インフィニット・ストラトス  漆黒の要塞の復讐   作:双盾

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希望

「ここがお前ん家かよ………デカ過ぎやしないか?いや、家を持ったことがない俺が言うのも何なんだが」

 

そうかしら?と適当に返す。

久しぶりに帰った自宅。

表で大きな問題になっている私の情報を、裏で暗躍する更識の情報網が知らないはずもなく、凄まじい人数が玄関前に集まってしまった。

 

「かた……楯無お嬢!!よくぞご無事で!!」

 

「皆…ごめんね。更識の名を汚すようなことしちゃって」

 

「何を言うんだ楯無」

 

「あ……お父さん」

 

奥からゆっくりと歩を進めるその姿を見る前に、その洗練された圧気でその人物を察知した。

従者達は身を引き道を作る。

ゆっくりとしかしその一歩一歩は力強く隙がない。引退してなお衰えの文字が見えない目の前の存在こそ、先代更識楯無こと更識刃鋼その人だった。

 

「お前が他国の代表のように流されるのではないかと思っていた。

 もしそうなったら更識全員で止めに行くつもりだったが………」

 

お父さんの右手が伸び、思わずぎゅぅっと硬く目を閉じて身体を硬直させた。

打たれる。そう思って。

けれど、私の身に来たのは痛みの熱ではなく、優しく抱き寄せ包み込む暖かさだった。

 

「え……」

 

「よく己を貫いた。そしてよく耐えた。もう、我慢しなくていいんだ。泣けばいい」

 

優しく頭を撫でられる。

昔からこの温もりの前では本当の自分をさらけ出してしまう。

けれど今はこの温もりに感謝した。

私はお父さんの背に腕を回して少しずつまた、嗚咽を零し始めた。

 

 

 

 

 

 

「さてお嬢!!あっしらは何をすればいいでしょうか!!」

 

少し時間が経って、私は泣き止み、皆はカルマから事情を理解した。

私の言葉を待つ皆にありがとうと感謝の言葉を始めに、それぞれ指示を出した。

 

「まず私がここに来たことは間違いなくマスコミにばれてる。だから」

 

「わかりやした。あっしら武闘派はヤツらの足止めを!」

 

「バレないようにね。整備清掃は敵襲に備えて装備の調達と整備。調理と衛生は食糧の調達、安全確認、調理。その他は攻撃に備えて身体を温めておいて」

 

『了解!!』

 

各自がそれぞれの仕事に向かう。そして、お父さんとカルマと私の3人が残った。

 

「それで、私には何をさせるつもりかね?」

 

「お父さんにはこの屋敷に残ってる銀に関する情報全てを調べて欲しいの。緊急時の対処法のヒントだけでも残してくれてるといいんだけど」

 

情報の漏えいを恐れていた銀がそんな情報をのこしてくれているとは思えないけども、無いと本人から言われた訳でも無い。

もしここに情報が無かったとしたらほぼほぼ確実に他の場所には無い。

銀本人からここが最も安らぐ場所だと、そう聞いたのだから。

 

「分かった。私は彼に関連するあらゆる書類を当たろう。カルマ君は銀の部屋を、楯無も自室から調べるんだ」

 

「「了解です」」

 

お父さんはお父さんの職場である応接間と銀の部屋が近いこともあってカルマを自ら連れて行った。

私は私で、私の部屋を探す。

過去に私にプレゼントされた物は全て、私の部屋の押し入れの金庫の中に入っている。そして、恋人の関係になってからはその金庫もまた銀との共用になったので、この家で最も情報がありそうな場所を私が探すことになったのだ。

靴を脱ぎ棄て、少し長い廊下を速足で進み部屋へと駆け込む。

しばらく帰ってこれなかった久しぶりの自室で懐かしむ暇も無く、押し入れの戸を勢いよく開き放つ。

押し入れの上の段には冬用の羽毛布団とカバー等の一式。下の段には中学やIS学園の制服が入っていた箱が解体されることなく積み重ねられ、その奥に目立たないように置いてあるのが金庫だ。

ここに関しては家の使用人にすら触れさせていないので薄く埃をかぶってしまっている。

 

「けほっ」

 

器官に埃が舞い込み少し咽てしまうけれど、それに構うことなく金庫を引きずりだす。

畳の上に降ろすと新たな埃が舞わないようにすぐさま戸を閉める。

 

「番号は………っと」

 

カチリ

 

小気味良い音と共に扉が開かれる。

しっかりと扉を掴み、閉まらないようにした後、覚悟を決めて扉を完全に開いた。

 

「これは…………」

 

そこには、大切なアクセサリーの数々があったが、その上に手紙が一通、もちろん自分で入れた覚えなど無い物が、入っていた。

この金庫は長い間開けられた形跡はない。この金庫は4ケタだ。地道に努力すれば開けられなくもないけれど人目に付かないように一万通りの全てを試すのは無謀に近い。

番号を知るのは私と銀だけ。情報が漏れたとは考えにくい。

長く無駄な前置きと考察は止めて率直な答えを言おう。

これは恐らく銀の物だ。

 

「…………」

 

言葉を発することすら恐ろしくなるような緊迫感。手紙一つ。

その手紙一つで私の心臓は早鐘を打ち汗が頬を伝う。

そっと、手紙を掴むと隠し持っていた小刀で封を切る。

はらりと切り離された切れ端が畳に舞い落ちる。そんなものには目もくれずに中の手紙に食いついた。

そこには銀直筆の私に当てたメッセージが書き記されていた。

 

『刀奈へ

刀奈がこれを読んでいるということは俺に何かしらの問題が起きたから、

あるいは篠ノ之束や織斑千冬に何かしらの動きがあったからだろうけど、まあ落ち着けよ。

さて、これを読んでいる時期はいつだろうね?まあ夏だろうけどな。

臨海学校あたりで篠ノ之束が一夏にコンタクトを取って、その機を逃すことなく攻撃、だろう。

これにはこれから様々な情報を書き込んでいくが、その前にだ。

刀奈、落ち着け。大丈夫だ。必ず答えはある。』

 

紙がそこまで大きくなかったので紙1枚に書かれた文章は少ない。

しかしこれが銀の書いたものであるだけでどれだけ私は安心するか、銀はちゃんと理解しているんだろうか?してないだろうけど。

それでも今の私を見て書いたかのような手紙には素直に驚愕する。

少し深呼吸して、自身の焦る気持ちを落ち着かせて2枚目の紙に目をやった。

 

『落ち着いたか。では話を進めさせてもらおうか。おかげで紙を一枚無駄にしたんだ。

まあ俺の身に起きる事態は予測不可能だ。俺の存在自体が異質で奇跡なんだから。

それでもいくつかの対処法を上げておこうか。

1つ、最も可能性の高い俺の死についてだ。これはISのエネルギー物質化装置が必要だ。

それも、ISに搭載されているものよりももっと精密な具現化ができるものでなければいけない

それに俺の身体の情報をインプットしておく必要がある。

これに関してはISNにバックアップが取ってあると思うから装置さえあればいい』

 

2枚目が終わり、3枚目へ。

 

『2つ目、情報の誤りあるいは情報の消失についてだ。

ハッキリ言って生き残ったのだとしたらこれか部位欠損の可能性が高いが、

部位欠損については2枚目を応用すれば問題は無い。

ここで考え得る最悪のパターンは記憶が全て消えることだ。

お前のことを敵視することになるかもしれないから。それでも対処法はある

ISNに接続ができればおそらくバックアップデータの自動修復が始まるはずだ』

 

本当にこれはいつ書かれた物だろう。悪いことばかり予想が当たる。

そして最後の1枚へ。

 

『最後に最もあってほしくない結末を言う。

ISコアの破壊。上記の2つは、ISコアに破損、異常が無かった場合にのみ有効な手段だ。

もしISコアが破壊されてしまったのなら、残酷なことを言うようだが、

俺無しで生きてくれ。

俺の分まで生きてくれ。そして忘れないでくれ。

死んだってどんなことになったって俺のお前への愛は変わらない』

 

3枚目が終わった。

きっと大丈夫なはず。ISコアは壊れていなかった。

肉体だって正常に動いていた。

希望の光が見えた。

手紙をポケットにしまい、金庫を閉めることさえ忘れて部屋を飛び出した。

すると、外には喧噪の嵐とカルマとお父さんの姿があった。

 

「刀奈、どうだった」

 

「俺達は空振りだった。ISの空間認識装置を使っても、何一つ出てこなかった」

 

「見つけたわ。銀の手紙を。そしてその対処法を!!」

 

おおっ!!と喜ぶ2人だったけれど、そとから一際大きな怒号がその表情を険しいものに変える。

悔しそうにお父さんは言う。

 

「マスコミが猪の如く突っ込んできているらしい。物量で押されている。刀奈、早くいきなさい」

 

ここは私達が食い止めると言って、腰に納刀されていた刀を抜刀した。

それを見た武闘派もまた、各々の武器を手にする。

私は正直、ここでこの争いを納めたかった。

しかしそれはお父さんのこの努力を無碍にすることになる。

私はISを展開し、空へと飛び立つ。

 

「待ってて!!必ず銀を救って見せる!!」

 

そう告げて最大速度で銀のいる病院へと向かった。

 

 

 

 

 

漸く到着した病院の屋上。

屋上への出入りドアは開けっ放し。そこに向かって一切の減速をせずに飛び込み、ドアを通過する寸前でISを解除し出入り口でつっかえるような事態を回避する。

休息に迫る階段の踊り場の壁。

けれどそんなものは更識の訓練で何度だって対処してきた。

壁に着地するように衝撃を殺し、重力の作用で落下が始まる前に下の階へと跳躍する。

そして手すりを掴み、勢いを殺すことなく180度回転して更に下の階を目指す。遠心力と摩擦熱で激痛が襲うしかしそんなものはやはり銀を失った悲しみに比べれば蚊に刺されたような物だった。

そして辿り着く病室の前。

病室の扉を開けようとした刹那、聞こえてきた言葉。

 

「ではこれ以上はもうどうしようもないと言うのか!?」

 

その声には怒りが籠められており、扉を越してなおもその圧は足を退かせる。

声の主は織斑千冬。そして、声に答える様に、宥める様に、諭すように返事を返すのは彼女の唯一の親友と呼べる天災こと篠ノ之束だろう。

 

「うん、これ以上は流石の束さんでも生命の保証はできないよ。

 

コアはもう限界。容量、回線消耗度、性能、全てにおいて、正しく限界なんだよ」

 

「何故だ!?他に手はないのか!?」

 

「理由なんて分かりきったことでしょちーちゃん。

凡人が私達に勝つためには、搭乗者、ISコアに考えられないほどの負担をかけるしかなかった

しかも正規のコアじゃない、元から故障していたようなコアを使っていた。

傷を負わせられたら上々、互角で戦えたなら最上、そんなスペックだったのに結果的には勝った。

そんな無茶をすればコアに、搭乗者にかかる負担は計り知れない。

互角の戦いだったとしても全身麻痺だっておかしくなかったこの状況で、

私達に勝利して記憶の消失で済んだのは、最早星の誕生以上の奇跡だよ。

今のコアの状況を例えるなら暴風の中で燃えるマッチの火みたいなもの。

あと数日生きていられたら運がいい、今日にでも死んだっておかしくない。

エラーを消そうとすれば即座に全機能が停止して肉体が死ぬ。

逆に肉体の保持を優先すればISの防衛システムが作動して残った全機能が抹消される。

もう打つ手はないんだよ」

 

――――――え?

篠ノ之束は今、何を、何て、言った?

あの篠ノ之束が?

ISの母である天災が、打つ手が無いと言った。

聞き間違えたのならばどれだけよかっただろうか。

けれど、篠ノ之束の言葉に泣き崩れる織斑千冬が、言葉が全て真実であることを示す。

身体が硬直する。

嫌だ…嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!!

認められない。

本当の銀は消失して、身体さえも過去の銀…織斑百春で終わってしまう。

最後の言葉さえも聞くことのないまま銀と別れることになる。

そんな世界なんて存在させたくない。

けれど、私がその未来を変えられる力を持っているわけでもない。

結局、私は何もできずに終わる………

私は、その場を動けなかった。

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