異界、影に生きる   作:梵唄会

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あけましておめでとうございます。


17話・諸行無常

□主人公視点

 

 

 大蛇丸のアジトの解体作業を個人で行うのは諦めた。というか、個人でそれを行うのは無理だ。

 下手に解体して、世界に散らばった大蛇丸の部下達が暴れて私のせいにされてもたまったものではない。

 

 取り敢えず、匿名でアジトのある国の大名に情報をリークする。場所と大蛇丸が死んだ事を知らせれば十分だろう。

 自分の国で手に負えなければ、他の国に援助の要請をするだろうし、私は最低限の責任は果たした、と言い聞かせる。

 大蛇丸や大蛇丸の部下達の性質を考えるに最悪小規模な紛争に発展しそうだけど、それはその国と大蛇丸のせいだ。

 大蛇丸の遺産も手に入ると思えばデメリットだけではないだろう。

 というわけで、大蛇丸の事については全て片付いたと思う。カブトさん? 知らない子ですねぇ。

 

 大蛇丸の事は記憶の片隅に追いやり、木の葉で無駄足となった私は、短冊街に来ていた。来たは良いが、ナルト少年達が何処に居るか分からない。

 仕方が無いので少し遊んで行く事にした。年中無休、一日に人の数倍働いて居るのだから少しくらい遊んでもバチは当らないと思う。

 仕事をせずに、一人だけで遊ぶとこんな事していて良いのかと思ってしまうのは病気だ。改善しなくてはならないと自分でも考えている。

 そんな事を考えながら短冊街をぶらついていく。流石に観光地だけあって活気に溢れている。

 人混みは嫌いだ。私を狙い、人混みに紛れて誰かが私を襲えば、分身体である私が死ぬ事は無いが、周りの普通に暮らしている人を巻き込む事になる。

 人の少ない方を選んで適当に進んで行くと、落ち着いた赤色の野点傘が目に入った。そう言えば長い事外でお茶を楽しんでいないなと思い、その店に立ち寄った。

 添えられた花も場に溶け込み、空間の一つとなる。花、茶器、作法、茶、香り、音。様々な物が融和して一つの芸術を作り上げる。父の趣味で嫌々付き合っていたものだが、いつの間にか私もこの一時を楽しむように成っていた。そこに、繋がりを感じるとより一層この時間を楽しめる気がした。

 ふらっと立ち寄ったこの店。茶の腕は中の上程だが、大衆に向けた店と考えるとなかなかの当たりを引いた。

 そう言えば、白とはまだちゃんとした茶を嗜んだ事は無かったな。今度一緒に来てみよう。きっと、とても似合うだろう。

 

「ああ! この前の仮面!」

 

 身を整え店から出ると、元気な声と共にばったりとナルト少年に出会った。会えなければそれでも良かったが、こうして出会うと運命を感じる。

 

「む、お主。その服、暁の一員かの? ナルト、こ奴とは知り合いか?」

 

『一応暁のメンバーではあるね』

 

 服でバレるとか、恰好いいけどこの衣装派手だと思う。一応、抜忍とか犯罪者の集まりの筈なのに隠れる気が無いとか男らしい。

 

「コイツに前、ぼこぼこにされたんだってばよ」

 

『記憶に無いな』

 

 さしも覚えていない風を装い、以前の犯行を無かったことにする。職業を聞かれたら、私もどちらかと言えば政治家だからね。兼業だが。

 

「お主も九尾が狙いか?」

 

『その反応だとイタチさん達と会ったようだね』

『ナルトくんが生きているとこを見ると失敗したか』

『流石のイタチさんも自来也様相手では辛かったのかな』

 

「お主には聞きたい事がある。大人しくしてもらおうかの」

 

『ここでやり合うつもり?』

『周囲の方を巻き込んで?』

 

「ぬう」

 

 私の家を壊した流石の自来也さんも一応の分別はある様だ。

 

『安心しろ』

『私は別に九尾を狙って居る訳では無い』

 

「なに? 暁は九尾を狙っているのでは無いのか?」

 

『私の任務では無いからな』

 

「任務があれば狙うと言うことかの」

 

『そうだと言えばどうする?』

『この街にはかの三忍である綱手姫も居るようだ』

『何なら二人掛かりで来ても良いぞ』

 

「ワシを前にして随分余裕だの」

 

「……」

 

 余裕など無いのだけどね。よくよく考えたらミナトさんは私の師匠と言えなくも無い。なら、自来也さんは師匠の師匠だ。

 どうせ、ここに居るのは分身体だし死ぬ事はない。自分だけ安全地帯から狡いとは思うが、この世界ではこれくらいの保険が無いと怖くて動けない。

 特に戦う理由も無いのだけどナルト少年の修行の力に成れば願ったり叶ったり。綱手さんが来るかは分からないが、頑張って説得して欲しい。

 

『二日間は此処に居る』

『殺しに来るもいいし、臆病風をふかせて尻尾を巻いて逃げるもいい』

 

 私は彼らの返答を待たずにその場をさる。背を向けた瞬間に襲いかからないあたり善人だなと、考えてしまう私は最近悪人側の思考に毒されているなと嫌気が差す。

 

 

 

「本当にまだ居るとはの」

 

 それから、一日経った頃ナルト少年と自来也さんは、どうやって説得したか分からないが、綱手さんを連れて郊外の耕地に荒野で月見をしていた私の元に来た。

 ついでに、血液恐怖症の克服も手伝ってしまおうかと思ったが、残念ながら分身体からは血が出ないので力にはなれそうに無い。

 

 私は湯呑みを影の中に落とし立ち上がる。とりあえず、分身を作りナルト少年を狙う。暁から狙われている今、自来也さんの側が一番安全だろうが、戦闘中となれば一番のウィークポイントでもある。狙うのは当たり前だ。

 

「印も無しに分身とはの」

 

 印を組むフリだけでもした方が良かっただろうか? まあいい。

 ナルト少年に接近した私にすぐさま反応した自来也さんが早速螺旋丸を作る。私はナルト君を蹴り、その反動で距離を取ってギリギリかわす。

 

「ぐっ」

 

「私も忘れて貰っちゃ困るよ」

 

 攻撃をかわし、まだ宙に浮く私を綱手さんがその剛力で私の腹を抉る。初対面の筈なのに挨拶も無しに、遠慮がない。

 思考がリンクしている為、痛覚も当然リンクする。この程度の痛みには慣れたが、内臓を抉られるのは気持ちのいいものでは無いのだ。少しは手加減をして欲しい。

 だが、私の分身は影分身のように攻撃されればポンポン消えるわけでは無い。耐久力も本体と同等程度にはある。

 私は左手で腹を貫いたままの綱手さんの腕を掴み影で固定した。綱手さんの剛力はインパクト時のチャクラ操作で火力を上げているため地の怪力があるという訳では無い。この程度の拘束でも簡単に抜け出す事は出来ないだろう。

 しかし、忘れてはいなかったが綱手さん以外にもう一人自来也さんが居る。綱手さんの動きを封じ攻撃しようとした私の頭を螺旋丸で吹き飛ばした。

 

 さっきから螺旋丸ばかり使っているのはもしかしてナルト少年の修行の為だろうか。人の事は言えないし、伝説の三忍と無名新参の私では客観的に見たら確かに格下では有るだろうけど、当て馬にされるのは少しカチンとくる。元々意味薄い戦いだったが少しやる気が出てきた。

 よもや、コレを使う日が来るとは。

 閃いたのはつい最近分身の服を見た時だ。服は勿論分身にも色が付いている。ならば、しっかりと構成を練れば影の形成にも色を付けられるのではないだろうか、と考えた。

 その発想は正解で、吸収する光を制御しているのか詳しい原理は分からないが色を付ける事に成功した。ならばアレができるのでは無いか? そう考えつつもついぞ試すことの無かった技。それを今ここで!

 

 ――逝くぞ三忍。チャクラの貯蔵は充分か。

 固有結界・無限の剣製擬(unlimited blade works)

 

 

 I am the bone of my shadow.

 ―――――― 体は影で出来ている。

 

Light is my body, and darkness is my blood.

     血潮は闇で 心は光。

 

 I have created over a thousand blades.

   幾たびの戦場を越えて不敗。

 

      Many escapes and sucker kill.

       数多の逃走と不意打ちは、

 

      Nor known to Life.

    ただの一度も理解されない。

 

   Have withstood pain to create many dead.

   彼の者は常に独り 屍の丘で勝利に酔う。

 

Yet, those hands will never hold anything.

   故に、生涯に意味はなく。

 

    So as I pray, unlimited blade works.

    その体は、きっと剣で出来ていた。

 

 

 宵闇を赤黒く染め、辺り一面に剣を創造し突き立てる。

 だが、その一本一本はハリボテだ。

 しかも夜限定の技。効果も大して無いが、強いて言うならば相手をビビらす事が出来る。あと、私の気分も高揚する。

 

「なんだ、コレは」

 

 相手が動揺しているうちに、私は両手で黒渦を作り出す。一度覚えてしまえば、コレはチャクラではなく影の為身体の何処からでも作り出す事が出来る。そして、コントロールも作っている分身体の思考を幾つか制御に回せばそう難しい事ではない。

 流石に精密な操作が必要な為、身体から離れて作ることは出来ないが。

 

「……黒い……螺旋丸?」

 

 作り出した黒渦を地面の中に、落としていく。二つ、四つ、六つ、八つ。

 これも、無限の剣製擬(ムゲンノケンセイモドキ)の効果と思わせてしまえ。

 黒渦の螺旋丸と違う所は二つ。一つは先に言った通りチャクラの噴出出来ない所からも作ることが出来る。そしてもう一つは、

 

「ナルト! 下がれ!」

 

 自来也さんがナルト少年を突き飛ばし、飛び引く。綱手さんも同様に退避し、直後その場の地面から黒い腕と黒渦が飛び出した。

 そう、黒渦のもう一つの特徴は影を伝い移動させることが出来る事だ。

 退避した三人の背後から狙っていく。

 

「何故コヤツが螺旋丸を……いや、螺旋丸では無いのか? そんな事よりもこれでは埒が明かんの。綱手!」

 

「おう!」

 

 小さく指を切り巻物に押す。遂に出たか質量兵器。山の様な怪物が二匹。私の眼前に現れた。

 

「うおおおお! ガマおやびんにでっけえナメクジ、スゲェってばよ!」

 

「自来也とナルトか。それに、綱手とカツユまで。……む? 何じゃここは?」

 

「あ奴の何らかの術で作られた空間じゃ。十分に用心しろ」

 

「あ奴? なんでい、餓鬼じゃねぇか」

 

「果たして、見た目通りの年齢かの? ブン太ァ、油だ!」

 

「いきなりかよ」

 

 もう、私で修行する余裕は無くなったのだろうか。口寄せしていきなり火遁・蝦蟇油炎弾を放つ。こんなの、人一人に放つ火力じゃないだろう。

 まぁ余裕が無くなったと言う事は対等と認めて貰えたという事だ。半分は見せかけだけど。

 目的がいつの間にかズレてしまったから戻さないといけない。とはいえ、ナルト少年を戦闘に参加させるには、ナルト少年を引き離さなくてはならない。自来也さん達から引き離すのは骨が折れる作業だ。

 

 それよりも、取り敢えず迫り来る目の前の炎を何とかしなければならないか。

 私は辺りの空間の影を圧縮し呑み込む。

 

「カツユ!」

 

 あれは、舌歯粘酸か。直撃したらアウトだろう。

 私は粘酸を吹き飛ばそうと思い、限界まで圧縮した蝦蟇油炎弾を指向性を加え一気に開放した。

 無数の爆撃をした様な音と共に開放された熱風が行く手をなぎ倒しながら、ガマブン太、カツユ諸共、自来也やナルト、綱手を吹き飛ばした。

 やった自分でも驚く凄まじい威力だ。正直ドン引きだ。

 流石の、ガマブン太とカツユもその爆風をモロに受け口寄せが消える。

 自来也さんや綱手さんはまだ戦えそうだが、ナルト少年が気絶してしまった。コレでは目的も果たせそうもない。戦いに夢中になってしまい過ぎたな。これでは、任務失敗だ。仕方が無いのでナルト少年には自分で頑張って貰おう。

 私は、固有結界擬を解いた。これ以上戦う理由も無い。

 

 自来也さん達が何か言っているが遠すぎて聞こえないし、聞く気力も無い。テンションがどんどん下がっていく。元々そこまで拘った戦いでも無かったし。

 恥ずかしい思いをして木の葉に行けば無駄足になるし最近散々だ。お祓いにでも行こうか。蛇の霊に取り憑かれている気がする。

 もう、用も無いし帰るか。

 

 暁のアジトの近くに居る分身体から分身を作り、アジトに向かわせ、失意のまま私は分身を消した。


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