終焉世界これくしょん   作:サッドライプ

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 どんだけ考察書いても書き切れる気がしないホント異世界ファンタジーは地獄だぜー!

…………いやなんでこんな一から全く新しい世界を考えなきゃいけないような面倒なジャンルがなろうでテンプレになったりするんだろ?
 現在進行形でそれをやってるドMが言えた義理ではないけども。




試練

 

 

 

「君たち、卒業ね」

 

「「「………」」」

 

 航輔が朝潮の提督の男に勧誘を受けかけたその翌朝、鎮守府に着任してから何度も使っている庁舎の一室に集められた春也、姫乃、航輔の三人は、雪兎の開口一番の科白の意図が掴めずに面食らった。

 

「……あー。それはこの世から卒業しろ、とかそういう意味?」

 

「あははっ、春也くんは冗談が上手いなあ」

 

 言いかねないだろアンタ、とは返さずに文字通り不審者を見る視線を送る春也と、いつもの胡散臭い笑みの雪兎がその場に妙な緊張を生みだす。

 上座に置かれた椅子に深々と座り込んだ雪兎は、暫し髪を指で弄っていたが、数秒後に自らその緊張を破って何事もなかったように語りだした。

 

「単純に僕がいちいち着いて指導しないといけない期間は終わりってこと。

 今回言い渡す任務からは監督役は付かないのと、それが終わったら君たちは晴れて見習い准尉と准佐を卒業だ」

 

「おめでとう!今までよく頑張ったね、感動した!!」

 

「おいおい川内、気が早いよ?

――――この任務が終わったら……無事終われたら、の話だからね?」

 

「あははは…それは失敬っ!」

 

「………」

 

 趣味の悪い意図が透けて見える漫談を聞き流しながら、春也は差し出された指示書を受け取る。

 横から覗き込む航輔と、雪兎や川内が一緒じゃなくていいならさっさとこの場を切り上げたそうな姫乃の気配を感じながら、一応春也はA4より少し縦長くらいの書類を拡げる。

 

 雪兎がこの雰囲気の中で渡す卒業任務、というものに嫌な予感しか覚えない以上、気は進まないが今ここでざらざらした用紙に書かれた文字を読み進めて、内容を確認しておかなければならない。

 旧漢字とカタカナだらけの春也にとっては面倒な文章を舌打ちを堪えながら素早く解読し、要約した内容を仲間の二人にも分かるように口に出す。

 

「『ここ数日で、陸上にて哨戒任務に当たっていた尉官の提督が複数消息を絶った地帯がある。現地に赴いて調査し、可能ならばその原因の排除に当たること』、か」

 

「何とは言わないけど、何かがそこにいるみたいだねえ」

 

「生存者の捜索と救出は含まれないのか?」

 

「?ああ、よくあることだし、大抵死んでるからいちいち探す手間は掛けなくていいよ」

 

「………胸糞悪い話だな」

 

 危うい雰囲気は感じながらも、雪兎がこの任務が発生した原因については“知らないということになっている”だろう。

 それが事実かどうか―――知っていてにやにやしているのか、それとも知らないけど面白いことはありそうだとにやにやしているのか―――はさておき、食い下がってもそのにやけ面を崩すことは無いと分かる以上はこれ以上の問答は徒労だった。

 

「お受けします―――で、いいか?航輔、能登も」

 

「ああ、春也お前に任せる!」

 

「この男ちゃんと考えてる…訳は無いわね。まあ、私にも異存はないわ」

 

「そ。じゃあよろしくねー」

 

 ひらひらと適当に手を振る雪兎と、その隣でサービススマイルを浮かべている川内。

 それに背を向けて、春也達は会談の場を後にした。

 

 

 

 

 

――――。

 

「そういえば、海の上滑らずに陸地を歩いて鎮守府出るのは久しぶりだな」

 

「ここに入った時以来っぽい!」

 

 よくよく考えなくても人間としてはおかしいことを平然と言っている呟きに、元気な相槌が返って来る。

 新調した麻の旅装に提督の証である白い布を巻き、適当に露天で選んだ鞄に食糧その他を詰め込んで、常のセーラー服姿の夕立と一緒に陸側の街道に通じる出入り口で、春也は先ほど受けた任務への出発を待っていた。

 

 海上と違い大して速度を出せない徒歩での道のりは(それでも馬を使うより早いが)、これまで監督付きでやっていた、適当にそこらの海域に出て行って深海棲艦を狩って即日帰還、という風にはいかない。

 一度全員解散して準備、その後今のこの場に集合という約束で三人の提督は一度別行動を取っていた。

 

 一番早く準備を終えたのはそもそも荷物自体あまり増やす性質ではない春也、そして―――三人の艦娘に世話を焼いてもらえる姫乃。

 

「私なんて、『鎮守府』と『帝都』と『神社』―――三つに囲まれた“領域”の外に出るのは初めてよ?」

 

「だろーな」

 

 扶桑・天龍・不知火を引き連れて現れたその出で立ちは黒髪の映える藍染めの改造袴で、すらりとした生足が大きく露出していた。

 提督である以上、夕立がミニスカートではしゃぎ回っているのと同じでちょっと木の枝が擦れたりした程度で肌に傷が残ったりはしないのだろうが、そんな理屈を考慮はしていないだろう。

 山の中を歩くかもしれないのにこの格好というのがいかにも箱入りといった感慨を抱かせた。

 

 とはいえ、常識を知らないという意味では異世界人の春也も他人のことを言えた義理ではない。

 これまでの流れで気になったことを航輔を待ちがてら姫乃に訊ねる。

 

「見習い卒業………昨日航輔が声掛けられたのも、それに合わせて、って話なのかね」

 

 昨日の派閥勧誘、らしい何か。

 

 鎮守府着任から約一カ月以上――正直遅すぎる、と思わないでもないのだ。

 部活勧誘を例に考えなくとも、仲間を増やす為に声を掛けるのは真っ先にするべき話だ。

 最初に声を掛けた人間に一番好意的になるのが人間の心理だろうし、更に気になるのは―――、

 

「俺らの中であいつだけ声かけられたのって、何で?」

 

 いや、別に航輔に嫉妬している訳ではないが。

 声を掛ける対象を選別していた、それも対象が仲間と分かれて一人になった時間を見計らって、となると話の胡散臭さが増してくるということだ。

 

「………」

 

「…、ぽいっ!」

 

 構って欲しそうにちらちら見上げてきつつも、空気を読んで我慢して片足をぷらぷらさせながら隣で黙っている夕立。

 その頭を軽く撫でていると、顎に手を当てて少し考え込んだ姫乃の答えが返ってきた。

 

「派閥争いって言っても、実際はちゃちなものということだと、思うわ」

 

 以前春也に喧嘩を売ったことから分かるように、コンプレックスを抱いた父親によって異能の形成に成功した佐官の実態を教えられずに狭められた教育を受けていた姫乃だが、彼女なりに春也を初めとする“振り切れた者達”を見てきて理解しようとしてきた。

 僅かに自信なさげながらも、己に対しても整理しなおすように自らの憶測を語る。

 

「そもそも、私達に声がかけられなかったのは当然よ」

 

 姫乃は、演習の件で見下されるような評判が付いてしまった為。

 そして春也も、その演習で己の評判が広まり、佐官であるということも広まってしまっている為。

 

「もし私が何かの集団をまとめようと思うなら、真っ先に貴方を外すわよ。

――――誰かと価値観を合わせること、相反した利益を調整すること……そこから背を向けて逆方向に全力疾走しているのが“異能持ち(あなたたち)”じゃないの」

 

「おい、それは遠回しに人の話を聞かない考え無しだと馬鹿にしてるのか?」

 

「本質的にはそうでしょう?貴方の場合、一見そうは見えないから余計に性質が悪い」

 

「………」

 

 姫乃の言葉に釈然としないものはあるが。

 雪兎や『瑞鶴』のことを思い出すと分からないでもなかった。

 

 あれらが何かの思想に同調して他人と共有できるような人間だと思わない。

 そして、総じて己の渇望を世界の理を局所的にでも塗り替える程に深めたが故の異能、そもそも協調を期待するだけ無駄だ。

 

 単純に武力として使うならまだ許容範囲………だが、政治的な話となれば敵にしてでも味方になって欲しくはない無軌道タイプと分類して差し支えない。

 そんな彼らと類友扱いされるのは、やっぱり釈然としないが。

 

「あれ、待てよ?航輔が、航輔みたいなのだけが誘われたってことは」

 

「そう、“海”も“陸”も、基本は尉官の集まり。

 考えて見れば当たり前よね、派閥(群れ)なんて面倒なもの、群れる必要があるから作るのだから

――――そして伊吹春也、あなたは自身にその必要性を感じているかしら?」

 

「…………」

 

 姫乃の問いに黙り込む春也。

 視線を落として少し考え込むが、しかしどれだけ考えても肯定の返事を返せなかった。

 

 確かに鎮守府という組織に所属していて集団の中で戦いという最低限の義務を果たしているとはいえ、そこに人と人の有機的な繋がりを春也は、雪兎は、『瑞鶴』は、果たして必要とするだろうか。

 

 否、だ。

 例えこの終末世界で人類が滅び、およそ社会と呼べるものすら無い程に荒廃しきっても、彼らは勝手気ままに生を歩み続けることだろう。

 

 現に春也とて、平穏そのものの現代から人殺しの怪物が跋扈する滅びの世界に急に飛ばされたというのに、親にも友人にももう二度と会えないだろうというのに。

 口ではいくらか泣きごとを言いながらも、常人から考えればあっさりと順応し過ぎてしまっている。

 

 本質的に他者に依存しなくとも生きていける部類の人間、ということだ。

 

「……あれ?俺、一匹狼気取る趣味は無かった筈なんだけど」

 

「一匹狼は気取るものじゃなくて周りに弾きだされてなるもの、単なる異質の結果でしょうに」

 

「あー」

 

「提督さんには、夕立がいるっぽい!!」

 

「……ありがとな」

 

 夕立の気遣いか自己アピールか分からないが、元気で少し気合が入った声が耳に心地良い。

 

 それを仕切りとばかりに、姫乃は逸れかけた話の軌道を修正した。

 

「逆に言えば、必要があるなら派閥に入るというのは航輔にとっても悪い話ではないわ」

 

「そうだよな」

 

 派閥争いに巻き込まれる、と言えば聞こえは悪いが。

 集団の中で一定の義務を課すがその分構成員には便宜を図ったり不利益から庇護する、派閥にはそういう側面もある。

 全否定するようなものでもないし、良い悪いで判断すること自体がある意味お門違いだ。

 

 春也にとって航輔はこの世界に来て初めての友人だが、だからと言って一から十まで彼の面倒を見るなんてするものではないし、そもそも出来やしない。

 それは彼の艦娘である電の領分だし、二人で話し合って考えて決めたのならあれこれ言うことでもないだろう。

 

「ようやく慣れて来た、って言えるところだったんだけどなあ」

 

 いずれにしても。

 見習い卒業、という一つの区切りを境にまた周囲を取り巻く状況は変わる。

 いや、春也が何もしていなくとも、こんな狭い世界の情勢なんて刻一刻と移り変わっていくことだろう。

 

 手探りの中で必要なものと不必要なものを見て、調べて、選んで。

 面倒くさいよな、と憂鬱と辟易が2と8くらいの割合で混じった溜息を吐き出しながら、春也は、一番遅れているくせにゆっくりと歩いてくる航輔を視界に捉え、早く来い、と声を張り上げた。

 

 

 

 






☆設定紹介☆

※“領域”

 主要施設間を結ぶ街道によって引かれた人類の生存ラインであり、この世界において唯一残る国家と呼んでも差し支えない。
 担当の提督や艦娘達により厳重な哨戒が行われている為、内側と外側では深海棲艦に襲われる危険度や暴れている深海棲艦に対するその対応の速さは段違いであり、必然安全性が格段に高い中で人々が社会生活を営んでいる。

 ただし安全が何の代償もなく手に入るなどという幻想は当然存在せず、内側で暮らす為には高率の税負担が課され、払えない場合は住処を追われ『神社』のスラム地区や外側の山間部にこっそりと作られた集落に合流する羽目になる。

 スラムの人間にはまともな人権など保証されておらず犯されても殺されても大して問題にならないし、外側の集落などいつ深海棲艦に襲われて全滅したっておかしくはない。
 それでも生きる為には足掻くしかない――――力を持たぬ人々に、取れる選択肢は皆無に等しい。


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