インフィニット・ストラトス  漆黒の要塞の復讐   作:双盾

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作戦開始

「俺の彼女に、何してやがる」

 

えっ―――――

驚きに目を見開く。

額に突きつけられた銃口はズラされ、その腕には力強い掌が掴み、引き寄せていた。

異常なほど白く、それでいて強く、けれど暖かいその手には見覚えがあった。

その腕の主は―――――

 

「っ!?更識銀!?」

 

「よくわかってんじゃねぇか。だが、一歩遅かったな」

 

ベキャッ

 

銃を握る右腕を掌だけで折ると、その手から落ちた銃を拾い上げ私を掴む左腕を打ち貫く。

腱を打ち抜いたのか首を掴む手から力が抜けていく。

その間に私は手の拘束から逃れる。

 

「遅くなってすまなかった刀奈」

 

微かに笑みを浮かべて謝罪を口にする銀に私は溢れる想いに身を委ね、抱きしめた。

 

「銀!!銀!!」

 

「大丈夫だ。もう遠くへ行ったりなんかしない」

 

絶対に離さないように、ぎゅっと、絶対に逃げられないように、ぎゅうっと。

両手で抱きしめる。

もう遠くへいかないでと。

もう消えないでと。

私はただ、再開の喜びに涙した。

 

 

 

 

 

 

― side 銀 ―

 

目が覚めたのは、ほんの数分前。

外で交戦するような破裂音金属音銃撃音が聞こえたから飛び起きて外へ飛び出せばそこには満身創痍の刀奈。

俺は気配を殺して歩み寄り、その腕を掴んだ。

 

「おい、人の彼女に何してやがる」

 

腕を掴み、銃口を刀奈の額から逸らす。

刀奈をここまでボロボロにしたのがコイツであれ誰であれコイツが刀奈に銃口を向けている。ただそれだけで殴り飛ばしてしまいそうだ。

相当の力を込めて握る。

それに驚いたのかこちらを振り向くと、その余裕ぶった表情は一転。怯えに変わる。

 

「っ!?更識銀!?」

 

俺の事を知っているのか。

 

「よく分かってんじゃねぇか。だが、一歩遅かったな」

 

怒りの限界点を超えて、決壊した怒りは抑えていたはずの理性諸共体を支配していく。

腕を掴む掌に力が籠められ、その腕は、その骨は、あっけなくへし折られた。

激痛から声にならない叫びをあげる敵は、その手に握っていた主武器の1つさえも手放してしまう。

落下するその武器を奪い、刀奈の美しく艶めかしい首にかかった手を、そこから伸びる腕を打ち抜く。

刀奈が解放されるとすぐに敵と刀奈の間に割って入る。

少し後ろを向いて俺は、今にも泣きそうな刀奈に

 

「遅くなってすまなかった刀奈」

 

泣きそうになるのを堪えて笑顔で謝罪した。

彼女は、限界を迎えたようで、大粒の涙を零しながら俺の名を呼ぶ。

俺は彼女を抱きしめ返す。

 

「大丈夫だ。もう遠くへ行ったりなんかしない」

 

約束する、と耳元で囁くが聞こえていないだろうな。

胸元で泣きじゃくりながら必死にしがみつく刀奈を撫でながら敵に視線を向け直す。

 

「おいテメェ。見逃してやる。さっさと失せな」

 

「っ!!今回は見逃されてやる」

 

両手を潰されてまだ戦うつもりだったのか?

そんな野暮なつっこみを考えていたがなきじゃくる愛しい人を前にして他のことを考えるつもりはなく、すぐさま思考から捨て去った。

抱きしめても、抱きしめても、彼女が欲する愛には届かない。

彼女が負った悲しみを癒せはしない。

 

「ごめんな……ごめんな……」

 

貪るように背に手を回し爪を立てて己の証を刻み込む。

痛みを上回る幸福感と征服欲、そして止まることの無い独占欲。

歓喜も悲嘆も、全てが凝縮された内なる雫が雨のように地を濡らした。

 

 

 

 

 

 

あれから数日が経過して、俺は様々な情報を得た。

迎撃戦は俺の覚醒の情報が広がると共に敵が撤退していき、勝利という形で幕を下ろしたこと。

俺を覚醒させようと織斑千冬と篠ノ之束が力を貸していたこと。

篠ノ之束でさえお手上げの状況だったこと。

俺を狙った亡国企業の襲撃が迎撃戦の発端であったこと。

様々な情報を得て俺は、刀奈の部屋にいた。

身体検査を終えて、俺達は失った時間を求め合うように肌を重ねた。

そして今、となりには刀奈が安らかに吐息を立てて微睡みの奥底に沈んでいる。

身体に何も纏っておらず、俺と刀奈の間を阻む要素は何一つない。

肩までかけられた薄いシーツが俺達を包み込んでいる。

 

「刀奈……」

 

この小さな身体で必死に足掻いて、自らを殺し、死と対面してなお俺を求めてくれている。

この小さな身体は、どれほどに強欲で貪欲なのか。

俺の愛はちゃんと感じてくれたのか。この想いは、彼女を幸福にできているだろうか。

俺と関わったことで、不幸をかんじているのではないだろうか。

不安が蜷局を巻き、俺を睨む。

そんな時、俺の頬を優しく撫でる暖かさを感じた。

 

「刀奈……」

 

「ぎん……わたしねぇ…ぎんのことがだぁいすきだよぉ……」

 

舌っ足らずな声で、甘く俺を誘惑する刀奈。

その誘惑に魅了され、刀奈に腕を伸ばして抱きしめる。

啄むような触れるだけの軽いキスを落とすと彼女はくすぐったかったのか身を捩るけれど決して嫌がるような素振りはせず、更に腕を伸ばして首に回してきた。

抱きしめあう形となり、お互いの肌の温もりを直に感じる。

汗、呼吸、鼓動。

様々な要素が飽くことない幸福と安心感を与える。

この幸せを傷付けない為にも、今日、全てを終わらせる。

 

 

 

 

 

 

「さて、これで揃ったな」

 

「銀。お前、本気か?」

 

暗い倉庫の中で俺とカルマ、そしてゾアの3人が一堂に会した。

顔自体は昨日合わせたので2人ともそこまで驚きはしなかった。

しかし今回の集まりでカルマは心配そうに俺に問う。

何も躊躇うことはない。危険の無い作戦なんて何一つありはしない。

 

「危険は承知の上だ」

 

「けどよ!!亡国企業の壊滅作戦何て……しかも体も万全じゃないのによ」

 

確かに身体のダメージは抜けきっていない。記憶にも多少の混乱はある。

だがいつ来るやもしれない危険に怯えるくらいなら、危険を覚悟しその原因の排除をすべきだ。

それになぁとカルマは続けた。

 

「お前、まだ彼女にお前の覚醒の経緯について話してないんだろ?」

 

その事については問題無い。

 

「書き残しを置いてきた。帰ったら説明するってな」

 

「………俺達はお前の覚醒の理由を知っているが、帰ったら絶対に教えてやれ。俺達以上にお前を必要としてるんだから」

 

カルマはたまにいいことをいう。

そのためにも、絶対に生きて帰らなければならない。

もう覚悟は決まった。

一度死を見た。

もう恐れることは無い。

 

「これより、亡国企業の壊滅作戦に入る!!出撃せよ!!」

 

夜が明け始めた空へ、3つの影が飛び立った。

 

 

 

 

 

 

亡国企業は3日に一度のペースで拠点を変えることで足取りを知られないようにしていることは調査済みだ。

俺達が向かう先は、今日から明後日までの亡国企業の拠点だ。

篠ノ之束とIS達の全面協力を得て、100兆を超える予想地点を過去の移動データから絞り出し、最も可能性の高い場所が今、目前にある。

無論、斥候が基地周辺で隠密哨戒をしていることは分かりきっている。

もし見つかれば逃げ足の速い相手はすぐさま散り散りに逃亡し、撃滅の機を逃してしまう。

失敗は許されない。

 

「ゾア、この作戦の要はお前だ。頼んだぞ」

 

「了解」

 

ゾアは『ゾディアック』を起動し、エネルギーを循環させていく。

強い光が溢れだし、その力が最大限に発揮されたことを体現する。

この光に敵が感付かないように俺達は敵から見て日の出る位置に隠れてこの効果を発動させた。

 

「我、刃振ルウ者ト共ニ在ル者ナリ」

 

光の鎖が俺達を繋いでいく。

立て続けにゾアは次の詠唱に入る。

 

「我、我ガ身偽リ歩ミ寄ル者ナリ」

 

黒い煙が立ち込め、晴れると俺達の姿はまったく別の位置に見えた。

これは光の屈折を利用した幻想投影で、これで敵をおびき寄せ、逃げ出そうとした幹部らを殲滅。これが作戦だ。

そしてゾアがこの作戦の要の理由。

それはこの効果の発動中は、エネルギーの消費が激しく、また肉体への負担も大きい為、迅速な行動と相当な忍耐力を必要とする。

だからこそゾアはこの作戦の要なのだ。

 

「行動開始だ!!」

 

最大戦速、敵拠点まで突撃。

この島から出れば広がるは海。隔てる物は何一つとして無く、すぐさま斥候に発見される。

これも作戦の内。いや、斥候が発見してくれなければ何一つとして事態は動かない。

敵の拠点となっている島から警報が鳴り響く。

迎撃部隊が出撃してくるのを確認して、俺達は回避行動を取る。

こちらの幻影は攻撃したところで敵にダメージを与えられない。ただうつされた立体映像にすぎないから。

しかし攻撃せず、回避に専念し攻撃を受けなければ幻影の正体が発覚することはなく、攻撃できていないと錯覚させることができる。

ここからは俺達の演技力と敵の行動の速さの勝負。

敵が出てくる前に正体がバレれば俺達の敗北。

敵が出てくれば俺達の勝利。

色とりどりの閃光が宙を飛び交い俺達は投影された幻影に攻撃が当たらないように回避に専念した。

早く!!早く!!

焦る。この状況で焦りを覚えないやつは人間じゃない。

迎撃部隊の数を増し、飛び交う閃光を激烈と化する。

そして―――――

 

「出た!!」

 

パシュン

 

敵の幹部らが逃亡するために拠点の外に出るのとカルマの幻影を閃光が貫通するのとはほぼ同時だった。

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