インフィニット・ストラトス  漆黒の要塞の復讐   作:双盾

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目覚め

束の胸元で過去について泣き腫らすのに数分の時間を要した。

泣き止んだ私は洗面所で顔を洗い再び束の部屋へと戻る。

 

「さて、私も落ち着いた。出発の準備を始めようか」

 

束の机から取り出したカッターナイフの刃を伸ばし、束に向ける。

少しずつ、少しずつ慎重に。

ナイフの刃が、束に迫り、その距離が、0になる。

 

ツツー……

 

刃が束の上を滑る。

離しては滑らせ、再び離した。

 

「よし。どうだ束。動きやすくなっただろう」

 

「そうだね、足はどうしようもないけど、腕は随分動かしやすくなったよ」

 

刃を納め机の中に仕舞う。

束は腕を曲げたり伸ばしたり捩じったりと様々な動きをしてみる。しばらくの間動かしてなかったのか1つアクションをするたびにパキリポキリと心地よい音を鳴らす。

ハラリハラリと切り取った包帯がシーツの上に舞い落ちる。

それによって隠れていた束の肌もまた露わになる。

火傷の痛々しい痕が見えるが、所々は以前のような白い肌の姿があった。

人間離れしているのは頭脳や肉体だけでなく、細胞まで束は人外なのだなと初めて知った。

 

「とはいえ片足ないと歩けないや」

 

残念なことにこの部屋には松葉杖は無い。代わりになりそうな長い棒も無い。

私に伸ばされた両手はそういうことなのだろうが、束に無理はさせたくなかった。

 

「どれ。私も昔のようにはいかないかもしれないが…………それっ」

 

「へ?ひゃぁ!?」

 

束の太腿と背に腕を回して抱き上げる。私の行動に驚いたのか可愛らしい悲鳴に少し笑みを浮かべる。

この抱き方は横抱き―――――もしくはお姫様だっこなどと言うらしい。

随分と可愛らしい名前だが、この状況からしてみれば後者の呼び方の方が存外似合ってるのではないだろうか。

スーツ姿の私と、束。

ここで私は少し、イジワルをしてみたくなった。

 

「余り暴れないでくださいね、お姫様」

 

「お、お姫様!?なっ、何言ってるのちーちゃん!?」

 

顔を真っ赤にして縮こまる束を愛らしいと思ってしまったのは私一人が知る秘密だ。

 

 

 

 

 

外に出ると、やはりそこには更識がいた。

私の気配を感じてか私の方に目配せする。足元だけを見たのか、特に反応することなく「さ、いくわよ」だけで終わってしまう。

 

「束、少し時間がかかるが、耐えてくれ」

 

「束?――――っ!?」

 

この発言で感付いたのか前方へ跳躍し振り返り、私の全体を視界に収めた。

そしてその視線の色が、注意から警戒に変わった。

そうなるだろう。

愛しい恋人を殺した、ましてや自分が殺されそうになった相手が目の前にいたら、例え負傷していたとしても敵意を、殺気を向けるのは至って自然なことであり当然の反応である。

 

「待て更識。束の同行を認めてほしい」

 

「駄目よ。逃走しないという証拠もないのに」

 

「何かあったなら真っ先に私を殺せ。束に関しては私が全責任を負う」

 

束を抱きしめる力を強めて、自身の覚悟を決める。

そして私は、更に続けた。

 

「ISを作り出した存在である束の協力があれば、ほぼ確実に銀の状態を修復してみせるだろう」

 

「っ!!」

 

これには更識も黙り込んでしまった。

束はISについて完全な知識を持つ唯一無二の存在。その存在の力を借り受けることは、ほぼ確実なIS修復をも可能にし、銀の肉体を過去に戻すことさえ可能とするだろう。

しかし敵の力を借りることを恐れている。

けれど、高々専門的な知識を一部手に入れただけの存在がISの事を完全に修復できるわけがないと確信しているのだ。それこそ、奇跡でも起きない限り銀が完全に意識を回復し、元の生活を送れるわけがない。そう考えているだろう。

 

「……分かったわ」

 

「更識……」

 

「何か裏切るような動きをすればすぐに首を切ってもらうわ」

 

「約束しよう」

 

忌々しげに、腹を切るような覚悟を強いてしまったのだろう。これは私達が後に謝るべき行いだ。

そして私が感謝すべきことだ。

私に、そして束に、もう一度チャンスを与えてくれたんだろう。

なら、私達がすべきことは、更識銀の為に、そして更識楯無と、死んでいった人々のために、最善を尽くすところから始めなければならない。

 

 

 

 

 

「じゃぁ、任せたわよ」

 

銀の横たわる病室でその室内で、無数のディスプレイとキーボードに囲まれているのはISの母、篠ノ之束。その両隣には私と、ISを纏った更識の姿。

ガトリングランスの切先は束へと向けられている。

束は、キーボードに指を置く。

 

「じゃぁ、始めるよ」

 

機械音が小さく鼓膜を揺らすと同時に、凄まじい速度での打撃音が連続して響いた。

カタカタという小さな音ではない。キーボードを叩くいた音とは思えないほど力強く鈍い音が聞こはじめた。

 

ダダダダダダダダダ……

 

凄まじい連打に呼応するように、銀の胸元のコアがより強く輝きだした。

束の指先を目で追うことは、最早不可能と断言できるほどの速度でキーボードを叩く。

ディスプレイにも映っては消え、映っては消えを繰り返すウィンドウ。

しかし、束の表情は曇る一方だ。

 

「中々手古摺るなぁ」

 

歯を食いしばって、更にキーボードを叩く速度を増す。

叩いて、叩いて、叩いた。

しかし、終わりを見せない打撃と画面の攻防。

 

「どうしたんだ束」

 

「中身が…エラーだら…けで、組直しから……」

 

息が切れはじめる束を見て、相当の体力を損耗していることが理解できる。

そして、束をここまで追い詰めるほどの物を、束以外の人間が作り出せたことに渡しは驚愕した。

 

「機能……ハァ、してるだけ……でも、はぁっ……奇跡だよ……」

 

あの束が、自身が作り出した物に関して、奇跡と賞した。

こんなにも消耗した束を見たのは初めてだ。

 

「こっのぉ!!」

 

より力強く、より早く、ボーどを叩いた。

しかし、ディスプレイに映るウィンドウが段々と映る時間が短くなっていく。

そしてまた新たに1つウインドウが開かれる。

そこには【37/100】と表示されており、恐らくこれが残りのエラー量だろう。

けれど、37%を終えてここまでの体力を削られている束を見て、これは成功できるのかという不安が次第に大きくなってきた。

 

「銀……」

 

更識は不安げに銀を見つめる。

私は懐から手拭を取り出して流れ去る束の汗を拭き取る。今の私にできるのは、この程度のことだ。

 

「ぐ、ぅぅぅぅ」

 

70%を越した辺りから、束の表情に苦悶が混じる。

歯を食いしばり、画面を食い入るように睨みつける。

段々と終わりが近くなる。それと比例して束の苦も大きくなる。

やがて―――――

 

【100/100】『修復完了』

 

終わった。

ぐったりと倒れこむ束の背を支える。

 

「束、よくやった。まずは休んでくれ」

 

抱きしめて、頭を撫でる。

大きく呼吸をして酸素を多く吸い込む。

 

「銀!!銀!!」

 

更識は銀の手を握り、名を呼びかける。

彼の手がピクリと動いた。

それと同時に、喜一色に表情を染めた。

そしてこの数時間の束の死闘の末に、彼は目を開いた。

 

「く、あぁぁ……」

 

伸びをして彼は身の回りを見回す。

しかし、私と束を見て全力の殺気を向けてきたが、そこに大きな違和感を覚えた。

何だ、この言いようのない違和感は。

 

「……銀?」

 

けれど更識は私の感じる違和感に漸く気付いたのか、少し訝しむように、彼の名を呼んだ。

そして、彼もまた更識の方へと視線を向け、口を開いた。

 

「更識楯無?何故ここに。というか、銀って誰だよ」

 

「…………え?」

 

更識から、表情が消えた。

数歩後ずさると、その表情は恐怖に染まりきっていた。

更識が、恐る恐る尋ねた。

 

「貴方は、どこまで覚えているの?」

 

「覚えている?何の話だ。そしてどうして篠ノ之束と織斑千冬がここにいるんだ」

 

間違いない。今の彼は、学園に入学する前の、恐らく、更識と出会った頃の元織斑百春で、名も無き存在だ。

更識は俯き、悔しそうに唇を噛みしめた後、

 

「そう、分かったわ」

 

それだけを言い残して病室から飛び出して行ってしまった。

やはりショックは大きいようだ。

だが、そんなことに構うそぶりは見せずに、布団から飛び出した。

 

「とりあえず……死ね!!」

 

「待て!!百春!!私達はお前と戦うつもりはない!!」

 

貫手をいなしてありとあらゆる体術で攻撃を仕掛けてくる百春に防御に専念する。

やがて後退し、攻撃をやめた。

 

「ッチ。やはり生身では不利か。ここはISでしか―――――!?」

 

どういうことか、体を振り回し、腕や体を見つめているが、何も起きない。

私でさえ何が起こっているか分からない。

ここで私は、すかさず動いた。

百春へと飛び掛かると、右腕を掴み――――

その腕を私の首へと導いた。

 

「百春!!聞け!!」

 

「……何のつもりだ」

 

「話を……聞いてくれ……っ」

 

涙が零れ始めると、漸く百春もまた殺意を抑えた。

 

「何を話すつもりだ?」

 

「今日この日までのお前の行動を。私達の過ちを。そして、お前の周りのことを。話そう」

 

首を掴まれ、その相手が自分の元家族で、私に殺意を抱く彼に、私は全てを話した。




今後はこの作品を優先的に更新していこうと思います
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