たぶんほかに類を見ない特典をもっての転生   作:osero11

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 今回は、理央となのはの休日に起こった出来事についての話ですが、理央となのはの会話シーンこそ長いですが、実際に休日を楽しんでいる場面は書けませんでした。
 理央となのはのキャッキャッウフフな休日を期待していた方、申し訳ございません。
 代わりに、ピクミンの戦闘描写(?)を今回書くことが出来ましたので、どうかそちらの方をお楽しみください。

 また、今回は過激な表現も多少含まれておりますので、その点はご注意ください。
 相手を精神的に追い詰める描写が苦手だという方は、どうぞご遠慮ください。
 そういうものは大丈夫だという方のみ、どうぞご覧ください。

 それでは、本編の方をどうぞ。



2016/ 1/21 修正しました。
2016/ 3/12 再び修正しました。
2016/ 4/ 8 会話文の修正を行いました。
2016/ 9/16 改行などの修正を加えました。


理央となのは 新部隊の話と理央の能力

 ここは管理局ミッドチルダ地上本部にある、青葉理央一等陸佐の仕事部屋。休日を利用して親友である理央を訪ねていた高町なのははそこにいた。

 そして理央の方も今日の分の仕事をすべて終わらせたため、久しぶりに二人で出かけるところだった。

 

 なのははピクミンを連れ部屋の出口へ向かう理央を急いで追っていったが、それがあだになった。出口の前で理央が急に立ち止まったのだ。

 まさかいざ出ようとするところで急に立ち止まられるとは思っていなかったため、なのはは出口の方へ、つまりは理央の方へ勢いよく突っ込んでいき、

 

「あうっ!!」

 

 ドカッ!!という音を立てて、理央に衝突した。

 

「わっ!!」

 

 しかもすぐ前にはドアがあったため、理央は押された反動でガツン!!と顔をおもいっきりドアにぶつけてしまった。

 

「ぶべっ!!」

 

 理央の口から女の子らしくない声が出てしまったが、彼女の精神年齢はもう50歳近くなので、彼女にとっては今更屁でもないだろう。

(ちなみに今更だが、理央本人の希望でここの部屋のドアは自動ではなく、手動だ。理由? 自動にしていたら、勝手にどんどん入ってくる迷惑な人たちがいるからだ)

 

「…………」

 

「……ご、ごめん理央ちゃん……まさか突然立ち止まるとは思わなかったから……。

 どうしてわざわざ立ち止まったのか教えてくれないかな……?」

 

 理央はぶつけた鼻のあたりに手をあて軽い回復魔法を使いながら、なのはをにらんだ。

 なのははその視線に申し訳なさと若干のおびえを感じながら謝罪の言葉を言い、そのうえでどうして急に立ち止まったのかを尋ねた。

 

「……私自身に変身魔法をかけるためよ」

 

「え? どうしてわざわざ変身魔法を?」

 

「今日は一日中部屋で仕事したりピクミンたちと遊ぶ予定だったからその必要はなかったんだけどね……。

 この姿のまま部屋を出てみなさい、すぐに()()()()がやってきて騒いで、もう出かけるなんていう予定が吹っ飛ぶに決まっているわ」

 

「……ああ、うん。わかったよ。確かにそうだね」

 

 あいつらとは誰か、もう言うまでもないだろう。地上本部にて理央を、死後に英霊にしたいのかというほどの勢いで英雄扱いする魔導師(バーサーカー)たちである。

 なのはと理央は、そろってため息をついた。空のエースオブエースと陸の英雄、この二人でもお手上げの状態になるほど彼らの勢いはものすごいのだ。

 

「で、あいつらの目を欺くために、私が『青葉理央』として認識されない様に変身魔法を使うってわけ」

 

 そう言うと理央はドルフィンに命令し、変身魔法を使った。

 するとたちまち理央の姿は別人のものへと変わっていった。

 変身魔法の光は消えていき、なのはは理央が変身した姿を見ることが出来るようになった。

 理央の今の姿は、性別こそ変わっていないようだが、執務官の黒い制服を着ていて、スタイルもよくなっているような感じがする。

 漆黒のように黒い長髪は、流れるような金髪になっていて、瞳の色も黒から赤へと変わっていた。

 なるほど、その姿はどこからどうみても理央ちゃんとは思えな……

 

「……って、その姿、フェイトちゃんのだよね!?」

 

 そう、今の理央の姿は、なのはの親友であるフェイト・テスタロッサにそっくりである。

 しかし、フェイトのような儚げながらも優しそうな雰囲気ではなく、理央のどこか冷めたような雰囲気をまとっているため、不自然さがどうしても目立ってしまう。

 

「だって、あなただってエースオブエースとして局内では有名なのよ? 

 普通の局員の変装をしたとしても一緒にいるあなたが有名な分、結局気を引くことになるじゃない。

 その際、ただの局員がどうしてあなたと一緒に出掛けるのかって、今度はそっちの意味で私が騒がれることになるでしょ。

 だったら、テキトーに決めた格好よりもあなたと一緒にいるイメージが局内で一番自然なフェイトの恰好をした方が、ある程度目立つけどよっぽどましなのよ」

 

「そ、そんなに私とフェイトちゃんって一緒にいるのかな……。

 たしかにプライベートではよく会うかもしれないけど……」

 

「そのプライベートでの印象が局内で強いんでしょう。

 あなたたちが休日はよく一緒にいることが多いって地上部隊(こっち)にも伝わってくるんだから……。

 挙句の果てに、『あの二人はレズカップルなんだ』っていう噂まで出ているのよ」

 

「うっ!! ……た、確かに、薄々そんな噂があるとは思っていたけど……。

 うう、フェイトちゃんの恰好で言われると複雑だよ……」

 

 これは余談だが、本局では一部の局員たちの間で『なのフェイ』と『フェイなの』、どちらが至高にふさわしいか激しい論争が繰り広げられているという。

 ちなみに、これはなのははもちろん理央も知らないことだが、本局、地上本部にかかわらず『理央なの』派閥と『なの理央』派閥が、管理局における【薄い本 百合カップリング】の覇権をめぐって日々争っているという。

(なお、本人たちには全くその気はない。ないったらない)

 

「じゃあ、気を取り直して出かけましょうか。おいで、ピクミンたち~♪」

 

「なんか納得いかないよ……」

 

 こうして、ようやく彼女たちは部屋を出て、遊びに出掛けたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 部屋を出て、地上本部を出た理央たちは町へとくりだしていた。

 途中理央たちを見掛けた局員たちは、局内でも有数のエースたちの姿を見てある程度は興奮していたが、理央本人を見掛けたときのような激しい反応は見せなかったので、理央がフェイトの恰好をしたのは正解と言えるだろう。

 

「じゃあ、さっそく休日を楽しんじゃいましょう」

 

「その前にフェイトちゃんの変装を解こうよ。もうこの違和感に耐えられそうにないよ……」

 

 なのははもう、違和感バリバリのフェイトの存在に耐えきれなくなっていた。

 ああそうね、と理央は返事してからドルフィンに変身魔法を解いてもらった。

 長い金色の髪は黒く、赤い瞳も黒くなり、そこにいたのはいつも通りの理央の姿であった。

 理央の変装が解けたのを見て、なのはは安堵のため息をもらした

 

「はあ~……やっと戻ってくれた。

 理央ちゃんが変装しているとわかっていても、やっぱりあんな感じのフェイトちゃんは見ていられなかったよ~」

 

「確かに私とフェイトじゃ性格とかが違い過ぎるからそう言われても仕方ないわね……。」 まあ、それは置いといて、まずはどこに行きましょうか?」

 

「え? う~ん……まさか出かけることになるとは思わなかったから考えてなかったけど……とりあえず一緒に買い物してみたいかな。

 今まで理央ちゃんと出かけたときのことをよく思い返してみると、理央ちゃんと一緒に買い物とか楽しんだことってそんなにないし……」

 

「私が買い物をそんなに楽しむような性格じゃないからね、それはきっと。

 ……じゃあ近くにデパートがあるから、そこにでも行きましょうか」

 

「うん、そうだね」

 

 理央となのははこれから行く目的地をデパートに決め、そこまでの道を歩き始めた。

 その後ろにはピクミンたちが50匹あまりついてくる。ときどき転んだりするピクミンもいるが、すぐに立ち上がってこちらを追ってくる。

 そんなピクミンたちの様子を、理央は時々後ろを振り返りながら確認し、顔をにやけさせていた。

 

「……理央ちゃん、本当にピクミンのことが好きなんだね」

 

「というより愛しているわね、確実に。

 もうピクミンがいてくれるだけで人生は虹色のバラ色よ!」

 

「虹色のバラ色って……七色なのか一色なのかはっきりさせてよ……。

 私が初めてピクミンのことを知った時もそんな調子だったような気がするよ……」

 

「ああ、あの時の事? ……あの時は大変だったわよね~、どっかの誰かさんが『友達に隠し事なんてひどいよ!!』って怒って、そのままへそを曲げちゃって、機嫌直すのに骨を折ったことがまるで昨日のことのように感じられるわ~」

 

「うっ!! ……だ、だって本当にショックだったんだよ! 

 理央ちゃんに隠し事されて……」

 

「私がリンディさんから話を聞くまで、あなたが魔法を使っていたことやジュエルシードを集めていたことを知らなかったんだけど?」

 

「うっ!! ……うぅぅぅ…………」

 

「はいはい、悪かったからそんな顔しないの。

 ……まったく、ちょっといじくるとすぐそんなふうになるのは相変わらずよね」

 

「うぅ……いつまでたっても理央ちゃんにかなう気がしないよぅ……」

 

「(精神年齢的に30歳も年下の相手に負けたらショックで寝込んじゃうわよ。)

 そんなわけないじゃない、魔力量や魔導師としてのセンスはあなたの方がずっと上なのよ。そういう意味では私の方があなたにかなわないわよ」

 

「……前に模擬戦をやった時に、圧勝してたよね? 

 ジュエルシード事件の時だって、理央ちゃんも協力し始めてから、一気に解決につながってったし……」

 

「あれは羽ピクミンを1万匹くらい連れてた時の話でしょう? 単体としての私とあなたでは、計り知れない差があるのをいい加減理解しなさい。

 それにジュエルシード事件だって、私がなんやかんやで巻き込まれた時にはもうほとんど解決し始めていたじゃないの」

 

「でも……」

 

「そう言えば、ジュエルシード事件にはもう二人、あなたと私とユーノ以外にも解決のために協力を申し出てたじゃない? 闇の書事件にも出てたみたいだけど、あんまり接点がないから忘れちゃったわ。

 その二人って確か魔力量がSSSランク並にあったわよね? その二人はどうしてるの?」

 

「…………」

 

「? どうしたの?」

 

「……ごめん、理央ちゃん……。その二人の話はあんまりしたくないの……」

 

「……うん、事情はよくわからないけど、なんとなく今のあなたからシンパシーを感じる。

 私の胃を痛ませるヤツらに苦しむ私と今のあなたが重なって見えるわ」

 

「うん、たぶんそれであってる。

 ……理央ちゃんみたいに、なんか、直接的では……ないかなー?と、思うんだけど……なんか……ね……」

 

「……お互い、頑張りましょう」

 

「……うん」

 

 なんとなくお互いを励ましあった二人であった。

 彼女たちが話題にしている二人とはいったい何者なのか? どんな人物なのか? それはまだ誰にもわからない……。

 

 出してはいけないことを話題にしてしまったため、テンションが下がっていた理央となのはだったが、明るくなりそうな話の内容を思い出したため、理央はなのはに話しかけた。

 

「そう言えば、新部隊に出向になるんですってね」

 

「え? ……あ、あぁ! うん! そうだよ! 

 はやてちゃんの新部隊! 時空管理局本局、遺失物管理部、『機動六課』!」

 

「まさかはやてが自分の部隊をね~……。

 いろいろコネとか使わないと、到底無理そうな年齢での部隊設立だと思うんだけど?」

 

「あはは……。確かにリンディさんやクロノくん、それに聖王教会のカリム・グラシア理事が後見人になってくれているんだけどね……。

 でもはやてちゃん自身も結構頑張ってたんだよ?」

 

「まあ、それは大体わかるけど……それでもやっぱりちょっと異常でしょ」

 

「上級キャリア試験にも合格してるんだから、そこまで変だとは思わないけど……。

 フェイトちゃんやヴィータちゃん、シグナムさんも機動六課に来るんだよ。

 みんな、はやてちゃんの部隊で一緒に働けるのを楽しみにしているんだ。

 ……この前の事件で、危うくナシになるところだったけど」

 

「ん? 何か言った?」

 

「う、ううん! なんでもないよ!」

 

「ならいいけど……。にしても、オーバーSランクの魔導師が3人に、ニアSランクが少なくとも2人……レジアス中将が聞いたら、間違いなく切れるわね。『優秀な魔導師の無駄遣いだー!!』って……。

 でもそのメンツだと、部隊ごとに決まっている保有魔導師ランクの総計規模を大きく上回ると思うんだけど……」

 

「ああ、そのことなら大丈夫だよ。六課に入るときに、私やフェイトちゃんにはやてちゃん、シグナムさんにヴィータちゃんには魔力の出力リミッターがかけられて、私たちの魔導師ランクを下げることでその条件はクリアされる予定だから。能力限定っていうんだけどね」

 

「……ちなみに、だいたいどのくらい下げる予定なの?」

 

「えっと……はやてちゃんは4ランクダウンで、私やフェイトちゃんとかの隊長たちはだいたい2ランクダウンになる予定かな。

 だから、はやてちゃんはAランクに、私たちはAAランクくらいになると思う」

 

「……本当に無駄遣いね。いくら親友だからって、そんなに優秀な魔導師たちを一つの部隊に集めて、しかもそんなに魔導師ランクを下げるなんて……。

 ピクミンがいるとはいえ、いまだ地上本部での優秀な魔導師の不足に悩むレジアス中将が聞いたら発狂するんじゃないかしら」

 

「あ、あはは……。で、でも、主に現場で活動する私たち隊長たちのリミッターははやてちゃんの許可で解除させてもらえるし、はやてちゃんのリミッターだって、直属の上司のクロノくんやカリム・グラシアさんが許可してくれれば解除させてもらえるんだよ。

 だからそんなに無駄遣いしてるってわけじゃ……」

 

「…………」

 

「理央ちゃん?」

 

 なのはが六課における能力限定について話していた時に、理央は突然黙り込んでしまった。なのははそのことに疑問を覚えるが、理央はなにやら神妙な顔をしたまま一言も発しない。

 そのまましばらくたって、理央は歩みを止めてなのはのほうに向き合った。

 なのはは驚いて立ち止まり、理央のほうを見てみたが、理央は真剣な顔をしたまま言葉を紡ぎだした。

 

「…………なのは」

 

「な、なにかな? 理央ちゃん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「機動六課について、なにか隠していることがあるんじゃないの? 例えば、設立目的とか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………え?」

 

 なのはは、一瞬何を言われたかわからなかった。

 確かになのはは六課への出向を決めるときに、ほかの機動課のようなロストロギアの回収と管理が目的であるというのは建前で、本当の設立目的は別にあるとはやてから話を聞いていた。

 しかし、それなりの交流関係を築いているとはいえ、はやてが地上部隊の英雄としてあがめられている理央に本局所属の部隊へ出向の誘いをするとは到底考えられなかったので、理央はそのことを全く知らないとなのはは思っていたのだ。

 

 実際、理央には機動六課への出向の誘いはきていないし、あったとしてもレジアス中将あたりが断固拒否するだろう。

 にも関わらず、理央は機動六課が秘密を抱えていることに気づいた。それはなのはにとってはあまりにも予想外すぎることだった。

 驚きで固まるなのはに、理央はさらに続けて言う。

 

「管理局内でもほんの一握りしかいないSランク魔導師を一つの部隊に三人、さらに付け加えるならニアSランクも二人も所属させてる時点で十分戦力が異常……。

 魔力の出力リミッターをつけて保有ランクをうまくごまかしているみたいだけど、それも部隊長や後見人の許可で解除可能……」

 

「り、理央ちゃん……?」

 

「あとこれは偶然聞いた話なんだけど、本局所属なのにミッドチルダ地上本部(うち)の管轄であるこのミッド地上に部隊が置かれるんでしょう? 

 “陸”と“海”の間には確執があって、レジアス中将も“海”を毛嫌いしてるのに、わざわざそんなことをするなんて、“陸”に対する嫌がらせとかははやてのことだからないと思うから、よっぽど深い事情があるのね………。

 それこそ、さっき言った異常な戦力のことも考えると……」

 

 

 

 

 

 

 まるで、ミッド地上(ここ)でとんでもない事件が起きるってわかってるみたいに……。

 

 

 

 

 

 

 なのはは、ただただ驚愕するしかなかった。部隊に入る自分でさえ、本当の目的は詳しくは知らされていなかったのに、ただ部隊の情報について少し聞いただけの理央は、当事者である自分よりも真実に近いと思われる推測を立てたのだ。

 

 なのははあらためて、理央の洞察力、いや、頭の回転の良さを思い知ったが、そんななのはに対し理央はさらに言葉をつづけた。

 

「ピクミンを過信していると思われるかもしれないけど、今の地上の平和は、ほとんどピクミンのおかげで成り立っていると私は思っているわ。

 戦力としてだって、今50億のピクミンが各地で働いているうえに、オニオンの方にもなにかあった時のためにもう50億のピクミンが常に待機している。

 それでも対処しきれないほどの大きな事件を、はやては何かしらの方法で予知した。

 だからこそ、もしもの時に精鋭たちでその事件を解決するために、機動六課を地上に設立しようとしている、私はそう考えているわ」

 

「え? で、でも、はやてちゃんは自分の部隊を持ちたいって言ってたから、それが理由なんじゃ……」

 

「だとしても、わざわざ自分の部隊をこんな突っ込みどころ満載の部隊にする理由にはならないでしょう?」

 

 なのははごまかすために苦し紛れの言い訳をしたが、理央にはやはり通じないようだ。

 理央は少し悲しそうに顔をしかめてから、なのはに諭すように話をつづけた。

 

「お願いだから、自分からそんな危険なことにあいにいかないでちょうだい。

 ただでさえあなたは11歳の時に撃墜されて大けがを負っているのよ。今はもう完治しているように見えるけど、いったいどこに後遺症が残っているのかわからないのよ。いざっていう時にその影響が出たら、最悪命を落とす可能性が高いわ。

 親友の役に立ちたいっていうあなたの気持ちはわかるけど、自分のことをちゃんと考えて、部隊に入るかどうかを今からでも考え直した方がいいと私は思っているわ」

 

 なのはは、理央の話を黙って聞いていた。

 理央の言葉一つ一つが、なのはの心に確かなぬくもりを与えていた。理央が自分のことを、本当に心配してくれている。そのことはなのはにとってとても嬉しいことだったのだ。

 そんな喜びを心の中でかみしめながらも、なのはは答えた。

 

「……そうだね、私はそんなに詳しくはやてちゃんからは伝えられていなかったけど、よく考えてみるとそういう部隊なんじゃないかって、そう思えてきたよ……。

 確かに今度の部隊では、また危険な目にあうかもしれない」

 

「だったら……!」

 

「それでも」

 

 なのはは理央の目を見据えて、はっきりと言った。

 

「そうだとしても、私は機動六課に行くよ。はやてちゃんのためだけじゃない、今後起きるかもしれないその大きな事件で苦しむ人たちを救えるのなら、危険な目にまたあうとしても、自分の力を出し惜しみしたくないから……」

 

 理央はなのはの返答を聞き、目を見開いたが、ほんの数秒もしないうちに納得したかのように目をゆっくりと閉じ、フッとすこし笑って口を開いた。

 

「……そうよね、あなたは誰かのためになるなら、自分が危険な目にあっても必ずやり遂げようとする娘だったわよね。私と友達になった時だって、わた……理香さんにお願いされてのことだったし」

 

「あ、あはは……ずいぶん昔のことだね……。

 でも、それを抜きにしても理央ちゃんと友達になれて本当によかったと思っているんだよ。私と家族の間にあった溝を埋めてくれたのは理央ちゃんなんだもん」 

 

「それも結構昔の話よね……。まあ、いいわ。あなたの意志を変えるのは到底無理そうだし……機動六課に行くのを止めたりはしないわ。

 ……ただし! けがだけはしない様に気をつけること! あなたがけがをしたら、ご家族やフェイトたちが心配するんだからね」

 

「は、はい……」

 

「……ふう、言いたいことも言ったし、そろそろデパートにつきそうだし、買い物を楽しむことにしましょうか。

 ……そうだ、せっかくだからあなたやフェイトの出向祝いのプレゼントを買いましょう。

 あと、はやてたちにも部隊設立のお祝いにプレゼントを用意しましょうか」

 

「あ! それいいね! きっとみんな喜ぶよ!」

 

「フフフ……それにしても、平日なのにここら辺はやけに人が多いわね…。今日はセールでもあるのかしら……。

 はっ!! まさかついに『ピクミン4』の発売がっ!!?」

 

「『ピクミン4』ってなんなの理央ちゃん!!? 

 ……それにしても、ほんとに人が多いね……。なにかあったのかな?」

 

 理央やなのはがデパートの近くまで来たとき、デパートの周りには大勢の人がいた。その大半がデパートの方を向いており、隣にいる人と何かを話したり、手に持っている携帯端末をデパートの方に向けていたりしていた。

 

 よく見ると、デパートや駐車場の出入り口には、魔力で構成された赤いテープ、管理局の方で使われる、関係者以外は入れないようにする『進入禁止』のテープが張られている。それを確認した理央となのはは、なにかしらの事件だとすぐに判断して、近くにいるであろう、この事件を担当している管理局員たちを探すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 10分くらいして、対策本部と思われる場所を発見した二人は、事件解決のために責任者と思われる人物に名乗り出ていた。

 

「時空管理局本局所属、戦技教導隊の高町なのは一等空尉です。

 偶然こちらに来たのですが、事件解決に協力させていただけませんか?」

 

「時空管理局ミッドチルダ地上本部所属の青葉理央一等陸佐です。

 高町一尉と同じく偶然こちらに来たのですが、なにか協力できることはありませんか」

 

「お、おお! 本局のエースオブエースに、地上本部の英雄が来て下さるとは有り難い! こちらこそご協力していただけることに感謝します! 実はですね……」

 

 なのはと理央の顔がよく知られているだけに、向こうも協力に対しては歓迎的のようだ。その責任者は理央たちに、事件の内容について話し始めた……。

 

「……つまり、今まで別の世界でテロ活動を行っていた犯罪グループが、今回このミッドの、あのデパートでテロを行っているというわけですね」

 

「ええ……お察しだとは思いますが、テロが起こった際デパートの中には大勢の民間人がいまして、やつらに人質として彼らが捕まっている状態なので、うかつに手が出せない状態でして……」

 

「相手から、なにかしらの要求はありましたか?」

 

「いいえ、まだ何も……」

 

「……別世界で今まで活動していたってことは、ピクミンについてもあんまり知らなかったってことね。道理でテロなんて起こせるわけだわ」

 

「でもこの状況は少しまずいと思うよ。人質がいるから、下手に手を出すこともできないし……」

 

 彼からある程度、事件の概要を聞き終わった理央たちは、どうすればいいのかさっそく話し始めた。

 

「……もしも非殺傷設定で建物を壊すことがなかったら、なのはのスターライトブレイカーで一気に決められるんだけどね……」

 

「人質ごと撃っちゃうの!?」

 

「非殺傷設定が一番役に立つところはそこだと思うんだけどね……。

 まあ、トラウマは残るでしょうけど。具体的に言うと、ピンク色を目にするたびに心停止するくらいには」

 

「ひどいよ理央ちゃん!!」

 

「冗談はさておき「冗談!? ホントに冗談だよね理央ちゃん!!?」落ち着きなさい、なのは。デパートの詳しい見取り図とかはありますか?」

 

「あ、はい。こちらになります」

 

 責任者の彼は、理央にデパートの見取り図を渡した。理央はそれをじっと見始めたが、「これじゃちょっと厳しいな」とか「やっぱり天井裏から行けば……」とかぶつぶつ言い始めた。はたから見ると危ない人に見えなくもないが、その場にいた全員は知っていた。

 理央はただ、地上本部にピクミンをもたらしただけで英雄と呼ばれているわけではない。ピクミンをうまく指揮し、多くの事件を解決していったことで英雄と呼ばれるようになったことを彼らは知っていたのだ。

 

「あの、もう一ついいですか?」

 

「あ、はい。なんでしょうか」

 

「もっと詳しい設計図を用意してもらえませんか。配水管とか、電気系統とか、天井裏みたいな細かな隙間とかもわかりそうなやつも」

 

「は?」

 

 思わず責任者である彼はあっけにとられてしまった。そんなところを通れるわけではないのに、聞いてどうしようというのか、彼だけではなくその周りのいるほとんどの人物には全く理解できなかった。

 しかし、理央と長い付き合いであるなのはだけは、理央がどうしてそんなことを聞くのかわかっていた。

 理央は口の端を吊り上げながら言葉を発した。

 

「私にいい考えがあるんです。それと、近くの陸士部隊にも連絡をお願いします」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここはデパート内部の最上階、そこでテロリストたちは人質をとって立てこもっていた。それはこの階だけではなく、下の階も同様である。

 

 彼らがテロを起こす理由、それはいたって単純で、時空管理局を打倒して自分たちが全次元世界の支配者になり替わるためである。無論、戦力差ではかなうはずもないので、こうして人質をとり管理局に対して要求することによって潰そうと考えているのだ。

 

 しかし彼らはこれまで同じようなテロを別世界にて何度も繰り返していたが、そのたびに各次元世界の地上部隊によって妨害され、目的を達成することが出来ず、失敗続きであった。

 それですっかり下がってしまった仲間たちの士気を上げるために、彼らのリーダーは管理局のおひざ元であるミッドにて今回のテロを起こすことを画策したのだ。

 

 今回のテロは事前準備を念入りにおこなったため、比較的順調に進んでいた。あとはこちら側から管理局に対して、全権を明け渡すように要求するだけ。

 向こうが法と平和の守護者を名乗っている以上、人質を無視してこの要求に応えないはずはないだろうと、テロリストのだれもが思っていた。彼らのだれもが、自分たちの勝利を確信していた。

 

 

 

 

 

 ――これから、絶望のどん底に落とされるとも知らずに。

 

 

 

 

 

「っつ!!」

 

 最上階にて、武器(デバイス)を右手に持ちながら人質を見張っていたテロリストの一人が、突然自分の首筋を左手で抑え苦悶の声を発した。その顔は一瞬苦痛に歪んだが、すぐに不機嫌そうな表情に変わった。

 男の様子を見ていた仲間の一人が、彼に声をかける。

 

「どうした?」

 

「いや……首筋に急に痛みが走って……ちょっと首のうしろの方を見てくれないか?」

 

「なに? わかった」

 

「どうだ? なんかわかるか?」

 

「いや……とくになにもないが……」

 

「そうか? 気のせいだったのか……?」

 

「しっかりしろよ。今回これさえ乗り切れば、管理局に代わって俺たちが支配者になれるんだからな」

 

「わかってるよ。……へへ、今までさんざん邪魔されてきたが、ついに俺たちが管理局に勝利できるんだな。

 勝った暁には、管理局の連中をこき使ってやろうぜ」

 

「ああ、俺たちが苦汁をなめさせられた分、あいつらに存分に仕返ししてやるさ。

 ……そういえば、そろそろリーダーを含めたほかのやつらとの定時連絡の時間だな。おい、俺が連絡するから、お前は人質を見張っといてくれ」

 

「ああ、わかった」

 

 声をかけた方の男が、見張りをもう一人の方に任せて、念話で仲間と交信し始めた。

 

《こちらシグマ。アルファ、そっちの様子はどうだ?》

 

《こ、こちらアルファ!! た、助けてくれ!!》

 

《ど、どうした!!? アルファ!? 何か問題があったか!!?》

 

《ば、バケモンが!! 小人のバケモンがうじゃうじゃわいてきやがる!! 

た、助けてくれ、たす、ギャアあああああああああああああああああああああああああああ………》

 

ブツッ

 

《お、おい!! どうした!!? アルファ!! 応答しろ!! アルファ!!》

 

 1階を守っていた仲間からの念話の内容が切羽詰まった様子であったことと、突然念話が切れたことに動揺するテロリスト。何が起きたのかわからないという不安を抱えながらも、彼はほかの仲間とも交信を始めた。

 

《こちらシグマ!! アルファの方で何か問題が生じたらしい!! ベータ!! ガンマ!! そっちでアルファの状況を把握してくれ!!》

 

《や、やめろぉ……! こっちに、こっちに来るなあああああああああああああああああ!!》

 

《ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさひいぃぃぃぃ!!》

 

「ひぃっ!!」

 

 仲間からの気が狂ったような内容の念話を受信して、思わずテロリストは悲鳴を上げた。

 もはや不安は、得体のしれないモノに対する恐怖に変わっていた。さっきまで感じていた勝利の予感は、今や濃厚な恐怖に塗りつぶされていた。

 その後も彼は、無事な者はいないかどうか確認するため、仲間たちに念話で話しかけ続けた。

 

《おい!! 誰でもいい!! 状況を把握できる奴、いや、無事な奴はいないのか!!?》

 

《ひぎゃああああ!!》《ひいいいいい!!》《ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!》《ウボァー》《ひでぶ!!》《ぐふっ!》《目が、目がああああ!!》《○×△□=¥~~~~!!》《くぇrちゅいおpppppp!!》《あsdfghjklllllll!!》《zxcvbんmmmmmmm!!》

 

 テロリストの男はあまりにも多くの断末魔に、おもわず腰を抜かしてしまった。ドンッとしりもちをついた音が最上階に響いた。

 もはや彼の心には余裕なんてものはなかった。今まで管理局に何度も作戦を妨害されてはきたが、こんな状況に追い込まれたのは初めてだった。念話で通信できた相手は、例外なくパニック状態。発狂したのも何人かいるだろう。

 

(……ミッドチルダの管理局のやつらは、化け物を保持しているのか……? 

 この分だと他の階にいるリーダーも、他の奴らもやられているだろう……俺たちだけでもなんとか助けてもらうように交渉しないと……)

 

 もはやテロリストの彼には、仲間のことなぞどうでもよかった。管理局員ならともかく得体のしれないモノ相手に戦えるほど、彼は仲間を大事にできるような人間ではなかったのだ。

 そして彼は急いで立ち上がり、もう一人の仲間に他の階でのこの異常を伝えて、人質を使ってここから逃げ出そうと声をかけようとした時……

 

「!!? ……いっつ……!」

 

 首筋になにか、液状のものがかかったと思ったら、鋭い痛みをそこに感じた。いったい何が起きたのか、武器(デバイス)を持っている利き手とは逆の左手で痛みが走った箇所を触れてみたが、そこは濡れてすらいなかった。

 痛みももう治まっていたため、気のせいだと思って仲間に声をかける。

 

「おい! 他の階の奴らの様子が変だ!! いったん人質を使ってここから逃げだすぞ!!」

 

 その言葉に、捕まっていた客たちは主に二つの反応を見せた。もしかしたら助かるかもしれないという淡い期待を抱いた表情をする者と、このテロリストにさらわれるのではと恐怖を顔に出す者。

 そのうちがやがやと騒ぎ始めたので、テロリストは「うるせぇ!!」という怒号とともに近くにあった柱に向かってデバイスから魔力弾を発射し、柱を破壊した。そんな威嚇行為に客たちは恐怖の声を上げた。

 その男は舌打ちとともに彼らを一瞥すると、再度仲間に声をかけた。

 

「おい! お前も早く逃げだす準備をしろ!! 俺たち以外全員やられちまっているかもしれねえんだぞ!?」

 

「……か、体が……」

 

「あん?」

 

「体が、全く、動かねえんだよ……!! く、口は動かせるんだけどよ、ど、どうしても首から下が動かねえんだよ……!!」

 

「な、なにを言って……!?」

 

 瞬間、声をかけた男の体にも異常が現れた。口は動く。だが、首から下を動かすことが出来ない。腕も、脚も、指先に至るまで動かせない。背中や腹を動かして、姿勢を変えることもできない。首から下の、全身の筋肉がマヒしているのだ。

 こうして、おそらくデパート内で最後に残ったテロリストである彼ら()体を動かすことが出来なくなり、バケモノの餌食になるしか道はなくなったのであった。

 

 さっきまで自分たちの勝利を信じて疑わなかった男たちは、体が動かせないという現実にただただ恐怖し、絶望するしかなかった。

 しかも、さっきまで念話をしていた男は、これから来るかもしれないバケモノの存在をひどく恐れていた。仲間と同じ最期は送りたくない。あんなふうになりたくない。そうは考えていても、体はピクリとも動かない。

もはや恐怖で狂ってしまいかねないほど、男の心はかき乱されていた。

 

 

 

 

 

 ――そして、ついにソレは姿を現した。

 

 

 

 

 

「………………は?」

 

 ピョコッと階段から顔を出したのは、人型の生物だった。しかしその身長はせいぜい140センチくらいだ。

 全身は赤色で、目と鼻以外に人間に似通った特徴をその顔に見ることはできない。足も短かければ、腕も短い。頭頂部はまるでタワーのように天に向かって伸びており、そのてっぺんには葉っぱが一つついている。

 

「赤ピクミンだ!!」

 

 それを見た人質の中の一人の小さな子が、そう叫んだ。ほかの人質たちもそのピクミンの姿を見て、助かったと喜び始めている。

 しかし、ただ二人、テロリストの男たちだけが現状に混乱していた。

 なぜあんな珍妙な生き物がここにいるんだ? なぜ人質(こいつら)ピクミン(こいつ)の姿を見てこんなに喜んでるんだ? 頭の中ではどんどん疑問があふれてくる。

 そのうち、さっき逃げようとした男の頭の中にふと、ある一つの可能性が浮かんだ。

 

 

 ――もしかして、バケモンってこいつのこと?

 

 

「ぷっ、くくく、あはははははははははは!! ばっっっっっかじゃねーの!! こんなひょうきんな奴のどこがバケモンだっつーんだよ!!? 

 こーんなちんまいやつにやられた他の奴の気が知れねーぜ!! まあ、どうせそんだけ臆病な奴らだったってことなんだろーけどなぁ!!」

 

 男は、ピクミンがバケモンと呼ばれるだけの力を持っていないと思った。それもそうだろう、ピクミンの容姿は、お世辞でも凶暴とか凶悪とは言うことが出来ない。マスコットキャラクターぐらいにしか見えない。

 男は今まで、こんな生き物を恐れていた自分が滑稽に思えてしまい、大いに笑った。

 赤ピクミンと呼ばれたその生き物は、男の方へ走ってきた。その走り方もどこかしら可愛らしく、どう見てもバケモンと呼ばれるような生き物とは思えない。

 

「ああ!!? どうしたよ!!? まさか俺をどうにかするつもりなのか!? そんなちっこい体で!!? 

 無理無理!! てめーの攻撃なんて魔法使わなくても効かねーっつーの!!ぎゃはははははははは!!」

 

 男は、ピクミンを思いっきり笑い飛ばした。もう一人の方は、なにが起きているのか状況を全くつかめずにいて呆然としていた。

 男が笑い続ける中、ピクミンはついに男にたどり着き、しがみつき、ヤッという可愛らしい声とともに、頭を鞭のようにたたきつけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

                 ドカッ!!

 

 

 

 

 

 

 

「ふぐああああああああああああああああああああああああああ!!?」

 

 その直後、男は自分にたたきつけられた痛みに絶叫を上げた。まるでさっきまで笑い飛ばしていたのが嘘のように、体を動かせない彼は苦悶の表情を浮かべ、目から大粒の涙を、口からは唾液をこぼしながら、ただただイタイイタイと泣き叫んでいた。

 痛みで頭の中が真っ白になりそうな中、彼の頭には再び疑問があふれてくる。どうしてこんな奴の一撃でこんなにも痛みを感じる? こいつのどこにそんな力がある? そんな疑問があふれてくるが、それらはたったひとつの答えで解決された。

 

 

 ――そうか、こいつがバケモンだからか。

 

 

 男が痛みでもだえ苦しむ中、事態は彼らにとって最悪の形で収束し始める。

 

 階段から、大勢のピクミンが姿を現し始めたのだ。その数、5、10、20、30、40……そこまで確認して、男は絶望し、数えるのをやめた。

 たった1匹でもこれなのに、そんなに現れてどうしろというのか。耐えろというのか? 無理に決まっている。男は心の底からそう思った。

 しかし、それだけでは終わらなかった。

 

 上からゴトンという音が聞こえたので、なんとか首を傾けて上を見てみると、天井裏がいくつも外されていた。いや、それだけならまだいいだろう。外された後からピクミンたちがこちらに降りてくるのだ。

 そのピクミンたちは階段の方から上ってきたピクミンたちと合流して、テロリストたちを囲んだ。その数、ゆうに100匹いるだろう。

 

 もはやあわれなテロリストたちの心は、絶望で満たされていた。

 さっきまで見張りをしていた男など、顔面蒼白で、恐怖に染まった目でピクミンたちを見ながら、失禁までしていた。

 さっきまでピクミンを馬鹿にしていた男も、ピクミンに対して恐怖しか持っていなかった。ひょうきんだといったピクミンたちの顔が、無表情でこちらを、まるで獲物でも見ているような顔に見えて仕方がなかった。

 

 そして突然ビクンと反応したかと思うと、一斉にピクミンたちは中心にいるテロリストたちに向かって勢いよく走りだした。

 仲間の方は絶望と恐怖にまみれた断末魔を上げ、ピクミンを馬鹿にした男は、ピクミン(バケモン)から逃れたい一心で、叫び声を上げた。

 

「俺のそばに近寄るなああああああああああああああああああああああああ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 デパートで起こったテロは無事鎮圧した。けが人は多少いるようだが、死傷者や重傷者がいないのは幸運だったと理央たちは安堵した。

 まあ、犯人の方は精神的にそうとうなダメージを受けたが。

 

 今回理央がとった作戦は、ピクミンを遠距離から細かな指示を出して指揮し、ピクミンのみで犯人たちを捕まえるというものだった。

 

 まず、近くの陸士部隊からピクミンを必要な数だけ借りた。このとき重要なのは、白ピクミンがある程度いるということだ。白ピクミンは、犯人を無力化するのに大いに役立つためである。

 

 次に、エレベーターシャフトや配水管、電気やガス管などが配置されているわずかな空間や天井裏の空間などを通らせて、ピクミンたちを各階に侵入させた。人間が入れないような少しの隙間でも、人より体が小さく、柔軟なピクミンならではの侵入経路である。

 

 その後各階で、天井裏からテロリストをばれない様に確認した後、白ピクミンに指示を出して毒を首筋に垂らさせた。理央の白ピクミンは多種多様な毒を扱うことが出来、その中には肌に触れたらすぐに人体に吸収され、首から下をマヒさせる効果を持つ毒もある。今回使ったのがそれだ。

 この毒を使って、各階にいるテロリストたちを無効化していった。

 

 最後は物量押しである。相手が動けなくなったら一気にピクミンに攻撃、もとい確保をさせる。それと同時に人質の救助を行い、それが両方とも終わったら別の階の支援である。

 

 これは彼女のデバイス、ドルフィンがピクミン指揮において優れた補助機能を持ち合わせていたことに起因する。ドルフィンには、立体的に各色のピクミンがどこにいるのかを正確に表示する機能と、その1匹1匹に細かな指示を出せるようにする機能が備わっていた。

 これらの機能があったからこそ、理央はピクミンたちに巧みに指示を出し、事件を解決することが出来たのだ。

 

「……って言っても、そのマップみたいな機能はともかく、指示を詳しく出すことについては、理央ちゃんの指揮魔法の使い方がとても上手だからだと思うんだけど……」

 

「まあ、自分で言うのもなんだけど、ピクミンを指揮することに関しては誰にも負けないと自負しているわ」

 

 犯人が全員捕まり、人質も一人残らず解放されたことを確認した後、理央となのはは事件の後始末を対策本部の陸士たちに任せて、別のアパートへ買い物しに向かっていた。

 ちなみに事件の際に借りていたピクミンたちはちゃんと返しておいた。

 

「でも結局、私何の役にも立たなかったな~。

 ピクミンだけでの潜入作戦だったから、私が戦うわけにはいかないし、それ以外のことでもなにも出来ることはなかったし」

 

「もともと休日を楽しみに来てたんだから、気にしないの。

 それよりも、早く他のデパートに行ってプレゼントを買いましょう。

 おいで、ピクミンたち~♪今度こそ休みを楽しみましょう~♪」

 

「あっ! もう! 理央ちゃんはピクミンにかまい過ぎだよ~!! ちょっと待っててば~!!」

 

 理央はまたピクミンを連れて、なのはを置いていったまま歩き始めた。そんな理央を、なのはもまた走って追いかけるのだった。

 

 その後、理央となのはは無事プレゼントを買って、休日を存分に楽しんだという。

 




 理央となのはの休日はいかがだったでしょうか? ほとんど休日ではなかったですが、それなりに楽しめる内容になるようにしたつもりです。
 今回のテロの場面にて不快な気持ちになった方がいらっしゃったら、申し訳ございませんでした。

 この二人が休日を楽しんでいる場面は、ピクミンがほとんど関係なくなるので書かない予定なのですが、ある程度読者の皆様の方から希望がございましたら、番外編として書きたいと思います。

 次回は、原作では死亡してしまったクイントさんとのやり取りを、昔話を交えながら書きたいと思います。その際、プレシアやアリシアがどうやって生存したのかも明らかになると思いますので、どんな方法を使ったのか知りたいという方は是非ご覧ください。

 今回もおまけを最後に付け加えておきましたので、よろしかったらご覧ください。最後までお読みいただきありがとうございました。




 おまけ もしも理央の指揮官ぶりが奇跡を起こす0の人みたいだったら 




「W-2、マヒ毒発射」

ドピュッ! ウワ、カラダガウゴカナイ!

「B-7、水の魔力弾を」

ドパァッ! ウワ、ミズノマリョクダンダト!?

「Rグループはそのまま前進」

ドドドドドド! コイツラマリョクダンガキカネエ!

「これで……チェックだ」

ドカーン!! ワーユカガヌケター!!

「はははははははは!! やれるじゃないか!! 
 やれる! やれるぞ!! ブリタニアを倒すことが!!」

「理央ちゃん!!? どうしちゃったの!!? 突然人が変わっちゃったみたいになったけど大丈夫なの!!? ブリタニアって何なの!!? 正気に戻ってよ!! 
 理央ちゃん! 理央ちゃああああん!!」










 おまけ② はやてへのプレゼント




「主、青葉からなにやら宅配便で贈り物が……」

「贈り物? 理央ちゃんから? いったいなんやろ?」

「なんでも、新部隊設立を祝ってのプレゼントだと同封されてあった手紙に書いてありますが……」

「なんやって!? うわあ~、ほんまうれしいわ~。あのクールな理央ちゃんからっちゅうのが嬉しさを倍増させてくれるわ~。
 いったい何を送ってくれたんやろか~?」(バリバリ


 ₎狸の置物₍


「……そういえば、ナカジマ三佐って理央ちゃんの知り合いやっていう話を聞いたことあるなー……」

「あ、主……。! ま、まだ中に何かありますよ! ほら、これです!」


 ₎『PIKMIN Movies』のDVD(理央がもらったものを焼き増ししたもの。しかも『壊す
               なら映画館じゃなくてこっちにしてね♡』とご丁寧に書か
               れている)

「…………」

「……今日、飲みにいこか……」

「……はい……」

 このあと、めちゃくちゃやけ酒した。

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