インフィニット・ストラトス  漆黒の要塞の復讐   作:双盾

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現状

「……つまりあれから、もう何ヶ月どころではない時間が経ち、俺は戦争を起こし、篠ノ之束と相打ちになった、と?」

 

「そうだ。そしてその代償としてお前は記憶を、束は片足を失った」

 

「……それを俺に信じろと?馬鹿なのか?」

 

百春の反応は最もだ。

しかし、それは事実である。

 

「お前も感じているだろう?何故自分は死んでいなかった?と。何故こんなにも健康体でいるのか?と」

 

「そうだ。政府にでも連絡されれば再び薬液漬けだったはずだからな」

 

百春は私の首から手を離す。

そして俯き、小さく呟いた。

 

「終わり、か」

 

聞き取れたか曖昧なラインだったので、何と言ったか聞き返そうとした時、百春が顔を上げた。

 

「この状況的にも、嘘をついている訳ではなさそうだし、信じる他なさそうだ。最後に1つ」

 

「何だ」

 

「何故(ISN)ISネットワークに接続できない。どうしてISを起動できない。それだけは教えろ」

 

それは……と私は言いよどむ。百春のISコアを操作し、意識を戻したのは私ではない。

視線を束に向けると、束が自ら、その問いに答えた。

 

「君のISはもう起動できるのが奇跡と言えるほどのエラーの積み重なりだったんだよ。

 それこそ、偶然に偶然が重なったって位。

 現実的に例えるなら、銃で蠅を打ち落とすくらいの物だった。

 内部のエラーを修復したけれど、データの破損が酷過ぎたものとかはできなかった。

 それに情報漏洩対策の自爆装置もあったから修復にも制限があった。

 私が直せたのは、肉体を動かすために必要な物だけ。

 ISNへの接続や、粒子化エネルギーの物質化までは………」

 

「本当のことだろうな?」

 

篠ノ之束に最も大きい殺意を向ける百春が束の言葉を信じようとしないのは分かりきったことだった。

しかし束は嘘をついていない。

私は百春に言った。

 

「お前が束を信用できないのは分かる。ならば何故寝転ぶお前を殺さなかった?」

 

「………………わかった。今の言葉だけは信じてやろう」

 

一先ず警戒のレベルを最上級から一段引き下げることに成功した。

だがこのような事態になるとは考えてもいなかった。

いや、イレギュラーそのものを具現化したような百春の修復だった故にどのようなことになってもおかしくは無かった。

おかしくは無かった。

されど、この結末は更識にとっては………ある意味では百春の死よりも酷いものではないだろうか。誰一人として望まないこんな結末なんて………

ならば私は、何をすればいいのだろうか?

まず何を知らないのか、何を知っているのか。そこから始めよう。

 

「束、ISN上での全ての情報と、現状の再確認を行う。私にも何が何だか分からない」

 

「……分かった。改めて説明するよ」

 

―――――――――

 

 

 

 

 

―side 刀奈 ―

 

咄嗟に部屋を飛び出してしまった。

あの場で冷静になどいられなかった。

怖かった。

目覚めた彼の瞳に私がどんなふうに映っているのかを知ることが、考えることすら怖かった。

 

『記憶の消失』

 

神への祈りは、あまりにも残酷な形で実現した。

銀の死は回避した。

その代償に、記憶を消し去った。

私にとっての全ては、銀だった。

銀の言葉に一喜一憂して、銀から受ける愛に愛を返す。銀にならば、殺されてもいいと思った。

その私の全てが、消えた。

篠ノ之束に様子からすれば、尽くせる最善を尽くして、それでもあれが限界であったことを見て取れた。

 

「ふっ………くぅっ………」

口から溢れ出る嗚咽を、空元気と喪失感で噛み殺す。

 

 

 

 

 

けれど、この瞳から溢れ出る涙は止まることはなく、頬を伝い、リノリウムに落ちては痕を残す。

全力で駆け抜ける。行き先何て考えず、ただ走った。

階段を駆け抜けた先には扉。

速度を落とすことは無かった。扉の存在にすら気付かなかった。

気付いたところでノブを捻ることはしなかっただろう。

右肩から衝撃と鈍くそれでいて焼けるような痛みが広がる。

その刹那、視界が白く眩み、濡れた頬を風が撫でた。

固く閉じた瞼を開く。目の前に広がるのは晴天。囲むように天に伸びる金網。

私は無意識に、無自覚に、屋上へと駆け込んでいた。

 

キシィ………

 

金網に指をかけて外を見渡す。

眼下の駐車場にはこの場にあるはずの無い中継車が大量に押しかけ大混乱。マスコミと警備員の衝突の喧噪がここまで聞こえる。

空には低空を飛行するヘリの大群。そこから突き出されたカメラのレンズはこちらを映している。

銀のことにここまで食いつく醜い連中に当然怒りは沸いた。

しかしそれ以上に溢れ出る虚無感と悲嘆の嵐に、ただ涙を流した。

 

「ぅ、ぁぁあ………」

 

内から漏れる想いは、雪崩のように立ち塞がり噛み殺す力さえも崩壊させ、声量はより大きくなっていく。

 

「何で……何で………」

 

大きく限界さえ越えて吐き出される私の嗚咽は、獣の泣き声のような咆哮に形を変えて、最後に私は力無くそう零した。

こんなにも苦しい。

ぽっかりと空いた胸中を埋める何かを探して暴れ出す心が、己さえも傷付けて、もがいて、それでも埋めるはずの何かはもう無い。

何一つ、残らなかった。

あの優しい表情も、私を包み込む暖かな彼の愛さえも。

 

ギギギギギ………

 

金網を握り締める力を強める。肉に食い込む。それに伴う痛みもある。

けれど、今この身を抉る悲しみを超えることは無かった。

ふと、思った。

銀のいなくなったこの世界に、私の居場所は、価値はあるのだろうか?

そんなもの、きっとどこにも―――――

 

「このクズ共が!!お前らは蠅か!?さっさと散りやがれ!!」

 

と、男の怒号。続く閃光と破裂音。

何事!?と振り向くとそこには、ヘリから突き出たカメラが火花を散らしていた。

即座に危険と判断しその空域を緊急離脱するヘリの群れと、入れ替わるように乱入してきたのは、過去に見た2体のIS。

アンタ達はと叫ぶよりも先にアチラが声を放った。

 

「更識!!銀はどうなった!?」

 

屋上に飛び降りてきたのは、完全ステルス機能『夢幻』を搭載した第二世代機『陽炎』を駆る世界4人目の男性IS操縦者であり、銀と同じく人工的に作られた身体を持つ人間。

 

「カルマ!?」

 

「桂馬だ!!」

 

手早く小さく畳んであったハンカチで涙を拭って駆け寄る。

金網越しでヘリの群れを睨むもう一機のIS使い、銀やカルマと同じ境遇を持つゾア。彼はそのまま周囲の警戒に当たりに行ったのか上空へと飛び立ってしまった。

兎も角私は知る限りの極々小さな、しかし私にとっての全てを話した。

 

 

 

 

 

 

「そ…んな………くそっ!!!」

 

ガコォォォン!!

 

彼にとっても受け入れたくない、しかし残酷な現実と、その現状を知らせた。

第二世代とはいえISを装備したまま腕を振るう。その力の大きさは、耳を揺らす轟音と大きくヘコんだ給水塔から伸びる鉄パイプを見れば一目瞭然であった。

それだけ大きなショックを与えた。

 

「あ………すまなかった」

 

唐突に彼は私を見て、悲しげに表情を曇らせた。

私は続く言葉を待つ。

 

「俺なんかよりもお前の方がよっぽど悲しいのに、俺は……」

 

「そんなことないわよ」

 

悲しいのは私も彼も同じだ。悲しさの大きさはどうであれ、悲しければ隠したり身を引かずに、共に泣いてくれればいいのだ。

それに、彼のおかげで今私は少し立ち直ることができた。

少なくとも、自殺から思いとどまることはできた。

 

「さ、やるわよ」

 

「は?何を?」

 

「織斑千冬と篠ノ之束はそれぞれにできることをしている。なら私達は私達にできる何かを探して成すだけよ」

 

ロシアが誇る第三世代『霧纏の淑女』。何度もこの子に守られてきた。きっと、これからも。

必ず、銀を助ける。そのために、力を貸してっ!!

聞こえているかすら分からない。そもそも人格なんてあるのかさえ知らない。けれど、何故かそう祈っていた。

 

「どこに行くってんだよ!」

 

「決まってるじゃない。銀の物が最も多く残ってて、銀が最も心落ち着くことのできた場所」

 

それは

 

「私の家よ!!」




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