たぶんほかに類を見ない特典をもっての転生   作:osero11

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 久しぶりにお読みになってくださった皆様、お久しぶりです。なんとか2月中に投稿することができました。今回もお読みいただき感謝いたします。

 はじめてお読みになった方、読んでいただきありがとうございます。
 一応、タグのほうをご覧になって、不愉快な要素が含まれていないかご確認ください。もし不快に感じる要素がおありでしたら、ブラウザバックのほうをお願いいたします。

 それではStrikersの章、はじまります。



2016/ 3/13 ダッシュなどを修正しました。
2016/ 9/16 改行などの修正を加えました。



Strikersの章
第一話 空への翼/それは突然の辞令なの?


 ちいさいころのあたしは、本当に、弱くて、泣き虫で。

 

 悲しいこととか、辛いことに、いつもうずくまって。

 

 ただ、泣くことしかできなくて。

 

 

 

 炎の中から助けだしてもらって、連れ出してもらった、広い夜空。

 

 冷たい風が優しくて、抱きしめてくれる腕が、暖かくて。

 

 助けてくれたあの人は、強くて、優しくて、かっこよくて。

 

 泣いてばかりで、なにも出来ない自分が情けなくて。

 

 私はあの時、生まれて初めて心から思ったんだ。

 

 

 

 泣いてるだけなのも、なにもできないのも、もういやだって。

 

 強くなるんだって。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー新暦75年 4月 ミッドチルダ 臨海第8空港近隣 廃棄都市街ー

 

 四年前に発生した空港火災により人が住むことが不可能となった廃棄都市………そこは現在、陸戦魔導師の昇格試験の試験場として使われていた。

 

 試験の受験者は制限時間内に各所に設置されたポイントターゲットをすべて破壊し、ゴールにたどり着くことが出来れば、試験に合格し、より高いランクの魔導師になるのだ。

 ただし今行われているBランクへの昇格試験は、ターゲットやそのほかの機械からの妨害攻撃があったり、破壊してはいけないダミーのターゲットがあったりと、簡単にはクリアできない要素が多くある。

 

 特に一番の難関が、受験者の半分以上を脱落させている最終関門の大型オートスフィア。中距離自動攻撃型の狙撃スフィアで、廃棄された高層ビルからの狙撃に対処することが出来ない陸戦魔導師が数多くいるのだ。

 

 しかし、現在試験を受けている二人の若き魔導師たちは、この最難関を見事突破し、破壊すべきポイントターゲットをあと一つだけ残してゴールへと向かっていた……。

 

 

 

 

 

 試験場のゴールでは、試験官であるリインフォース・ツヴァイ空曹長が二人の受験生が来るのを待っていた。

 

 リインフォース・ツヴァイ。八神はやてが作り出したユニゾンデバイスの管制人格であり、初代リインフォースの後裔にあたり、「第5のヴォルケンリッター」と言ってもいい存在である八神家の末っ子である。

 彼女は八神はやてをはじめとした八神家の面々と同様、管理局の一魔導師として活躍しているのである。

 

 彼女のマイスターにあたる八神はやては今回の試験の受験者二人を自分の新部隊『機動六課』にスカウトしたいと考えているため、この試験の試験官を彼女、リインフォース・ツヴァイが担当しているわけなのである。

 ちなみに、上空からはヘリで、八神はやてと彼女の親友であるフェイト・テスタロッサが、また別の場所からは彼女のもう一人の親友が試験の様子を見て二人の実力を測っていた。

 

「……あっ! 来たですねー!」

 

 制限時間が刻々と終わりに近づいていく中、リインフォース・ツヴァイ、リインは遠くからゴールに向かってくる受験者二人の姿を確認した。

 

 15歳ほどの青いショートヘア-の少女が、同じくらいの年のオレンジのツインテールの少女を背負い、ローラーブーツ型のデバイスを走らせてこちらに向かってきていた。

 

 青い髪のボーイッシュな少女はスバル・ナカジマ。かつて首都防衛隊のゼスト隊に所属していたクイント・ナカジマと陸士108部隊の部隊長であるゲンヤ・ナカジマの二人の養子であり、クイントの遺伝子情報から作られた戦闘機人である。

 彼女は、11歳のころにとある魔導師に救助された経験から、その魔導師のように泣いている人を助けられるほど強くなりたいという思いを持って管理局の災害救助担当の部隊で働いていた。

 

 もう一人の、オレンジ色の髪をした少女の名前はティアナ・ランスター。スバルより歳が一つ上で、彼女と同じ部隊に所属している管理局の魔導師である。

 彼女の兄、ティーダ・ランスターは本局の優秀な執務官であり、彼女はそんな兄を誇りに思っている。そしてそんな兄と同じ執務官になることを目指し、まずはより高いランクの魔導師になることに目標として彼女は日々努力しているのである。

 

 試験中、最終関門の少し前で足首を痛めてしまうトラブルが起き、自分だけは今回の試験を諦めようとしていたティアナだったが、スバルの説得と考えにより試験の続行を決意、そして彼女たちはそのチームプレイで見事に最終関門を突破し、あと一つのターゲットを残してゴールを目指していた。

 

「あと何秒!?」

 

「16秒! まだ間に合う!」

 

 そんなやり取りをしながら、ティアナはスバルに背負われたまま、彼女が愛用している拳銃型のデバイスを最後のターゲットに向け、オレンジ色の魔力弾を発射した。

 魔力弾はそのままターゲットに向かい、それを破壊した。

 

「はい! ターゲット、オールクリアです!」

 

 つまり、彼女たちはすべてのターゲットを破壊したので、あとはゴールに向かうだけとなったのである。

 最後のターゲットが破壊されたのを見届けたスバルは、制限時間内にゴールにたどり着くため、自身が持つありったけの魔力をローラーブーツ型のデバイスに注ぎ込んだ。

 

「魔力! 全開いいぃぃぃ!!」

 

 ローラーブーツは音をたてて速度を上げていき、車輪からは砂ぼこりだけでなく火花まで出はじめた。

 ティアナはスバルの背にしっかりとつかまっていたが、おっちょこちょいな一面がある自分の相棒にたいして、ひとつ聞いておきたいことがあった。

 

 

「ちょっ! スバル! 止まるときのこと考えてるんでしょうね!?」

 

 

 それに対する相棒(スバル)の答えは……

 

 

 

「えっ?あっ……」

 

 

 

 考えてなかった、アチャー

 

 

 

「うわぁ……!」

 

「嘘ぉ……!」

 

 そんな本人たちのことなぞお構いなしと言わんばかりにドンドンスピードを上げていくローラーブーツ。ゴールにいる試験官も「あ…なんかチョイヤバですー」と言葉を漏らすあたり、やっぱり危険な状況なのだろう。

 

「「うわああぁぁぁぁ!!」」

 

 ものすごいスピードで走る二人はそのままゴール。制限時間内にはゴールにたどり着けた、問題はどうやって止まるのかだが。

 

「「うわああぁぁぁぁ!!」」

 

 しかしゴールした二人の先には、なんとがれきの山が!! 廃棄都市なので、建物が壊れたり崩れたりしたがれきがこのようにおいてある場所もあるのだ。

 前にフェンスが置いてこそあるが、そんなもんどうしたといわんばかりの勢いでそこに猛スピードで突っ込みそうな二人。少なくとも止まれないということはなくなっただろう。間違いなく大けがはするが。

 

「「うわあああぁぁぁぁぁ!!」」

 

 一瞬自分の死を覚悟した二人の脳裏には、まるで走馬灯のようにいくつもの映像がよぎっていった。

 自分や姉を家族として迎え入れてくれた父と母の姿。

 小さいころ拳銃のおもちゃでよく遊んでくれた自分の兄。

 ピクミンにデレデレな自分の母親。

 ピクミンに助けられた自分の兄。気が付いたら(一部)ピクミンになって帰ってきた母親。

 兄のことを無能だとか侮辱していた上司、をピクミンとともに精神的にも肉体的にもぼこぼこにしてくれた英雄。

 訓練校でよく見かけたピクミンの現物、ピクミンの映像、ピクミンの写真、ピクミンの絵……アレ? ピクミン頻度多くない?

 

「「うわああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ……アクティブガード、ホールディングネットもかな……」

 

『Active Guard and Holding Net』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

          ズドドドドドドドドーーーーーーーーン!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼女(・・)がその二つの魔法を発動させたとき、桃色の魔力の爆発がそこで起こった。いや、正確に言うのなら、魔法を発動させたときの光の広がり方と、ものすごい勢いで走ってきた二人が受け止められたときの衝撃と音でそう感じるのだ。

 その様子を、はやてとフェイトは上空のヘリから身を乗り出して見ていた。

 

 桃色の光が収まったとき、がれきの前には桃色の網が張り巡らされ、白いモニュメントが地面から生えていた。

 スバルは網に受け止められ、ティアナはモニュメントにつかまっていた。

 

 どうやら、白いモニュメントは緩衝の役割を持っていたらしく、網と緩衝材のおかげで二人は大けがをすることなく止まることができた。

 

「むーーーっ!! 二人ともっ!! 危険行為で減点です!!」

 

 上からリインが、右のほうに彼女のストレージデバイスである『蒼天の書』を浮かばせながら、降りてきた。

 どうやら二人が、止まるときのことを考えていなかったことに怒っているようだ。

 

「頑張るのはいいですが、けがをしては元も子もないですよ!! 

 そんなんじゃ、魔導師としてはダメダメです!!」

 

 リインが怒るのももっともである。

 ただ目的を達成するのが重要なのではなく、しっかり自分の身の安全や問題が起きないように気を付けて任務を遂行するのが管理局の魔導師として大切なことなのである。

 だから、リインが言っていることは正しいのだが、二人はそのことよりも気になっていることがあった。

 

 

 

「ちっさ……」

 

 

 

 ティアナはそうつぶやいた。

 そう、彼女、リインフォース・ツヴァイは、人型のサイズだった初代リインフォースと比べて、身長が30センチくらいととても小さな体なのだ。ゆえに、彼女は移動するときは常に浮遊、または飛行していて、今も浮遊しながらスバルたちのほうを見ている。

 

「まったくもう!」

 

「ハハハ、まあまあ」

 

 ふくれっ面になったリインをなだめる声が、どこからか聞こえてきた。

 その声につられて、リインとスバル、ティアナは声がしたほうに顔を向けた。

 

 

 

 

 

「ちょっとびっくりしたけど、無事でよかった」

 

 

 

 

 

 上から、栗色の髪を長めのツインテールにまとめ、白いバリアジャケットをまとい、左手にデバイス、『レイジングハート』を持った女性の魔導師、『高町なのは』が飛行魔法を使いながら降りてきた。

 

「とりあえず試験は終了ね。お疲れさま」

 

 なのははそう言うと、発動させた魔法、アクティブガードとホールディングネットを解除し、同時にスバルとティアナに軽い浮遊魔法を使った。

 すると白いモニュメントと桃色の魔力でできた網は消えていき、受験生二人はなのはが使った魔法によって丁寧に地面に下ろされた。

 

「むーっ」

 

 リインはどこか不満そうな表情だったが、なのはの言うことを素直に聞いている様子だった。

 ちなみにスバルは、どこかボーっとした様子でなのはを見ていた。

 

「リインもお疲れさま。ちゃんと試験官できてたよ」

 

「わあーい! ありがとうございます! なのはさん!」

 

 なのはの言葉に、まるで子供のように(と言っても、外見は子供だし、精神年齢的にも子供と言ってもいいのだが)喜んだ。

 そしてなのははバリアジャケットを解除し、白と青を基調とした教導官の制服姿になった。

 

「まあ、細かいことは後回しにして……、ランスター二等陸士」

 

「あっ、はい」

 

 なのはからの呼びかけにティアナは答えた。

 

「けがは足だね。治療するから、ブーツ脱いで」

 

「あっ! 治療なら、私がやるですよー!」

 

「あ、えと……すみません……」

 

 治療を行おうとするリインに返事しながらも、ティアナはちらりとスバルのほうを見た。

 スバルはなのはのほうをじっと見ながら、思わずつぶやいた。

 

「なのは……さん……」

 

 4年前、自分を炎の中から助け出してもらった恩人。泣いていただけの、何もできなかった自分に、強く変われるきっかけをくれたあこがれの人。

 そんな人と思いがけない再会をして、スバルは茫然としたままその名前を呼んだ。

 

「うん?」

 

「あっ! いえ、あの……! 高町、教導官! 一等空尉!」

 

 なのはがこちらのほうを向いて、ようやくハッと冷静になったスバル。慌てて言い直すが、なのははゆっくりとスバルに近づきながら言った。

 

「なのはさんでいいよ。みんなそう呼ぶから」

 

 そしてすこし懐かしむように、こう続けた。

 

 

 

 

 

「4年ぶりかな。背、伸びたね、スバル」

 

 

 

 

 

「……! えと、あの……あの……」

 

 なのはの言葉を聞き、スバルは言葉に詰まってしまった。その目には、少しずつ涙がたまっていく。

 

「うん……。また会えて、うれしいよ」

 

 なのははそう言うと、スバルの頭に手を置いた。

 スバルの目の涙はどんどんたまっていき、ついに目から流れ出した。それを合図にしたかのように、スバルは両手を目に当て、本格的に泣き出してしまった。

 

 自分の命を救ってくれた人が、自分を変えるきっかけをくれた人が、今まであこがれていた人が、4年たった今でも自分のことを覚えていてくれて、さらには再会を喜ぶ言葉をかけてくれた。それがとても嬉しくて、スバルの目から涙が次々とあふれてくるのだ。

 

 感動と、言葉に表しきれないほどの嬉しさから涙を流し続けるスバルを、なのはは優しい目で見つめるのだった。

 

 その様子を、はやてとフェイトはヘリからじっと眺めていた。

 

「さて、なのはちゃん的に二人はどやろ? 合格かな?」

 

「ふふ……。どうだろうね?」

 

 スバルとなのは、この二人の4年ぶりの再会が、スバルたち若き魔導師たちがストライカーとして成長していく日々の始まりになることは、まだスバルとティアナには知る由もなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー同日 ミッドチルダ地上本部ー

 

「……というわけで、アオバ一等陸佐、新部隊の部隊長に

 

「なるわけないでしょうが、頭どうかしたんですかレジアス中将」

 

「中将、少し失礼な言い回しですが、アオバ一佐の言うことはごもっともかと」

 

「……わかっておる、軽い冗談のつもりだ」

 

「いや、『話がある』って言われて部屋に来た途端、『というわけで』で部隊長にされたらこっちはたまったもんじゃないですよ。

 だいたい、新部隊の設立なんていろいろと準備が必要で時間がかかるでしょうに」

 

「……一応、人員はある程度心当たりがある」

 

「はあ……。どんな人たちなのですか?」

 

「近年、お前のことを尊敬しているといって問題を起こしまくっている局員(害悪)たちだ。

 正直お前が隊長をやる部隊に押し込んでおけば、もう問題は起こさないだろうと「辞めますよマジでピクミン連れて」すまんかった」

 

「中将……本当に発言には気を付けてください」

 

 地上本部では、どこぞの試験場の感動的な場面なんて知ったこっちゃねえと言わんばかりに愉快なやり取りが行われていた。

 ここの実質的なトップが、部下の(あくまで肉体年齢は)19歳の小娘にそれはもうきれいな土下座で謝り、彼の娘はあきれた目で自分の上司である父親を見ていた。

 

 古くからの武闘派で強硬派で地上の正義の象徴で、地上本部には彼に心酔する人物もいて、強い正義感やカリスマ性、優れた統率力も持ち、さらには本部長の先輩であるために実質的には地上本部のトップであるレジアス・ゲイズ中将だったが、ここ最近は理央に頭が上がらなかった。それほどまでにピクミンが地上本部にとって大きい存在となっているのだ。

 

 しかしいくら地上本部の戦力といっても、しょせんは理央からの借り物。理央がピクミンを連れて管理局をやめてしまったら、治安が悪い状態に逆戻りなのだ。

 一度どうにかしてピクミンの所有権を地上本部のほうに移そうと画策していたこともあったが、すぐに理央に気づかれ、理央が発狂するほど怒りくるって一種のクーデターが起こったことは、レジアスにとってかなりのトラウマであった。

 それ以来、理央にはあまり逆らえなくなってしまったのだ。

 

「……まあ、それはいいとして、本題は何ですか?」

 

 理央は気を取り直してレジアスに質問した。まさか本当に新部隊をしろというわけではないだろう。

 レジアスは土下座をやめ自分の椅子に座り直し、話を再開した。

 

「ここ、ミッド地上に新しくできた新部隊の話なんだがな……」

 

「え? 本当の話だったんですか?」

 

「いや、お前の部隊じゃない。それどころか地上本部(われわれ)の部隊ですらない。“海”の奴らの部隊だ」

 

「ああ、確か名前は『遺失物管理部 機動六課』でしたっけ?」

 

「ああそうだ。まったく忌々しい。“海”の連中はこの部隊を皮切りに、我々が必死の思いで守っているこの地上をいいようにしようと考えているに違いない。だいたい“海”の連中はいつもいつも地上本部をないがしろに……」

 

(また愚痴が始まったよ、レジアス中将は極度に“海”が嫌いだからね~……。こんなに凝り固まった考えがなければいい人なのに。

 まあ、こんだけ強く主張しなかったら自分の意見を認めてもらえなかっただけなのかもしれないけど)

 

 理央はレジアスのお小言を聞きながら、内心またかとあきれていた。

 確かにレジアス中将は、組織のトップとして優れた人ではあると理央は思っている。しかしその一方で、自分の考えに固執しがちなのはトップとしてどうなのかと思っている。トップとしてもう少し柔軟な思考を持ってもらえたら、と理央は頻繁に感じていた。

 まあ、理央自身も“海”に対してあまりいい感情を持っているわけではないのだが。

 

「……で、その新部隊のことで、私にどのようなご用事で?」

 

 もしかして、隊長陣とそれなりの知り合いである自分に密偵でもさせるんだろうか? 理央はそう考えていたが……

 

「いや、奴らに出過ぎた真似をさせないように注意してもらいたいだけだ。手柄でも立てられて、“海”が地上に介入しやすくなってしまったらいかんからな。

 地上の平和は我々が守っているということを、“海”の連中に思い知らせてやらんとな」

 

「…………それだけですか?」

 

「? ああ、いつも通りに仕事をしてくれれば、それでいいのだが……」

 

「…………すみません、今日の仕事はもうすべて終わりましたので、これで帰らせていただきます。

 お疲れさまでした。さようなら、また明日お会いしましょう」ペコッスタスタスタ

 

「なっ!? ま、待て!! 待つんだ、アオバ一佐!!」

 

 理央はレジアスの返答を聞くなり、さっさと部屋を出てってしまった。

 レジアスは理央を止めようとしたが、結局理央はそのまま行ってしまった。

 

「……中将、わざわざ呼び出しておいて、それを伝えるだけではアオバ一佐が機嫌を損ねるのも当然かと……

(さんざん愚痴を聞かされた後ではたまったものじゃないでしょうね……)」

 

「……そうかもしれんな……」

 

「ですが、よろしいのですが? 機動六課の隊長陣とアオバ一佐は長い付き合いの友人だと聞いています。

 もしこの件をきっかけに、こちらの情報を向こうに引き出されるようなことがあれば……」

 

「それには及ばんだろう。

 アオバはピクミンの扱いに優れているだけではなく、頭のほうも切れるやつだ。奴らに情報を漏らすようなへまをしないだろう」

 

「しかし、情に流されて、ということも……」

 

「それならばとっくの昔に、ピクミンを連れて“海”のほうに異動になっているだろう。そうしないのは、奴がピクミンがいないときのミッド地上の治安状態をよく知っているからだろう。

 なんだかんだ言って、やつは正義感がそれなりに強い、いまだに地上本部で働いているのも、ミッドの平和のことを思ってのことだろう」

 

「……ピクミン、ですか」

 

 レジアスの娘、オーリスはピクミンという存在について、不安を感じざるを得なかった。

 確かに今現在、ミッド地上がピクミンによって平和を保っている状態であることは彼女ももちろん知っている。そのことで、地上の平和をなんとしても守らなければいけないという父の心の重荷がだいぶ軽くなったことも彼女は知っているし、それについて彼女は理央に感謝もしている。

 また、ピクミンはかつてレジアスが地上本部の戦力として検討していた(している、ものもあるが)戦闘機人や人造魔導師と同じく量産可能で安定性のある戦力であり、さらに違法性もなく堂々と増強することができるから、戦力としてこの上ない存在であることもわかっている。

 

 しかし、ピクミンが動けるのは基本的に日が出ている間だけなのだ。4年前の空港火災の時みたいに、夜など日の出てきていない間に起きる事故や事件に対してはピクミンで対処することができないのだ。

 もし夜の間に、ミッドチルダを揺るがすような大事件が起きたのなら、ピクミンに頼り切っていることが多い地上本部では対応できないのでは、とオーリスは考えていた。

 

 そのための対抗策として例の計画(・・・・)が進められているのだが(と言うよりは、進めさせられている(・・・・・・・・・)のだが)、結果が出るまではいまだに時間がかかる。

 はたしてこのままで本当にいいのか……オーリスの中には不安が渦巻いていた。

 

「……確かに、お前が不安に感じるのもわかるぞ、オーリス」

 

「!?」

 

「そう驚くこともないだろうに……。

 ピクミンという単語を聞いてお前が悩むことは、戦力として夜に動かすことができない欠点についてなのだろう?」

 

「……はい。」

 

 ――やはり、この人にはまだまだかないそうにない。

 

 オーリスは、レジアスに自分が抱いていた不安を話すことなく指摘されて、改めて自分の未熟さを感じ取った。

 レジアスはそのまま話を続ける。

 

「確かにワシもピクミンに頼り切りの状態に不安を感じなかったわけではない。

 なにより、ピクミンはしょせんアオバからの借りものであって、アオバの個人戦力であることには変わりないからな……。下手をして奴の逆鱗に触れたら、ピクミンを連れて出て行ってしまい、昔のような悲惨な状態に逆戻りだ。

 そのうち、やつによって地上本部が支配されるのではないかと恐れた日もあった……。まあ、本人の性格から、そんな面倒なことはお断りだと逆につっぱねられるだろうがな」

 

「……確かに本人の性格を考えたら、そう言うでしょうね。ピクミンと戯れることができればそれでいいという人ですから」

 

「ふっ、そうだな……。

 まあ、それは置いといてだ……一度アオバのやつに、そのことについてどう考えているのかを聞いてみたことがあった。『夜に動かすことができない戦力では、ミッドをを守り切ることはできないだろう?』とな……。

 そしたらやつは何と答えたと思う?」

 

「『そんなこと知ったことではない』といったところでしょうか?」

 

「まあ、だいたいは合っているな」

 

「だいたい……?」

 

「……やつはな、『ピクミンは戦力としては戦力の一つでしかなく、ほかの戦力がそろうまでのつなぎでもある。』といってのけたよ」

 

「!? あ、あのアオバ一佐がですか!?」

 

「いや、むしろあのアオバだからこそだろう……。

 確かにやつは無類のピクミン好きで、本人の戦闘能力もピクミンに頼り切っている。しかし、その分我々とは違い、ピクミンを単なる戦力として見ているのではなく、自分に近しい存在、家族や友人といったものとしてとらえているのだろう……。ゆえに、戦力としてピクミンを最大限活用しようとはあまり考えていないのだろう……。

 それに一度言ったが、やつは頭がよく回る。戦力としてピクミンが不十分である点も、十分承知しているのだろう。だからこそ、ピクミンに頼り続けるのではなく、ピクミンで事件や事故に対処するうちにそれ以外の戦力をそろえることが、本当の意味で地上本部の無視できない問題点である戦力不足を解決する手立てだとやつは理解しているのだろう。アインへリアルしかり、な……」

 

「……意外でした。アオバ一佐はピクミンに頼り切ることをよしとしているものかと……」

 

「やつはピクミンバカだが、地上の未来のことを考えられん馬鹿ではないということだろう……。いや、逆にピクミンに頼り続けるつもりもあったワシのほうが馬鹿だったというべきか……。

 ふっ、ワシももう引退を考える時期になったのかもしれんな……」

 

「中将……」

 

「わかっておる。アインへリアルの完成と戦力化、それと例の計画(・・・・)が終わるまでは引退するつもりなどない。公表するつもりもな……。

 最高評議会からの命令とはいえ、ゼストを死なせてしまった以上、もう引くことなどできん」

 

「……どこまでも、お供します。レジアス中将」

 

「……お前にも苦労を掛けるな、オーリス」

 

「いいえ、あなたが選んだ道ですから……」

 

 こちらでも、本来あるべき道から外れた行いでも、正義のためにと着々とある計画が進められていた。

 間違った道だとわかっていても、もう彼は止まることはできない。なぜなら、唯一無二の親友を犠牲にしてしまったのだから……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー同日 ミッドチルダ某所ー

 

 そこには異常な光景があった。

 

 壁にはぎっしりと人が入れるほどのポッドが並べてあり、そのいくつかの中には人が保存液と思われる液体の中で眠っているのだ。

 彼、彼女たちはみな、ここの主の身勝手な人体実験の被験者にされた、もしくはこれから被験者にされる予定の人たちである。

 

 このポッドが並べてある通路の奥の部屋では、ここの主――白衣をまとい、金色の瞳をギラギラと光らせた男――が、空中ディスプレイに映し出された画像や資料を見ながら不気味に笑っていた。

 

「ああ……、タイプゼロに竜召喚士、それに生きて動いているFの残滓たちまで……。

 素晴らしい! 素晴らしい実験材料となりえる者たちばかりじゃないか! 

 機動六課! まさに最高の素材たちじゃないか! ク、クク……ハハハハハハハハ!」

 

 この男こそ、これから機動六課の前に立ちふさがる敵であり、ミッドチルダに未曽有の大事件を引き起こす張本人である、無限の欲望ことアンリミテッド・デザイア、ジェイル・スカリエッティなのである。

 彼は、管理局の最高評議会によって、伝説の地『アルハザード』から発見された人間の細胞を培養して生まれたクローンであった。その頭脳は、まさにアルハザードの遺児と言うに値するほどの優秀さを誇っており、ゆえに、最高評議会は彼を重用しているのだ。

 

 しかし、この男に、その名の通りの無限の欲望を与えたのは彼らの大きな間違いであった。

 彼は自らが欲望のままに動ける世界を欲し、最高評議会と管理局という鎖から解き放たれるための計画を着々と進めていたのだ。

 

 今や計画は、『聖王の器』さえ発見できれば最終段階へと進めるほどに進展している。

 『聖王の器』が彼の手に渡ったとき、それはすなわち管理局崩壊の危機を招く大事件が起こることに他ならない。

 彼の計画を阻止することこそが、まだ彼女たちは知らないだろうが、管理局崩壊の危機を防ぐために設立された機動六課の宿命なのだ。

 

「ハハハハハハハハハハハハハ!! ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」

 

 彼は笑っていた。なんと彼女たちは自分の最高の実験素体たちを集めてくれたのだろうか。直接会ってお礼を言いたいくらいだ。

 そんなことはかなわないとわかっていながらも、スカリエッティはそう思わずにはいられなかった。彼はそんなことを思いながら、狂ったような笑い声を上げ続けていた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 頭に、茎と葉っぱを生やして。

 

 




 皆さま、今回のお話はいかがでしたでしょうか? もし私の力量不足で不快な気分をされてしまった方がいるなら、申し訳ございません。こんな感じで話を進めていくつもりですので、ご理解のほどよろしくお願いします。

 最後まで読んでいただきありがとうございます。おまけのほうをいくつか書いておきましたので、よかったらご覧ください。感想がおありでしたら、お待ちしております。













おまけ① ミッドで出てきたとあるゲーム














 二匹のピクミンが、満月の美しい、風が強く吹きすさぶ草原で向かい合っていた。

 一方は赤ピクミン、もう一方は紫ピクミンだが、両者の共通点としては、どちらも相手を倒さんとする強い意志がその瞳にこもっていることだろう……。

 彼らとしては珍しく、両腕を相手に向かって構え、まるで格闘技で勝負をしようとしているように見える。

 彼らはじっとしたまま、頭の茎を風に揺らしながら向かい合っていた……。












――刹那、彼らは同時に走り出した。





 彼らの中にある意志は、もはや相手を倒せと吠えるばかり。そして二匹の、相手へと繰り出した拳はぶつかり合い―――――!



















「さあ~、買った買った! 最新型ピクミン対戦格闘アクションゲーム、『ピッ拳』がついに発売開始だよ~!! 
 今なら初回特典として『伝説の英雄 リオ』のアバターももらえるよ~! さあ~買った買った!」

キャーキャーワーワーアカピクミンカッケームラサキピクミンモイイナーリオサマサイコー・・・













「……『○ッ拳』のパクリじゃね? でも買っちゃお~っと♪」

おまけ② 最初の……














「そこに3匹ポ○モンがいるじゃろう? 
 ほっほ! モ○スターボールの中にポ○モンが入れてあるんじゃ。
 むかしはわしもバリバリの(以下省略)お前に1匹やろう! ……さあ選べ!」


・『アカハピク』
 あかいはっぱポ○モン タイプ:ほのお、くさ
 説明:一見一匹に見えるが実は何十匹も重なっている。
    いつもモ○スターボールの中には何十匹も入っている。
    どんな攻撃も炎タイプなら効かない。むしろ力が増す。

・『アオハピク』
 あおいはっぱポ○モン タイプ:みず、くさ
 説明:一見一匹に見えるが実は(以下省略)
    どんな攻撃も水タイプなら効かない。むしろ体力が増す。
    たぶん特性は『ちょすい』。

・『キイハピク』
 きいろいはっぱポ○モン タイプ:でんき、くさ
 説明:いっけ(以下省略)
    ハイハイ『ちくでん』『ちくでん』( ´∀` )













「ちょっと待って! 最初の3匹が全部くさタイプだなんておかしいわ! 
 まあピクミンだから別にいいけど」

「いやツッコむところもっと別にあるじゃろ。ツーカ別にいいのか」


 ちなみに、『ハ』(葉っぱ)→『ツボ』(蕾)→『ハナ』(花)の順に進化します( ´∀` )












おまけ③ 理央の秘密

「実は、最初にプレイしたのは『ピクミン』じゃなくて、『ピクミン2』の方なの。ちょっとおかしいわよね。
 でも、楽しいから別にそんなことどうでもいいわよね♪」













 



















 構想段階では、主人公を13番目の戦闘機人(ナンバーズ)にする案もありました。
























「………………………………え?」←稀なアホ面を見せる理央













 といっても、キャラも名前も考え方も全然違うんですけどね。神様転生じゃないオリキャラですし。



お☆し☆ま☆い

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