終焉世界これくしょん   作:サッドライプ

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 しばらく電組がパーティーから離脱します。

………ぶっちゃけ電と航輔のキャラが使いやす過ぎて、主人公達と掛け合いやってるだけで話が進まなくなるし他のキャラが空気になるメタ事情が(ry

 それ抜きにしても、あまり鬱ばっかのノリで話を進めてもメリハリ付かないし。





休日

 

「むにゃむにゃ………ぽいっ」

 

「…………?ふ、くぁ~~」

 

 顔の上に何かを被せられた、そんな微妙な息苦しさで春也は目が覚めた。

 ぼんやりとする意識でしかし反射的に払いのけた手に返ってきた感触は、薄い布地の感覚だった。

 

 布団の上で状態を起こし、暗闇の中周囲を見渡すとそこはもはや慣れた提督宿舎の自室。

 木造の柱の合間に固めた砂壁を埋めた八畳程の部屋だった。

 電気水道ガスなし、トイレ風呂共同――――春也のいた日本ならば都心にあっても家賃月額3万にも届くまい。

 

 提督になったせいか窓からの月明かりがほぼゼロでも暗視ができるので照明が無くてもなんとかなり、水汲みさえ怠っていなければ雑事を請け負う提督無し艦娘達の支えもあって、“仕方無い”で済ませられる程度の不便な生活。

 本格的に夏に突入すればまた話は別だろうか―――と空調在りきの暮らしをしていた現代人はどうでもいいことを考えながら部屋を見回す。

 

「……夕立か」

 

 さほど余裕を持っているとは言えない敷き方をしている布団に垂直の向きになりながら、寝相の悪さで掛け布団を蹴飛ばしたらしく、白いおなかを見せながら気持ち良さそうに寝ている少女がいた。

 戦場においては闘争本能のままに敵に喰らいつく兵器であることなど露も感じさせない緩みきった寝顔に、顔に布団を被せられた主は苦笑する。

 

 艦娘が風邪をひくとも寝違えるとも思えないが、すっとあばらが見えない程度に引き締まった夕立の腹を隠すべく春也は優しく掛け布団を彼女に被せ直す。

 

「ぽいぃ……」

 

 目を覚ますほどではないが、微妙に布団の重みが面倒くさいのか身じろぎする夕立。

 その様子に思わず漏れた笑い声が――――重なった。

 

「「―――くすっ」」

 

 春也が振り返ると、柱に背を預けて三角座りしている羽黒がじっとこちらを見ていた。

 その深い眼が夜闇の中ぼんやりと淡い輝きを以て、ひたすらに己の提督を見つめている。

 

「っ、羽黒。もしかしてずっと起きてたのか?」

 

 夕立に配慮して声を潜めたその問いにこくんと首を縦に振る羽黒。

 起きて何をしていた、と問いを重ねると司令官さんの寝顔をずっと見ていました、と答える。

 

「……今まで毎日ずっと、か?」

 

「はい」

 

「飽きないのかよ……!?」

 

「………?」

 

―――このひとは何を言っているのだろう?

 

 黙っていてもそう雄弁に語る羽黒の首を傾げる仕草は、少し苦手だった。

 

 彼女がこの部屋で寝起きするようになってから既に一週間経っている。

 おかしいのはその間一睡もしていないでずっと春也の寝顔を見続けたという羽黒に違いないのだが、こうまで無垢に返されると己の感覚が信用できなくなりそうなのだ。

 

「司令官さんとずっと一緒にいられるのが嬉しくて。いつも気がついたら朝なんです」

 

(ヤンデレは正直好きでも嫌いでもないんだけどなあ)

 

 とはいえ、彼女には生まれてからたった一人で深海棲艦と戦いながら主を求めて彷徨い続けたというかなり重い過去がある。

 何故に自分が彼女の提督になっているのかは不明だが、そんな相手にあえて冷たくするような趣味は無かった。

 

 くしゃり、とさらさらで整った羽黒の髪ごと頭を軽く抑えつけ、そんな軽い意地悪に嬉しそうに見上げてくる羽黒に命令する。

 

「寝れる時に寝とけ。隈なんて作ってたら置いてくからな」

 

「はいっ」

 

 やはりあっさりと、嬉々として彼女はそれに従った。

 

 ずっと一人だった時間が、ずっと主と共にいられる時間へと代わっている。

 眠る時間なんてもったいないくらいに幸せになった結果が眠らずに百時間以上ずっと春也の顔を見続ける行為なのだが、その気持ちを否定されても彼女は微笑みを湛え続ける。

 

 生まれ、性格、そして属性。

 あらゆる面で元々提督に一途で従順な艦娘が羽黒なのだが、少しだけ探し続けた主に実際に逢って変化していた。

 

(このひとの命令、ずっときいていたいです……)

 

「ふにゅぅ」

 

「っ!?」

 

 だから、そのまま倒れ込むように、しなだれかかるように、春也の胸元に飛び込んではすぐさま肩に腕を回す。

 能動的なアクションはその一瞬の早業だけで―――あとは“命令通り”一秒すら持たずして意識を夢の中に飛ばした。

 

 即座にすぅすぅ寝息を立て始める羽黒に、彼女を胸に掻き抱く形で拘束された春也は顔がひくつくのを感じた。

 動けない、動いたら絶対羽黒を起こす形になる、自分が寝ろと命令したにもかかわらず。

 

「もしかして、今度は俺が朝までこのまま?」

 

「ぽい~っ!」

 

 果たして計算ずくの行動なのだろうかと判断に迷う春也の背中を、本能で何かを察したのか寝返りで夕立の掌がぺしりと叩いた。

 

「……まあ、いいか」

 

 提督(おとこ)一人に艦娘(おんな)二人。

 修羅場も、ハーレムも、ヤンデレ同様趣味に合うことはなく惹かれたことは今まで無かったが。

 

 こうして実際好かれてみると悪い気はしないし、目の前の夕立と羽黒相手に『世間一般の恋愛観では~』などと杓子定規なべき論や倫理観を振りかざすつまらない真似をする意味が特に見出せない。

 

 ただありのままを受け入れて、春也は至近距離にある羽黒の肩に首を預けて軽いまどろみを楽しむ。

 初対面が嘘のように春也と夕立との間に入ってきた新しい存在は、さりげなく自分の居場所を確保していた。

 

 

 

 

…………。

 

 提督にべったりな艦娘が二人に増えて、それを自然に受け入れる伊吹春也。

 この世界において彼らのような提督と艦娘の関係性は、程度を問わなければそう珍しいものでもない。

 

 男と女がいる、共に死線を潜る、互いの深い部分まで理解している―――その結果がどうなるか、というならやや安直とも言える発想が浮かぶことだろう。

 が、当然恋仲(それ)ばかりになる程提督も艦娘も単純画一なものではない。

 

 むしろ奇行の目立つ者もちらほらと見かける提督達の中で、表面上は常識的な春也が半数を超えない程度の多数派に引っ掛かっているのが、いっそ不自然とすら言えただろう。

 

 その意味では、能登姫乃の下で艦娘をやっている不知火達の扱われ方も、そこまで驚かれるようなものではなかった。

 

「平和、ねえ」

 

「………いささか釈然としないものがありますが」

 

 鎮守府併設の歓楽街の通りを不知火と扶桑の二人が歩く。

 昼日中から酒場で酔いに任せて騒ぐ集団もちらほら見かけ、ついでに遊女らしき着物の女に客引きされて鼻を伸ばしては―――連れの叢雲にぶん殴られて引き摺られている提督なんかも目に入る。

 

 何よ、私じゃ不満なわけ………などとツンデレお約束の痴話げんかをやっている一幕から目を背け、溜息を吐く不知火を扶桑はいつもの穏やかな笑みで宥めていた。

 

「微力ながら、私達も貢献している平和じゃない。

 たまにはいいと思うわ、こうしてそれを眺めて実感するのは」

 

「アレに貢献していると考えるからこそ、釈然としないのですけど」

 

 荒れた世界だからこそ享楽的に退廃的に、そんな風に振る舞う人々がいることは何も不思議ではない。

 ましてこの中に客としている者達のいくらかは命を懸けて深海棲艦と戦っているのだ、息抜き程度を責められる云われはないだろう。

 

 とはいえ。

 

 こんな所で口吻けなんて、なに考えてるのよ馬鹿ぁっ!……なんて叫び声とぽかぽか人を叩く軽い音なんて不知火は聞こえない。

 まして振り返れば真っ赤な顔をしながらもにやけ面を隠しきれない駆逐艦娘がいるなんてそんな筈は無いのだ。

 

 

「………不知火に、何か落ち度でも?」

 

「何も言わなくてもそういう発言が出る辺り――――いえ、なんでもないわ」

 

 

 鋭い眼光で睨み付けられた扶桑が苦笑してふるふると首を振る。

 その視線をじとっとしたものに変える不知火に、紅白袴のゆったりした袖から伸びる白い手を頬に当てながら言った。

 

「でも羨ましいかと言われれば否定できないわよねえ」

 

「まだ言いますか」

 

「うちの姫は完全放任だもの。今日もこうして傍仕えに三人も必要はなく、当てもなく私と不知火はふらふらと」

 

 出撃もしない休日に、姫乃は一人でいるか天龍のみを伴っているのかのどちらかだった。

 彼女と最も相性がいいのはやはり異能の欠片を見せている天龍なのだろう、おかげでこうして不知火と扶桑はたいてい暇を持て余している。

 

「姫は女性です。少女の肉体と魂を持っている不知火達にそういった感情は抱かないかと」

 

「――――道具には情動を抱かない、の間違いじゃなくて?」

 

「………」

 

 能登姫乃は天龍も含め、自分の艦娘に心を開いている訳ではない。

 むしろ、心を開くなどという“一個の存在に対する関係性”についての発想さえ彼女には存在していない。

 

 言葉を交わせば情報の交換が出来る、いちいち指示をしなくとも自己の判断で動ける。

 艦娘(兵器)の持つ知性は姫乃にとってそれ以上でも以下でもなく、まさしく道具だ。

 

 提督の中には艦娘との第六感の共有を自分を覗きこまれているようだと、あるいは単純に生理的に、その他諸々の理由で自分の艦娘を嫌う者達もいて、道具扱いを公言して手酷く扱う―――ろくな補給もさせずに休み無しで戦わせ続けたり、必要以上に肉の盾として弾避けに使うなど―――のをはばからない者もいるが、姫乃はそれとも違った。

 

 そもそも純粋に艦娘をただの兵器、道具としか見ないのならば必要な目的に必要なだけ使用する、そんな至極ドライな態度だった。

 役に立つのならあとはどうでもいい、道具の手入れくらいはするが煩わされる必要性を見出せない。

 

 死んだ人間に価値を一切見出せず、全ての関心を無に帰す、そんな姫乃の歪みが関係しているのかは分からないが。

 

「それが姫の望む在り方なら、従うまでです」

 

「私もそれについては異論無いけれどね。もちろん、天龍も」

 

 不知火達も、こんな無機質な関係に不満は無い。

 提督(あるじ)の望みならばその隔たり切った関係性と距離感を保つことが、彼女達なりの忠誠の在り処。

 

 その微妙さを感覚的に察していたのか航輔には時折嫌な顔と苦言を向けられていたが、そんな程度で揺るぐものでは当然なかった。

 

「………航輔くん、か。今頃どうなっているかしらね。

 以前この辺りで見かけたことはあったけど」

 

「嫌なことを思い出させないでください、扶桑」

 

 以前二人が見たのは、賭場に遊びに入る航輔を電が引き止めていたやり取り。

 

『やめて欲しいのです!そのお金はもしもの時の為にとっておいた大切な―――っ』

『いいんだよ、今度こそ勝って倍にしてやるんだから楽しみに待ってろ!』

『前もそんなこと言って………ああっ!?電の話を聞くのです!!』

 

 仮に春也に見せれば「昭和か?」とコメントするような、どこからどうみてもただの芝居だった――――少なくとも電は。

 当然のように負けて店から蹴りだされた航輔を抱きしめてよしよしと慰めて悦に浸り、ちゃっかりと生活に必要な金はきちんと避けて確保していた電は、完璧にその芝居自体も楽しんでいた。

 

「もし紀伊航輔が電を完全に拒絶したとして、どうやって生きていくつもりなのでしょうか、彼は。

 現時点でも、相当に危ういのでは?」

 

「なるようにしかならないわよ、結局。

 春也くんも、もうそういう態度らしいしね」

 

「『やることはやった、あとは信じるだけ』――――ですか。

 あるいはそれが、男の友情というのでしょうか?」

 

 不知火には理解できない概念ながらも、戦いに余計な未練を持ち込まないならと内心で推奨する。

 命懸けで深海棲艦と日々戦っているのだ、余計な迷いを持つ者に傍にいて欲しくはない。

 

 それでも無意識に賭場の方に視線が向かったが、そこに知り合いの姿を見かけることは無かった。

 

「いずれにせよ、今は目の前のことに集中。英気を養いましょうっ」

 

「こうして街を目的も無く散策することで?

………まあ特にやることも無いので、付き合いますが」

 

 そう言って不知火はセーラー服のスカートを翻し、適当な方向に歩きだす。

 着飾ることもなく、買い物を楽しむでもなく、ただ日差しで暖められた地面が生ぬるい風を巻き上げる歓楽街の通りで。

 

 

――――深海棲艦、海より軍勢を並べ組織的に鎮守府に侵攻する動きアリ。

 

 

 姫乃達が正式な提督になった矢先の嵐を感じさせる情報の為に与えられた休息を、艦娘二人は無為に潰していた。

 

 

 





☆設定紹介☆

※不知火〈艦娘〉

 能登姫乃が父親からコネで得た艦娘三人組の一人、駆逐艦。
 属性は『箱庭を壊す者』、表性は『破壊と再構築、現状の打破』、対性は『選別と切り捨て、秩序の否定』。

 提督である能登姫乃との相性は標準的なレベルで、つまり残念ながら夕立や川内などの突き抜けた組の艦娘達とは張り合うだけ無駄といったところ。
 が、火力の低い駆逐艦ながらその判断力と冷静さ、機転などから戦場で居てもらって嬉しい仲間ではある、というのが夕立と春也の意見。

 何故かタグに混ざっているので当初は重要なポジションのつもりだったが、初登場がかませになったのと電の会話頻度の多さ、あと三人一組の弊害でちょっと空気化が進行していたので慌てて扶桑姉様共々軌道修正中。
 属性だけ見たらなんか凄そうだった。
 実体が追いつくかは今後次第。


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