楯無がIS学園に入学してから1年が経った。楯無はちょくちょく更識の屋敷に帰ってくる。
学園ではちゃんと友人もできたらしい。更には生徒会にまで入っているらしく順風満帆に学生生活を謳歌しているらしい。
ここしばらく周りに目立った動きが無いからだろうけれど、実に平和である。平和なはずなのにどうも胸騒ぎがする。気のせいであってほしい。
「毎日毎日書類の山と戦ってばっかりでもうへとへとだよ~」
ソファに座った楯無が力無く言った。
「仕方ないだろう?それが生徒会の損な所なんだから」
「だって職員の仕事まで押し付けてくるんだもん」
「やれやれ。俺の恋人はいつからこんなにもだらしなくなったんだ?」
俺と楯無は数ヶ月前の夏に恋人の関係になった。
楯無が夏休みを使って海に行きたいと言い出したので、荷物持ちとしてついて行ったのだ。
夕方、人気のない場所に連れて行かれ、そこで告白されたのだ。
俺も楯無に好意を持っていて、それが恋だと自覚できていた。そんな意中の人物からの告白に俺は「喜んで」と返した。
そして今に至る。
季節は打って変わって冬。学生達は冬休みだったり、受験だったりな季節だ。
そんな中俺達は暖房で適度に暖かい楯無の部屋でのんびりまったりと過ごしている。
「なあ楯無」
「だ~か~ら~刀奈って呼んでって言ってるでしょ?」
「どれだけ時間がたっても慣れないものだな。ごめんな刀奈」
恋人になってから楯無は本当の名前『刀奈』と呼べと言うのだがどうも慣れずにいた。これに頬を膨らまして抗議する刀奈もまた可愛いと思ってしまうのは刀奈に恋してるからであろう。
刀奈と呼び直すと満足げに笑って抱き着いてきた。
「ンフフ~。銀だ~いすき!!」
「俺もだよ刀奈」
刀奈の額に軽く口付けた。
しかしそんな平和も長くは続かなかった。
『世界初!!男性IS操縦者発見!!』
某目覚めるテレビを見ていると速報が入り、そんな題が映し出された。
「銀以外にもいたのね。とはいっても銀は意図的に動かせるようにされただけどね」
動かした男性操縦者か。大体の見当はついている。
『織斑一夏』
世界最強の織斑千冬の弟である。そして俺の弟でもある人物だ。
今年で彼は中学3年、恐らく受験会場を間違えたのだろう。哀れすぎる。
「きっとその男性、IS学園に入学させられるわね」
「ほぼ間違いないだろうな」
このニュースが流れたことによって彼を狙う人間が男女それぞれに出るだろう。そんな人間から保護するという意味でも、男性とISの関係を調べるという意味でも。
「だったらこの波に乗るか」
「?」
刀奈は首をかしげる。
俺は口角を吊り上げた。
これを俺は待っていたんだ。織斑一夏がISを動かすこの日を。
ウサギの計画書にあったように織斑一夏はISを動かした。そしてIS学園へと入学する。
役者はこれで揃った。あとは俺が出るだけだ。
某TV番組
「速報です。1人目に続いて2人目の男性IS操縦者が現れました」
「全員揃ってますね―。それじゃあSHRはじめますよ―」
最新科学によって構成されたIS学園、俺はその学園の1-1にいた。
問題児が多く集められている1-1に、だ。
つまりここには織斑千冬の弟こと織斑一夏がいて、篠ノ之束の妹こと篠ノ之箒もいるわけで。
面倒なやつを一か所にまとめておきたい学園側の考えが丸見えである。
「それでは皆さん、一年間よろしくお願いいたします」
副担任の山田真耶……先生がそういうものの誰一人何一つ反応を返さない。形容しがたい緊張感がそこにあった。
「じゃ、じゃあ自己紹介をお願いしますね。ええっと、出席番号順で」
容姿的な意味に、子供が大人のかっこうをしているような感じの山田先生はこの緊張感に呑まれ狼狽えている。副担任がそれでいいのか?というか担任はどうしたんだ?
とりあえず自己紹介がぎこちなく始まったが段々と和やかに、スムーズに進んでいく。
が、それが詰まってしまった。
反応が遅れたのは織斑一夏。2人しかいない男子の1人、もう1人は俺だ。この女子しかいない教室に、学園に緊張してしまっているのだろう。
「織斑一夏くん、織斑一夏くんっ」
「はいっ!?」
またも山田先生はおろおろしている。可哀そうに。
織斑一夏は自己紹介をする。
「えっと、織斑一夏です。………………以上です」
短い。が、悪くない。
そう思っていると背後から何かを振り上げる人影が目に映り…………
バァン!!
凄まじい破裂音が織斑一夏の頭部を音源として響いた。
「げぇっ、関羽っ!?」
「誰が三国志の英雄か、馬鹿者」
バァン!!
2度目の破裂音が同じ場所から響く。
関羽と間違えられた人物、それは………………
「あ、織斑先生。もう会議は終わられたんですか?」
織斑先生、その言葉に鳥肌が立った。ギリリと手と歯を食いしばる。
「ああ、山田君。クラスへの挨拶を押し付けてすまなかったな」
少しの間を置いて、
「諸君、私が織斑千冬だ。君たち新人を一年で使い物になる操縦者にするのが仕事だ。私の言うことはよく聴き、理解しろ。出来ない者には出来るまで指導してやろう。逆らってもいいが、私の言うことは聞け。いいな!」
怒りと憎しみで動き出しそうな体を理性と痛みで押さえつける。
そして、
キャァァァァァァ!!!
「千冬様よ!!本物よ!!」
「ずっとファンでした!」
「このためにここを受けました!!」
某モンスターを狩るゲームでいう所の音響弾でも使ったのかというくらいの高音が響いた。
昔から女子というか女受け良かったがそれは今でも健在なのかと思う。
「・・・・・毎年、よくもこれだけ集まるものだ。まあいい」
織斑千冬の登場によって1人当たりの自己紹介の時間が2倍くらいに増えた。
そしてようやく俺の番。場の雰囲気が少し変わる。織斑千冬もはた鋭い眼光をこちらに向ける。
「更識銀だ。以上、話すことはもう無い。聞きたいことがあれば後から聞け」
こんなことで休み時間まで削られては適わない。そう思い、再び席に座ろうとした直後、ヒュッと何かが頭上に振り下ろされる。
ガスンッ!!!
本能的に回避すると座っていた椅子に出席簿が衝突していた。そしてなぜか椅子がへこんでいる。出席簿は無傷なのに。
振り下ろしたのはまたも織斑千冬。
「何だ貴様は。まともに自己紹介すらできんのか」
「する必要を感じなかった、ただそれだけですよ。他人の事を知りたいなら自分の休み時間でも削って調べればいい。こんなグダグダと自己紹介なんかせずに授業に入ればよかったのに」
こうして1時間目はギスギスとした雰囲気で終わっていった。主に俺と織斑千冬のだが。