<羽黒の能力ってゲイボルクってよりフラガラックじゃね?
げ、ゲイボルクの方が圧倒的に知ってる人が多いってだけだし(震え声)
頭からすっぽ抜けてたわけじゃないし!
<異能ってどれもチートなの?
クロス元の作品なんてクロックアップ+不死殺し持ってる主人公が苦戦しかしてなかったし、最終決戦じゃ一撃が銀河破壊レベルにまでインフレするからこれくらい序の口序の口()
というか主人公の殺意が高過ぎるからこうなってるだけで、異能は祈りの結晶だから今回みたいなのもいるし。
原作が戦闘向け能力ばっかなのは……水銀製だから?
そして今作(も)鶴姉妹の扱いが………。
巡恋歌の時といい、作者は一体二人をどうしたいのやら。
「提督さん!どう、似合うっぽい?」
「夕立可愛い!」
「ぽい!」
やった、と春也に容姿を褒めてもらえた夕立が握りこぶしを上げると、薄青の袖がひらひらと空を舞う。
肩が露出したデザインの着物は普段の夕立のイメージカラーとはやや外れた波の色で、それを彩るような白い装飾が和ゴスのような味わいで彼女を飾っている。
可愛い衣装で着飾って無邪気に喜んでいる少女を微笑ましく見るのは、春也とその衣装の作成者である中年の女性だった。
「いい感じじゃないか。おばさん、代金これでいいか?」
「はい………って提督様!これじゃ多すぎますよって」
「あー。やっぱり相場とかまだ微妙に分からねーな。
あれだ、俺の分も注文してた奴は出来たんだろ?その分と、あとはこれからもよろしくってことで」
「畏れ多い……これからもどうぞよろしくって此方の科白ですのに」
言いつつ春也が差し出した金はいそいそと鍵付きの棚にしまう衣装屋の女性。
調子がいいことだが、鎮守府の敷地内に構えた店をちゃんと切り盛りするならこの程度はご愛敬だろう。
それにスーパーで量産品を買ったり市場で値切り前提の交渉をするならともかく、こういう買い物で呆れられない程度に金払いを良くするのは悪いことではない。
高い買い物をするなら変にケチるな、後でケチがつくから、というのは春也の父の言葉だった。
「つっても、慣れたもんだよな俺も」
春也がこの世界に来てから数週間が経過していた。
肌寒さがあった空気はすっかり暖まり、活発さを感じる草木や虫の様子から夏の訪れも少しずつ予感が出来るようになっている。
そして鎮守府に所属してからの間幾度も航輔や姫乃と共に出撃を繰り返し、深海棲艦を討伐する仕事を行い―――故に、報酬としてお金をもらっていた。
額としては最初に苦労して運んだ“資源”の代金より少ない程度だが、効率を考えるとやはり正規の提督として働く方が稼げるようだ。
そしてそんな大金を使う場所には困らない。
この世界で最もお金を持っている組織は艦娘神社であろうが、個人でとなると稀少かつ替えが利かない提督達になるに決まっている。
そんな彼らが詰める場所である鎮守府には、当然様々な商店が軒を連ねる一角も存在していた………歓楽街という多少過激な場所も含めて。
とは言っても、春也に酒や賭博への興味は無いし、夕立がいるのに金で女を買う気になる筈もない。
結局まずは身の回りの物を充実させよう、ということで“異世界漂着着の身着のまま”と“死人から拝借した借り着”しか服が無かった状態から脱却する為、服の購入が目下のお金の消費先だった。
こんな世界で大量生産の既製品がある訳もないので、自分で生地を縫い合わせるか職人に注文して作ってもらう形になる。
「えへへ………提督さん、夕立の分も服買ってもらっちゃって、よかったっぽい?」
「いいに決まってるだろ?戦闘用の服でずっと過ごすだけじゃなくて、普段くらい色々着てみたくならないか?」
「なるっぽい!」
ぽいー、ぽいーっ、と至極上機嫌なのか春也の隣でいつもの鳴き声を即興歌にしている夕立と手を繋ぎ、衣装屋を出た春也は鎮守府商業区の通りを歩く。
時々提督や艦娘の姿もちらほら見える大通りの中で足取りも軽快な彼女の動きに合わせて、波打つリボンの様な装飾が踊った。
こんな荒廃した世界の割に妙にデザインが凝っていると思って衣装屋の女性に訊いたが、艦娘―――特に戦艦組―――のデフォルトの服を参考にすればインスピレーション元には困らないそうな。
春也の服も装飾自体は少なめだが、丈夫に縫われた紺の布地の重ね方では斜めに重ねて補強されていたり裏地に剣錨印が縫われていたりと、簡素でも手抜きでは無い仕事が表れていた。
「提督さん、これからどうするっぽい?」
服の受け取りと代金の支払いの為に商業区のところまで歩いてきた春也と夕立だが、それを終えて次の目的をどうするのかと夕立が問うてくる。
爛々と輝く瞳には、せっかくの外出だからまだまだ提督さんと一緒にお散歩したい、と書かれていた。
「まだ普通に日も高いし……夕立、今何時だ?」
「んっとね、ヒトヒトヨンヨンっぽい!」
ぽい、とは言うが元々海上では現在時刻と星を見て位置と方向計算をしなければならない艦だからなのか艦娘の体内時計は秒単位で正しいので、眩しい光を太陽が降り注がせる光景そのままの昼時に間違いはないだろう。
聞き放題の夕立時報ボイスに悦に浸りながら、見上げてくる彼女に春也も笑顔で返した。
「じゃあ適当に店でも探して昼飯にするか!」
「お昼ごはん!」
「あれ、春也くんたちじゃん。私たちもご一緒していい?」
――――何万と人員がいる訳でもなし、この鎮守府で知り合いに偶然会う確率、というのはそう低くは無い。
まだまだ春也が知っている人物というのはそう多くはないが、行動パターンが被れば夕立がその元気さを振りまいている分相手からは見つかりやすくなる。
そうして掛かった声に振り向いた二人の顔が、露骨にげんなりしたものになった。
「出た………」
「ぽいぃ………」
「あー二人とも失礼しちゃうなー、翔鶴姉の顔見るなりそんな顔。
爆撃しちゃうぞ☆」
「…………」
ねーよお前の顔見て萎えたんだよ、失礼はどっちだこのバカ―――と航輔相手にする様に言えるほど親しい相手でもないので、春也は黙り込むしかなかった。
当然夕立もそれに従って口を閉じるので、変な沈黙が間に挟まる
緑がかった内跳ねの黒髪を左右に分けて結び、猫のようなツリ気味の愛嬌ある眼がすっきりした鼻立ちと共に小さめの顔に収まっている少女。
矢絣の町娘風の外出着姿で弓道袴を着ておらず、あと若干テンションがおかしいが、どこからどう見ても艦娘の『瑞鶴』がそこにいた。
そしてその三歩後ろにお揃いの服を着ながらも楚々として付き従う『翔鶴』の姿もある。
まるで妻のように大和撫子然と姉妹である筈の瑞鶴の後に控える白髪を腰まで伸ばした美女の姿は、それだけなら違和感を覚えないでいられるかもしれないが――――。
「あ、春也くん翔鶴姉のことじっと見てる?駄目だぞー、翔鶴姉は瑞鶴の大好きなお姉ちゃんなんだから、あげないんだよ?」
「ああ“提督”、もったいないお言葉です……」
通称『瑞鶴』提督、本名はおろか性別すら不明。
階級は中佐、祈りは『愛する人の色に染め上げられたい』。
異能は変態……もとい変身、ていうか変態。
例によって訊きもしないのに川内に吹き込まれた無駄知識のせいで、背景の翔鶴が大好き発言に頬を赤らめピンク色の百合を撒き散らしている姿に眩暈がしそうだった。
どうもこの提督、心から瑞鶴になりきっているらしいので、春也は彼ないし彼女をレイヤーだと割り切ろうとするのだが、ちょくちょく失敗している。
というかあんたは瑞鶴をどういう目で見てるんだと訊いてみたかったが、春也も瑞鶴のことはゲームの姿しか知らないので訊くに訊けないでいた。
「それでどお?美味しい店教えてあげるよ?」
「ありがたくご一緒させていただきます………」
「…………ぽい~」
そしてこんなんでも、むしろこんなんだからこそ上官で先輩。
誘いを断れる訳も無く、奇妙な昼食になってしまうのだった。
――――。
『瑞鶴』に案内された店は豆腐中心の小料理屋といった風情だったが、さっぱりめの味付けが好印象で悪くない感じだった。
ゆっくりできる時に改めて夕立とまた来ようとは思えるくらいには雰囲気も店員の愛想も良く、しかし今は川内と違うベクトルで絶妙にうざい正体不明の相手をしなければならない。
「それでね、その海域に入っていた間のことって提督も艦娘も誰ひとり覚えてないんだよ?気が付いたら鎮守府に帰ってるの」
「ふーん?出撃の記録から位置とか割り出せないんですか?」
「当事者からしたら気になって仕方ないだろうし、やった提督もいたらしいけど………だめ。
艦娘のことだから位置計算を間違えることは無いんだろうけど、移動してるのかそもそもその計算を狂わせる何かがあるのか。
辿りつこうと思って行けた人は聞いたことないなあ」
「神隠しの海域、か。胡散臭いようなちょっと危ないような」
「でもなんかいい夢見ていたような気分になって、むしろすっきりして元気になるらしいよ。
幸運の神域って話にもなってるくらいだし、むしろいいなあって思わない?」
「…………」
思わない。というかそんな幸運の占いアイテムできゃぴきゃぴはしゃぐ女の子みたいな目で神隠しについて語られても反応に困るのだが。
返答に困って視線を振る春也の横目に、春也と夕立の分を合わせたより更に多い皿を並べて幸せそうにもきゅもきゅと料理を口に運び続ける翔鶴が移った。
食べ方はお上品なのだが、綺麗に持たれた箸の動きが止まらないのはやはり食う母もとい空母の宿命なのだろうか。
夕立より更に少ないくらいの『瑞鶴』の食事量と対照的だったが、これはむしろ『瑞鶴』のキャラ付けか素かそれとも『大好きな瑞鶴ちゃんは大喰らいじゃないんだ!』みたいな思い込みでの演技か。
どうもこの提督、演じるのは自分の愛する“理想の”瑞鶴らしいのだ。
そもそもこの世界の艦娘、仲の良い姉妹艦自体が圧倒的に少ない。
たとえば同じ見た目の“夕立”だって沢山いるのに―――提督であるからか春也にとって自分の夕立だけは識別が利くが―――“時雨”であるというだけで即好意的となるわけがないらしく、鎮守府内で二度三度見かけたが夕立が特別な反応を見せることも無かった。
「なあ翔鶴、一つ訊きたいことあったんだけど、いいか?」
「むぐむぐ………え?あ、はい何でしょう?」
「ちょっとー、翔鶴姉にちょっかいかけちゃダメなんだぞー☆」
なのにこんな風に行き過ぎ気味の姉妹愛を見せる『瑞鶴』。
それも含めて、疑問に思ったことをその提督の艦娘にぶつける。
「答えたくなかったらいいんだけど、あんたが媒介になってる異能のこと、どう思ってるんだ?
この姿の時の言動も含めて」
異能を形成する程の相性といい『瑞鶴』に向ける視線や態度といい、翔鶴が己の主に愛情としての好意を抱いているのは間違いない、間違いないのだが。
「ええっと、私は私が生まれてこの方の艦娘になってから、ずっと“瑞鶴”の姿の提督しか見ていないので、これが当たり前の状態なのですけれど―――」
それでもよければ、と前置きして翔鶴は箸を未練がちに置きつつ丁寧に答えた。
主を慕う翔鶴に対して『瑞鶴』も好意を示すが、それは“大好きな瑞鶴”が姉妹を大事にするに違いないと思っているからそう振る舞っているだけのこと。
要するに翔鶴に対して好きと言えば言うほど、彼女の提督は己が瑞鶴を愛しているのだと証明するに等しい訳で、割と残酷なことになっているのだが。
赤らんだ顔で、それでも翔鶴は微笑んでいた。
「それなのに、やっぱり嬉しいんですよ提督に好きって言われるのは。
それだけで嬉しくなっちゃうんです」
「………」
綺麗な言葉――――言葉は綺麗、なのだが。
春也はその琥珀色の潤んだ瞳の中に、健気というよりは悦楽の色を見てしまった。
「NTR厨?」
「はぅん!?そ、そんな、寝取られ中だなんて酷いこと、言わないで…………はあはあ」
「……………………ええぇー」
うっとりと色っぽく息を荒げる翔鶴にドン引きする春也。
そんな彼女の手を隣から優しく取って、『瑞鶴』がにっこりと微笑んだ。
「翔鶴姉が喜ぶなら、いくらでも言っちゃうよ?好きって。
好きっ、好きっ、だいすき、しょーかくねーだーい好きっ!!」
「あ、ああっ!!お慕いしています、提督……!!」
唐突に始まる百合のようで絶対に百合じゃない茶番劇。
それに料理を平らげ終えた夕立がぼそりと呟く。
「ちょっと意味が分からないっぽい………」
「多分分からなくていいんじゃないかな………」
完全に同意なのだが、放っておいて席を立つ訳にもいかない。
しばしの間、すれ違った二人の世界に付き合わされる二人なのだった。
☆設定紹介☆
※娼鶴とその提督
あ、間違えた翔鶴だ。
属性は『星天を手繰る者』、表性は『忍耐・憧れへの純心』、対性は『妄執・徒労への悦楽』。
自分の大好きな提督は瑞鶴大好きな上、間違いだらけのなりきりまでやっちゃう変態なのだが、主に似てしまうのかそれに興奮を覚える困ったちゃん。
見ててちょっと意味が分からないです、とぽかんとするしか無い以外は特に実害は無い。
異能は『愛する人の色に染め上げられたい』ということで変身なのだが、提督は瑞鶴以外に変身する気は欠片も無い。
その愛は独善的で、典型的な“相手を見ていない好意”なので一歩間違えなくてもストーカー化していただろうが、得た異能によって自分自身が“理想の瑞鶴”として振る舞うことで満足している為やはり実害は無い。
その一方で独善の愛なだけに“瑞鶴の理想像”には相当な美化と自分好みの改変が掛かっており、それは実力面にも及んでいる為、提督でありながら空母艦娘同様に艦載機による戦闘もこなし、同じくらいの練度の正規空母四隻軽空母二隻を敵に回しても一人であっさり勝ってしまう。
下手に戦闘的な異能よりも変態の方が強い理不尽に煽られて頭に来た一航戦がいたとかいなかったとか。
ちなみに異能の元となる祈りにはこのように“自分がこうありたい”という内向きな祈りと、春也のように“周囲がこうあって欲しい”という外向きな祈りがある。
前者は提督を、後者は艦娘を起点として発動する傾向にある。
優劣を論じることは勿論出来ない、が―――一点集中になりやすいためか両者がぶつかれば基本的に前者が有利になる場合が多い。
ただし……………。