」
ザクッ!!
ザシュッ!!
ドシャッ!!
サクッ!!
龍を素通りして背後の軍団を蹴散らしていく。
腰の5つものエネルギーパックがぶら下がっているので、躊躇うことなく零落白夜で敵を切り裂いていく。
「続くぞ!!」
「おおーーーーー!!」
私の後に続いて先に防御隊が加速し、その後攻撃隊が加速した。
しかし…………
ガキィン!!
「!?お前は!!」
「貴女が織斑千冬?中々手ごたえがありそうね!!!」
「くっ」
この女は…………スコールだ!!
亡国企業の確認されているメンバーの中で最も情報が少なかった要注意人物!!
「貴様などに構っている時間は―――」
「ならアタシがその時間を作ってやるよ!!」
「しまった!?」
死角から飛び出てきた8つの足で絡みついてきた相手がそういう。
こいつはオータムか!!となるとコイツは第2世代機アラクネか!!
だが、甘いな!!
「何!?」
雪片を逆手に持ち、零落白夜を発動させオータムの脇腹を切り裂く。
拘束が緩んだところを脱出―――したさきには閃光の雨が待っていた。
ドカァァァン!!
爆炎が私を包み込み、海上へと落下する。
急いでエネルギーパックを使ってエネルギーや損傷を回復する。
「甘くなったね姉さん。現役のころとは大違いだよ」
「お前…………マドカか!!」
「正解だよ。ね・え・さん」
再び襲い掛かる閃光の雨を加速して躱すとその先にはスコールの熱球が迫る。
それを避けると次は8つの足の鋭い突きや切り払い、そして閃光…………
手も足も出ずにいる私の元に突っ込んできたのは
「ここは私達が!!」
「ブリュンヒルデは早く龍を!!」
「時間を稼ぎますので早く!!」
アメリカ、ドイツ、中国の代表がそれぞれスコール達に襲い掛かる。
私は急いで龍のもとへと向かった。
「見つけたァ!!!」
視線の先には漆黒の龍。その周りに群がり進行を遅らせる国家代表達もまた視界に入る。
もう邪魔する者はいない。
そう思った刹那、
ドゴォォォォォン!!!
群がっていた国家代表達が爆炎と共に吹き飛んだ。
まだ仲間が!?
そして私の視界がハイパーセンサーを通して全方位を見渡す。
そこに捉えたのは…………
「いかせないわよ!!」
元ロシア代表、生徒会長の更識楯無だった。
「何故アイツの見方をする!?状況が分かっているのか!?」
私は叫んだ。
百春の勝率は0ではないにしてもかなり低かった。仮に勝ったとしても世界が百春に対する攻撃をやめるとは思えない。
きっと束と私が止めろというまでそれは続くだろう。
それを更識は知っているはずだ。
それでもあいつの見方をするという理由が分からない。
「どんなに最悪な状況でも、可能性は0じゃない!!それに…………」
「この戦いで銀が死なない限り私が死ぬことはないのよ!!!」
手にした漆黒の槍を構え、特攻してきた。
ただその程度の実力では私には勝てない。初撃で終わる。
私もまた加速し、斬りかかった。
しかし、初撃は弾かれ、続けざまに放たれた突きで装甲を抉られる。
「!?」
驚愕した。
慢心していたのかもしれない。
けれど、それでも驚愕するしかなかった。
私は現役を引退しているが、実力は未だに最強クラスだと自覚できていた。私の攻撃を凌げるのは現状では、百春か束くらいだと理解していた。
しかし目の前の更識楯無は私の攻撃を弾くだけでなく、追撃まで食らわせてきたのだ。
こんな短時間で、これだけの進化をするなど…………
「進化してるのは私だけじゃないわよ!!」
思考の海に浸かっているところに新たなる驚愕を与えてきた。
更識の主武器である槍が明らかに変わっているのだ。
俗にいうランスのような形だった槍は、穂先が3つに分かれた三又槍(トライデント)へと姿を変えている。
「例え進化をしたとしても、私達を倒すなどとは考えないことだ!!」
「何一つ変わらない相手なら、いくらでも対処方法なんて取れるのよ!!」
「ほう…………なら、これを止めて見せろ!!」
居合の構えを取り、最高の状態で最高の間合いで、加速し――――
―抜刀―
繰り出される一閃。
散る火花。
しかし…………
「言ったでしょう?対処方法はいくらでも取れるって」
「何!?」
無傷の更識が背後で槍を構えている。
だが、この攻撃は連撃するための技。本命は、これだ!!
「かかった!!」
人間では到底不可能な動きで身体を捩じり、不可視と呼べるほどの、高速の一閃を放った。
これを人間が視覚に捉えることなど出来ず、ISであっても残像程度が限界だ。
もし仮に捉えたとしてもそこから防御に転じる時間なぞ与えない一撃。
終わった。そう感じた。
「終わるのは貴女よ!!」
「!?」
ギャリリリリリリリリリリ!!!!!
一閃を穂先の又で受け流し、絡め捕られた。そのまま雪片は私の手から離れ、天空へと舞った。
「これで私に勝ったと思うな!!」
私にはもう武器は無い。
だが更識の槍の穂先は私とは反対に向いている。
攻撃を仕掛けようとする間に、雪片を再び握るのは容易い。
しかし、更識最後の手は、奇想天外で驚愕の一手だった。
「止め!!『凍てつく烈火(アイシクル・バーン)』!!」
槍の石突きがこちらを捉える。
そこにあったのは穴。
そこから私を襲ったのは蒼白い烈火だった。
「炎程度なぞ!!」
「炎なんかじゃないわよ」
ピキキキキキキキキ!!!
「!?」
装甲の表面が凍てついていく。
装甲だけではない。雪片、そして絶対防御を通り越して皮膚までもが凍てついていた。
電子回路は凍結し、ブースター(加速器)も最早使い物にならない。
「これが慢心と裏切りを働いた最強の末路よ!!」
穂先が私に振り下ろされた。
ガッシャァァァン!!
装甲が破壊され、体に纏わりついた氷が砕け散る。
それが薄れゆく意識が最後に記憶した音だった。
― 視点 百春 ―
刀奈が織斑千冬の足止めに向かった後、俺は爆風で国家代表が吹き飛んだ隙に、最終兵器の準備に入った。
「これで、終わりが見える、か…………」
終わりを目指しているのは間違っているわけでは無い。ただ、最終的な目標が終わりではない。
目指しているのは、終わった後の変わった世界。
けれど…………
<汝、コノ戦ヲ終結サセル力ヲ欲スルカ?>
そこにある世界を、GKシステム(コイツ)が知ることは無いだろう。
きっとコイツに戦闘への欲求以外のモノは無いのだろう。
けれど、何故かそれだけではないと思ってしまう。
「俺は力を求める。未来を変えるための力が」
<汝ノ願イ、我ガ叶エタリ>
「あ?」
コイツ、何て言った?
今までなら<汝ノ願イ、聞キ届ケタリ>だったはずだ。
今回は、間違いなく、<汝ノ願イ、我ガ叶エタリ>だった。
…………まさか!?
<管理者権限ヲ銀カラGKシステムへと移行>
<更識銀ヲ絶対隔壁デ保護。後ニ最終兵器『『憤怒せし龍の息吹』』ニテ、IS学園最深部ノ障壁ヲ破壊スル>
「ま、待て!!」
キチチチチチチ!!
漆黒の液体が俺を包み込み、隔壁と化していく。
せめて、最後に声だけでも!!
それより早く、アイツからの声が、響いた。
<後ハ任セタゼ、相棒>
俺は、この声に覚えがあった。
忘れるはずもない。
そして俺は、残り数cmしかない穴からあ、最後の希望を託して、声を放った。
「ありがとう!!十秋!!」
キチン!
GKシステム、その人格を象っていた、その最深に隠された真の人格、最愛の、最初の家族、十秋に声が届くことを願って言い放った感謝の言葉。
ISネットワークを漂って、最終的にVTシステムに吸収された今は亡き弟の、最後の言葉。
「絶対に、終わらせる!!」
その言葉は、俺に強固な覚悟と、勝利への道筋を照らし出した。
そして、龍は、体から光を撒き散らしながら、最後の息吹を、解き放った。
光は、篠ノ之束の身を守る全ての学園という名の障壁と、龍を消滅させ、辺り一帯を吹き飛ばした。
隔壁を破り、黒要塞を纏ってその終結への道を突き進んだ。
融解した学園最深部を進んでいく。
暗く、無機質で、冷たい深部の奥の奥に、敵はいた。
「雑魚風情が、よくも私の計画を散々なことにしてくれたな!!」
「お前のその子供染みた計画の為に死んでいった仲間が、俺が!!お前を許さない!!」
篠ノ之束が言う計画。それは世界征服でもなければ、世界の確変でもない。
『自分と言う存在を全ての生物から忘れることのない世界を作る』
周りから認められず、拒絶され、普通から隔離された存在故の願い。それが、曲がり曲がってこんな世界の確変という結果を生み出した。
「お前!!私の願いを馬鹿にするな!!」
「人の命よりも重いモノもコトも存在するわけがないんだ!!」
例えそれが純粋な子供のころからの願いだったとしても、好奇心だったとしても、命を奪う理由になってはいけない!!
俺が見てきた時間がそれを俺の全てにそれを刻み込んできた。
「目には目を!歯には歯を!!痛みには痛みを!!!
命には命を!!!!」
等価交換。世の中の全てを司る言葉。
1には1を返し、10なら10を、万物は対価を支払って存在している。
それを無視なんてできないのだ!!
「対束用最終兵器、『絶無』!!」
両手に展開されたのは刃の無い刀。
それを構え、
「対価を支払え!!」
先進した。
篠ノ之束はエネルギーの刃を展開し、斬りかかる。
だが、先に傷を負ったのは、篠ノ之束の方だった。
宙を舞う血の雫。頬に掠り傷を作る篠ノ之束。
「何でなんだよ!!何なんだよその武器は!!」
「お前の為の最終兵器、重力刀だ!!」
研究者達は篠ノ之束との対決を予期し、対策を練った。
とはいっても、肉体の方はこれ以上の改造は見込めなかったので、必然的に装備の強化へと力を注がれる。
どんな攻撃にも耐えられる鎧を作ったところで研究者達は、篠ノ之束を倒す決定的な武装が無いことに気付いた。
研究はそこで行き詰った。
そこで研究者たちは視点を変えて考えた。
全てを貫通し、どんな防御をも無視するモノは無いか?と。
最初に出てきたのは電波だったが、篠ノ之束に対して電波武器は無意味と考え、時間が経ち、最後に出された案がこの重力刀だった。
地球上どこにでもどんな状況でもなくなることのない事象。
どれだけ厚い壁に覆われていようと、どれだけ地下深くに逃げようと無くなることのない無限の可能性。
そして完成した不可視の刃を持つこの刀を、彼らは『神殺し』と呼んだ。
「どす黒い人間の欲望を『希望』と呼ぶことだってある。人によってはこれは私怨の塊に見えるかもしれない。
だがそんなことはどうだっていい!!これでお前を殺せて、世界が昔みたいに戻るのなら、俺は悪にだって、修羅にだって、死神にだってなってやる!!」
どんなに穢れていようと、それで今を変えられるのなら、俺は、一縷の望みを託そう。
「この長く苦しい時間も、今日で終わりだ!!」
不可視の刃を振りおろした。
だが、それを弾く人間がいた。
背後から突っ込んできた純白の影は、手の甲を打撃し、攻撃を中断させた。
純白の影の正体は…………
「一夏、どけ」
「断る」
一夏は俺と篠ノ之束との間に立ちふさがる。
俺は続けた。
「一夏、お前の考えは昔から変わっていない。そうだろ?」
「そうだ」
「誰も傷付けない、争いは止める、そんなことできはしない。理解してるだろ?」
「どんなに力量、技術量に差があっても、争いは止める。まして、家族に近い存在の束さんが傷つけられそうだったのなら猶更だ」
一夏は言う。
昔からそうだった。
高校生の喧嘩に止めに入ったり、近所のトラブルにすら解決しにいこうとした一夏が、こう答えることは知っていた。
だが、止まるわけにはいかない。
「篠ノ之束が計画を中止し、それを償うと誓うまで、俺の復讐は終わらない。終わらせなんかしない」
「銀…………」
「例えいっくん達から何て言われても計画は止めない」
「束さん…………」
真っ向から対立するお互いの意見。
一夏の選択次第で、これからの状況が大きく変わる。
「お、俺は――――」
導き出した一夏の答えは
「2人のどちらの敵にも味方にもならない」
こうだった。
「銀の復讐は肯定できない。だからといって束さんの計画だって賛成しない。俺は、2人を止める」
「そうか」
無意識で零した言葉。
俺は一夏に対して―――
「なら、お前は俺の敵だ!!」
斬りかかった。
「束さん!!逃げて!!」
「させるか!!」
一夏は俺の小手を狙う。
しかし俺は、左手にもう一本展開し、
「済まない」
一夏の急所を外して、刃を、一夏の腹に突き刺した。
グチュリ
「ガッ、ァ…………」
<搭乗者の出血を確認。これより搭乗者保護プログラムより、止血を行います>
「痛いだろうが、しばらく堪えていてくれ」
それだけ言って篠ノ之束を追いかける。
最後に聞いた一夏の声は、苦しみに喘ぎながらもかけられた静止の言葉だった。
「そこまでだ。もう逃げ場は無いぞ」
篠ノ之束を追い詰めた。
相手もこれ以上引く様子はない。
「さあ、仲間の無念、ここで晴らす!」
剣戟の嵐が吹き荒れた。
篠ノ之束の防戦一方、俺の一方的な攻撃だった。
チッ
チッ
チッ
切り傷は増えるが致命傷になるような傷が作れない。
天災も、強い。剣術で織斑千冬が勝てないというくらいだ。
ただ、いままでに俺が支えられた皆の後押し。それは、技術をも上回って、致命傷を作った。
カスッ
「しまっ!?」
「終われ!!」
ジャクリ!!
僅かに外れた篠ノ之束の攻撃。それはまたとないチャンスで、逃せば外からの応援がくるまで同じようなチャンスは無いだろう。
それを逃すことなく重力の刃を、振りぬいた。
吹き飛んだのは篠ノ之束の右腕。
「ギャァァァァァァァァ!!!」
「仲間の恨みはこんなもんじゃない!!」
立て続けに左腕も切り落とす。
血が一瞬吹き出すが、ISの止血能力が発動し、血が止まる。
「ようやく終わっ――――」
「そこまでよ!!」
振り上げた重力刀が、背後からの声と同時に弾かれる。
「もう応援が来たか」
俺はここでチャンスは尽きたかと感じた。
しかし、駆けつけた女が発した言葉は、信じられない物だった。