インフィニット・ストラトス  漆黒の要塞の復讐   作:双盾

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敵襲

しばしの間動けなかった私を動かしたのは、身体の奥底から突如湧き出た吐き気だった。

右手で口を塞ぎ、最寄りのトイレに駆け込み便器の中に嘔吐した。

トイレットペーパーで口周りを拭い水で流す。

口内から食道、胃にかけての辺りが酷く気持ち悪い。蛇口を勢いよく捻り、吹き出す水道水を汲んでは口の中に流し込み嫌悪感を外へと吐き出していく。

鏡を見る。酷く顔色が悪い。

 

「っ………どうしてこんな時に…………」

 

この嘔吐の正体は分かっていた。今まで、気付かないフリをしていただけ。

何度も体を重ねた。少ししてくるはずのものが遅れていた。検査するする間もなく銀の敵との決戦。そして今に至る。

今の私にはこの体の変化を調べ、確定させるだけの覚悟は無い。

銀なら何と言ってくれただろうか?

きっと考えるまでもなくおめでとうと、やったじゃないかと喜んでくれるだろう。

けれど、今この世界に銀はいない。

生きることが苦でしかないこの世界で、やっと見つけた希望さえも掻き消されたこの世界で、死へと進むことすら私は許されないと言うのか。

いや、死を禁止されたわけでは無い。

ただ、銀と私の結晶をこの手で消すことを恐れているだけだ。

この子は、私と銀の愛の証。私の手では掻き消すことすら悲嘆と恐怖そして…共に過ごした愛しき記憶が許さない。

 

「まだ生きろって銀からのメッセージ……なんて訳ないか」

 

そういえば……いつか銀、言ってたっけ。

生まれ変わりって信じるか?と、問われたことがあった。

その時私は、ありえない、信じてないと答えた。銀も同意見だと言った。

同じ存在なんてあるはずがない。生まれ変わり何て、死ぬ前にやり残した後悔が中途半端で非科学的な希望として謳われているだけだという銀の言葉はとても重かった。

だから私は、やり残しの無いように生きていこうね何て軽々しく答えてしまった。

それなのに私は今になって、生まれ変わりなんてものを信じようとしている。

死んで、生まれ変わって、また、銀と―――――

 

「そんな訳ない!!」

 

まだ銀は死んでない!!私も銀も生きている!!

絶望的な状況、それが何?探した手段が全て使えなくなったから死んで生まれ変わる?

その程度だったなら銀に対して裏切ったことと同じじゃない!!

手段が無くなったならまた探せばいい!!人に頼れなくなったなら自分で解決すればいい!!

まだ終わった訳じゃない!!

私も、諦めた訳じゃない!!ただ弱気になっていただけ!!

 

「まだ私は負けない!!」

 

私は生きる!!銀だって救って見せる!!私に宿ったこの命だって!!!

吹き出し続ける水流に手杯を差し込み少し冷たい水を溜める。そして、その水を自らの顔にぶつける。

水滴が飛び散り服に、床に水玉の模様を描く。

そして、顔に付いた水を軽く拭ってまた、鏡と対峙する。

そこに映ったのは、先程とは打って変わって使命に燃える覚悟の表情だった。

 

「きっと、大丈夫」

 

自己暗示のように、繰り返し小さく呟く。

身体に浸透していくかのように満ち満ちた感覚を覚えると、ハンカチで顔を丁寧に拭くと、私は手洗い場から出た。

廊下を速足で歩く。

織斑百春に宣言するために。絶対に記憶を取り戻して見せる、と。

刹那―――――――

 

ドゴォォォォォォォン!!!

 

爆音。轟音。振動。

突然の事態に体勢を崩しかけるもすぐに持ち直し窓ガラスから外を覗く。

そこに見た姿。

 

「まったく、手間を掛けさせないで欲しいわね」

 

「まったくだなァ!さっさと出てこねぇと、建物ごとぶっ飛ばしちまいそうだ!!」

 

亡国企業!!

私はすぐに銀の病室へと走ると、中から篠ノ之束を抱えた織斑千冬が飛び出してきた。

相手もまたこちらに気付いたようで驚いた表情を見せた。

 

「更識か!私達は敵の迎撃に向かう。更識もきたまえ!」

 

「銀は!?銀はどうなったの!?」

 

「落ち着け、百春―――ではなく銀は眠っている。肉体への負担が大きかったのだろう。目を覚ます気配すらない」

 

それならよかったと安堵したけれどその表情は目の前の2人には見せずに視線を外に動かす。

敵は先陣を切った2人の背後に敵の集団が見える。織斑千冬と負傷した篠ノ之束だけでどうになかるとは思わないけれど………

 

「部屋の安全は束が保障する。研究所に蓄えていたエネルギーを使って絶対防御よりも強固な結界を張っておいてある」

 

「そう。信じるわ。裏切るんじゃないわよ」

 

警戒を解くことなく外へと飛び出す。

即座にISを展開し、敵に奇襲をかける。

しかし敵は奇襲を予測していたらしく穂先を弾かれてしまう。

 

「へぇ……貴女、まだ生きていたのね元ロシア代表。でも貴女に用はないの」

 

「さっさとアイツの居場所を教えて死になァ!!」

 

横から迫るオータムの駆るアラクネの銃撃を回避するとこちらも一先ず距離を取る。

そのわずかな時間でも、敵は動いた。

 

「オータム、ここは私に任せなさい。あと少しで国家代表達が到着するから私だけでも何とかできるわ」

 

「それを待ってたぜ!!」

 

オータムは標的を私から銀に変えて病院へと先行する。

私には彼女を止める力は無い。

けれど彼女は病院内部へ侵入することはできないことを知っているから、だ。

 

「そう簡単にいけると思うなよ」

 

「!!…ハッ!誰かと思えばテメェかよ織斑千冬。篠ノ之束もいるじゃねぇかよ」

 

「悪いが私の家族に危害を加えるのならば、私は貴様をここで止めなければならん」

 

「テメェの暮桜は大破、使用不能。篠ノ之束は負傷して足が無いと来た。それでアタシを止められると思ったのかぁ?そうならテメェらは天才じゃなくただのバカだ!!」

 

両手に連射銃を構え、2人に突撃するオータムだったが、銃の引き金を引く間もなくその銃身を真っ二つにされてしまった。

 

「っな!?」

 

「悪いが、暮桜がなくとも貴様のような雑魚相手は倒せるんでな」

 

「私の所持してる試作機が一つだけとでも思った?」

 

オータムの背後に移動していた織斑千冬は雪片を構え、篠ノ之束は新たなISを纏い空を舞っていた。

完全に隙を突かれたオータムだったが、囲まれる寸前で場を移動し最悪だけは回避したようだ。

あちらは2対1となった。任せても大丈夫だろう。

問題はこちらだ。

戦力的には互角であっても、病院へと攻撃が向かえば防御に回らなければならない。

その上敵の加勢が来る前に倒さなくてはならない。恐らくあと3分。

織斑千冬と篠ノ之束がどれくらい早くオータムを行動不能にできるかが勝負の鍵となってくるだろう。

 

「そういえば、ねぇ、Mはどうしたの?姿が見えないけど」

 

「何を言っているの?貴女達のアシストメンバーなんでしょう?」

 

「そう……貴女の側に付いた訳でもない……完全に姿を暗ませたってわけね」

 

スコールの口ぶりからして、マドカちゃんは亡国企業から逃げることに成功したらしい。

しかしスコールの言葉がどこまで本当のことか、あるいは全て嘘という可能性だってあり得る。

警戒を続けたままスコールと対峙する。

 

「まあいいわ。貴女にはここで死んでもらう訳だしね!!」

 

「死ぬのは貴女よ!!」

 

火球を放ち接近するスコールに、水流の斬撃で反撃し、迎撃戦は本格化した。

水撃を浴びせれば火撃が返され、けれど火撃は水盾に阻まれ水撃は熱盾に阻まれ致命的なダメージにならない。

持久戦。

敵に近付けば距離を取られ、攻撃は遠距離のみのやりとりしか交わされなくなっていく。

そうしている間にも時間は流れ、敵の群衆もまた距離を詰めてくる。

 

「遅くなった!!」

 

「遅い!!」

 

漸くオータムを倒したのか織斑千冬が放った雪片がスコ-ルに切り込んだ。

背後を見やればそこには大きく抉れた地面があった。織斑千冬がオータムを大破させ篠ノ之束が消し去ったのだろう。最も力を注いだ機体を銀に破壊されている筈なのであの機体は二軍と言ったところだろう。それでもなおあれほどの威力。天災の名は伊達じゃないわね……

 

「オータムがやられたのね……以外に粘ったじゃない」

 

「次は貴様だ!!」

 

織斑千冬は立て続けに対IS用ブレードを投擲するも易々と回避されてしまう。

 

「ふふっ、威勢はいいけれどISの無い貴女では空中の私を倒せないわ」

 

けれどスコールの言葉が最もだ。

IS無では空中のISを落とすのは不可能に近い。

人外だの世界最強だのと謳われた織斑千冬はこの状況では一般人よりも強いだけの置物同然となってしまった訳だ。

IS無ではISに勝てない。世界の常識と化してしまったのだが、それでも織斑千冬は余裕の笑みを浮かべている。

 

「ほう…世界ではそのようにISを謳っているのか。だがそんな常識など最初から存在しない!」

 

 

 

 

 

「侮ったな」

 

 

 

 

「っ!?」

 

瞬く間に、織斑千冬はスコールの背後に移動していた。スコールもまた背後の殺気に気付いたのか振り返るが、姿を目視するよりも早く、振りかぶられていたブレードが垂直に振り下ろされた。

 

バコォォォォォォォォン!!!

 

激烈な破裂音の後に

 

ドゴォォォォォォン!!

 

壮絶な破砕音。

迷いなく刀身を目で追うことさえできぬほどの光速の一閃はスコールを堕とし、ブレードさえも歪めた。

絶対防御は衝撃を防ぎきることはできない。

2度、それもあれほどの威力の衝撃を頭に受けたのだ。頭蓋骨が砕けていてもおかしくない。

地面に生成された大きなクレーターの中心に仰向けに倒れているスコール。勝敗は決した。誰もがそう思った。

 

ザリッ

 

しかし彼女は再び立ち上がった。訓練され痛みに耐性を持っていたとしても最早立ち上がれないほどの攻撃を受けておきながら、立ち上がった。

そして砂煙だ完全に晴れると、彼女の秘密が暴かれた。

 

「くぅっ……」

 

彼女は左腕が引き千切られていた。だが血は吹き出していない。

代わりに蒼白い電雷がその断面を照らす。

無数の配線と鋼鉄の骨格。

人だと思っていた彼女の正体は、機械人形。簡潔に説明するならロボットと言うべきか。

スコールを叩き落とした織斑千冬はISやその他の機材を纏っていない。つまり身体能力だけでこれほどの高度に高速で跳躍した。

更に言うならば空中に浮遊することはできない。

重力に従って落下を始める織斑千冬。その速度は秒を追うごとに加速していく。

そしてそのままスコールの直上へと――――

 

「ぐぅっ……!!」

 

それに気付かないほどスコールは低能ではなく、生き残っていた射出口から火球を撃ちだす。

生身の人間は空中で身の自由は奪われ回避は不可能。それは例え最強と呼ばれた織斑千冬も例外ではない。

が、やはり最強の名は伊達ではなかった。

 

「そんなもので、私は止められん!!」

 

ブレードを横薙ぎに振りぬくとその勢いで身体も横に回転する。振りぬいた速度が早ければ早いほど体の回転もまた速く。

コマのように高速回転し、勢いを殺すことなく。

火球をギリギリまで引きつけ――――

 

一閃。

 

振りぬいた刃は凶悪な風圧を纏い火球を薙ぎ払う。

 

「これで!!!」

 

火球を打ち払い、切先をスコールへと振りかぶる。

 

「ここで……終わる訳には………っ!!」

 

ボロボロの身体を立て直し後ろへと飛び退こうとしたその時、バキャッと音を立てて左足の膝関節部分が折れた。

想定外の破損に対応できず、片足では跳べる距離の3分の1も移動できず。

 

「もらった!!」

 

急所は攻撃の範囲外に逃れていたが残った右足は、その一振りの餌食となった。

両足をもがれたスコールは後ずさる。

しかしその顔には笑み。

 

「ふふふ。私をよくここまで追い詰めたわね。でも………」

 

しまった!!

 

「こちらの勝ちよ」

 

遥か遠くにいたはずの集団はもう100mも無い所にまで接近していた。

その大群には量産機兵に混じって女尊男卑が浸透した国の代表の姿。およそ15。

これでは、もう手遅れだ。

けれども織斑千冬はスコールの首に刃を押し当て、口端を上げた。

 

「そうだな。これだけの戦力に私と束、そして更識だけでは太刀打ちできん」

 

だがな?と続けた。

 

「全世界が我々の敵というわけではないことを知らなかったか?」

 

病院の背後から雄叫びのような咆哮を聞いた。

それと同時のタイミングで雨のような閃光。

閃光は大群へと降り注ぎ、逃げ切れなかった国家代表と量産機を打ち落としていく。

振り返る先には、様々な国の代表や代表候補達が武器を構え、敵の行く手を阻んでいた。

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