□主人公視点
私は今回で大蛇丸との因縁を終らすつもりだ。
ならば、サスケ君に大蛇丸の呪印を付けられるのはまずいかもしれない。勿論使いこなせる様に成る可能性も十分にあるが、大蛇丸が居なければ十分に制御しきれずに暴走してしまう可能性もおおいにある。それに、もともとサスケ君にはない力だ。そんなもの無い方が良い。
今回の第一の目的はサスケ君に呪印がかけられるのを防ぐ事。
普通の人間なら、不確定要素の存在を知った時点で作戦を辞めてしまう恐れも有るが、相手は大蛇丸だ。奴のプライドがそれを許さないだろう。木の葉落としを優先するはずだ。しかし、作戦に支障のでる負傷をしてしまった場合、いくら大蛇丸でも作戦を続行する事は無いだろう。
だから、絶対に殺せる確信を持てなければ、引き際を把握していなければ成らない。
再度言うが今作戦の第一目的はサスケ君を守る事。あわよくば、大蛇丸の命を狙いたいがそれは多分無理だろう。地形は私を見方するが、時間が少ない。すぐに他の人が駆けつけて仕舞うはずだ。普通の人間が来るのは良いが、カカシさんや日向家、火影様が来れば私の正体も露呈してしまうだろう。
故に今作戦で避けるべき事は、日向ネジくんと日向ヒナタちゃんとの遭遇だ白眼で覚えられてしまえば厄介。チャクラで人を見分けられる彼らは、私にとって一番の天敵とも言える。
そして、木の葉の里から大蛇丸を無事撤退させてしまう事だ。
やる事が決まってしまえば、後は期を待つだけ。
中忍試験前に、ナルト少年をマーキングし時を待つ。
順調に一次試験のテストが終わり二次試験が始まる。
開始前のアンコさんの声に、少し反応してしまった。もしかしたら、私は少しM気質を持っているかも知れない。
試験が始まってすぐに辺りから他の下忍の悲鳴が聞こえ始める。
もう直ぐだ。
大蛇丸との戦いの前の緊張感にだんだんと血の冷える感覚。思考が醒め、視界が広がる。これもまた、戦いに慣れていくうちに覚えてしまった戦うための技術だ。
ナルト少年たちは順調に進んで行く。
雨隠れの忍びがNARUTO少年に変化するが、サスケ君の名推理で順調に迎撃した。
そういう頭脳プレイはサクラちゃんの出番じゃないのかな? テストの勉強が出来ても駄目ということか。
写輪眼を使い見破らないという事は、もしかしたら写輪眼では幻術は見破れないのかもしれない。
今後に備え、ナルト少年達が策を立てていると、突如豪風の音が鳴り響いた。
来たか。
おそらく大蛇丸の風遁だろう。
飛ばされるナルト少年から、爆風に紛れて分身を作った。
初めて対面する三忍クラスの殺気に呑まれるサスケ君とサクラちゃん。サクラちゃんは粗相をしてしまうが、アレは仕方ない。私も経験した事だ。
引き腰のサスケ君を大蛇丸がいたぶる様に攻め続ける。
そして、私はそれを見て気付いてしまった。
……なんて、いうか。似てるいるんだよな。サスケ君と大蛇丸。優勢時の話し方とか劣勢時の慌て方が。もっとも、大蛇丸の方が数倍劣悪だが。
だから、サスケ君の台詞に血が疼いてしまうのかもしれない。
ナルト少年が来ると場の空気は一転する。この頃から既に一種のカリスマがあったのか。しかし、この戦力差がそれで覆る訳ではない。
覚醒したナルト少年に発破をかけられて、サスケ君も手裏剣や忍術を駆使して善戦するが、大蛇丸に傷を付けるには届かなかった。
サスケ君たちもよく頑張ったがここからは、私の仕事だ。
私は伸びた大蛇丸の首を狙い、影の刃を振り下ろす。しかし、三忍がこの程度で殺れる筈もなく察知されかわされる。下忍を相手にしていたのだから、油断していてくれれば良かったのに。
……音も殺気も無いはずなのに何故分かるのだろうか。私もなんとなく分かるのだが、何故分かるのかが分からない。
「貴女は、再不斬を殺した」
「お前ッ!」
私の登場にサクラちゃんとサスケ君が叫ぶ。
再不斬さんは死んで居ないんですけどね。
サスケ君は以前、沢山挑発してしまったので私を見ると怒りが再発したようだ。助けに来たのに背中から刺されそうな殺気。
フレンドリーファイヤが、無いことを切に願う。
「チィッ! 貴様は……」
『お久しぶり』
「……此処で貴方と戦うのには準備が足りないわね」
『イタチさんの劫略に失敗した貴方はきっとサスケ君を狙うと思っていた』
『せせこましい事だな』
「ッ……! コソコソと鼠のように這いまわっていれば良いものを!」
『図星を付かれて怒ったか?』
怖い。あまりの恐怖に涙が出そうだ。でも、そうも言っていられない。
「イタチだと! お前やっぱりイタチの事を知っていたのか!?」
『秘密だ』
今私が対面しているのは伝説の三忍なのだ。余計な事に気を使わせないで欲しい。
日の刺さないような深い森の中も、私のテリトリーだ。
そして、戦闘が派手に成ればなるほど戦況は大蛇丸に不利になる。制限された状況でどれだけ抗えるかな?
時間は無い。一気呵成。
――弾幕はパワーだ。散れ 影貫礫!
影の弾幕の嵐が周囲の木々を削りながら大蛇丸を襲う。左右前方から降り注ぐ弾丸の雨を、防御せずにギリギリで避ける。
この術の性質は見抜いているのだろう。この術の真価は貫通力。生半可な盾ならば、盾ごと蜂の巣にしていた。
このまま続けてもジリ貧だが、大蛇丸相手に手を休ませるのはまずい。
まだだ。まだ終わらん!
そう、自分に発破をかけて、影貫礫に術を追加する。影木の葉落としと螺旋槌だ。上下左右前方から大蛇丸を狙う。コレを耐えきれば化物だが、大蛇丸は正真正銘の化物。コレで殺れるとは思っていない。
しばらく弾幕を浴びせ続けるが、大蛇丸の気配が消えたことを察知し攻撃対象をやめる。
音が止み、攻撃の余波で巻き上げられた土煙が晴れる。木々はなぎ倒され、地面は抉れているが、そこに大蛇丸の死体は無かった。
逃げられたか? いや……。
見失ったなら上か下かと相場が決まっている。ならば、取り敢えず下だ!
――影遁・
ただ、螺旋丸と同じ事を影でしいるだけ。それを地面に叩きつけると、半径三十メートル程のクレーターが出来る。
二択は苦手だが今回は当たりだった。
「クッ……。何故」
『カン』
ネタバレすると。大蛇丸が土遁を使える事は先ほど地面に潜んでいた事から分かっていた。そして、影木の葉の舞う中、上に回避する事はほぼ不可能。
よって消却的に地中にいる可能性が高いと判断した。
しかし、時間は掛け過ぎた。これで五体満足となるならば、これ以上続けるのは得策ではない。中途半端は望むところじゃないがタイムオーバーだ。
「あら。随分ボロボロじゃない。大蛇丸」
「フン。こんなものは怪我のうちに入らないわ」
樹木を背にし、アンコさんが登場する。
特別上忍だから戦力としては期待していなが、仲間が増えると少し心が楽になる。ヘイトが分散されるという意味で。
因みに特別上忍とは、名前からして一見上忍の中で特別な存在なのかと思いきや、中忍の中で特殊なスキルが考慮され特別に上忍になった人たちの事だ。だから、戦力的な実力としては中忍なのだ。完全に名前負である。
しかし、人が増えたと言っても私にこれ以上続ける気は無いので、大蛇丸が撤退するように促す。私の全力を持ってのポーカーフェイスだ。頑張れ私の表情筋。
出来るだけ余裕を見せつけながら、薄ら笑う。
『興が削がれた』
『私は撤退する事にする』
『それとも、まだ続けるか?』
「……止めておくわ」
いい判断だ。このまま続ければ、大蛇丸にとっては里な上忍や火影が押し寄せて来る。私にとっても引いてもらわなければ困る。
大蛇丸は踵を返すと森の闇の中に飛んでいく。
「簡単に、逃がすと思ってんの!」
『させんよ』
アンコさんにとっては絶好のチャンスだったのだろうが、私にとってはそうではない。
このまま、ヒルゼンさんたちが来るまで粘ってるのも良いかも、という欲が出てくるが最初に決めた作戦を覆すのはあまり良くない。
そもそも、この状況も考慮して引くと決めた事だ。ならば、ここは引き時だ。
私は、追いかけようとしたアンコさんを影の刃で牽制し動きを止める。
そろそろ、ネジが来る予定なので私も逃げなくては成らないのだ。戦闘は終わりにしてもらおう。
「貴女……。受験生じゃないわね。何故、大蛇丸を逃がした。何者だ? 答えろ!」
「……」
わざわざ質問に答える意味は無い。既に大蛇丸は離脱し、私も消えてミッションコンプリートだ。ランクを付けるならCくらいか。
とはいえ、ただ、このまま引っ掻き回して帰るのも目覚めが悪い。
誰にも気づかれないようにサスケ君にだけメッセージを送った。
『もし、イタチさんの話を聞きたいのなら強く成りなさい』
『私が戦いたくないと思う程に強く』
『そしたら、私の知っていること』
『貴方の聞きたいことを教えてあげる』
今のままではマサラタウンを出発したレッドがそのままポケモンリーグに挑む様なものだ。
もっと強く成らなくてはならない。イタチさんたちの前に立つというのはそういう事だ。
『中忍試験頑張って』
「ッ!? 待てっ!」
慌てて、サスケ君は私を呼び止めるが、待てと言われて待つ人はいない。
私は闇の中に霧散させるように、分身を消した。