インフィニット・ストラトス  漆黒の要塞の復讐   作:双盾

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銀の歩む道の最後

― 視点 銀 ―

アジトの出撃用ハッチに集まった俺達と亡国企業の全員。

その最前線に立つ俺は、後ろを振り返り、

 

「これで終わりにしようか。天災と最強によって歪んでしまったこの世界を!!」

 

『オオーーーーーーーー!!』

 

「ちょっといいかしら?」

 

声の嵐の中、スコールが俺に問う。

 

「この戦いが終わったら、契約通り、貴方はウチに来るってことでいいのよね?」

 

「ああ、その通りだ」

 

「兄さん!?」

 

マドカが驚く。

今回の大戦で亡国企業が俺達に加勢してくれる理由。

マドカと俺の情報だけでは1対1の取引になってしまう。

亡国企業に限った話ではないが、取引は基本的に、話を持ちかけられた側が有利で、1対2で終わることが殆どだ。

だから俺も、亡国企業という最強の闇組織を動かすだけの対価を支払った。

大戦が終わったら、亡国企業のメンバーとなるという対価を。

 

「そう、ならいいわ」

 

「ん、ではこれより、ロシア中央裁判所への篠ノ之束輸送護衛作戦を発令する!!」

 

ハッチの出入り口が開き、大空へとISが舞い上がった。

行く先は極寒の地、ロシア。その中心だ。

 

 

 

 

 

 

― 視点 鈴 ―

バン!!

 

「一夏!!大丈夫……か…………」

 

「千冬さん?どうし…………」

 

千冬さんを連れて一夏の病室へと駆け込む。しかしそこには誰もいなかった。

ベッドのシーツは綺麗に畳まれ、机の上に置いてあったIS学園の制服と白式の待機形態であるガントレットが無くなっていた。

 

「一夏!?」

 

千冬さんは、風に揺られるカーテンを払って窓の外を覗く。

しかし千冬さんの肉眼は一夏を捉えていない。

ハイパーセンサーで夜空を見る。

すると、電子音と共に、星に紛れて暗夜を飛行する一夏の姿を見つけた。

 

「いました!!正面20km先、白式発見!!」

 

「わかった。すぐ行く」

 

千冬さんは暮桜を展開して一夏を追う。

しかし一夏は、千冬さんを見るなり更に加速する。

 

「一夏、何で千冬さんから逃げてるんだろう?」

 

 

 

 

 

 

 

― 視点 銀 ―

やはりというか、当たり前というか、俺達の目指すロシアの周囲には篠ノ之束を捉えようとする敵がいて、彼らは当然、俺達を攻撃するわけだ。

その結果、混戦となった。

だが敵だけが集団ではない。平均戦力では負けていても、こちらは敵以上の数がいる。

身を削ってでも、俺を支えてくれる味方がいて、俺の背中を押す。

必ず勝つ。

それ以外に目標はない。妥協しない。今までの犠牲から目を背けない。

勝って、報いを受けさせる。

それが、仲間への…………

 

「銀!!後ろだ!!」

 

「誰だ!」

 

仲間が知らせてきた味方ではない相手は、敵味方入り混じるこの戦場を駆け抜けてきた。そして俺の背後まできた相手。その正体は…………

 

「何の用だ一夏」

 

「…………」

 

一夏は無言の返答。

ただ、俺の行く先を遮るように停止している。

 

「俺は」

 

一夏が口を開いた。

 

「俺は、お前を否定しない。けど、束さんを殺させもしない」

 

「誰も殺すとは言っていないんだがな」

 

「束さんと千冬姉の犯し続けた罪を裁く。俺は、それだけの為にお前に味方する」

 

それが、一夏の答えだった。

俺を殺すわけでも、自ら篠ノ之束と織斑千冬を殺すでもなく、家族を裏切るわけでもない。

ただ身内の罪を裁く。

正義が似合う一夏にピッタリな覚悟だ。

 

「なら、人々の裁きによって、篠ノ之束と織斑千冬が殺されるのだとしたら?」

 

「その時は…………それが皆が望む事なら、相応の罰だったら、俺は何も言わない」

 

「そうか。なら、篠ノ之束を送ってくれ」

 

篠ノ之束の入った檻を、一夏に手渡す。

一夏は、ただ一言

 

「分かった」

 

そういって、運んでいく。

俺は、仲間に指示する。

 

「いいか!!織斑一夏の守護を最優先に変更!!死守せよ!!」

 

仲間は一夏の守護につく。

そして俺は、目の前の強敵と対峙した。

 

「また会ったな」

 

「百春……!」

 

俺の昔の名前を呼ぶのは元家族、織斑千冬だ。

その瞳には悲しみと悔しさが滲んでいた。

 

「お前の弟も、目を覚ました。お前も気付いているんだろ?気付いていて尚篠ノ之束の見方をし続けた。これがその結果だ」

 

「…………分かっていたさ。束がこの事件を起こすことも、こんな世界になることも。ただ私は、束が変わることを信じていたかった!!」

 

「その結果がこれだ」

 

「ああそうさ!!だが束は、私を正しく理解していた!!上っ面しか知らないだけの人間じゃなかった!!だから束の見方をした!!」

 

「ただアンタが自分を周りに隠していたからだろう!!偽りの自分だけを見せて、分かる訳がないだろうが!!」

 

篠ノ之束が織斑千冬を正しく理解できたのはそのバケモノとも呼べる人間離れしすぎた頭脳があったからだ。一般人に天災と同じだけの知能を求める方が悪い。

2人が惹かれあったのはそれだけが理由ではないだろう。

似ている。見た目でもなく、立場でもない。存在が、願望が、似ていたから。

自分を正しく理解してくれる人物が欲しいという願い。人間離れして、自分を正しく理解してくれる人間がいなかった者が、そんな願望を持つのも理解できる。

2人の関係は、きっと俺と刀奈の物に近い。依存に限りなく近いモノだ。

しかし織斑千冬と篠ノ之束には、決定的に違う点があった。

 

「お前は!!自分の、自分達の行いが間違っていると知っていて、それでも間違いを正さなかった!!」

 

「ではどうすればよかった!?間違いを指摘して、拒絶されて!!また孤独を味わえばよかったのか!?」

 

「拒絶なんて考えたお前が悪かったんだ!!お前の中で、篠ノ之束が、その程度の存在だと考えてしまっていただけだ!!現状を正しく理解できてなかったお前が!!この世界をぶっ壊したんだろう!!」

 

「っ!!!!わ、私は…………ただ…………」

 

「過去の経験に怯えて、逃げて、それでも縋っていたお前が、本当の悪だ!!」

 

絶望と、後悔。そんな感情が織斑千冬の目に現れていて、ついに無言で項垂れた。

動かなくなった織斑千冬。

憎い元家族を、裏切者を俺は…………殺さなかった。

 

「そこで後悔し続ければいい。罪を償うこともせず、ただ苦しめばいいさ!!」

 

それだけ言い残して俺は一夏の元へと進む。

俺を信じているわけではないが、俺に力を貸してくれる、家族の元へ…………

 

 

 

 

 

 

しかし、一夏の元へと戻ると、戦場は更に悪化していた。

原因は…………篠ノ之束の脱走だった。

未だ敵の本陣までは辿り着いてはいないものの、亡国企業の人員が全力で食い止めているものの、捕獲及び拘束には至っていない。

篠ノ之束は織斑千冬と同等かそれ以上の身体能力を持っている。剣術では織斑千冬を凌駕する腕前だ。近接はできる限り避けたい。

今はISを纏っていないから近接できているものの、ISの武器などがあった場合、即刻、篠ノ之束の捕獲は諦めなければならない。

何故、篠ノ之束は脱出できたのだろうか?見張りには一夏をつけていたはずだ。

一夏はどこだ?

 

「…………見つけた」

 

一夏は、国家代表達の攻撃を躱すのに精一杯といった感じだった。

ただ、一夏が的になってるおかげで亡国企業の人員は、篠ノ之束の捕獲に専念できているのだ。

 

「銀!!」

 

「刀奈か。どうなっているんだ?」

 

「それが、特攻してきた国家代表が、あの檻を破壊して…………」

 

破壊?あの頑丈な檻を?

 

「こっちは食い止めるので精一杯!!ロシアまで運ぶことなんてできないわ」

 

「そうか、俺はあいつらを蹴散らしてくる。刀奈は篠ノ之束の方を頼む」

 

「分かったわ。お願いね」

 

想定外なことすら起こす天災。奇跡と才能に恵まれた人間。

恐ろしいものだ。

 

「さて、と。カルマ、ゾア、あいつ等を駆逐しようか」

 

「おいおい、そう簡単に言うなよ。相手はいくらバカだって言ったって国家代表だぞ?」

 

「そうだな。それはお前が今の状態では、の話だろう?」

 

「まあな」

 

国家代表を蹴散らすにはこちらは少しハンデが有り過ぎる。

絶対防御すら無視する『絶無』では搭乗者をも殺しかねない。

かといってカルマでは火力不足過ぎる。

 

「よし、カルマ。最終兵器の使用許可を出す。出力制限はいらん」

 

「いいのか?アレの威力はお前だって知ってるだろ?」

 

「何、相手は国家代表とその国家が誇る最高の機体だ。量産機よりかは頑丈なはずだ」

 

過去に1度、アジトの実験室でカルマの最終兵器の威力を見たことが有る。

ISコアを抜いた状態の打鉄に、出力50%で攻撃した所、打鉄はボロボロに――――それどころか装甲や骨格までをも消し飛ばしてしまい、回線が丸見えの状態となってしまった。

威力は申し分なかった。ただそれだけでもなかった。

鋼鉄の厚さ10cmの防壁をも破壊し、アジトが半分ほど、消滅させてしまったのだ。

ただ、代償も大きく、使用後はISが強制解除され、エネルギー充填のために3日間ずっと使用できない、なんてこともあった。

 

「ゾアはカルマのサポートと回収を任せる。俺は残った奴らを落とす」

 

「了解した」

 

「そんじゃ、一丁やりましょうか!!」

 

先行するカルマを防御するゾア。2人は高速で敵を引きつけ、一夏の元へと辿り着く。

 

「ゾア、織斑の野郎を防御しとけ!!」

 

「Jud」

 

「ちょ、何だ!?」

 

「行くぜ!!」

 

ゾアは防御障壁を出力最大で展開する。

カルマはロックを解除し、発動のtriggerとなる言葉を言った。

 

「go to hell」

 

瞬間、カルマの機体の装甲に、無数の線が現れ、輝きを増していった。

カルマが駆る機体『陽炎』は、俺と同じくコアの意識が無くなった機体だが、スペックは俺の機体とは比べものにならないくらい低い。

その理由、カルマの機体は通称エネルギータンクと言われ、ステルスで3割、武装で1割、それ以外の空き容量はエネルギーのタンクと化している。

それだけのエネルギーを、濃縮して一瞬にして解き放つ。それがカルマの最後の切り札。その名も――――

 

 

「『誕生を催促せし衝撃(ビック・バン)』」

 

 

閃光が、辺りを覆った。

 

 

最後に視界が捉えるのは一面の白。

 

 

音は無く、悲鳴も、歓喜の声も、静止の声も聞こえない。

 

 

その瞬間だけは、全てが完璧で、完全の白だった。

 

 

光が引いて、あとには何も残らない。

 

 

3つの影を除いたすべてが、暗黒の海へと落ちていった。

 

 

 

 

 

「回収っと」

 

「すまねぇな」

 

「何だったんだ…………今の」

 

カルマはゾアに回収され、一夏は放心している。

それはそうだろう。

あんな感覚が狂ってしまうようなものをみたのだから。

その間に俺は残った敵を確認するが、何1つのこっていない。

敵の攻撃を恐れる心配が無くなった。

しかし、安堵した俺達の中で、ゾアの脇腹から閃光が突き抜けた。

 

「ぁ…………?」

 

閃光の後にポッカリと開いた脇腹から、月の光を反射しながら溢れ出た鮮血。

 

ピシャッ

 

ベシャッ

 

装甲に、カルマに、血がかかった。

 

「ゾア!?」

 

<搭乗者の負傷、出血を確認。加速器、AICの出力を低下、搭乗者保護プログラムを起動し、止血を開始します>

 

ヴン………

 

プログラムの起動によって出力が下がった。

PICが弱まったが、まだ飛行はできている。

 

「どこからだ!!」

 

ゾアの傷口や状況から、攻撃の方向を絞る。

その方向にあったのは…………

 

 

ISが解除されて、血まみれで倒れこんでいる亡国企業の人間、その中心に立って、銃口を向けるのは…………

 

 

篠ノ之束だった。

 

 

「あいつ!!」

 

どこからISを手に入れやがった!!

とりあえずゾアを撤退させるしかない。

 

「一旦撤退しろ!!」

 

「すまない」

 

「束さん!?何で!?」

 

指示を出し、再び篠ノ之束に視線を向け―――その手前で、俺の視線が止まった。

野原にそよぐ草のように隙間なく倒れる黒の衣を纏った亡国企業の人員の中で一点、蒼を見つけた。

見慣れた色、見慣れた服、俺の守るべき―――――

 

「っ!!!」

 

 

刀奈だった。

 

 

「貴様ぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!」

 

 

自分のことを激情化ではないと思っていた。だがそんな俺でも、自分と同じか、それ以上に大切な存在を傷付けられた。その事に対する怒りは、憤怒は抑えられるものではなかった。

重力操作の出力を最大にし、篠ノ之束の少し手前に超加速する。

ただ、その直後

 

<―警告― 背後より直高熱エネルギー反応 回避を推奨します>

 

警告に反射的にハイパーセンサーを起動し、背後を見る。

そこにはIS学園で見た、あの極太熱線が接近していた。

しかし、俺はそれを避けることはできなかった。

回避すれば刀奈に直撃する。

だから俺は―――

 

「ナメんな!!要塞の名は、伊達じゃねぇ!!!」

 

刀奈の直前で反転し、大の字で立ち塞がった。

 

「『全てを捌く、反逆の刃』熱線を切り裂け、俺の同志達!!!」

 

刀奈を守るべく盾となり、防ぎきれない隙間を無数の刃で埋める。

そして、熱線は俺を襲った。

 

パシィ!!

 

ピキッ!!

 

パキャン!!

 

ピシピシッ!!

刃が次々と壊れていく。黒の刃だけが消え去っていく。銀の刃は熱線に変形するものもあるが、未だ壊れたものはない。

しかし、黒の刃と同じ素材のこの鎧は、熱線に破損する恐れがあることを示していた。

 

<―警告― 前面装甲の耐久値50%、これ以上の破損は危険>

 

やはりか、と感じつつもこちらは耐えるしかできなかった。

じわりじわりと減っていく耐久値。

40、30、20…………

 

<―警告― 耐久値が10%を切りました。危険状態、即座の撤退を推奨します。>

 

その警告がなった直後、

熱線が止んだ。どうやら向こうのエネルギー切れだ。

残り耐久値は5%。

しかしそこで終わりではなかった。

 

「死ねぇぇぇぇ!!」

 

背後の篠ノ之束が、鎧の隙間から細身の刃を突き刺してきたのだ。

 

グシャッ

 

ジャクリ

 

刺されたのは左の肩。

篠ノ之束は、刃を上下左右へと動かし、肉を引き裂き、かき混ぜる。

その度に激痛が俺を襲う。

 

ズボッ

 

刃を抜き、少し間を空ける篠ノ之束。

傷口から血が溢れだす。

左腕はもう動く気配を見せない。

俺はすぐに傷口を再生しようとするが、篠ノ之束は素早い剣戟で、再生する隙を与えない。

 

「このまま死ね!!ゴミらしく無様に死ね!!」

 

「俺がゴミならお前はそのゴミの格下だ!!!」

 

ゴメンな刀奈。俺はここでおしまいみたいだ。

けど、ただじゃ終わらせない!!

 

「カルマ、ゾア、楯無を保護してくれ。その後は自殺しないように拘束してくれ」

 

<銀!?お前何言って――>

 

「じゃ、また会おう。同志」

 

<おい!!>

 

一方的だと自分でも思う。あいつらは、刀奈は納得しないだろう。

けれど俺は、この歪んだ世界に終止符を打つことを選んだ。

悔いは大きすぎる。

悲しみしかない。

その感情を、他の感情も、全てを、篠ノ之束にぶつける。

後退を止め、篠ノ之束に突進する。

 

「遂に狂ったか!!やっぱりゴミはゴミだ!!おとなしく死ね!!!」

 

極薄の装甲を次々と貫通する剣戟。

ただ、どれだけの傷を負ったとしても、俺は止まらない。

 

「死ぬなら、お前も道連れだ」

 

「!?」

 

全エネルギーを前方に向けて解放した。

 

「『終結を齎す輝きの刃』」

 

IS学園を壊滅した攻撃と同等か、それ以上のエネルギーが放出した。

 

直撃する篠ノ之束、たとえ最強のISを装備していたとしても無事ではすまない。

 

「せめて、綺麗な世界を見てみたかったなぁ」

 

それが、俺の最後の言葉だった。

 

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