インフィニット・ストラトス  漆黒の要塞の復讐   作:双盾

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月1話のペースでもネタ切れだと投稿が難しいことが分かった今日この頃


先へ進む決意

私と更識は、束の実験室を訪れていた。

大きな倉庫は、一見どこにでもある倉庫のように見えるが、内部の壁在は超硬度の合金で覆われているため、襲撃されてもそう簡単に壊されることはない。

束の母から渡されたカードキーを使い、頑丈なロックを解除する。

 

ゴゴゴゴ

 

重く低い音と共に入口が現れ、そこから内部に立ち入った。

昔と変わらない道具や機器の配置から、すぐに明かりのスイッチの場所を特定し、照明に光を宿す。

 

「これは…………」

 

「驚いたか?天災の名は伊達ではないぞ、更識」

 

そこには、様々な武装や装甲。そして試作品と思われるISが大量に鎮座していた。

スマートなフォルムから重厚な作りの物まで、様々あり、その中には白式に似た作りのものもあった。

地面には大量の研究資料が散らばっているが、これはISが世間に広まる前の物だ。

そしてこの空間の中心にある、この場では異質と呼べる物こそ、束の逃走に一役買っていた完全ステルス機能を搭載した移動用ラボだ。

 

「高々人間1人がここまでの機材を得られるものなの?」

 

更識が素朴な疑問を投げかける。

確かに常識的に考えれば人間1人が国や団体の補助無しでここまでの素材や機材をそろえるのは無理だとおもうだろうが、私としては何ら疑問に思うことは無く

 

「言っただろう更識。天災の名は伊達ではないと」

 

束に常識は通用しない。

ISの粒子物質化を利用して、機械では作れない物質や鋼材を作り、機材や素材を揃える。これが束に金を使わせることなくここまでの実験施設を作り出せる方法だ。

ISが何台もあれば、同じ時間でも自動回復するエネルギーの量は多くなる。束はエネルギー補充の為だけにISコアをいくつも余分に作り、保管しているのだ。

 

「才能の有り過ぎも怖いものね」

 

「進化し過ぎた化学は魔法と区別がつかないとはよく言ったものだ」

 

従来の科学力からは想像もできない技術の結晶ISは、まさに魔法の道具のようだ。その作りや構造を全て正しく理解できてる人間が束しかいない。束が誰にも情報を与えなければその作りは永遠に謎のまま、魔法のような存在となってしまうだろう。

私は移動式ラボに足を進める。

これもまた私と束の学生時代に考案したものの1つだ。

パスワードがその時と同じならば…………

 

ピー

 

無機質な電子音と共にロック解除が行われ、固く閉ざされていた出入り口が開く。

 

「懐かしいな」

 

「何がよ」

 

無意識に零したその言葉に対しての更識は質問する。

中には昔の写真がそのまま飾ってあった。

失敗した時の写真。成功した時の写真。

それを見た更識は興味津々に他の写真を見ていく。

 

「へぇ、2人とも若いわね」

 

「私達を何だと思っている。私達も更識達と同じように学生時代があったんだ。そこでの状況はちがったがな」

 

「成績優秀で同性からの人気も高いのは予想できるわ」

 

けど、そう続ける更識。

 

「篠ノ之束の方は想像できないわね」

 

「………束は」

 

少し唾を飲み込んで続きを言う。

 

「束は、昔から私よりも優秀だったよ。それこそ、教師からの受けも良かったさ」

 

けど

 

「反面、生徒からの受けは悪い物だったさ。羨み妬み、そこからなるイジメや暴力。けれど束は特に気にした様子も無い」

 

「それじゃあ……」

 

「ああ、生徒達の負の感情に暴走はエスカレートするばかりだったが、そんな暴力も受け流してしまうのが束だった。ボイスレコーダーや隠しカメラ、暴力を振るってきた相手には先に攻撃させることによる正当防衛。それによって9人の女子生徒が心身に大きな傷を負ったり、停学あるいは退学の処分を下されあるいは自ら学校を出て行ったよ」

 

だから束は心を閉ざしてしまった。

様々な企業からスカウトされ、成績も良く、容姿もまたズバ抜けていた。

だからこそ生徒達からしてみれば嫉妬を、負の感情をぶつけるには最高の的となっていた。

陰口から始まり机にラクガキ、配布されたプリントを燃やす、揚句の果てには暴力。

しかし束は頭の良さを利用してそれらすべてに対抗し、勝利した。

自ら超小型カメラを作り仕掛けられるイタズラを記録、学校に報告。これが主な手段。単純で分かりやすい、しかし並大抵の覚悟ではできないことを、平然とやってのけた。

結果、高々1時間の記録如きで一気に20人の生徒に注意罰則が下された。

それに怒り暴力に出た輩は、それさえも記録されていることに気付かず、逆に束の支配下に置かれてしまう。

 

「人間離れした、とはよく言ったものだが、束は人間が持つべきものを持てなかった」

 

たった1つ、他とは違うだけで化物の虐げられる。

そんな日々でさえ、何かがかけた存在にとっては何事も無いかのように、違いを理解できない。

 

「普通とはかけ離れた私達だったが、それでも大きく違う点が1つあった」

 

それは

 

「束は、私とは違って自分の置かれた環境に不満なんて持ってなかったんだ」

 

私は何をしても良い方向へとイメージされる人間だった。

どんなに素晴らしいことをしても悪い方向にしか考えられない束を、私は可哀そうだと思った。

同時に、同じような環境にいる束に親近感を抱いた。

だからこそ私は、そんな束の環境を変えてあげたいと、救ってあげたいと思ってしまった。

 

「そして私は、束を変えてしまった」

 

私が関わりを持たなければ、こんな歪んだ世界を生み出さなかったかもしれない。

弟を………百春を、十秋を苦しめることは無かったかもしれないと言うのに。

そんなことを今更後悔したって、どうにもならないと言うのに。

 

「………あ、これかしら」

 

更識が声を上げた。

その手が握る紙の束には、『インフィニット・ストラトス 詳細図』と書かれている。そして下の方には束の字で完成した日であろう日付が書かれていた。

紙を1枚めくると目次が。そしてその3つ目の項目に、『ISコア 作成とプログラム内容について』の文字。

 

「これだな」

 

中身を少し捲って確認したが、これで間違いなさそうである。

他の場所も一通り漁ってみたものの、やはりこれ以外はなさそうだ。

撤収しようと移動式ラボを出て、倉庫の照明を落とそうとボタンに手をかけるが更識は机の上を眺め動く気配を見せない。

そこにあったのは、私が昔持ち込んだアルバムだった。

 

「それは………」

 

百春と十秋を引き渡した後、その罪悪感に押し潰されそうになった私の心の拠り所の1つ。実家には百春と十秋の痕跡は全て抹消したため何一つ残っておらず、このアルバムが唯一の存在証明だ。

写真の下の文字はいくつかが滲んでしまっている。これを見る度に私は涙した。ただただ後悔した。しかし戻ることのできないところまで来ていたのは明らかで、もうどうしようもなかった。

 

「面影………全然無いわね」

 

悔しそうに呟く更識の言葉は、何より私の胸に重く圧し掛かった。

元の身体の原型は、度重なる改造と長期間と薬液漬けの日々に全てが消え去り、誰かさえも分からないほどにまで変わってしまっていた。

写真に写る2人は、無邪気で無垢で、この姿はもう見ることなどできない。

 

「………っ!?」

 

ふと、何かが頬を撫でる感覚。指で触れると濡れていて、そこで私は初めて泣いていることに気付いた。

奥歯を噛みしめ声を押し殺し涙の量を抑える。しかし止めどなく流れ続ける私を更識は睨まなかった。

 

「……先に外で待ってるわ」

 

更識は、私の横を通り抜け、扉から外へと出ていく。

そして、私一人となったこの空間で、戻れない過去を悔やんでただただ涙を流した。

この後悔を刻み込むかのように。

歯を食いしばり涙を止める。

 

「絶対にこんな過ちは繰り返さない!」

 

軽く涙を拭い、出口へと足を進める。

後悔を決心に変えて。

 

 

 

 

 

ISについての書類を入手した私達は、このまま病院へと変える。

しかし私は、ここに来たからこそ合わねばならない人がいた。

 

「少し位の予定変更なら構わないわ。そのかわりに手短に終わらせなさい」

 

心を見透かされたかのような発言に心臓が一際大きく鼓動する。

やれやれ、こんな学生にさえ読み透かされるなど…私も老いたものだな。

更識を一般学生と同等に扱うべきではないのだろうが。

 

「恩に着る」

 

「銀の為に私は動いてるの。感謝も謝罪も、銀に言ってからにしなさい」

 

走り出す私に更識は言う。

彼女が百春に………いや、更識銀という存在に向けている感情は、きっと私は理解できないのだろう。未だかつて誰かのために死ねるほどに誰かを思うことすらできない私では、その感情を定義する資格すらないのかもしれないが。

私は篠ノ之家に上がり、階段を上がる。2階の奥の部屋。

恐らく、ほぼ確実にそこにいる。

ノックを3回。返事は無い。しかし確かに感じる人の気配。

ドアノブを回す。鍵はかかっておらず、回転を阻むようなことは無く、そのまま扉を押し込んだ。

開かれた窓。靡くカーテン。埃を被った機器。

そして、ベッド。

その上で身体を起こし私を見ていた彼女が、私の会うべき人――――

 

「何だかひさしぶりだね、ちーちゃん」

 

「久しぶりだな、束」

 

全身を包帯で覆われた、最早拘束されているともとれるような状態で、私は束と言葉を交わした。

長かった髪は肩の辺りで切り揃えられ、左足があるはずの場所にはあるはずのふくらみが無かった。

変わったのはそれだけではなかった。

束の声音も、包帯に隠れて正しい表情は分からないが恐らく、以前のように無邪気な笑顔ではないだろう。

 

「束」

 

「何かな、ちーちゃん」

 

私は覚悟を決めた。

 

「私は、私の弟を、百春を――――いや、更識銀を助ける」

 

「そう」

 

「だから私は」

 

束に歩み寄る。

 

「束。お前に手を貸してほしい」

 

手を差し伸べた。

しばしの間、呆然とする束に、私は続けて言葉をかける。

 

「この数日間。私は自らの行いの正否を考えていた。そして過ちに気付いた。束、お前も気付いた。そうだな?」

 

無言でうなずく束を見て続けた。

 

「私達は今までの罪を償わなければならない」

 

「ねぇ、分かってる?そんなことじゃもう許されない所まで来てるんだよ?それこそ、死刑でも足りないくらいに」

 

束の言うことは最もだ。

今まで私達がやってきたことの数々。

国家防衛システムのハッキングに始まり家族を研究材料兼口封じの為に売り払い、そして最終的に戦争へと発展させてしまった原因。直接的にではないにしろ死者を出す原因となった私達。

それでも、私達は―――――

 

「罪を償う。もし死ぬんだとしても、その前にやらなければならない」

 

これが私の覚悟だ。

束はふぅんと言った後、1つ問いを投げかけた。

 

「死ぬって分かっていて私が協力するとでも思ったの?今まで色んな国の捜索の手から逃れ続けることができてた私に?」

 

「ああ、束が簡単に協力してくれるとは思っていない。だが」

 

私は笑顔で言う。

 

「束は、きっと協力してくれる」

 

驚いた表情の束。

しかしすぐさま警戒するように声音を低く問う。

 

「どうしてそう思うの?」

 

「昔から束は、私の頼みを断ったことがないからな」

 

それは、私がそこまで束を頼ったことが無いからかもしれないが、それでも束は断ることはしないと、何故か確信できていた。

自信満々に言い放った私の言葉は束にとっては予想していたどれとも違ったようで、私でさえ初めて見たマヌケな表情をしていた。

その表情に思わず吹き出してしまい、束も慌てて警戒を表情を作るがそれでも笑いは止まらない。

 

「わ、笑うな!」

 

「いやすまない。あまりにも………くくっ」

 

思い出しまた笑いそうになると、今度は束から反撃。掛布団を退けて這うようにして近づき笑いを堪えている私に手刀を振り下ろす。負傷しているとはいえ私と同じくらいに武に精通している束の手刀は痛みを与えるには十二分の威力を発揮し、見事に笑いをかち割った。

子供っぽく怒りを露わにする束にすまないと軽く謝る。

昔にもこんなやりとりがあったなと懐かしくなり、頬を涙が伝う。

 

「まったく、ちーちゃんはこれだから」

 

そう言いながらも人差し指で私の涙を拭う束。

 

「泣き虫なちーちゃんには、束さんがついてあげないとね」

 

「束………ありがとう」

 

束の胸に顔をうずめ、背に手をまわして嗚咽を零す。

そんな私の頭を優しく撫でる束に私は何度もありがとうと言った。




投稿がかーなーり遅れて申し訳ありません。
前話の後書きにも書いた通り、現在アンケート実施中です。
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