たぶんほかに類を見ない特典をもっての転生 作:osero11
注意事項としては、オリ主、チート、原作死亡キャラ生存などの原作改変、独自設定とみられるところがある(今回は特に)、駄文、無駄に長いなどに加え、キャラ崩壊がございます。これらの要素を苦手とし、不快感を覚える方はブラウザバックを推奨します。
さらに、途中からシリアスが入るほか、非常にクサいと思われるかもしれないシーンもございます。文才の無さがそれらをよりひどいものに見せる可能性もありますので、そういうものに対しても不快感を覚える方は読まないようにお願いいたします。
どうか、以上のことに対して寛容な方のみご覧ください。
それでは、本編をどうぞ。
2016/ 1/21 修正しました。
2016/ 3/12 再び修正しました。
2016/ 4/ 8 会話文のところを修正しました。
2016/ 9/16 改行などの修正を加えました。
「ん~~~、いい朝」
とある朝、『リリカルなのは』の世界に『ピクミン』を特典としてもらって転生し、現在はミッドチルダ地上本部の一等陸佐にして地上の英雄である少女、青葉理央はいつもよりも上機嫌な様子で自宅にて目覚めた。
それもそのはず、今日は彼女にとっては仕事がない日、つまりは休日なのだから。
10年前と比較すると、50億のピクミンによってミッドチルダの犯罪の数は激減し、人々の安全とミッドの平和は保たれている。今やピクミンはミッドチルダにとって欠かせない存在となっているのだ。
しかし、ピクミンを指揮する魔導師の数は足りないというほどではないが、余裕があまりない状態にある。
それゆえにピクミン指揮のプロフェッショナルである理央は時々、数か月にわたりミッドチルダ各地にある陸士部隊を転々とまわり、ピクミン指揮専門の教導官として陸士たちに笛形デバイスの使い方やピクミンの色ごとの特徴、指示の出し方などを教えまわっているのだ。
それだけではなく、未来ある若者たちもピクミンを指揮できるようになるべきだというレジアス中将の考えにより、陸士訓練校でも特別教師として訓練生たちにピクミンの指揮を教える授業を頻繁に行っているのだ。
特に最近は、ミッド中を飛び回ったり訓練生たちにわかりやすいよう教えたりすることに忙しい日々を送っていたのだ。理央は疲労がたまりにたまって、そのうち倒れるんじゃないかと思うほどに働いていた。
そんな状態が続いたのも昨日まで。ようやく仕事が落ち着き、一週間の有給を今日からとっていたのだ。彼女の機嫌がいいのも当然のことなのだ。
今日の目覚めてからの理央の行動は早かった。彼女はてきぱきと朝食を作って食べ、外出用の普段着に着替えてから家を出た。
彼女が家を出たのはまだ七時ごろ、どうしてそんな早い時間から家を出るのかというと理由は一つである。
「今日は久しぶりのピクミンたちとのお出かけ、いや~全く、今から楽しみね~♪」
そう、久々の休暇を使いピクミンたちとの外出をより長く楽しむためである。
今でこそピクミンは地上の戦力として広く知られているが、もともとはこの少女、青葉理央の個人戦力なのだ。
つまり、地上の魔導師たちがピクミンを使うことができるのは、あくまで理央が地上本部にピクミンを「貸出」している状態だからなのだ。
ピクミンの所有権はあくまで彼女にあるので、地上の戦力としてピクミンが数えられている現状で理央が私的な理由でピクミンをオニオンから連れ出したとしても、何の問題もないのだ。
まあ、オニオンの中には50億のピクミンがまだいるので、数百匹連れ出そうが数千匹連れ出そうがぶっちゃけ問題ないのだが(その場合、別の問題が生じることになるが)。
そんなわけで、彼女はオニオンがある地上本部に向かってバイクを走らせるのだった。
地上本部近くのパーキングエリアにバイクを停めてから地上本部に向かい、理央はさっそくオニオンの下へ行き、ピクミンを呼び出そうとしていた。
「今日も各色1匹ずつでいっか~。前に5万匹くらい連れてお出かけしようとしたら大騒ぎになった挙句、レジアス中将にものすごく怒られてとんでもない量の始末書書かされたし……。
いいじゃん別に、5万匹ぐらい。ピクミンかわいいんだし」
とんでもないピクミン馬鹿である。正直この点においては、「なのはたちは俺の嫁!」とか言い出すような類の転生者よりもずっとたちが悪いのがこの転生者、青葉理央である。
ちなみにこのとき、ピクミンを引き連れているのを見たとある赤いマントを着た髭もじゃの大男が理央に「余の盟友にならぬか? 余の『
話は戻って、理央は各オニオンからピクミンを1匹ずつ呼び出し、彼女の笛形デバイス「ドルフィン」を使って、ピクミンたちが人間の子供に見えるように変身魔法をかけた。
これは、以前大勢のピクミンを連れ歩くことを諦めて少数で出かけたときにも、『ピクミン』が地上を守ってくれる生き物、いわばマスコットキャラクターであることが人々の目を引いてしまい騒ぎになり、全然休暇を楽しめなかったことがあったために行っている処置である。
変身魔法もかけ終わってあとは最寄りの駅に行きそこから電車に乗ってショッピングモールに向かうだけ。
さあこれから楽しい一日の始まりだと胸をドキドキさせながら理央はピクミンとともに一歩前へ……
「あ!! リ、リオ・アオバ一等陸佐!! おい、お前ら!! アオバ一等陸佐にけいれ「人違いです無視してくださいぃぃぃ!!!」あっ!! ま、待ってくださいアオバ一等陸佐!!」
……踏み出そうとしたが途中
そんなわけで理央は、ピクミンを抱えて最寄りの駅まで全速前進していくのだった。
ちなみに、バイクはピクミンを乗っけきれないので使えない。
「………ふう、危ない危ない。こんな素晴らしい日に
なんとか仕事仲間で
ちなみにピクミンたちは、目がきょろきょろした可愛い10歳くらいの男の子の姿をしている。見ようによっては、いわゆる男の娘に見えなくもない、もともと性別なんてないし。
「なんて可愛いショタッ子………ハアハア(*´Д`)」とピクミンに近づいてきた怪しいお姉さんやらおじさんやらは理央がとっさに使った北斗百裂拳によって空の彼方へ吹っ飛ばされてしまったがどうでもいいことだ。それだけ可愛らしいということだ。
「さてと、まずは映画館ね」
理央はそう言った後、ピクミンたちを連れて近くの映画館、『MIDシネマズ』へ入っていった。
MIDシネマズの中に入った理央はチケット売り場のほうへ行き、自分の大人一人分のチケットとピクミンたちの子供七人分のチケットを購入した。
そしてすぐにピクミンたちを連れてこれから見る映画のスクリーンがある部屋に向かい、入り口にいるスタッフにチケットを見せてから入り、スクリーンの前にある椅子にピクミンたちを座らせてから自分も座った。
彼女たち以外にも映画を見に椅子に座っている人たちは大勢いて、この映画が人気であることがうかがえる。
理央たちが席についてからしばらくすると、スクリーンに今話題になっている数々の映画の予告ムービーが流れ始める。
『TOMATO トマト -POTETO THE MOVIE-』や『劇場版ツカイマモンスター 双子のリーゼ』などのアニメに加え、『ドラゴンパーク4 ドラゴンワールド』や『ヤーメネーカー:ジェネシス』や『ナイト無限書庫 聖王の秘密』のように
「いやー、でもみんなで映画を見に来るのもほんま久しぶりやなー」
「そうですね、最近は主も私たちも新部隊の設立やガジェット・ドローンの破壊などで忙しかったですし」
「今日はみんなで映画を見に行くことができてほんとによかったですね、はやてちゃん」
「まったくだな! せっかくとれたはやてとあたしたちの休みなんだから、ギガ楽しー休日にしないとなっ!
………にしてもナノラって……ぷふぅっ!」
「ヴィータ、笑うと後で後悔することになるぞ」
「あわわ! ヴィータちゃん、スターライトブレイカーで吹き飛ばされちゃうですよー!」
そんな感じの会話(女性5人、男性1人)が聞こえたが、理央はこれから見る映画に夢中だったため気が付かなかった。
『ナノラ』の予告映像が終わり、映画泥棒やマナーについての映像も流れた後、スクリーンに映し出されたのはMIDシネマズのボール状のロゴマークを立体にしたものだった。
その後ろから赤ピクミンが飛び出し、ボールに乗って玉乗りの要領で画面の左側へと転がしていく。そう、これはピクミンとMIDシネマズのコラボ映像なのだ。
画面左端へとボールがたどり着いたとき、ピクミンはボールに乗ったままボールを反転させた。
すると、二つの穴が開いたボールの側面が映し出される。その二つの穴からは、アルファベットの『M』が見えた。
そうして反転し終わったすぐ後に、青ピクミンが穴から顔を出し、外に飛び出してきた。それに続くように赤、紫、黄色、青、白、岩ピクミンたちが穴から次々と飛び出してくる。よく見ると、それぞれ手に何か持っている。
合計10匹のピクミンたちが穴から出てきて、一列に並び、こちらのほうを向いた。そして全員一斉に手に持っているものをこちらに向けて立てるように置いた。
それは『MID CINEMAS』と読むことができる、アルファベットのオブジェだった。黄ピクミンが『N』を『Z』のように置き間違えたことに気付き、すぐに置きなおしたのはご愛嬌というものだろう。
黄ピクミンが文字を置きなおしたら、すぐ文字を置いたピクミンは右側に向かって画面外へ走り去っていき、代わりにロゴから10匹ほどの羽ピクミンたちが飛び出した。
羽ピクミンたちは螺旋状にロゴを囲むように飛んだかと思うと、ロゴの上の部分を囲みながらつかみ、さっきほかのピクミンたちが運んだ文字の上へロゴを運んでいった。ロゴの上の赤ピクミンはひどく動揺していた。
やがてロゴを上へ運び終えると、羽ピクミンたちは手を放し、また螺旋を描くように飛んだかと思うと、そのまま並んで飛んで行ってしまった。
赤ピクミンはロゴが落下し、安定するまで動揺していたが、ロゴの動きが落ち着いた後は羽ピクミンたちが飛び去って行く様子をただ眺めていた。
これでようやく一息つけるかと思われたが、突然雰囲気がガラッと変わり、赤ピクミンはまたも動揺し始める。
そして何かの鳴き声が聞こえ、赤ピクミンは後ろを向いたが鳴き声を上げ思わず飛び上がってしまった。
なんとそこには、雄たけびを上げる怪獣『ナノラ』の巨大な姿があったのだ。いつの間にかナノラのテーマが流れ、ナノラの巨体の影を背景にして映像は終了した……。
「くくっ……ぶっふぉww駄目だwwたえきれねあははははははははは!! なんだよあれ! ナ、ナノラ、ひぃー、ひぃー……ぎゃははははははははは!!」
「あ、あかんでヴィータ、ぷふっ、わ、笑ったらあか、くくっ、あかんよ、あkあははははははは!!」
「ちょ、ちょっと、ふふっ、はやてちゃん! ヴィータちゃん! ほかのお客様に迷惑でしょ……、ふくっ」
「主はやて、いくらなんでも笑い過ぎなのではないでしょうか……?」
「は、はやてちゃんとヴィータちゃんが壊れちゃったですぅぅぅぅ!?」
「リイン、今はそっとしておいてやれ」
なんかさっきの人達がうるさいが、理央は映画に夢中になっているので気付かない。
そして、ようやく本編が始まった……。
「……よかった。最高だったわ、今まで見た映画の中で一番」
映画が終わり、出口からピクミンたちを連れ出てきた理央は、感動に打ち震えながら涙を流し、つぶやいた。
それほどまでにこの映画は彼女にとって心を大きく動かされるものだったのだ。その感動は計り知れないものであり、彼女の前世を含めても理央がここまでの感動を覚えるのは数えるほどだろう。
なぜ彼女の心はこの映画を見てここまでの高ぶりを見せているのか。それは映画のタイトルを見るだけでも理解できるだろう。
そう、その映画の名前は『
青葉理央とピクミンたちも製作に協力したこの映画は、遊んだり、仕事をしたり、考えたり、おびえたり、泣いたり、笑ったり、驚いたり……そういったピクミンの姿が映った短編集なのだ。
理央も、ミッドの人々にピクミンは単なる戦力じゃないと改めて伝えたいという気持ちで、この映画の製作に積極的に協力した。むしろシナリオを自ら提案したりピクミンの演技の監督も自分でやったりと、彼女が中心となって映画が製作されたといってもいいほどだ。恐るべしピクミン愛。
さて、理央がシナリオにいろいろ口出しした結果、故意になのか偶然になのかはわからないが、この映画、とあるものとそっくりに作られてしまった。
そう、ピクミンの短編アニメーション集、『PIKMIN Short Movies』とそっくりなのである。
無論、大のピクミンファンである理央が前世の時にこれを見ないはずもなく、大人になっても一日に最低でも3時間、長い時には一日中見ていたことがあるほどはまっていたほどだ。
そのため、たびたび仕事仲間に迷惑をかけ、疲れさせていた。そのとある一場面がこちらである。
「あ~、やっぱピクミンは最高だわ~」(ウォーウォーミャー
「せんせー、そろそろ出発のお時間で……せんせぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!? またですか!!? またなんですね!! もういい加減長時間見るのやめてくださいっ!!」
「長時間じゃないわよっ! まだほんの5時間よ!」
「十分すぎるほど長時間ですよ!!
今日は学会で世紀の発明を発表する日なんですよ!!?
『地球温暖化を止めて、地球の気温を最適なものにまで直し、挙句の果てに北極、南極の氷も修復することができる発明』なんて、エジソン軽々飛び越えてんですよ!!?
どーしてそんな奇跡のような発明の発表に胸を膨らませるわけでもなく、ピクミンのアニメを楽しんでんのかなこの人はっ!!?」
「ピクミンこそが奇跡の産物よっ!! あんな発明のどこにピクミンに勝る要素があるってのよ!!?」
「ピクミンのほうが勝る要素絶対少ないでしょうがっ!!?
ああもうほんとにこの人は……この前の『砂漠を一気にマングローブにできる発明』の発表会のときも結局ピクミン3に夢中になっていて遅れたし……どうして恐ろしいほどの天才であると同時にそれ以上に恐ろしいピクミン馬鹿なの……?
とにかく早く来てください!! 最近は助手である私まで白い目で見られているんですよ!!?」
「いや~!! あと1時間は見る~!!」
「いい大人が駄々をこねないでください!! ほら、3◯Sなら移動しながらでも見れますし、ね!?」
「いやよ~!! 今は大画面のテレビで見れるW◯iUがいいの~!!」
「もうこの人嫌だぁぁぁぁぁ!!」
この後、電源がつながったままのテレビとW◯iUと一緒に移動することに何とか落ち着き、無事発表会には遅れずに到着したのだった。
ちなみに、当時理央の助手をしていたこの人は、今の理央の約3倍の頻度で胃が痛くなったという。
そこまではまったピクミン、映画を作るにしてもこの理央が手を抜くことなどするはずもなく、映画製作に携わった人が誰でも(あくまでも短編集としては)最高の出来だと思うほどに『PIKMIN Movies』は素晴らしい作品として完成したのだった。そのクオリティの高さは並の映画監督が舌を巻くほどだ。
しかし、同時に彼女は原作を深くリスペクトしていたので、シナリオのほかにもいくつか原作に基づいた部分もある。その一つが上映時間で、この映画の上映時間は原作とほぼ同じで20分ほどで作られている。
ちなみに、この映画の料金は大人一人1600円ほどである。
「いくらなんでも高すぎるやろ!! 1時間半くらいやろなと思っていたのに……。
許さへん!! 絶対許してたまるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「は、はやてがおかしくなっちまった!! ギガこえぇ、ギガこえぇよぉ!!
なんとかしてくれよ、シグナム!!」
「なんでそこで私に振るっ!!? お、落ち着いてください、主はやて!!
………主はやて? なぜ騎士甲冑をまとっていらっしゃるのですか? 何をなさるおつもりですかっ!!?」
「はやてちゃぁぁぁぁぁん!! お願いだから落ち着いてぇぇぇぇぇ!!」
「うわあああああああん!! はやてちゃんが、はやてちゃんがぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「こ、この魔力、初代リインフォース以上………!!?
だが、盾の守護獣として、仲間も、主の名誉も守り切る!! てぉあああ!!」
なんか後ろの方で「響け! 終焉の笛、ラグナロク!!」とかいう声が聞こえるが、ピクミンの短編集をスクリーンで見れた感動で心をいっぱいにしている理央にとってはどうでもいいことだ。
前世ではせいぜい大型テレビぐらいのサイズでしか見れなかったピクミンの映像を、現世ではスクリーンの大画面で見れたことに感激の涙を流しながら、次の目的地に向かうために理央はピクミンを連れて映画館を出ていった……。
なお、この翌日の新聞で『MIDシネマズ爆発!! 高ランク魔導師の八つ当たりか?』という一面が飾られるのだが、始末書を書かされるとある二等陸佐とその守護騎士以外にとっては全く関係のないことである。
「……いや~、それにしても今日はほんとに楽しめたわね~♪」
日も暮れかかったころ、理央はショッピングモールをすでに立ち去り、電車に乗って地上本部に一番近い駅で降り、そこから地上本部までピクミンを連れ歩いていた。
映画館を出た後、理央はピクミンたちとゲームセンターでUFOキャッチャーを楽しんだり(ピクミンの人形があったので理央はこれでもかというほど獲っていった)、カートレースのゲームで盛り上がったり(何気にピクミンたちがうまかった。ピクミンスゴイ)、近くのレストランで食事を摂ったり(なぜかピクミンたちは固形物でもチュー…といった感じで吸っていた。蕾や葉っぱのピクミンは花になっていた)、近くの広場を散歩したりして一日を過ごした。今日は、理央にとっては最高の休日となった。
そんなわけで、ふ~ふふ~ふ~ふふ~ふ~♪、と鼻歌を歌いながら理央は帰宅していた。
「……ん? あの子どうしたのかしら?」
今、理央は車道の横にある歩道を歩いているのだが、ほんの1,2メートル先には交差点と信号機、それに横断歩道が見える。
さらに、理央がいる側と、車道を挟んで反対側の歩道をつなぐ横断歩道の上には、そこでたたずんでいる男の子の姿が確認できるのだ。
茶髪の、背の高さから8歳ぐらいに見える男の子だった。
どうやら向こう側からこちらへ渡っている最中だったらしく、顔を確認できるのだが……
「泣いている……?」
そう、男の子は泣いていたのだ。男の子がしゃくりあげるたび、口からはひくっ、えぐっ、という声が漏れた。
目からはとめどなく涙があふれ、彼がどれだけ心を乱されているかその様子から察することができた。
なんであの子はあんなところで……? 理央がそんな疑問を抱いた瞬間、突然クラクションが鳴り響いた。
理央が驚いて音が鳴った方を振り返ると、車が猛スピードで走ってきた。しかも、反対車線を、である。
どうやらクラクションを鳴らしたのは別の車で、あの車への文句のつもりらしい。
幸い事故こそまだ起こっていないが、その車が進む先にいる、その車を視認したドライバーたちはみんな車をバックさせたり歩道のほうに乗り上げたりして、ぶつからないようにしようとパニック状態だ。
――暴走車!? 理央がそう思ったのもつかの間、すぐに最悪の事態が差し迫ってくることに気付いた。
「車の進む先に、あの子がっ……!?」
少年は泣いていた。悲しくて悲しくて、ただ悲しくて泣いていた。
少年が生まれたのはこのミッドチルダではない。第3管理世界「ヴァイゼン」、そこが少年の生まれ、育った世界だった。
その世界の町で、少年は周りの人たちと幸せに過ごしていた。
しかし、それはある日、唐突に終わりを告げた。
ヴァイゼン遺跡鉱山崩壊事故。町の人達は全員死亡し、生き残ったのは少年ただ一人。
当時の少年は深い悲しみに沈むと同時に、心にぽっかりと穴が開いたような気持ちになった。
その穴を埋めたものは、事故の犯人だと少年が思い込んだ「藍色の羽の刺青の男女」への憎しみだった。
一人になり、浮浪児となった少年は、町を壊した犯人への憎しみだけを心の糧として生きていた。
そのため、山中で一人暮らしをしながら、復讐するための力をつけるために修行もしていた。
彼は、犯人を深く憎むことによって、町の人達を亡くした悲しみを一時的に忘却していた。
そんな日々が続いたのも、とある陸士に出会うまでだった。その陸士はミッドチルダの陸士部隊に所属しているのだが、自主トレーニングをしにヴァイゼンを訪れていたのだ。
その陸士は少年を発見・保護し、ヴァイゼンの保護施設に彼を預けた。その後も陸士はたびたび少年の勉強や生活の面倒を見に訪れた。
そんな陸士との交流の中で、少年の中にある憎しみは次第に小さくなっていった。陸士のやさしさが彼の中にある憎悪を沈めたのだ。
今ミッドチルダに少年が来ているのも、その陸士が少年を自分の家族や親友に紹介するためにヴァイゼンの保護施設から連れてきたからなのだ。
しかし、ちょっとしたトラブルがあってはぐれてしまい、少年はひとりでさまよっていたのだ。
少年ははじめは泣きこそしなかったが、その心は一人になった不安でいっぱいだったのだ。
――もしかしたら、自分はもうあの人に会えないのではないのか
――もしかしたら、このまま自分はまたひとりぼっちになってしまうのではないのか。
ほかの人は全員死に、自分だけ生き残った。過去の忌むべき出来事が、少年の不安を増大させ、心をむしばんでいった。
そして少年が横断歩道を渡っている最中、彼は目にしてしまった。
母親と父親に囲まれ、子供が無邪気に笑っている姿を。
「――――ぁ――――」
少年の頭には、かつてヴァイゼンで過ごした楽しい日々がまるで走馬燈のように、現れては消えていった。
とても楽しかったあの日々。同年代の子供たちと遊んでいたあの日々。いたずらをしては怒られ、そのあとまたみんなで笑いあった日々。子供の自分にとっては、永遠に続くと思われたあの日々。
それはもう二度と、取り戻すことができないものであった。
「……ぅう、ぐす、ひっく、うぇ」
気が付けば、少年の目からは大量の涙が流れ出ていた。涙は少年のほほをつたり、地面に落ち続けていった。
とめどなく涙は流れ続け、それはまるで彼の底知れない悲しみを表しているようだった。
ある時は他者への憎悪によって、ある時は他者からのやさしさによって、胸の奥に押しとどめられていた悲しみは、再び独りになった不安と、かつて幸せだったころの自分を連想させる家族の姿によって、一気にあふれ出てきた。
悲劇がおきてからまだ時間もたっていない現状では、少年が自分の悲しみを抑えることは非常に難しかった。少年はただ涙を流し、悲しむことしかできなかった。
ゆえに気付くことができなかった。自分に襲い掛かる危険に。
「危ない!!」
少年がその声に聞き、顔を上げたときにはもう遅かった。車が走ってくる音に気付きそちらを向くと、車があと4,5メートルといったところまで近づいてきていたのだ。
しかもとても速いスピードで近づいてきており、あと数秒もしないうちに少年は車にはねられるだろう。
もはや避けられないと思われた”死”にたいして、少年は自分でも驚くほど冷静であった。
(……もう、生きててもどうしようもないしな……)
町の人達はみんな死んだ。自分に優しくしてくれた人はいなくなってしまった。
復讐したとしても町の人達が帰ってくるわけではない。ならいっそのこと死んでしまった方が楽なのではないのか。
少年にやさしく接した陸士は、実際はほんの少しの間はぐれているだけで生きていればすぐ会えるに違いないのだが、事故の悲しみを思い出した少年はひどくネガティブになってしまい、もう会えないものと思い込んでしまったのだ。
生きることを諦め、死を受け入ようとしたとき、少年は周りの景色がひどくスローモーションになっていることに気付いた。あんなにすごいスピードで向かってきた車も、今はとてもゆっくりだ。
視界の端で、女性が自分と同じくらいの子供たちとなにかしているように見えるが、涙で視界がにじんでよく見えない。
死ぬ直前になると、周りの景色がスローモーションになるって本当だったんだな……。
そんなことを思いながら、少年はすでに死んでしまった町の人々のことを思い出した。
自分が死んだら、また会うことができるかな? また、あの楽しい日々を過ごすことができるのかな? そんなことを考えて、少年は意識を手放した。天国で、自分たちがまた幸せに過ごせることを願いながら…………
そして、車は無情にも少年に向かって突っ込んでいき、少年の体は宙を舞った。
少年は1秒もたたないうちに意識を取り戻した。
「――――え?」
そう、少年は生きている。
実際、上から自分がついさっきまでいたところを車が通りすぎているところが見えるので間違いない。
一応死の危険からは回避されたが、まだ周りの景色はスローモーションなので、少年はなぜ自分が助かったのか確かめてみることにした。
よく注意してみると、自分の服が後ろから誰かに、あるいは何かに引っ張られるのを感じられる。おそらくその人、あるいはそれが自分を空中に引っ張り上げ、助けてくれたのだろうと少年は思い、服が引っ張られる方に顔を向けてみた。
無表情な子供たちが7人、連結していた。
「ええええええええええええええええええ!!?」
あまりにも予想外な光景に、少年はさっきまで抱いていた悲しみも生への諦観も忘れて、ただただ驚いてしまった。
少年の服をつかんでいる子供はほかの子供に足をつかんでもらっていて、その足をつかんでいる子供もまた別の子供に足をつかんでもらっていて、その子供もまた……という風に、彼らは足をつかんだ形で連結していた。
そして少年から見て7番目の子供の足を、さっき視界の端に移った女性が両手でつかんでいた。
少年はただただその奇天烈な光景に驚くばかりであった。
と、少年がある程度状況を把握したとき、少年の見る世界は再び元の速さに戻った。
少年は、車がまた物凄い速さで動き出し、自分がいたところをあっという間に走り去ったのを見た直後、自分の視界がグラっと傾き、目まぐるしく回り始めたと思ったら、いつの間にか女性がいる方の歩道に着地してしりもちをついたことに気が付いた。
周りをよく見ると、さっきの子供たちも歩道に着地しているのが見える。どうやらこの女性、さっきの体勢から子供たちをまるで鞭のようにしなやかに動かし、器用にこちら側の歩道に自分たちを降ろしたようだ。
はっきりいって信じられないが、実際自分が体験したのだからそう信じるしかない。
「みんな、お疲れ様。……ったく、あの暴走自動車。次見かけたら岩ピクミン投げまくって、車も運転手もぼこぼこにしてやる」
なんだか恐ろしいことを言ったかと思うと、女性はこちらに気付くとゆっくりと歩いてきた。
黒髪に黒い瞳。それなりに整った容姿。だがそれ以上に少年の印象に残ったのは、彼女が醸し出す雰囲気だった。
まだ二十代ぐらいに見えるのに、まるで50年は生きてきたかのようなオーラと落ち着きを彼女は見せていたので、その雰囲気に飲み込まれるように、さっきまで不安に駆られたり死にそうな目にあったのに、少年は心を落ち着かせることができた。
女性は少年を丁寧に立たせてから、自分の目線を少年に合わせてこう話しかけた。
「大丈夫だった? 何があったのかは知らないけど、横断歩道で周りも気にせず泣いてたら危ないのよ。
パパやママはいる? はぐれちゃったの?」
優しく話しかけてくる女性に、少年は同じく自分に優しく接してくれた陸士のことを連想し、事情を説明し始めた。
「あの、オレ、ここに来たの初めてで、オレ、家族も周りの人も死んじゃって、オレの事保護してくれた人がここに連れてきてくれて、でも、途中ではぐれちゃって……」
さっきまでいろんなことが起こったためか、しどろもどろになりながらも事情を説明する少年。女性はただ少年の話を黙って聞いていた。
「それで、オレ……なんだか、一人で歩いていると、昔のこと思い出して、あそこの横断歩道で、なんか、幸せそうな家族をみたら、なんか、死んじゃったみんなのこと、思い出しちゃって……」
説明をする少年の目からは、その時感じた悲しみがまたよみがえってきたのか、涙があふれ始め、それに伴い、少年の語気も荒くなってくる。
「なんかもう……なんで……なんで自分だけ生き残っちゃったんだろうって思って……!
こんな、グス、こんなつらい思いをするくらいなら、もう……、みんなと死んじゃったほうが楽なんじゃないかって!
そしたら車がやってきて! でも、もう生きていたくなくて! このまま死んじゃったほうが、みんな、みんなと一緒になれるから……」
そのまま少年は黙り込んでしまった。目からは涙がまたとめどなく流れ出てくる。顔を伏せ、むせび泣いている。
子供たちは、そんな様子の少年をただじっと黙って眺めていた。
女性は、少年の話を聞き終わってしばらくは黙って少年を見つめたままだったが、突然すっと優しく少年を抱きしめた。
突然抱きしめられたことに少年は驚くが、女性はそのまま言葉を紡ぎだした。
「…………とても、つらい思いをしたのね。私みたいな人間にはわからないのでしょうけど、死にたくなるほど寂しくて、悲しかったのね」
女性はそう言ったかと思うと、優しく少年の肩をつかみ、ゆっくりと自分と少年との距離を少し開け、少年の目線を再び自分に合わせた。
少年は思わずドキッとした。なぜなら、女性の目はとても真剣で…………そして、それでいて驚くほど優しい雰囲気を感じ取れるものだったからだ。
「でもね、死んじゃったとしても、必ず死んじゃった人達に会えるわけじゃない。それどころか、もう二度とほかの人には会えないようなところにあなたは行ってしまうかもしれない。
そうなったら、あなたはひとりのまま。その苦しみはいつ終わるものかわからなくなり、それこそ地獄に送られたかのように永遠に苦しみ続けることにもなりうるのよ」
「じゃ、じゃあどうすればいいんですか?」
少年は女性に尋ねた。復讐しても、死んでも駄目だというのなら、どうしたら過去のこの苦しみから、悲しみから解放されるのか、その答えを少年は知りたかった。
少年の言葉を聞き、女性は少し微笑んでから答えた。
「希望を捨てないこと」
「…………え?」
「どんなに悲しい時でも、どんなに苦しい時でも、最後まで生きるという希望を捨てないこと」
「…………そ、それだけですか?」
「そう。……そういえば、あなたを保護してくれた人がいたわよね」
「あ、は、はい。その人、オレにとても親切にしてくれて、だからその人のこと大好きで」
「その人と一緒にいるとき、悲しい思いはしなかったでしょ?」
「そりゃそうですよ! だってその人と一緒にいると、とても楽しくて……」
「それが答え」
「え?」
「大切な人たちをなくした悲しみは一生消えることはないわ。もちろんそのことで苦しむこともある。まるで心にぽっかりと空いた穴のように残ることもある。
でもね、そういう時人は、他の人と一緒にいることで悲しみや苦しみを癒し、心の穴を埋めることができるの。
まあ、私が前読んだ本の受け売りなんだけど、私も似たようなことがあったし」
「……そ、そうなんですか?」
「ええ、そうよ。私やあなただけじゃない、世の中には大切な人を失って、悲しみ、苦しんでいる人がたくさんいる。
そういう人たちは、互いに慰めあい、励ましあい、支えあって前に向かって進んでいるのよ。なんでだか知ってる?」
「……な、なんでですか?」
「世の中には悲しいこと、苦しいことがあるように、楽しいこと、嬉しいことがあるのを知っているからよ」
「たの、しいこと? うれ、しいこと?」
「ええ、あなたも、事故で大切な人たちを亡くしたけど、その後で自分に優しくしてくれる人に出会ったでしょう?」
「!!」
「人生プラスマイナスゼロとか、悪いことがあれば必ずいいことがあるとは言わないけど、世の中には必ず、自分が幸せになれるチャンスがある。
その人たちはそれを手に入れるために、ともに進んでいるのよ。
……まあ、誰かと一緒にいるだけでも、楽しく過ごしたりすることで悲しみを癒すことができるから、その人たちは支えあっているとも言ってもいいんでしょうけど。
どちらにせよ、死んじゃったら手に入らないでしょうね」
「……オレも、その人と、スゥちゃんと一緒にいるときはとても楽しくて、悲しい気持ちになんか、これっぽっちもなりませんでした。
でも、もしスゥちゃんもいなくなったら……」
「そうならないように頑張りなさい」
「へ?」
「世の中には幸せになれるチャンスもあれば、不幸をまねくきっかけのようなものもある。幸せをつかむにしろ不幸を退けるにしろ、何かしらの努力が必要になることもある。
だから、あなたがその人をなくしたくないのなら、精いっぱい頑張って、なくさないようにしなさい。それが、あなたにできることよ」
「……はい!」
「ふふっ、じゃあ、わたしたちはそろそろ「そこの女性! 少しお話を伺わせてください!」……ああ、厄介なことになり始めた」
少年が声をした方を振り向くと、そこには男性の陸士の姿が見えた。
陸士はなにやら怒った様子でこちらの方を向いている。
「ああ、はい、なんでしょうか。今ちょっと帰るところなんですけど」
「その前にこちらの質問の答えていただきたい! まず、あなたは先ほどの事故に関わっていますね!」
「事故……? ああ、さっきこの子がひかれそうになったことか。
事故というより事件のような気もするけど……それが何か?」
「何かじゃないでしょう!! そこの子供たちを使って救助らしきことをしたと多数の目撃者が証言しています!
近くの監視カメラで映像を確認しましたが、最悪の場合全員死んでしまうような危険な方法ではなかったですか!!
どういうつもりであんなことをしたのか、説明していただきたい!!」
「……ああ、なるほど。私には素の姿が見えるけど、そういえば他の人にはただの子供に見えるんだっけ」
「何をいってるんですか!」
「ちょっと待ってください、今伝えますから……ドルフィン、変身魔法解除」
『OK,captain』
彼女の上着のポケットのあたりから若干高い声がきこえたと思うと、突然7人の子供たちの姿が変化していった。
少年と陸士はこの子供たちの変化した後の姿、すなわち本当の姿を見て驚いた。
なぜなら彼らは地上本部のマスコットキャラクターであり地上の平和を守る存在でもある……
「ピクミン!? 変身魔法で人間の子供になっていたのか!?
いやしかし、ピクミンを任務でもなく私用で連れ歩くなど…………」
そこまで言って彼はハッと気付いた。そう、いるのだ。そんなことができる人物がたった一人。
その人物は個人戦力としてピクミンを所有しながらも、ピクミンを地上本部へと貸し出し、ミッドチルダ地上に平和をもたらしたことで有名だった。
さらには、その人物は佐官に昇進した現在でも、特別教導官としてミッドチルダ各所の陸士部隊、訓練校に出向きピクミン指揮の指導をしている、まさにピクミンのカリスマとでもいうべき存在。
「ま、まさかあなたは……!」
「ったく、せっかくの休日だってのに、結局最後はこうなるのか。全く嫌になる。」
今や地上の英雄、『
「地上本部勤務ピクミン専門総司令官兼ピクミン指揮専門特別教導官、青葉理央一等陸佐です。それで質問とは?」
いや、ほんとに危なかった。もう少しでこの子が死んじゃうところだった。せっかくの休日も台無しになるところだった。
理央が名乗った後、いままできつくあたってきた陸士は若干こっちが引いてしまうほどの勢いで謝罪の言葉を繰り返し言いまくり、コメツキバッタのようにペコペコ頭を下げてきたかと思ったら、「後始末は全部自分がやっておきます!!」と言い残して暴走していた車が向かっていった先へ目にもとまらぬ速さで走っていった。
それもそうだろう。ミッド地上本部ならびに地上部隊の魔導師たちにとっては、理央はただ自分の力で事件を解決していくようなエースなどではない。理央本人以外の地上の魔導師、すなわち魔導師ランクが低い彼らにもピクミンという戦う力を分け与えた、いわば大恩人のようなものなのだ。
低い魔導士ランクゆえに高ランク魔導師の犯罪者に対して太刀打ちができずに殉職してしまうという出来事もピクミンという戦力を使えるようになってから劇的に減少したことは、陸士たちにとってはとてもありがたいことだったのだ。
だからこそ地上の、特に低い魔力量などの理由で自分自身の戦力に不安を持っている魔導師たちは、理央のことを深く尊敬し、英雄としてあがめているのだ。
理央にとっては正直それは誤算だった。確かに地上の平和をピクミンたちと協力して何とかしたいとは考えていたが、別に英雄として祭り上げられたいわけではなかったのだ。
むしろ異常なまでにそんな態度をとられると、ストレスになるのでやめてほしいくらいだ。
でも今更ピクミンを使わせなくしたところで昔の治安の悪いころに逆戻りなので、そうなるくらいならと耐えているのだ。あと一等陸佐だからお給料もいいし。
そんなわけでさっきの陸士は理央に対して失礼になる態度を取ったことを心の底から申し訳なく思ったからこそ物凄い勢いで謝り、休日中の理央にわざわざ手間をかけさせたくないと考えて自分ひとりで後始末をすると言ったのだ。
陸士が走り去った後、理央は改めて少年の無事を喜ぶと思うとともに、さっき少年が危ない目にあったことを思い出し身震いした。
せっかくのピクミンとの休日という楽しい思い出が、男の子が目の前で死んでしまうというトラウマになってしまうのも理央にとっては耐えきれないことだった。
(もし私が【ピクミンつながり】を使えなかったら、ほんとにどうなっていたことやら)
【ピクミンつながり】、『大乱闘スマッシュブラザーズX』にてオリマーが使うことができる必殺ワザである。
この技はゲームにおいてはせいぜい連れているピクミンをつなげて斜め上に飛ばすことぐらいしかできないが、女神からこの技も特典の一部として使えるようにしてもらった理央は、最大100匹のピクミンをつなげることができるほか、とある冒険家が使っている鞭以上に自分の思うがままにつながったピクミンを振るい操ることができるほどの技にまで昇華させていた。
ちなみに、スマブラXは一応ピクミンが出るということで理央はプレイしていたのだが、この技を特典に入れるかどうかで理央と女神は相当悩んだという。
何かの役に立つかもしれないということで一応特典に入れておいたけど、使うことができてよかったと、理央は心の底から思った。
理央が改めて少年の方を向きなおしたら、少年は口をぽかんと開けて理央をじーっと凝視していた。
「……お姉さんって、あの『七色の英雄』だったんですか」
「ちょっと待って、どうしてミッドに来たばかりの君がそんな恥ずかしい呼び名を知っているのかな!?」
「え、えっと……、オレのお世話になっている人、スゥちゃんっていうんですけど、その人の親友がそう呼んでいて、よくその人の話をしているってスゥちゃんが言っていました。
なんでも、その人のお兄さんが危ないときにピクミンに助けられたからだって……」
「……じゃあピクミンのことも知っているのね?」
「は、はい。まさかあんなことができるとは思ってませんでしたけど」
「(またそんな感じなのか…なんでどいつもこいつも私を英雄なんかにしたいのやら……。)
そ、そう。じゃあそのスゥちゃんによく言っておいて。私はそんな中二みたいな名前はぜぇ~~~~~~~~~ったいに!! お断りだ!! って」
「は、はい……(そんなに嫌なのか……?)」
「……ふう、じゃあこれから、私があなたと一緒にそのスゥちゃんっていう人を探してあげるわね」
「え!? い、いいんですか!?」
「ええ、もういいのよ。休日は十分に楽しんだ後で、家に帰ってる途中だったし……それに、この子たちと一緒に入れる時間はもう終わりだしね」
「え?」
理央がそう言った瞬間、突然ピクミンたちはピクン、と何かに反応したかのように動いたかと思うと、みんな同じ方向に向かって走っていった。
「あっ! ピ、ピクミンたちが勝手に! 早く追いかけないと!」
「大丈夫よ、いつものことだから」
「え?」
「ピクミンはね、日没の時間帯になると自分のオニオンに帰る習性があるの。
だからね、いま私が連れていたピクミンたちも、地上部隊のほうにいるピクミンたちも、ミッドにいるピクミンたちはすべてこの時間帯になるとオニオンがある地上本部のほうに急いで帰っていくの。毎日、ね」
「そ、そうなんですか!?」
確かにもう夕日が沈み始めている時間だ。ピクミンが日没になるとオニオンに帰る習性を持つのならば、帰るのも当然の時間帯かもしれない。
「……それにしてはほかのピクミンを見かけませんけど」
「ああ、今はミッド中の地下にピクミンがオニオンに帰るためのパイプが張り巡らされているから、そこを通って帰っているのよ。
ちなみにそのパイプを作ったのもピクミンたちよ♪」
「…………ピクミンっていったい何なんですか」
「ピクミンは天使よ!!」
「いきなりおかしくなりましたね!
………でも、本当にありがとうございました。命を救ってもらっただけじゃなくて、励ましくださって。
おかげでオレ、今まで以上に前を向いて生きていくことができそうです」
「いいのよ、別に。子供を助けるのは、大人として当然の役目なんだから。
……ただ、最後にこれだけは言わせてね」
「え~と、なんでしょうか」
「いい? さっきも言ったように、世の中には悲しいこと、苦しいことがたくさんあるように、楽しいこと、うれしいこともたくさんあるの。
でもね、自分の命はどう頑張ってもひとつしかないの。………レイガイハナイコトハナインダケド」
「え? 何ですか?」
「ううん、何でもないわ……だから自分の命を大切にしなさい。命さえあれば、また頑張ることができるんだから……。
それに、亡くなった町の人達も、あなたには生きて幸せになってほしいと願っているはずよ」
「……ありがとう、ございます。」
「ほら、もう泣かないの。さあ、そろそろそのスゥちゃんを探しに行くわよ。
ひとりになって大変だったんだぞーって怒ってあげなきゃ」
「……ぐすっ、ふふっ、はい♪」
「ふふ、その調子♪ ………そういえば、あなたの名前をまだ聞いてなかったわね。
なんてお名前か、聞かせてもらえる?」
「……あ、はい。オレの名前は……
トーマ、トーマ・アヴェニールです!」
一方そのころ、地上本部では……
「おい、まだアオバ一等陸佐はいらっしゃらないのか?」
「まあ待て、今日はあの人はピクミンと一緒に休日を楽しんだはずなんだ。
だったら、ピクミンをオニオンに返すためにここに戻ってくるはずだろう?」
「……そうだな! 帰ってきたら今度こそ日頃の俺たちの感謝の気持ちを伝えないとな!」
「そうよね! 私たちの思いをちゃんと伝えないとね!」
「そうだよね、あの人のおかげで僕たちの負担もかなり減ってるんだし……あれ?」
「どうした?」
「ピクミンが全色1匹ずつ……合計7匹でかたまって帰ってきた。珍しいね」
「本当だね……って、あれは今日アオバ一等陸佐が連れていたピクミンじゃないか!」
「「「ナ、ナンダッテー!!」」」
「そ、それじゃあアオバ一佐はここにもう来ないの!?」
「そ、そんな……そんなことって……!」
「クッ! じゃあわざわざ午後から仕事さぼってここで見張っていたのは全部無駄だったのかよ!」
「俺なんて今日一日サボって結果がこれだぞ……!
くそぅ! なんで俺たちの思いを受け取ってくれないんですか!? アオバ一等陸佐ぁーー!!!」
「 お前たち、何をしている……? 」
ビクゥ!! ……ぎぎぎぎぎぎ……
「「「「「ゲエッ!! レジアス!!!」」」」」」
「ゲエッ!!、とはなんだゲェッ!!とは!! それに上官を呼び捨てにするとは!!
貴様ら徹夜で残業決定だぁぁぁぁ!!!!」
「「「「「ひ、ひええぇぇぇぇ!!!」」」」」
お☆し☆ま☆い
理央の休日はいかがだったでしょうか? 今回は原作主人公を登場させてみました(といっても、Strikersではありませんが)。
理央が、見方によってはクサい、偽善的だと思われるような発言をしましたが、その場面を見て不愉快になった方がいたら、申し訳ありません。オリ主とトーマを話させてみたくて書いてしまいました。本当にすみませんでした。
やはり今回の話も無駄に長くなってしまいました。シリアスをもっと削った方がよかったのではないかと思います。次の話を書く際は、短めにしてみようかと思います。今回の話も皆様に楽しんでいただければ幸いです。
これにて今回の話も本当におしまいです。皆さま、ここまでお読みいただき誠にありがとうございました。