異界、影に生きる   作:梵唄会

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14話・最終試験前夜

□主人公視点

 

 

「はぁー。俺って才能無いんですかね」

 

 二次試験も無事終わり、何故かイルカさんに夕食を誘われ、ご一緒していた。いつの間にか、イルカさんの苦労話になってしまったが、奢ってもらうだけというのも悪いので、これくらいは付き合わないといけないだろう。

 因みに私はお酒を飲まない。しっかりと身体が出来ていないせいか、アルコールを摂取すると前後不覚に成り、一晩の記憶が無くなってしまう。

 この世界で一晩自分を失うのは致命的だ。命がいくつあっても足りない。

 

『そんなこと無いですよ』

 

 お酌を注ぎながら話を聞く。どうやら成長したナルト少年の姿を見て、中忍試験を受けることに反対した自分より、試練を与える事で成長を促せたカカシさんに劣等感を覚えているようだ。

 忍びとしては、イルカさんは数回Sランクをこなしたとはいえ、カカシさんは現役で元上司だ。故に、確固たる差はイルカさん自身分かっているはず。

 しかし、教育者としての自負がイルカさんの中にあったのだろう。譲れない部分で負け、打ち負かされたというところか。

 一般人からしたら、木の葉の忍びの中忍というだけで十分エリートなんだけどな。

 

『勿論、忍びである以上強く成らなくてはいけないんでしょう』

『でも、イルカ先生が教えたからこそ真っ直ぐに強く成れるのだと思いますよ』

 

 人というのは、誘惑に悪意に怠惰に怒りに、様々な事が影響し最初の自分を変えていく。

 ナルト少年も例外では無い。親の居ない孤独と里の人間からの憎悪、才能への劣等感。それでも、ナルト少年は真っ直ぐに努力し続けている。

 元来の強さもあったのだろう。しかし、それでもイルカさんが与えた愛があったからこそ、曲がらずに強く在れるのだろう。

 

「そうですかね?」

 

『少なくとも私はそう思いますよ』

 

 忍びとして強くする事に関しては上忍のカカシさんの方が上手だ。しかし、人として強くする事は誰に出来る事でもない。

 どちらが上かという事ではなく、この時代に木の葉の忍びとして人に優しさを教えられるイルカさんは純粋に尊敬出来ると思う。

 

 しかし、イルカさんは納得のいかないご様子。でも、それもいいかもしれない。男なんてものは、いくら歳を取ろうとも“どちらが優れているか”という世界だ。他人の芝生が青く見えるくらいの方が丁度いい。

 しかし、ナルト少年も幸せものだろう。何処の世界を見ても、ここまで先生に想われる生徒は稀だ。ナルト少年はいたずらっ子だったから、出来の悪い生徒ほど可愛いの典型だろう。

 

『ナルトくんは可愛いですからね』

『取られて嫉妬するのも分かります』

 

「な、何言ってるんですか! そんなこと……」『無いですか?』

 

「……嫉妬とは少し違います。私はずっとナルトのヤンチャな面ばかり見てきましたから。しばらく見ないうちに忍びとして成長したナルトを見て少し寂しくなりました」

 

『親離れする子どもを見送る親の心境というやつですか』

『この機会にご結婚して子どもでも作ったらどうですか?』

 

「け、け、け、結婚!?」

 

『はい』

『良い人はいらっしゃらないんですか?』

 

「残念ながら。て、天日先生はどうでなんですか?」

 

『私ですか?』

『私も居ませんね』

 

 私は男性より女性の方に性的指向を覚える。だから男性と付き合うことは無いだろう。白くらい可愛いのならば話は別だが、男性と付き合っている自分を想像出来ない。

 

「そうなんですか。もし、良かったら……」

 

『それに、私は子どもがつくれませんから』

 

「え、?」

 

『子どもがつくれないんです』

『そんな女と付き合いたいような奇特な男も居ませんしね』

 

「それは……」

 

 いたとしても、お断りだ。本当の外見を知っているなら相手はロリコンだろうし、子どもが作れないと知ってて喜々して付き合いたいというような身体目的の男も嫌だ。

 もし、ロリコンではなくて、身体目的でも無く、子どもができなくても一緒に居たいと言うような人間が居るならば一考の価値はあるかも知れないな。

 そういう、愚直な人間は好ましい。性別関わらず一緒に居ても不快感は無いだろう。

 

『すみません、変なお話をして』

 

「私は……、天日先生がそうだとしても魅力的な女性だと思いますよ!」

 

『気を使ってくれてありがとうございます』

 

「いや、気を使っている訳では……」

 

『あ、そろそろ遅い時間ですね』

『お食事ご馳走様でした。美味しかったです』

『イルカ先生も身体にさわるので、飲み過ぎ無いように気をつけて下さいね』

『では、おやすみなさい』

 

 時間を見ると10時を回っていた。私は立ち上がり頭を下げる。

 店を出る時に、店長が酒を置きながらイルカ先生の肩を叩いていた。

 もしかして、知り合いの店だったのかもしれない。それで、私を誘ったのだろうか? 

 なかなか独特な味わいの和食だった。機会があったらまた来よう。

 

 

 

 食事処から帰宅途中、テマリちゃんがいた。私に話がある様だが、もしかしてずっと待って待って居たのだろうか?

 

『こんばんは』

『貴女はこの前の砂の里の……』

 

「テマリだ」

 

『テマリさんですね。可愛らしい、お似合いの名前です』

 

「カワッ! ……いや、世間話をしに来たんじゃ無いんだ。命が惜しければ早くこの里から出ろ」

 

「……」

 

 わざわざ、明日の木の葉崩しの忠告に来てくれたのか。クレープの御礼だろうか?

 義理堅い人間は大好きだけど、忍びとして少し心配になる。もし私が斥候の類だとしたら、少なくとも近いうちに何かあると、作戦が漏れる事になる。

 

「良いか、忠告したぞ。早くこの里から出ろよ」

 

 そう言って、返事を聞かずにテマリちゃんは去っていった。

 ああいう優しい子は平和な世界に生きて欲しいのだけどな。この時代では難しいか。弱ければ、運命を受け入れるだけしか出来ないのだから。

 

「今の子、砂の里のテマリちゃんだよね。おねーさん知り合いだっけ?」

 

 今度はカカシさんか。来客の多い夜だ。神出鬼没に背後に現れるのはミナトさんだけにして欲しい。

 

『こんばんは、カカシさん』

『この前クレープを食べに来てくれてたんです』

『たまたま会ったのですが、御礼を言ってくれました』

『いい子ですね』

 

「ん、こんばんは。わざわざ御礼をねぇ。今時珍しい子だ。あ、そうそうこの前の秋刀魚美味しかったよ。……あれ、ホントに秋刀魚?」

 

 私が砂の里の忍びと接触したタイミングで現れるのは、もしかしてマークされている? 予想より早いが、もしかしたら私は既に黒に近い灰色なのかも知れない。

 

『秋刀魚ですよ』

『ですが、確かに他の魚に近いかも知れませんね』

 

「いやいや、アレはアレで美味しかったよ。秋刀魚の新天地を見た気分だ。そういえば、話は変わるけどお姉さん、幻の何でも屋って知ってる?」

 

『いきなりですね』

『幻の何でも屋さんですか?』

 

「結構有名な話だと思ったんだけど、知らない?」

 

 探りを入れられて居るのか? バレるなら後一日は待って欲しい。

 

『知っていますよ』

『確か突然現れて何でも願い事を叶えてくれるお爺さんでしたか?』

 

「まぁ、噂は色々あるけどだいたいそんなもの。俺は組織化してると思っているんだけどね。もしかして、おねーさんもメンバーだったり?」

 

 噂が沢山有るのはわざとだ。この世界では下手に隠せば秘密は直ぐに漏れる。ならば、隠さずに広めてしまえばいい。下らない噂話と一緒に。木々を隠すなら森にということだ。

 カカシさんは「アハハハハッ」、なんて笑っているが目は笑って居ない。

 もし私を疑っているとしたら他に誰が共有している? まだ確定したわけでは無いから全員に話が回っている訳では無いんだろうが、少なくともヒルゼンさんは話が通っていると考えて良いだろう。

 まぁ、まだ最悪でもグレーゾーンだろうから、誤魔化しは効く。監視は付くだろうが、下準備は終わって居るから構わない。

 

『もしそうなら素敵ですね』

『ですが残念ながら違います』

 

「やっぱり違うかー。いや、職業柄ついつい考え過ぎちゃって。すまんね、変な話して」

 

『いえ、やっぱり忍者さんは大変そうですね』

 

「まーね、じゃ俺はこれで」

 

 疑いは晴れてはいないだろう。

 クサイとアタリを付けたのなら、出遅れる前に準備をしておく。コレはカカシさんの言葉だったか。

 明日の作戦に影響しなければ良いが。何を準備しているか調べておきたいが、釘を刺されて無闇に動けなくなってしまったな。


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