終焉世界これくしょん   作:サッドライプ

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 某スレ1発ネタより。

テルマエロマエ主人公「こ、これは!(中略)湯に薬を入れることで戦いで傷ついた体を癒し治す風呂だというのか。
 なるほど、感謝するぞ平たい胸族の女!」

RJ「表出ろ」

 平たい顔じゃなくて胸族の女ことりゅーじょーさんが好きになった瞬間。
 出そうかなーでもキャラ的にいまいち使い辛いんだよなー。




参上

 

 夕立に通常の手段でダメージを与えることは、限りなく難しい。

 

 僅かとはいえ現世に異なる法則を展開している深海棲艦、そして提督と艦娘には、そもそも普通の物理的な攻撃手段が通じない。

 

 異なる法則と言っても、形而上の想像が現実に侵食したもの、分かりやすく言えば位相のずれたそこだけ別世界になっていると考えればいい。

 

 例えば炎が吹き上がってくる映像を見て実際に熱いと思う人間はいないその一方で、技術と機材があればその映像を編集して好きに加工出来るようなもの。

 夕立が倍加反射という、言わば極小一部だけの逆再生二倍速をやっている“程度”が稀少と言われる様に、自由自在とは全く行かないのだが、それでもそんな一方的で理不尽な上下関係が深海棲艦とそれに蹂躙されるこの世界には存在している。

 

 しかし、艦娘によってその壁を超えて同じステージに立ってしまえば、あとは通常の砲撃、いや殴る蹴るの打撃ですら十分に通じるし、基本的に艦娘達と深海棲艦の戦いとはそういうものだ。

 

 想像上とはいえ、いや想像上だからこそ、異なる法則とは言っても内容自体は現実の物理法則と寸分違わないもので、運動エネルギーや熱エネルギーを鉛弾や火薬で叩きつけ合う行為が通常の戦闘のやり取りになるのは何も変わらない。

 

 故に。

 

 そのエネルギーを自在にベクトルを逆に倍にして反射する夕立に対して、“通常”の攻撃は全く通らない。

 

 殴っても斬っても撃っても押し潰しても、傷付くのはすべて殺人行為(そんなこと)をする相手側。

 ゴミはゴミらしく大切な命を傷付ける前に自滅しろ―――これはそんな異能(いのり)で、そして春也の渇望に直接護られている夕立にとっての至福だった。

 

 だから夕立を倒す為に突かなければならないのは彼女の活動そのものを成り立たせている提督の春也であり―――そしてそれは夕立にとって最も許しがたい蛮行でもある。

 

「こいつ………ッ!」

 

『Ra,ra,ra.....』

 

 小柄で華奢な夕立と、図体にしてその倍はある黒い異形が荒野を疾走する。

 一定の間合いのまま、互いに全く同じ速さで並走しながら睨み合う両者。

 その中で夕立は時折合間を見計らって砲撃を試みる。

 

 それはつまり余裕のある夕立の方がコンパスの大きな人型深海棲艦よりも若干速いということだが、そんなことは夕立を苛立たせる要因にしかならない。

 

 無事な方の腕で捌き、あるいは上体のバネであらぬ体勢に腰を反らして躱し、あたかも挑発するように首をくねらせて当たらぬ砲撃を笑う異形。

 その顔面に拳打を叩き込みたい衝動をかろうじて抑え、代わりに腕に再装着した砲頭をがちゃりと鳴らす。

 

 薬莢を排出、なんてことはしなくても再装填が内部で行われた弾丸をそのまま撃ち放った。

 数百メートル先、時にはキロメートル

先まで狙いを付けられる事を考えればほぼ接射と言える至近距離だけに、しかも走りながらでは流石に避けきれずにその体にまた一つ軌跡の痕が刻まれるが、そんなかすり傷ではいつまで経っても倒れないだろう。

 

 そうなると当然一気に勝負を決めたいのだが、人型らしく相手に相応の知能があるのが厄介だった。

 

『Rh?』

 

「だから行かせない、って……ああもう、埒があかないっぽい!!」

 

 不意に地面を削る勢いで急減速する異形、だが図体のでかい相手の小細工などに反応出来ない夕立ではない―――後ろに抜かせて負傷した春也を襲わせることなど許さない。

 

 両肩に展開した大口径砲すらも反射されて潰され、夕立への攻撃が無意味と悟った敵はその狙いを春也に切り替えてきた。

 

 彼が死ねば夕立もまた無力化するのを知っているのか、それとも単に殺せる相手から航輔とまとめてまず殺していこうという考えなのか。

 一応電を後方に下げ二人の護衛に回しているが、彼女にこの人型深海棲艦の相手が出来るかは不安の方が大きい以上、迂闊に攻め込んでそれを躱されるリスクを負う訳にはいかなかった。

 

 一方で向こうも強引に夕立を突破しようとすれば痛打ないし致命傷を受けるのが分かっているのだろう、互いに決定打を繰り出す隙を窺いながらも出せない不毛な状況が展開される。

 春也達を中心にした円周上をぐるぐる走り回りながら、神経を削り合う持久戦ばかりが続く。

 

 傷を負わない夕立の方が僅かに有利と言えば有利だが―――気を抜けば簡単にひっくり返される均衡なだけにそれを打開したいのは彼女“達”も同じだった。

 

(航輔……は、無理か。でも、俺と電が突っ込めば夕立が決める隙は作れる)

 

 肩に走る激痛と直下の窪みに溜まる程に流れる血に膝をついていた春也がよろけながらも立ち上がる。

 

「お、おい春也?痛くないのか!?」

 

「んなわけねーだろ馬鹿野郎……っ!」

 

 平和な世界で生きてきて、今まで骨折すらしたことのなかった春也。

 それが肩を深く裂かれるような傷を受けて、平気な訳がない。

 

 堪えるとか我慢するとかそういう次元の問題ではなく、肉体が信号という形で悲鳴をがなりたてている。

 全身の神経がそこに集まったのかと思うくらい、他の部分の感覚がイカれて言うことを聞いてくれない。

 

 正直恥も外聞もなく泣き叫びたかった。

 実際はその動きさえ余計な痛みになるので出来ないのだが、それ以上に。

 

 

「――――でも、死にはしないだろ」

 

 

 ただの人間なら生涯もう腕が上がらなくなるのを覚悟しなければならない傷でも、一日も待てば何の後遺症もなく治ると何故か理解していた。

 

 そう、命までは落とさない。

 そして目の前に、人の命を奪う深海棲艦(ゴミ)がいる。

 

 ならば、ああ………確かに、痛みを堪えるとか我慢するとかそんな次元の問題じゃない。

 優先順位からすれば論外だ。

 

「電、手伝ってくれ。アレをぶっ潰さないと」

 

 まずゴミ掃除。

 痛みで転げ回るにも、世界(地べた)が汚すぎて今は無理だ。

 

「電と春也さんで夕立さんの突破口を拓く。確かに、それしかないですね………」

 

 傍らの電も状況は冷静に分析できているのか、話が早い。

 一方の航輔はただただ茫然と疑問を繰り返すだけだった。

 

「一体何の話だよ………まさかその傷で戦うってのか!?無茶だ!」

 

「無茶だけど、無理じゃない。それとも航輔、お前がなんとかしてくれるか?

 俺は、そっちでもいいけど」

 

「そ、それは………」

 

「司令官は前に出ないでください。足手まといにしかならないのです」

 

「わーひどい。で、本音は?」

 

「こんな状況ですらみっともなく震えて縮こまるのが電の司令官なのです。

――――だから、安心して怯えていられる様に、電が護るのです」

 

「安心できたら怯えないけど。てかツンデレでもないのに建前の方が酷いとか斬新だな」

 

「おかしいよお前ら、待っ――――」

 

 軽いやり取りは、躊躇いや恐れなく覚悟を決めた証。

 故に、勝負を仕掛ける二人に、怯えるだけの航輔の声など届かない。

 

 

「――――待った。そういうの嫌いじゃないけど、残念ながらここは君たちが命を張る場所じゃない」

 

 

 だから、二人を止めたのは、同じく戦場に立つ覚悟を持ち、尚且つそんな声の主が敵を打倒出来るという事実。

 

 この戦闘だけで何度も響いた発砲音、だが夕立や電のそれよりもやや重く低い。

 そして、それが鳴り響く直前に不自然に異形の動きが鈍り――――飛んで来た鉛の塊が為す術なく直撃する。

 

『rha------』

 

「そこぉっっっ!!」

 

 そして、ひたすら機を待っていた夕立が逃す事なく魚雷を顕現し、懐に潜り込んで叩きつけた。

 

 扱いとしてはただ細長いだけの爆弾は、深海棲艦と夕立自身の両者に等しく爆風と破片を浴びせ―――夕立がそれを倍加反射する為に、指向性爆雷と化して敵のみを容赦なく吹き飛ばした。

 

 肩までの黒髪を二条に分け、赤橙のセーラー服姿が目に鮮やかな少女が春也達の横に立ち、その爆炎を眩しげに見つめる。

 そして―――爆炎を突っ切って疾風の如く飛んで来た夕立の拳を、己の左頬に突き刺さる前に掌で掴んで受け止めた。

 

「―――さて、これはどういうこと?私、貴女達を助けた立場だと思うんだけど」

 

「手が滑ったっぽい。

――――夕立の提督さんが無茶して頑張ろうとしたのに、それまで出待ちしてた奴がなんか得意げな顔してたのが苛ついてしょうがなかったの」

 

 白々しい言葉を交わしながら、夕立が掴まれた拳を強く振り払い、そして硬直する二人。

 無表情の夕立と不敵な笑みが交差する。

 

 一瞬で緊迫感が高まり、あわや艦娘対“艦娘”の第二ラウンドが始まるかというところで………折れたのは向こうの方だった。

 

「あはは、気付かれてたか。失敬失敬、ちょっと興味が湧いてさ。

 覗き見してたのは、素直に謝るよ。ごめんね」

 

「………で、あんたなんなんだ」

 

 にへらと気安い笑みを浮かべる闖入者に、気の抜けて既に地べたに座り込んだ春也が取り敢えず話を進めるべく問うた。

 名前だけなら別に分かっているが、会話の流れとして訊ねる。

 

 春也が脳内に浮かべた正解は、果たして外れることはない。

 

 

 

「川内(せんだい)、参上―――――よろしくねっ!」

 

 

 

 





☆設定紹介☆

※夕立&春也の特殊能力、倍加反射(9話時点)

 聖なるバリア-夕立フォース-
 【罠カード】
 ①相手モンスターの攻撃宣言時に発動できる。そのモンスターを破壊する。②フィールド上にセットされたこのカードが相手のカード効果によって破壊された場合、このカードを自分の魔法・罠ゾーンにセットし直す。その後このカードを破壊したカードを破壊できる。

 割られるのも仕事、違う意味で。


…………というのは冗談として。

 提督である春也の『尊い命を奪われたくない』という祈りが、『命を奪う奴を消し飛ばしたい』という怒りと混ざってそれを汲み上げた艦娘の夕立を媒介として発動した法則。

 殺傷性を持った攻撃を自業自得にすべく威力を上乗せして相手に反射する。
 自分に攻撃して反射、威力は二倍……とかいうメーガス三姉妹的な真似も出来るらしい。

 とはいえ、実はイメージの容易な物理的な攻撃しか反射できないので、例えば炎で包もうとしてくる相手を丸焦げにしたり、超スピードで動く相手をその倍の逆Gでハンバーグにするのは簡単なのだが、生命力を吸い取られるとか影に拘束されるとか殴られたら死ぬとか笑われたら死ぬとか、訳の分からん能力に対しては苦手。
 むしろ、そうでもしないと夕立単独を倒すのは無理。
 そしてそういうことにしないと無敵過ぎてバトルにならないので作者が設定した苦し紛れの弱点でもある。

 一応現時点では夕立に触れた場合しか反射が出来ないので、それも今回の話であった様に弱点と言えば弱点。
 ただこれはこの能力で直接的に護られているのが夕立のみということでもあるので、ある意味この能力の存在で『(夕立の)尊い命を奪われたくない』『(夕立の)命を奪おうとする奴は絶対に潰す』などと夕立が春也に気が狂わんばかりに渇望されていると言えなくもない。

 そんなオタクの妄念に純粋なぽいぬが何を感じちゃったかは………触れないのが花か。

「提督さん、大好きっ!!」


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