たぶんほかに類を見ない特典をもっての転生   作:osero11

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 初投稿です。駄文です。無駄に長いです。オリ主です。チート?です。正直、それほど原作に詳しいわけでもないので、独自設定も入ってしまうかもしれません。そういうものに不快感を覚える方は、どうぞご遠慮ください。それでもいいという寛容な方のみご覧ください。

2015/11/30 修正しました。
2016/03/12 再び修正しました。
2016/04/07 読者の方からのご指摘を受け、効果音を消したりなどの修正をしました。
2016/09/14 改行などの修正を加えました。
2016/10/23 誤字報告を適用しました。


たぶんほかに類を見ない特典をもっての転生

 時空管理局。数多の次元世界を管理するための組織である。

 旧暦の時代、最高評議会とよばれる人物たちによっておよそ百年前に設立されたこの組織は、次元航行艦船や魔導師による武装隊などの戦力を有する強大な組織として知られている。

 

 そんな時空管理局は大きく二つの勢力に分かれており、そのうち次元航行艦船を所有し、多くの次元世界を行き来しているのが次元航行部隊である。

 次元航行部隊は、次元の海におかれた本局を本部としており、各次元世界に散らばるロストロギアの回収や次元犯罪者の逮捕など、次元世界での活動を主としている。そのため、もう一つの勢力である地上部隊よりも上層部に優遇されており、地上部隊の数倍の予算が割り当てられているほか、高レベルの魔導師が集中的に所属している。

 

 これは、ロストロギアの危険性や時空航行艦船にかかるコストなどを考慮すれば当然のことかもしれないが、そのせいで上層部に軽視され、予算・人員などが不足している地上部隊からしてみればたまったものではない。

 特に、時空管理局設立の地であり、本拠地であるミッドチルダの地上部隊の本部、通称ミッドチルダ地上本部のトップはこの問題に頭を悩ませていた。

 

 時空管理局の本拠地、つまり事実上、時空管理局の管理下に置かれた次元世界の統治世界であるミッドチルダでは、時空管理局のやり方に反対するテロリストやらがよく事件をよく起こすのだ。

 それだけならともかく、ミッドチルダの魔法技術はほかの次元世界よりもずっと発展しており、魔法を使うための魔力を精製するリンカーコアの保持者および魔導師も数多くいる分、魔法を使った犯罪も頻繁に起こるのだ。

 

 管理外世界とされる地球では、銃などの武器や人員をそろえることで、増える犯罪の数に対抗することができる。

 しかし時空管理局は、銃や剣などの武器のほか、ミサイルや爆弾、核兵器などの兵器を質量兵器として、管理世界での使用を禁止している。これは、旧暦の時代では、これらの兵器は世界を滅ぼすほど危険だったとする最高評議会の考えを反映した管理局の法律である。

 

 そのため、地上本部はわずかな、本局の魔導師と比べてずっとランクが低い魔導師たちで事件に対処しなければならなかった。

 局員のほか、民間人にも犠牲者が出てしまう事件が、たびたびミッドチルダ、特にその首都であるクラナガンで起こった。

 地上本部は何度も上層部に、高ランク魔導師の配属などの改善を求めたが、聞き入られることはなかった。

 こうして、上層部に優遇される次元航行部隊、通称“海”と上層部に軽視される地上本部、通称“陸”の間に確執は起こり、徐々にその溝は深まっていった。そして“陸”はクラナガンを中心として起こり続ける犯罪に、必死で対処していかなければならなかった……。

 

 

 

 

 

 

 

 ――そう、「だった」のだ。とある魔導師が来るまでは。

 

 

 

 

 

 

 

 ミッドチルダの首都クラナガンのとある住宅街にある一軒の家、その寝室でひとりの女性が目を覚ました。

 歳は10代後半にみえ、黒いストレートヘアーと黒い瞳から、彼女は日本人のように思われる。その容姿は決して悪くなく、顔だちは少し子供らしい面影を残しているが整っており、スタイルもなかなかのものだった。

 彼女は目を覚ますとすぐに布団から抜け出し、キッチンに向かい、朝食の準備を始めた。

 

 彼女の名前は青葉(あおば)理央(りお)。第97管理外世界「地球」出身の魔導師であり、ミッドチルダ地上本部の一局員として働いている。

 なぜ管理局の管理下にない世界の出身である彼女がミッドチルダで魔導師をしているのかというと、それは彼女の同い年の知り合いが深く関係している。

 

 彼女の知り合いである高町なのはは、小学三年生のときに、地球で起こったロストロギアによる事件がきっかけで魔導師となった。

 事件はロストロギアであるジュエルシードが、次元空間内の事故によって地球に落下したことから始まる。

 ジュエルシードの暴走体に襲われていたジュエルシードの発掘者、ユーノ・スクライアからインテリジェントデバイス、レイジングハートを受け取った彼女は、見事ジュエルシードを封印し、ユーノとともにほかのジュエルシードを回収していった。

 しかし、ジュエルシードを探し、回収していくほかの魔導師とジュエルシードをめぐり戦いが起きる。

 その戦いの途中、ジュエルシードが次元震をおこし、その反応を感知した管理局のL級次元航行艦アースラが地球に向かった。

 なのはとユーノはリンディ・ハラオウン、クロノ・ハラオウンを中心としたアースラメンバーと接触し、彼らと協力しながら事件を解決に導いていった。

 

 その際に、なのはの自宅近くに住んでいた理央にもリンカーコアがあり、魔導師としての適性があることが判明した。

 なお、彼女たちと同年代の男子二人も魔導師であることが分かった。彼らは魔力量だけならSSSランクに届くほどの才能があり、態度の差こそあるがジュエルシード回収に協力の意思を見せていたことから、リンディ・ハラオウンは彼らにも協力してもらうことにした。

 また、理央はあまり興味がなさそうだったが、リンディ・ハラオウンに言葉巧みに説得され、一応事件解決に協力することになった。

 こうしてジュエルシードによる事件、その名をPT事件は4人の魔導師によって解決に導かれたのだった。

 

 PT事件が終わった後しばらくの間は、なのはや理央たちは平穏な生活を送ることができたが、その年の12月にまたロストロギアによる事件に巻き込まれた。

 闇の書というロストロギアによって引き起こされたこの事件、闇の書事件も彼女たちのほか、管理局のアースラスタッフと前の事件でなのはと友達になったフェイト・テスタロッサに加え、闇の書の本当の姿である夜天の魔導書の守護騎士ヴォルケンリッターとその主である八神はやてによって解決された。

 

 これらの事件をきっかけとして、なのはや理央たちは地球出身にもかかわらず、管理局で魔導師として活動するようになった。

 ちなみになのはやほかの魔導師たちは本局勤務なのに対して、理央はミッドチルダの地上本部勤務である。

 理由としては、彼女の魔力量はあまり多くなく、「魔導師ランクが高い本局よりも地上本部のほうが、自分に合っている環境で働きやすいのではないか」という風変わりなものなのだが、実際エリートぞろいの本局で、しかも同年代で入るほかの魔導師は全員才能あふれているという状況で働くのは確かに気まずいものかもしれない。

 これに関してはなのはは残念そうな表情をし、リンディは難色を示したが、万年人手不足である地上本部は喜々として彼女を迎え入れた。

 

 そして理央は休日などに魔導師としての仕事を地上本部でしながら、学生として学業に励んでいたが、一年ほど前に高校を卒業してからは地上本部で本格的に仕事をし始めたのだ。

 ちなみになのはたちは中学を卒業してから本局で本格的な仕事を始めた(理央はそんな彼女たちの話を聞いて「私立の、それもエスカレーター式の学校に通っておいて中卒とか、何考えてんだよ」と思ったそうな)。

 

 そんなかんじで、地球出身の魔導師の理央は今や地上本部の一局員として頑張っているのである。

 

「………よし」

 

 理央はいつも通りに朝食を完成させ、「いただきます」と手を合わせてつぶやいてから朝食を食べ始めた。

 米を主食、味噌汁をスープとした日本風の朝食。地球からは遠く離れたミッドチルダに来ても、日本人の彼女はこういう食事をいまだ好んでとっているのである。

 

 食事も終わり、食器や調理器具を洗った後、彼女はパジャマから管理局の制服に着替えるため、自分の寝室に戻った。

 パジャマを脱ぎ、下着だけを身に着けた状態になる。そのまま制服を着ようとするが、ふと自分の体を見て、つぶやいた。

 

「……生まれ変わっても、あまり体型は変わらないのね」

 

 そう、この青葉理央はいわゆる神様転生なるものを体験したのである。

 

 前世の彼女は普通……とはあまりいいがたい人生を送ってきたのだが、それでも神様という存在や転生について説明されたときはさすがにキョトンとしてしまった。

 なぜ神様が理央を転生させたのかというと、端的に言うと彼女は善行を積みまくったので、としか言いようがない(詳しい話は長すぎるので省かせてもらう)。

 33歳独身で死んでしまった彼女は特に前世に未練を残したわけでもなく、記憶を持ったまま新しい人生を送れるのならと、転生することに決めた。

 

 ちなみに、前述した魔力量SSSランクの男の魔導師たちも神様転生した人物で、こちらは別の神のミスによって死亡してしまったため転生することになった(理央なら、「神様がミスするのってアリなの?」とあきれ返るだろうが)。

 

 神様転生した人間は主に、前の世界ではゲームやアニメなど物語の舞台とされた世界によく似た世界に転生される。むろんこの世界は、いうなれば『魔法少女リリカルなのは』によく似た世界である。

 しかし、あくまで()()()()()()なので、転生者の行動などによって、アニメなどとは異なる歴史を歩むことにもなりえるのである。

 

 それについては神様が教えるわけでもなく、転生した男の魔導師たちは自分の転生した町や知り合った人物の名前が、自分の記憶の中にある『リリカルなのは』の知識と一致したことから、自分はアニメの世界に転生したと思ったのである。

 しかし、理央は『リリカルなのは』を見ておらず、耳にしたこともなかったので、ファンタジーな世界に転生したとは思いながらも、アニメの世界に転生したとは微塵も思っていないのである。

 ただし、事前に『魔法』という存在については神様から丁寧に聞かされていたので、厄介なことに巻き込まれても、理央には心の準備はできていた。

 

 さて、神様転生した人間は、たいていは転生する世界が少々前の世界と比べて特殊なことから、神様から『特典』というものを能力としてもらっている。

 それは頑強な肉体だったり、天才的な頭脳だったり、たぐいまれなる幸運だったり、はたまたゲームやアニメに出てくるような超能力だったりする。

 男の転生者たちはそんなゲーム・アニメの超能力のほかに、魔力量SSSを特典としてもらっている。

 ただし彼らは神のミスによって転生するとはいえ、前世での行いはあまりいいものではなかったため、善行を積んだ理央がもらうべき特典よりは弱いものとして自動的に設定されている。

 

 そんな特典でさえ非常に強力なのだから、理央はもらった特典によって、魔力量が少なくても、とても強く、あるいは賢く、あるいは幸福で、あるいはそのすべてを兼ね備えているのだろうと思うだろう。

 さて、そんな彼女はいったいどんなふうに破格の存在であるかというと……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あんまり、そんなことなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 筋力などは、確かに腕の筋肉などは目を見張るほど鍛えられたものであるが、べつに特典で強くしたわけではないし、そこまで怪力といわれればそうでもない。ただ、長時間の使用に耐えられるようにはなっている。

 そのほかの筋肉も、ほかの女性魔導師とあまり変わらない。空戦適正が彼女にはないので、足はそれなりだが、とくに特筆するべき点ではない。

 

 頭脳のほうも、確かに科学や数学といった方面に優れているが、それは前世が科学者であったり、魔導師であったりすることが主な理由で、これにも特典を使ってはいない。おまけに、ミッドチルダの魔法技術と地球の科学技術は全くの別物なので、前世の知識はあまり使う機会がない。

 

 運についても、住んでいる世界が少なくとも二度も滅びかけたので、むしろ悪いほうだろう。

 

 つまり、彼女は特典によって超人的な力を手に入れたかと聞かれれば、彼女自身は手に入れていないと答えるほかにないだろう。

 むしろ、転生者は神がいろいろと手をまわして生活できるようにしてくれるが、3歳という年齢で、親も兄弟も保護者もなしに転生しないといけないので、その分彼女は転生して損をしているともいえる。

 

 そんな彼女、青葉理央はいま、制服に着替え終えて、自分のデバイスを懐に入れ、家を出るところであった。

 彼女はふと、自分が転生したときに最低限の必要品としてもらった自分のデバイスを見つめる。ホイッスルのような笛のかたちをした、ストレージデバイス。待機状態でも起動状態でも同じ大きさのそれは、特殊な機能をもちあわせているとはいえ、やはり彼女の特典のすべてとしてふさわしいといったものでもなかった。

 しかし、もう10年以上も愛用してきたそのデバイス。転生した当時のことを思い出しながら、ほんの少し感慨深くそれを見つめた後、上着の内側のポケットにしまい、理央は家を出た。

 

「戸締り用心、っと」

 

 玄関の鍵を閉め、用心深く確認した彼女は、駐車場に停めてあるバイクにのり、ヘルメットをかぶって、彼女の勤め先である地上本部に向かってバイクを走らせた。

 

 自宅から地上本部へ向かう途中に見えるミッドの町並みはとても平和なものであった。

 子供たちは元気に、談笑しながら登校し、主婦たちは物干しざおに洗濯物を干して、今日はいい天気だといいたそうに青空を眺め、にこやかに笑っている。おじいさんおばあさんは散歩をしており、顔を合わせたら挨拶、そのまま昔話にはいることなどもあった。

 

(…変わったわよねぇ…)

 

 理央はそんな風景を見ながら、心の中でつぶやいた。

 

 頭の中はもう大人だとはいえ、まだ体は子供。二度目の人生はどういう進路を進んでみようかと思い、小学生の頃はいろいろと調べていた。

 前世と同じく科学者になるか、管理局員になるか、フリーの魔導師にでもなるか、選択肢はかなりあったので、様々な情報を集めてみた。もちろんミッドチルダや地上本部の情報も。

 そして彼女は知った、当時の地上本部の現状を。本局に優秀な魔導師を取られ、予算をとられ、疲弊している現状を。

 

 

 

 そして彼女は思った、これはないだろうと……。

 

 

 

 警察や軍隊の仕事である治安維持、裁判所の役割である法務執行などの機能を管理局が受け持っているのならば、次元世界の人々の安全を守るための地上本部には十分な戦力を備えさせる義務が、そして犯罪者を法の下、しっかりとさばく責務があるはずだと理央は思っている。

 しかし、上層部は地上部隊の重要性に目を向けることなく次元航行部隊ばかりを贔屓し、優れた魔導師もそちらにばかり回している。

 裁判に至っても、魔導師として本局で働くことができそうな人間には、あまり重い刑罰を与えられることはなく、むしろ前科がある人間にも関わらず本局で採用する傾向がある。

 

 理央はこの現状に頭を痛めた。地上の平和をろくに守る気がないんだったら、最初からそんなものを守らないで、別の組織でも作ってその組織に治安維持の仕事を全部委託しろよ、そんでもってそこから魔導師引き抜くなよ、と彼女は思った。

 裁判にいたっても、魔導師かそうでないか、優秀かそうでないかで裁判の判決が変わるんだったら、管理局の私利私欲が間違いなく関わっているんだから、どう考えても不当なものだろ、被害者やその遺族がいたらぶち切れるわ、とあきれ返った。

 

 確かに、裁判のほうは納得できない部分がかなりあるが、それでもフェイト・テスタロッサや八神はやてのような、一方的に加害者と言えないような被告人に関しては、罪が軽くなるのはまだ理解できる(完全に納得はできないが)。

 しかし、地上本部、特にミッドチルダの地上本部の戦力不足などについては全然納得できるものではなかった。地上の平和、ひいては人々の命を軽視するとは何事だ、と(元)大人として問い詰めたい気持ちになった。

 

 だからこそ自分は、地上本部で仕事をしたいと思ったのかもしれないな、少しでも地上の平和に貢献するために。理央はそう考えて、少し口の端をゆがませた。

 

 地上本部の現在の実質上のトップ、レジアス・ゲイズ中将は非常に優れた手腕をもつ人物だと彼女は思っている。

 彼は武闘派として本局に危険視される人物ではあるが、彼なりのやり方で、少ない地上の戦力で平和を守っていたのだ。彼がいなかったら、地上の犯罪による犠牲者はもっと増えていただろうと理央は考えている。

 アインへリアルも魔導師の戦力が不足するなかでは重要な戦力になるだろう。そもそも、魔導師のように個人の資質に頼るような戦力では心もとないのだ。その点では、安定的な戦力であるアインへリアルを導入しようとする中将は正しいのだと彼女は思っている。

 

 少し黒いうわさが絶えないが、まあそれもトップとしてはしょうがないことだろう、人々の安全を軽視しているような上層部よりは平和のため頑張っている中将のほうがまだましだ、と理央は考えている。

 まあ、黒いうわさがある以上妄信的になるわけではないが、と心の中で付け加える。

 

 なんにせよ、いまの地上では、10年ほど前と比べて犯罪の犠牲者はほぼゼロだといっていいほどに減少し、犯罪件数も減って治安も安定している。

 まあ、4年前の空港火災のような事故は起こるが、それでも安定しているほうだろう。

 

 ――そう、まるでなにか『大きな力』がはたらいているかのように。

 

 理央はふとバイクを止め、通りがかった陸士隊の駐屯所近くのグラウンドで訓練をしている陸士たちの姿をじっと見つめた。

 陸士たちは皆、地上の平和を守るため、人々の命を守るため、必死に訓練し、犯罪を防ぎ、事件を解決しようと頑張っているのだ。

 そんな彼らの姿を満足そうに見つめ、頷き、理央はバイクで走り去っていた。

 

 ――彼らの、そして自分の望む『平和』がこれからもずっと守られますようにと、願いながら。

 

 この10年間、地上は『平和』だった、まるでなにか『大きな力』がはたらいているかのように。本格的にでこそないが、

 

 『青葉理央が地上で魔導師として働き始めてからずっと、平和なのだ』。

 

 陸士たちは、理央が走り去った後も、元気な声を上げながら訓練を続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 元気な声を上げて、『ピクミン』たちに指示を出す訓練をしていたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そう、『ピクミン』である。

  

 あの、赤、青、黄の三色に、『ピクミン2』では紫、白が加わり、さらに『ピクミン3』では岩ピクミンと羽ピクミンが追加された、あのピクミンである。

 

 すなわち、青葉理央の『特典』とはピクミンに関するいろいろであり、決して『平和を守る能力』とか、そういった大層なものではないのである。

 

 しかも、原作のピクミンのような2~3センチメートルの体長ではなく、体格はそのままで、ちょうど130センチメートルぐらいの大きさなのだ。

 そんなピクミンたちに、陸士たちは自分の声とデバイスを使って指示を出し、ピクミンを使った訓練をしているのである。

 

 

 

 ちなみに、そのデバイスは、理央の持つデバイスの劣化コピーであり、オリジナルと同じ笛の形をしている。

 

 

 

 理央が神――このとき理央を転生させたのは女神だった――にこの特典を要求したとき、女神は「はい?」と思わずそう言ってしまったそうな。

 まあ、ゲートオブバ◯ロンやらアン◯ミテッド・ブレード◯ークスなどを要求されると思っていたのだから、当然といえば当然だった。

 

 『ピクミン』は理央が前世で初めてプレイしたゲームなのだが、そのときから理央はそのゲームの面白さにはまってしまった。

 限られた1日という時間の中でいかに効率的にピクミンを動かし作業を進めていくか。複雑な仕掛けを、手持ちにあるピクミンをどのように役割を分担させながら攻略するのか。

 それ以外にも、ボスなどの強敵に挑んだとき、一つ判断を間違えたら多くのピクミンをなくしてしまう結果につながってしまったことが、理央にとっては指導者の責任の重さなどの現実じみたことに直結しているように感じ、ショックを感じると同時に、「このゲームは大切なことを教えてくれる」と子供心に漠然と感じ取ったものだった。

 

 今思えば、このゲームで培われた、効率的なやり方を求める考え方や、判断を誤らないようにする注意力などが、のちに理央が科学者としての職に就くきっかけとなったのかもしれない。

 

 そんなこんなでピクミンというゲームが好きだった理央は、転生特典としてピクミンを、むろんそのままではいろいろと困ることがあるのでいろいろと改善、というか改造してもらうことを前提として要求したのだった。

 

 かつてそんな特典を要求した転生者はいたのだろうか?

 そんな特典を、至極真面目な顔をしながら要求する理央に、女神は体をわなわなと震わせながらこう叫ぶように答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ッサイコーーーーですぅぅぅ!!!!!!」

 

 

 

 

 女神も、ピクミンが大好きだったのだ。

 

 

 

 

 

「でしょ!? サイコーでしょ!? ピクミン!!」

 

「はい! それはもう! すっごくいいです!!」

 

「後ろから100匹連れまわしながら歩くって爽快感とか覚えそうでしょっ!?」

 

「はい! サイッコーにハイってやつだあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!な気分になれそうです!!」

 

「正直、ピクミン以外のほかの特典なんて、無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ぁっ!! な感じしかしないのよ!! 

 ピクミンこそが私の1番よ!! ナンバーワンよ!!」

 

「「同志よっっっ!!!!」」

 

 ガシィッ!と効果音が出そうなほど熱く抱擁を交わす二人のピクミンファン。

 残念美人だった。二人とも、かなりの美人なのだが、それを圧倒的に上回る残念ぶりであった。

 あまりにも熱くなって、どこぞの『世界』の名を持つスタンドを従える吸血鬼みたいになるほどの残念ぶりであった。

 

 しかしいくらピクミンが好きだといっても、原作通りに2~3センチの大きさにしてしまったら、どんなに数をそろえても「ぷちっ」とつぶされてしまう、そんなものをそのまま特典にすることはできない。

 なので、理央と女神の間で、ピクミンを特典として十分にふさわしいものとして設定しなおすための会議、その名も『ピクミン超強化会議』がおこなわれた。

 

「名前が少しダサいような……」

 

「こういうのはノリが大事なんですよ(^^♪」

 

 そしておこなわれたピクミン強化計画。ピクミンを理央に合わせた大きさにするのは当然のこと、転生する世界にある『魔法』もピクミンが使えるように決定され(ちなみに、理央が転生したら魔導師になるのは女神のほうですでに決めていた)、ピクミンを増やし、成長させるための場所についてもむろん用意された。

 そのほかにも、それぞれのピクミンが使える魔法の種類、ピクミンを指揮するための笛のデバイス化、さらにそれに組み込むべき魔法や『2』の探査キットについてなど、さまざまな議題が上がり、会議は5時間にもわたって続いた。

 その一部を抜粋したものがこちらだ。

 

「ゲキカラスプレーもやっぱり必要ですか?」

 

「当たり前じゃない、あれは戦術の切り札よ。あれがなかったら危ないときにどうすればいいかわからないもの。

 ……まあ、ゲキニガスプレーは魔導師とかにも効いたら、ほかの科学者とかに成分を分析されて悪用されるだろうから、いらないわ」

 

「それを聞いて安心しました。まあ、そんなことはしないと思ってましたがね。

 ピクミン1匹の保有魔力量はどのくらいにします?」

 

「うーん……。よくわからないけど、Bくらいあればいいんじゃない?

 それよりも、ピクミンらしく集団で魔法をつかうことによって、より強力な魔法を出せるようにしてちょうだい」

 

「わかりました! その辺は任せてください!」

 

「……ところで、『3』のオニオンについてどう思う?」

 

「え? あのミニトマトもどきのことですか?」

 

「あー……、やっぱりそう思う?」

 

玉ねぎ(オニオン)って名前なのに形がミニトマトになっちゃってますからね……。

 正直、前までのオニオンのほうが私はよかったと思います」

 

「うん。そーだよね」

 

 若干、作品についての批判も混じっていたが、何とか満足のいく設定を作り上げることができた二人だった。

 そして、ついに転生の時、つまり、二人の別れの時が来た。

 

「たった5時間くらいしか一緒にいなかったのに、なんだか寂しいわ。同志だからかしら」

 

「そうですね、私も寂しいです。

 でもあなたが次の人生でも善い行いをたくさんしたら、また会えるでしょうね」

 

「あら、その時はまた転生させてもらえるのかしら?」

 

「いえ、その時は神様見習いになってもらいます」

 

「……は?」

 

「実は、人間が善行を積み、人々に感謝されると、その感謝の念がその人の魂の持つエネルギーに変換され、その人の魂の格、とでもいうべきものが高まります。

 転生するときは、その格に見合った特典しか、神は与えることができません。

 まあ、どんなものかは転生者が決めるのですが」

 

「……それで?」

 

「その魂の格がある程度高まると、特典が与えられなくても、肉体がなくても、魂、つまり精神体だけでいろいろな特殊能力が使えるようになります。その状態が神様見習いです。

 あなたは前世で大変善い行いをしたので、今でも神様見習い一歩手前なんですよ」

 

「(アレでそんなにねぇ……。)ちなみにあとどれくらいでその神様見習い?」

 

「道に迷ったおばあちゃんを交番まで案内するまでです」

 

「うわ簡単っ! せめて目的地までにすればいいのにっ! それでいいのか神様見習い!?」

 

「神様見習いは神の指導の下、いくつもの世界の崩壊を事前に防いだり、あなたのように善行を積んだ人間を転生させることを数百年おこなうことで、一人前の神になることができます。

 ……ちなみに現在世界の崩壊を防ぐための神は不足しているので、拒否権はないですよ(^^♪」

 

「……要するに、神様の数が少なくていくつもの世界が危険だから、善人を記憶を持ったまま転生させて魂の格を上げさせたり、神様見習いを増やしたりして神様の数を補充していって、問題を解決していきたいのね」

 

「(さすがに話が早いですね……。)ごめんなさい、こんなことに巻き込んでしまって」

 

「いいわよ、別に。それでも記憶を持ったまま転生できるのは幸運なことでしょうし、自分の住んでいた世界が結局崩壊するのも嫌だしね。

 その代わり、次の人生はめいいっぱい楽しみながら長生きするつもりだけど、それでいいわよね?」

 

「……はい、もちろんです。それはあなたの当然の権利です」

 

「まあ、神様見習いになったとき、わたしの担当はあなたになるんでしょう?」

 

「ええ、そういうことになりますね」

 

「ならなおさら良かったわ。短い間だったけど、あなたとは話も合うし、一緒にいてとても楽しかったから」

 

「……理央さん……」

 

「また、必ず会いましょう」

 

「はい、必ず」

 

「ふふ……。そういえばあなたの名前をまだ聞いていなかったわね。教えてくれるかしら?」

 

「えへへ、まだ内緒です。次あった時まで楽しみにしていてください」

 

「はあ、わかったわ。…………じゃあ、またね」

 

「…………はい、また会うその日まで」

 

 こうして、青葉理央は女神と再会の約束をして、新たな生をうけたのだった。

 だが、彼女はこのときまだ知らなかった、自身の特典の強大さを……。

 

 

 それから彼女は転生してから6年後に事件に巻き込まれるまで、女神の施しによって金銭の問題には頭を悩ませることはないので、幼稚園と小学校に通いながら、残りの時間でピクミンを増やし、成長させ、もしトラブルに巻き込まれても大丈夫なように備えをしてきた。

 最初のうちは子供一人で住んでいるからか、市役所の職員などが家に来ることもあったが、デバイス内に登録してあった変身魔法と女神が事前に用意していた変身後の人物の戸籍などのおかげでうまくごまかしながら一人で生活することができた。もともと家事はできるので、理央はお金があれば一人での生活に問題はなかった。

 途中、近くの公園で寂しそうにしている女の子を元気づけるため行動したり、異常な髪の色で妙に顔の整った同年代の男の子を見かけることもあったが、いたって平穏な生活だった。

 また、ピクミンを投げたり引っこ抜いたりする習慣がこのころから続いているので、腕の筋肉は非常に強くなっていき、ピクミンを長時間投げたり引っこ抜いたりするのにも耐えられるものとなっていた。

 

 そして、PT事件に巻き込まれてからは、前述したとおり、魔導師になって地上本部で働き始めたのである。

 そのさい、ピクミンは当初、理央の個人戦力として地上本部に連れてこられ、彼女が事件を解決するのに必要な程度の存在だった。

 しかし、理央が女神からもらったデバイスにある、ピクミンを指揮するための機能を地上本部の技術部が不完全ながらも解析し、その機能が一部、だが十分に使える程度に搭載されたストレージデバイスを発明・量産することが可能となってからは、ピクミンは地上本部の戦力に大きく貢献するようになった。

 

 このデバイスをもった魔導師を指揮官として、ピクミンによる小隊がいくつも組織された。

 この小隊であれば、高ランク魔導師である犯罪者を相手に戦闘を行っても、ピクミンたちが使える合体魔法によって勝利を収めることがほとんどであった。

 また、火災などが起こっても、火に対して無類の強さを誇る赤ピクミンが被災者を救助し、普通の魔導師が持たない“水”の魔力変換資質をもつ青ピクミンが消火をするというように、災害救助に関しても非常に重要な役割を持つようになった。

 

 このようにして、青葉理央の特典である『ピクミン』は、地上本部が平和を守るうえで非常に重要な存在になったのだ。

 そして、いまや地上の低ランク魔導師たちはピクミン小隊をうまく指揮することによって地上の平和を守ることに大きく役立てるようになったので、多くの地上の魔導師たちはピクミン指揮の訓練を日夜おこなっているのである。

 

 ……なぜ地上に100匹しか出せないはずのピクミンでここまでできるのかと聞きたい人もいると思う。なぜならそれは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いま、ミッドには約50億のピクミンがいるからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 な、なにを言っているのかわからねーと思う人もいるだろうが、理央にはよーくわかっている。そう、『ピクミン超強化会議』で決めた強化の結果がこれだ。

 

 地上に出せるピクミンの数が100匹ではもしものときに少し不安だ、という理央の意見を受け、女神は地上に出せるピクミンの数を次のように決めた。

 

 

 もともと出せる100匹に、転生してからの年数分だけ10を掛け合わせた数にすると。

 

 

 つまり、転生してから1年がたったら、100匹×10で1000匹、2年がたったら100匹×10×10で10000匹地上に出せるというように、転生してから1年がたつごとに引き出せる合計が10倍になっていくのである。理央が転生してから16年経つので、単純計算で100京匹引き出せることになる。

 だが、もちろんそこまでピクミンの合計数が多いかというと、全く届かないので、ある意味その数は無駄に増えていっていることになる。

 しかし、これのおかげで、50億のピクミンを地上に下ろすことができるのだ。

 

 では、なぜ50億もピクミンを増やすことができたのかというと、少し説明が必要となる。

 

 転生した理央はいろいろと確認をしてしばらくした後、さっそくデバイスの中にある転移魔法を使って、ピクミンを増やすことのできる世界にワープした。

 そこでオニオンやピクミンを初めて見たり、触ったり、引き連れたりした時の理央の感動やはしゃぎっぷりは省略させてもらう。ちなみにこの時点で全色そろっていて、紫や白のオニオンも特典によって存在していた。

 理央はある程度落ち着いた後、ピクミンを増やすために周りの状況を確認したが、チャッピーなどの危険な原生生物はおらず、代わりに1や5、10や20など多種多様なペレット草がそこらへんに生えていた。しかもピクミンを増やしやすいようにか、『1』で出てきたヤマシンジュの姿も見られた。

 

 しかも10体も。

 

 理央ははじめて自分の手でピクミンを投げたり指示を出すのに悪戦苦闘しながらも、最初の一週間でピクミンの数を徐々に、しかし確実に増やしていった。

 そうしてピクミンの扱いにもだいぶ慣れ、かなりピクミンの数が増えたある日のことだった。そこら辺のペレットをある程度回収し、ヤマシンジュの真珠もすべて回収したので、さあ帰ろうかと転移魔法を使おうとした時、ふとポコンという音をきいたのでそちらを振り向くと

 

 ヤマシンジュの真珠が、できていた。

 

 は?と思いながらもその真珠をまた回収。するとほかのヤマシンジュの真珠もポコンと復活。それを回収したらまた……というふうに、その日で合計20個の真珠(ピクミン換算で1000匹)を回収した。

 後日、ヤマシンジュのこの謎の現象を解き明かすため、いろいろと調べた結果、ヤマシンジュは真珠を取られても1時間で真珠を再生させることが発覚した。このことを知った理央はこう思った。

 

(……まさか復活する時間って、実際のゲームの時間に基づいているのか……?)

※『ピクミン』の世界での1日は、現実での約15分ほど

 

 そういうわけで、1日で一気にピクミンを増やせることが判明してからは(元からそうだった気もするが)、ペレットと合わせて1日に2000匹も3000匹もピクミンの数を増やすようになった。

 そんな状態は少なくともPT事件まで続き、管理局に理央の存在と能力が知られたころには、ピクミンの総数は200万をゆうに超えていた。しかも一匹一匹は少なくともBランクの魔力量を持っているので、見方によっては(というかどこから見ても)非常に強大な軍隊に見えただろう。

 

 だからこそ、“海”の提督であるリンディ・ハラオウンはそんな強大な戦力を持つ理央が本局ではなく地上本部に行くことに難色を示し、どうにか本局に来るように説得したのだ。

 まあ、理央は「私は地上に行きたいから地上に行きたいんです。あなた方がどんなに説得してもその意志を変えるつもりはありません」と一蹴してしまったが。

 

 一方、地上本部はそんな戦力を連れてやってきた理央を大いに歓迎した。そして、ピクミンがほかの魔導師の指揮の下で働けるようになったときは、地上本部の当時の戦力不足を嘆いていたレジアス・ゲイズ中将たちは大いに喜び、動員できるだけのピクミンを使って、地上の犯罪の取り締まりなどを強化した(オニオンは小型化して持ち歩けるように設定しておいたので、楽々ミッドに持ち込むことができた)。

 

 200万を超える魔力量B以上のピクミンの働きはめざましかった。犠牲者を出さずに犯罪を解決する可能性が非常に高くなり、今までのように悲惨な事件によって出る犠牲者の数も大幅に減少した。

 問題点としては、夜はピクミンはその習性上オニオンにこもり犯罪解決に乗り出せないことがあったが、まあそれぐらいのもので、あとは夜勤の魔導師に任せるだけだった。

 それでもやはり夜に犯罪が急増することもあったので、レジアス中将はその対策として昼でも夜でも使えるアインへリアルの開発を進めているのだが。

 

 ただ、さすがにピクミンが200万いても、クラナガンを守るのが当時の精いっぱいだった。レジアス中将たち地上本部の幹部としては、クラナガンの平和を守るだけでもう十分だと感じていた。ただ、もうちょっとピクミンの数が増えて、ミッドチルダ中の平和が守れたらいいほうかなー、という風には考えていた。

 理央もそんな考えをあたまの片隅で持っていたが、現状のペースではさすがにミッド全体をカバーすることは無理にもほどがあるだろうと思っていた。むろん、レジアス中将たちもそう考えていた。あの日が来るまでは。

※ちなみに、日没になったら、理央以外の魔導師に引率されているピクミンたちも、無事にオニオンに戻ってくる。たとえどんなに離れていても、すごい速さで戻ってくる。普段絶対出せない、マッハの速度で戻ってくる場合もある。ナニソレコワイ

※ちなみのちなみに、理央はしっかり確認するのでそんなことはないが、回収し損ねたピクミンがいた場合、原生生物はいないので食べられて死ぬことはないが、翌日すごく冷淡な目で自分を回収し損ねた魔導師に執拗な攻撃を一日中加え続けるという。ナニソレコワイ

 

 ピクミン小隊がクラナガン中で活躍するようになったころ、ある小隊がロストロギアの違法取引をしている犯人を捕まえ、帰還しようとしたとき、ふと1匹の、犯人との戦闘中にフリー状態になったピクミンが、一つの小さな結晶を見つけた。

 それは犯人が持っていたロストロギアの一つで、ジュエルシードのような膨大な魔力が濃縮された結晶体だった。

 ピクミンはひょいをそれを持ち上げ、てくてくとどこかに向かって歩いて行ったが、小隊長であった魔導師は、そのことに気付かずに犯人を護送するのだった。

 

 一方こちらは地上本部のオニオン用スペース。ピクミンがオニオンに帰れるように、いつも理央はここにオニオンを置いているのだ。

 スペースは外の、土壌がある場所につくられており、そこは地上本部勤めの局員たちの休憩スペースでもあった。今は十数人の局員がそこで休憩を取っていた。(ちなみに、オニオンは『3』の合体式ではないので、1色につき1機?、合計7機?おいてある。)

 

「いやー、しかしちょっと前までは犯罪や事故の後始末に追われてろくな休憩も取れなかったのに、今ではよくこんなにゆったりとした時間を送れるよなー」

 

「ほんとだよ全く。ピクミンのおかげで犯罪者がバンバン捕まっていってるんだからだろーなぁ。

 ピクミンを怖がって、犯罪者たちもおちおちクラナガンで犯罪を起こそうとは思っていないんだろ」

 

「事故とかでもピクミンが大活躍だもんなー。

 特に火災と赤ピクミンの相性良すぎ。消防隊要らないんじゃね?」

 

「いや、それがな、リオ・アオバ曹長のバリアジャケットも赤ピクミン並みに耐火性に優れていてな。

 それの機能を応用した防護服を、今うちの技術部と各地の消防隊とで共同開発しているらしい」

 

「……リオ・アオバ曹長って、あの?」

 

「そう、ピクミンという、大多数で強力無比な戦力を地上本部にもたらした、あのリオ・アオバ曹長。俺たちよりずっと年下の嬢ちゃん」

 

「はー。やっぱスゲーな、あの嬢ちゃん。本人の魔力量は、俺たちと変わらないCなのに」

 

「レジアス中将なんて、あの嬢ちゃんが来る前までいつもどっかピリピリしていたのに、あの嬢ちゃんとピクミンが活躍し始めてからそんなこともなくなって、むしろニッコリとほほ笑むようにもなったらしい。……あの厳つい顔で」

 

「……ああ、ソレ俺見たことあるよ……。

 アレはそう、開いてはいけないパンドラの箱のような……ウッ、今思い出しただけでも……」

 

「オ、オイ!! 大丈夫か!!」

 

「ああ、大丈夫だ、問題ない。一番いい装備を頼む」

 

「何を言ってんだ? ……まあ、アオバ曹長とピクミンの恩恵を、今俺たちもこの休憩という形で受け取っているのは確かなんだけどな」

 

「そうだな、アオバ曹長さまさま、ピクミンさまさまだよな」

 

「しかもピクミンに給料いらないし。光合成でもしてんだかなんだかわかんないけど飯もいらないし。そこにあるオニオンでほぼ無限に増えるだろうし」

 

「まさにピクミンさまさま、いやピクミン大明神さまだな」

 

「そのうえいつの間にかうちのマスコットキャラクターにもなってるもんな。子供たちや女性に大人気らしいぜ、ピクミン」

 

「……え、ナニそれ初耳。あんな無表情で? むしろ怖いと思うんだけど」

 

「そこがまたいいんだってよ、うちの職員にもファンいるし。

 ほら、ゼスト隊のクイントさんやメガーヌさんもファンなんだぜ。近々、ピクミン指揮の訓練も受けるつもりらしい」

 

「あの人たち、ピクミンいなくても十分強いだろ……。

 むしろあの人たち前線向きなのにどうしてピクミンを指揮する側に回るんだよ……。

 どんだけピクミン好きなんだよ……」

 

「それだけ人気ってことさ。……ん? 噂をすれば……」

 

 一人の局員が赤オニオンに向かって歩いていく赤ピクミンの姿を確認する。それだけで彼は、ピクミンが何かをオニオンに運んでいるのだとわかる。ときどき、放置された生ごみやらをオニオンに運ぶピクミンの姿が目撃されているからだ。

 もちろん、それらを栄養源としてオニオンが新たなピクミンを生み出すことも知っている。最初はみんな生ごみから生まれたピクミンを忌避していたが、もうすっかり慣れてしまっていた。

 

 赤ピクミンに気付いたのは彼だけではなく、ほかの局員たちもにこやかに何かを運んでいる赤ピクミンを見守っている。その何かは、小さな宝石のようなものだった。局員たちが赤ピクミンを見てなごんでいる間に、赤ピクミンは赤オニオンの下にたどり着き、オニオンはピクミンを運んできたものを吸収した。

 

 

 直後、マシンガンがぶっ放された。

 

 

 は?と、周りの局員たちは、突然鳴り響いた、連続した何かの射出音に呆然とした後、質量兵器によるテロが起きたのかと思い至り、すぐパニック状態に陥った。

 しかし実際は、赤オニオンが吸収した宝石は実はさっきのロストロギア(魔力凝縮体)であり、あまりに大量のエネルギーだったので、とてつもない数のピクミンを生産しないといけなくなったことによって起こった出来事だったのだ。

 

 あまりにも大量すぎるエネルギーを吸収したので、早くピクミンを生産しないと内側からエネルギーが暴発して破裂してしまう。それを防ぐために赤オニオンは、ピクミンの種を一気に、まるでマシンガンのように地面に射出し続けることでピクミンを短時間で生産しまくったのだ。

 

 しかしそんなことつゆほども知らない局員たちは、赤オニオンがピクミンを生み出し終える2時間後までパニック状態になったままだった。(地面に勢いよく種が射出されたときの土埃で状況がうまく把握されなかったのも原因の一つだった)。

 ようやく騒動がおさまったころ、レジアス中将はこのピクミンを放置した小隊長とピクミンの総責任者である理央(本人は初耳)を自分の執務室に呼び出し、烈火のごとき怒りの怒号を浴びせた。

 

 そして、騒動の始末書を書かされることになった哀れな小隊長は退出され、部屋に残され、私、関係ないじゃんと内心愚痴ている理央にレジアス中将は話を切り出した。

 

「……リオ・アオバ陸曹長」

 

「……はい」

 

 理央はムスッとした表情を浮かべたまま返事をした。

 

「今回の騒動の一つの原因となったのは、ロストロギアの膨大なエネルギーを赤オニオンが吸収したことによって大量のピクミンが生み出されたことで間違いないな?」

 

「……そうですね。お話が確かならば」

 

「……ちなみに、この騒動でいったいどれほど赤ピクミンが生み出された?」

 

「……そうですね、私のデバイスの計測機能によると、約1億匹です。(”ひきぬきメガホン”がなかったら、引っこ抜くのに過労死するところだった)」

 

「……そうか……」

 

「…………」

 

「……実は、今回捕まえたロストロギアの違法取引を行っていた人物はな、“海”のほうでも追っていてだな。そいつとそいつが扱っているロストロギアは本来こちらの管轄だと“海”がのたまってきた。

 まあ、いうなれば手柄の横取りだな。まったく、“海”の連中はいつもいつも……」

 

「……それが、私がここに残された理由とどう関係するというのでしょうか?」

 

「まあ聞け。“海”のやつらが言うには、今回オニオンに吸収されたロストロギアと同じものを容疑者は100個ほども持っていたらしい。

 こちらが調査したところ、確かに奴のデバイスの中にはほかのロストロギアと同じようにそれらが収納されていたのを確認した。」

 

「…………(“海”のほうからもロストロギア喪失の責任を取らされ降格、あるいはクビ、最悪の場合逮捕になるって話になるのか……?)」

 

「それでだな、間違いなく犯人の取り調べのほうは奴らにとられることになる。それでそのロストロギアのほうだが…………」

 

「…………」

 

 依然として、理央はムスッとした表情を浮かべていた。

 

「『そんなものはない』と、奴らに『正直に』伝えようかと思う」

 

「……はい?」

 

 だが、レジアスのその言葉を聞き、キョトンとした表情になった。

 

「もうすでに売り払われたのではないか、とでも伝えればいいだろう。

 なに、実際に『ない』ものは『ない』んだ。『奴らが確認したとき』に『ない』のだったら、奴らもこちらを必要以上に追及しようとはしないだろう」

 

「……あの、レジアス中将? そのロストロギアは今こちらに『ある』のでは……?」

 

「『今』はな。……さて、話は変わるが、アオバ曹長。わしは首都クラナガンだけではなくこのミッド全体を、ピクミンによって平和にできないものかとつねづね考えていた」

 

「……はあ。(それと今回の事件にいったい何の関係がっ……!!? いや、まさか!?)」

 

「しかし、いかんせんミッド全体を守るにはピクミンの数は少なすぎる。今のペースではそれが実現するのは数百年も先になるかもしれん、『突発的な何か』で急増しない限りはな……」

 

 その瞬間、レジアスの周りの空気が変わった。心なしか「ドドドドドドドドドドド」という効果音が見えてきそうだ。理央も生唾を呑み込み、レジアスの次の言葉を待った。

 

「アオバ曹長、本局から事件の担当者が来るのは『四日後』だ。その日まで……」

 

「…………」

 

 

 

「全力でっ! ピクミンを増やせっ!!」

 

 

 

「だが断……じょ、冗談ですって! やりますって! だからそんな怖い顔しないでくださいお願いしますっ!!」

 

 

 

 

 

 その後、オニオンスペースでは三日間にわたってマシンガンのような音が鳴り響いたという。そこでリオ・アオバ曹長の姿を見かけたという職員もいたが、真実は定かではない。

 

 

 この三日間で、いったい何をオニオンに吸収させたのかは理央は語らないが、というか語れないが、理央はおよそ100億匹のピクミンを増やすことに成功したのである。

 そしてそのうち半分はオニオンに待機させ、残りの50億匹を地上で働かている。その甲斐あって、ついにピクミンはミッド全体の平和を守れるほどに強大な戦力となったのだ。

 

 理央はこの結果に満足している。たとえ犯罪の片棒を担がされても、地上の平和を守れれば彼女はいいのだ。地上で働く魔導師たち、ミッドにすむ人々、そして自分の望む平和が実現すればそれでいいのだ。

 

 理央は地上本部に備え付けられた駐輪場にバイクを停め、ヘルメットをはずし、入り口に向かって歩いていく。扉をくぐれば、彼女の局員としての一日がまた始まるのだ。

 

 ――そう、彼女は自分の望む平和が実現すればそれで――

 

「リオ・アオバ一等陸佐がおこしだぁぁぁぁぁ!! 全員、けいれぇぇぇぇぇぇぇぇぇい!!」

 

ビシイィィ!!

 

「「「「「「「おはよーございます!! アオバ一等陸佐!!」」」」」」」

 

 理央は本部に入った途端、また見たくもないものを目にすることになった。

 

 いつも理央が出勤する時間帯に、彼女をピクミンとともにミッドを守る英雄として崇拝する局員たちが入り口から彼女の執務室まで、彼女が通るためのスペースを真ん中に開けて二列に並んでいるのだ。そして理央がやってきたら、このとおり、敬礼をして彼女が自分の部屋に入るまで列と敬礼を崩さないのだ。

 

 理央は彼らに直接やめるよう頼んだり、上司に言ってやめさせようとしたのだが、決してやめようとしない。

 

 なので理央は少しでもこの居心地の悪い空間を抜け出すため、急いで自分の執務室へ急ぐのだ。

 自分の部屋についた理央は、扉を開け、入り、閉め、自分の椅子にドカッと座った。

 

「……ぐっ! また胃が……!」

 

 理央はこの異常なまでの英雄扱いにここ数年胃を痛ませていた。いくらなんでもこれはやりすぎだろう、と何度も思う異常な扱いは、ストレスとして彼女をむしばんでいった。

 

「……いつになったら私の望む(胃の)平和はおとずれるのかしらね……」

 

 皮肉なことに、彼女はミッドやそこに住む人々の平和は守れても、ある意味それが原因で彼女の(主に胃の)平和は守れないでいた。

 

「……はあ」

 

 彼女、青葉理央は今日もピクミンとともに自分の胃を犠牲にしながら、ミッドの平和を守るため働くのだった。

 

 

 




 魔法生物リリカル☆ピクミン 爆☆誕
 オリ主(の胃)は犠牲になったのだ……ピクミンの活躍……その犠牲にな……。

 こんなくだらない小説をここまで読んでくださった方、本当にありがとうございます。最初に一応注意はしておきましたが、読んで不快な気持ちになった方、申し訳ありません。
 
 もともとこのネタは「ピクミンとなのはを組み合わせた小説ってないよなー」と思い書き始めたものです。さすがにそのままのピクミンではどうやっても活躍できそうにないので、特典という形でいろいろと強化しました。(強化しすぎてオリ主は胃を痛めましたがw)
 ちなみにオリ主の名前は、『ピクミン1,2』の主人公である「オリマー」から「オリ」を取り、反転させて「リオ」にしました。(まあ、某赤い帽子の配管工の名前からあたまの文字を取っても同じになりますが。)名字の「青葉」はピクミンの頭にある葉っぱにちなんで名づけました。

 なお、お気付きの方もいらっしゃると思いますが、これは1発ネタの短編のつもりで書きました。続編を書いたり、連載にしたりする予定は、私自身の事情もあり一切ありません。今後のStrikersやVividでどうなるかは、皆様のご想像にお任せします。
(しょうじき、小説を書くのがここまで大変だとは思いませんでした。)

 最後までこの小説を読んでいただき本当にありがとうございます。もうハールメンで小説を書くことはないと思いますが、この小説を暇つぶしとして楽しんでくださった方がいれば幸いです。それでは、さようなら。

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