異界、影に生きる   作:梵唄会

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申し訳ありません。この話は三人称となっております。ご注意ください。

三人称で書くのは初めてなので、変に感じるかも知れませんがゆるく見てくだされば幸いです。




18話・舞台裏

■三人称

 

 

 時は遡り、三代目火影の葬儀が終わった後、ナルトの脳裏には様々な事が渦巻いていた。

 信念をぶつけて戦った我愛羅との事。里の為に命を懸けて散って行った忍び達や三代目。それらの命を悼む、親族や仲間、友人や恋人達。火影とは何か、忍びとは。

 

「人が死ぬってのは辛いな、やっぱ。あーあ、師匠何処いっちまったのかなぁ」

 

 ただ、胸の内を話そうと思い、忍びになる前に出会った少女の事を思い出していた。

 里の人間の多くが避ける中でも普通に接してくれる数少ない人間であった。性格は温厚で思慮深く、相談にも良くのってくれた。同年代の筈なのにずっと歳上と接しているように感じ、もし姉や母が居たのならばこのようなものだったのだろうかと夢想するほどであった。

 今回も話を聞いてもらおうと探して見たが、何時もの屋台どころか家すらも存在していなかった。

 

「戦死者の中には入ってなかったけどよ。心配だってばよ。師匠なら何があっても生き残ってそうな感じがすっけど、一応女だしなぁ」

 

 突然消えてしまった近しい人間。それもナルトにとっては気掛かりであった。

もし、木ノ葉丸とも影が共通の知人である事をナルトが知っていたなら、影が自分の意思で里を出た事が分かっていただろうが残念ながら両者共に影と親しい関係である事は知らなかった。

 

 しばらく宛も無く里を歩いていると、ぐぅーと腹の音が鳴り朝から何も食べていない事に気がついた。もし影を見つけたら昼御飯でも作って貰おうかと企んでいたが見つかりそうにもなく、ラーメン屋に目的地を定めた。

 何時もの様に一楽ののれんをくぐり、ラーメンを注文する。出来立てのラーメンを前により一層腹の音を大きくし鳴らせた。

 

「いっただっきまーす!」

 

「おう」

 

「聞いたとおりに来てみりゃ、本当にラーメンばっか食っとるようじゃのぉ」

 

「バァ、ベボゼンニン! ング……うっせーってばよ。それに、最初からラーメン食おうと思ってたわけじゃねーし」

 

「それより、話があるからさっさと食え」

 

「……今食べ始めたばっかだってばよ」

 

 湯気が立ち上り鼻孔を擽るラーメンを待ちきれんというばかりにすするナルトの後から、のっそりと自来也が現れナルトに話かけた。

 ナルトにとって自来也は何となく強い忍びだということは分かるが、それよりもただのエロオヤジという印象が先に立つ。そんなエロオヤジにせっかくの食事に水をさされ御立腹だった。

 食事も終わり、自来也は早速話を切り出したが、先ほどの事も有りなかなか頷かない。しかしそこは流石のナルトだ。自来也の口車にまんまと乗せられて、取材という名の修行の旅兼綱手の捜索に付いていくことを了承した。

 ナルトにとってサスケは何よりも譲れない相手だ。そのサスケの必殺技を超えるとあっては断れるはずも無いだろう。

 

 

 ナルトと一緒に里を出ることに成った自来也は、だんだんと四代目に似てきたナルトを見ると今は亡き嘗ての弟子を思い浮かべていた。だからだろうか。下忍であるナルトにあの術を託そうと酔狂な行動に出たのは。

 少し進むと宿場町にたどり着き二人は宿をとるが、自来也はそこにいた美女に釣れられてホイホイとついて行った。ナルトが暁に狙われると知りながらも釣られる辺り余程の女好きなのだろう。

 イタチも本当に女で釣れると思ったのだろうか、謎である。

 

「サスケ?」

 

 一人になったナルトの元に現れたイタチを見てナルトは最初にサスケを連想した。

 

「しかし、こんなお子さんに九尾がねぇ」

 

「ナルト君、一緒に来てもらおう」

 

「日がまだのぼってるいるうちから誘拐とはいい度胸だね。だけどそれはさせないよ」

 

「だれだ」

 

「あー! 師匠とたまに一緒にいる兄ちゃん」

 

 気を狙ったように現れたのは、波風ミナトもとい少年の姿に化けたミナトだった。

 ミナトは影が自分から離れられないと勘違いしているのをいいことに、しばしば勝手に影分身を使い一人で放浪していた。

 

「やぁ、ナルトくん。久しぶりだね。っと、悠長に挨拶なんてしてる場合じゃなかったね。そこに居るのはうちはイタチと干柿鬼鮫かな?」

 

「兄ちゃんしってんのか!?」

 

「まぁ多少はね」

 

「……あなたは何者ですかねぇ?」

 

「名乗る程の者じゃない、よッ!」

 

 話しながら、マーキングを施したクナイを投げる。ミナトはクナイをよけられたところを飛雷神の術でナルトとイタチ達の間に移りそのまま――。

 

「螺旋丸!」

 

 イタチの後ろから螺旋丸を狙う。螺旋丸が当たったイタチはボンっと煙を立てて消え、煙が晴れるとその後から無傷のイタチが現れた。

 

「飛雷神の術に螺旋丸。まるで誰かを思い出させるような戦い方だな。……その額当て、石隠れの忍びか」

 

「(まぁ、たぶん思ってる人本人なんだけどね)ナルトは先に逃げろ」

 

「何言ってんだってばよ! 俺も戦う!」

 

 イタチと鬼鮫から視線を離さずに苦笑するミナト。ナルトがいては十分に動けない。

 

「イタチィ!」

 

「おやおや、来客の多い日ですねぇ」

 

「サスケか。久しぶりだな」

 

「……アンタを殺す! アンタの言った通り、アンタを恨み憎みそして、アンタを殺す為だけにオレは……」

 

 一死触発。そんな空気の流れを変える叫びがそこに響く。写輪眼をその瞳に浮かべ眼を見開き、一心にイタチを睨むサスケがそこにいた。

 パチパチと空気が焦げ、サスケの腕を電気が纏う。

 

「生きてきた!」

 

 雷遁で活性化させた肉体で慟哭をあげながら、イタチに向かう。

 しかし、イタチのもとにたどり着くのはかなわなかった。

 

「はい、ストップ。 そこの二人も動かないでね」

 

 ミナトは走るサスケの腕を掴み床に押さえ付け、もう片方の分身がクナイと螺旋丸を構えイタチと鬼鮫の二人を牽制した。

 

「何しやがる! 離せ」

 

「ん、俺如きに簡単に拘束されるような忍びが、あの二人に突っ込んだところで何も出来ないよ。憎しみに囚われ冷静に状況を判断出来ない忍びを自由にさせる訳にはいかないね。それよりも、まだ続ける? 流石に自来也様と俺を同時に相手にするのは難しいんじゃないかな?」

 

「ぬ、バレておったか」

 

「街中で戦うのは俺にとっても本意では無い。流石に俺達が戦うとなると小さな被害では済まないだろうからね。逃げるなら追わないよ」

 

「……」

 

 状況が悪いと判断したか、イタチに続き鬼鮫はすぐさまその場から撤退していく。言葉通りミナトは追わなかった。

 

「てめぇ! なんで逃がすんだよ」

 

「ごめん、少し寝ててね」

 

 イタチを逃がした事が気に食わないサスケは騒ぐが、ミナトは気絶させることで黙らす。好き勝手騒がれては話も進められない。

 

「して、お主は何者じゃ。それに先程の技は螺旋丸か。使える者はそう居ないはずなんじゃがのぉ」

 

「なんて答えるべきか。……まぁ、いずれわかると思いますよ。これは俺から答えるべき事じゃないから」

 

「む、まて!」

 

「ん、じゃまた。ドロン」

 

 自来也の制止を無視し、ミナトは煙のように分身を消した。

 

「影分身じゃったか。……影分身であの実力。近々石隠れの里に行く用事が出来たのぉ」

 

 

 

 イタチと鬼鮫が立ち去り、ミナトの分身が消えた後、ダイナミックにマイト・ガイが登場した。

 気絶したサスケはガイによりお持ち帰りされて行った。

 

 残った二人は修行しながら、綱手を探していく。

 順調に一段階、二段階と螺旋丸の修得目指して段階をクリアしていくが、三段階目に入りようやく螺旋丸の難しさをナルトは理解した。

 影に言わせてみれば、自分が数年かけてようやく修得した技を数日でできるようになってしまってはたまったものでは無い。もっとも、影の場合は一から十の制御を全て自身の演算で行っている。例えると私達が普段簡単に行っている歩くという動作を、ロボットで構造を計算し重力稼働ベクトルなど調整してプログラムし歩かせているようなものだ。瞬時にそれを行うのは普通の人間ならまず不可能だろう。経験から感覚で覚え、技を自身のものとする。しかし影ネットワークによる並列思考がその絶技を可能とさせた。

 

 道中、乱回転するチャクラの制御に四苦八苦しながらも、ナルト達は短冊街にたどり着いた。

 

「ぬ? アレはもしや」

 

「ん? ああ! この前の仮面!」

 

 街に入った二人は偶然、ふらりと出てきた暁の着物を身にまとい兎の面をした子どもと鉢合わせた。客観的に見ると怪しさが滲み出ている。これでは鬼鮫の事など言う資格は無いだろう。

 

「む、お主。その服、暁の一員かの? ナルトこ奴とは知り合いか?」

 

 自来也の問に頷くナルト。対面する仮面の子どもも暁である事を認めた。

 自来也とて、仮面の子どものこの姿を見たのは初めてでは無かった。大蛇丸を殺し、その首を持って逃げた謎の子ども。よもや、暁の一員だったとは思いもしなかった。しかし、暁の一員だったのならば大蛇丸を殺しその首を持っていったのも納得できる。かつて大蛇丸は暁を裏切り組織を抜けたのだから。

 空間に浮かぶ文字は何らかの術か。何故声を出さないのか自来也は疑問に思ったがそれは一旦置いておく。

 

「コイツに前、ぼこぼこにされたんだってばよ」

 

『記憶に無いな』

 

 ナルトはなると大橋の任務の事を思い出し憤るが自来也は、暁の一員相手にむしろぼこぼこにされただけで済んで良かったなと心の中で突っ込んだ。

 

(しかし、何故その時に連れて行かなかったのかのぉ? 暁の狙いは尾獣の人柱力ではなかったのか?)

 

「お主も九尾が狙いか?」

 

『その反応だとイタチさん達と会ったようだね』

『ナルトくんが生きているとこを見ると失敗したか』

『流石のイタチさんも自来也様相手では辛かったのかな』

 

(わしだけでなく、もう一人居たんだがの。まぁ、此処で立ち話もなんじゃ。相手は暁。力ずくでも捕えて色々聞き出すとするかのぉ)

 

「お主には聞きたい事がある。大人しくしてもらおうかの」

 

『ここでやり合うつもり?』

『周囲の方を巻き込んで?』

 

「ぬう」

 

 臨戦態勢をとり、仮面の子どもを捕まえようと構えるが影の言葉で思い留まる。

 確かに人通りは多く、敵は子どもに見えても暁の一員だ。此処で戦えば被害は少しじゃ済まないだろう。少し短慮だったかと自来也は思い直した。

 

『安心しろ』

『私は別に九尾を狙って居る訳では無い』

 

「なに? 暁は九尾を狙っているのでは無いのか?」

 

『私の任務では無いからな』

 

「任務があれば狙うと言うことかの」

 

『そうだと言えばどうする?』

『この街にはかの三忍である綱手姫も居るようだ』

『何なら二人掛りで来ても良いぞ』

 

「ワシを前にして随分余裕だの」

 

「……」

 

『二日間は此処に居る』

『殺しに来るもいいし、臆病風をふかせて尻尾を巻いて逃げるもいい』

 

 そう書き残し、仮面の子どもは去っていく。二日間は此処にいると言ったが嘘か真かは自来也には分からない。しかし、此処で狙う事は出来ない。

 馬鹿正直に相手が待っているなら儲け者。綱手と合流しても居るようなら、お望みどおり捕らえようと自来也は言い聞かせ立ち去る仮面の子どもの背中をそのまま見逃した。

 

 

 

 綱手と合流した自来也は事情を話し、影の捕獲の協力を要請した。取り敢えず火影の件は保留となったが綱手の協力は得られる事になり、ナルトと自来也、綱手で影の元に向かう事となった。シズネは万が一の為に木の葉の里に向かった。

 

 仮面の子どもがまだこの街に居る事は、事前の調べで分かっていた。

 しかし、わざわざ人気のない場所を選び待っているのだから、随分舐められたものだと、逆に呆れてしまう。

 

「本当にまだ居るとはの」

 

 自来也の声にゆらりと影は立ち上がる。仮面の子どもの横でまるで闇が集まるように固まり分身を作る。色々な分身は知っているがあの様な分身を見るのは初めてだった。それに――

 

「印も無しに分身とはの」

 

 分身を作る時何の予備動作も無い。警戒を一段階上げる。

 仮面の子どもの攻撃から戦闘は始まり、静かに立ち上がっていく。

 

(速さは凄まじいが、体術は上の下といったところか? しかし、腹を貫かれても動き続ける分身には少し驚いたの)

 

 分身が消え本体の方をみると、心なしか仮面の子どもの周りの闇が濃くなっているように見えた。しかしそれは気のせいではなく、闇が仮面の子どものまわりを巻上がり、吹き荒れる。

 その嵐の中心に立つ仮面の子どもはゆらりと腕を上げると、ブワリと闇が仮面の子ども中心に広がり、――世界が塗り替えられた。

 夜だったハズの空は、血のように赤黒く染まり、彼方まで荒野が広がる。

 空から星は消えその代わりに星の数程の剣が無造作に高野に突き刺さっていた。

 

(まるで……墓地じゃのぉ)

 

「なんだ、これは」

 

 自来也の隣りに立つ綱手もこの光景に動揺する。最初に幻術を疑ったが、どうも幻術とも毛色が違うもっと異質なものに感じられた。

 この光景に目を奪われていたが、仮面の子どもは既に動き出している。手から黒い玉を作りぽとっ、ぽとっ、と地面に沈ませ。よく見ればソレは――

 

「……黒い……螺旋丸?」

 

 自来也自身が良く知るかつての弟子が生み出した術に良く酷似していた。仮面の子どもの動きが止まるのを見た自来也のカンが最大限の警告を鳴らす。此処でじっとしていては危ない。

 

「ナルト! 下がれ!」

 

 そのカンは正しく、突き飛ばされたナルトが立っていた足元から黒い手が伸びた。その掌には先程の螺旋丸に似た黒い玉。

 腕は次々に地面から伸び四方から自来也達を襲う。

 

(この腕はこの空間の効果か? それに――)

 

「何故コヤツが螺旋丸を……いや、螺旋丸では無いのか?」

 

 黒い玉が地面に当たると大きくクレーターが出来る。威力も螺旋丸と遜色は無い。

 一つ一つが、正しく必殺。ナルトを連れてきた事を後悔した。わざわざ、戦う約束をしたのは、自来也とナルトを分断させる為と思い、自来也はナルトを連れてきていた。だが、ソレは間違いだったようで。

 

(馬鹿正直に待っていた時は舐められたものだと思ったが、舐めていたのはこっちだったか。正しくコヤツも化け物じゃ。人一人守りながら戦うのはちと骨がおれるのぉ。仕方無い、一気に仕掛けるか)

 

「これでは埒が明かんの。綱手!」

 

「おう!」

 

 綱手も同じ考えだったようで、同じ印を組む。口寄せを行い、自来也と綱手はガマブン太とカツユを呼び寄せた。

 呼び寄せたガマブン太と協力し自来也は蝦蟇油炎弾を放つ。が――

 

(なぁ!? 之もこの空間の効果というのか!)

 

 放たれた、蝦蟇油炎弾は闇に飲み込まれ消えた。しかし、それで終わりでは無かった。

 蝦蟇油炎弾の後放たれたカツユの舌歯粘酸を飲み込まれたハズの炎弾が爆発の砲撃となり舌歯粘酸をかき消し直撃していないハズの自来也達諸共吹き飛ばした。

 その威力は凄まじく余波をもろに受けたガマブン太とカツユはダメージの大きさで消える。

 

(これ程とは。……最早、仙人モードしかないか)

 

 自来也達も無傷では無く、綱手も創造再生を使わされていた。

 しかし、仮面の子どもが追撃する様子は無く、それどころかこの空間をかき消した。

 

「何故!」

 

 何故止めをささないのか? ここまでして攻撃を止める敵の行動が理解出来ない。だが、何も答える事はなく仮面の子どもは去っていく。

 

(殺す事が目的ではない? ならば、何故戦う必要があった? 戦うこと自体が目的? ならば、この戦いには奴にとって何の意味があったのか? ……考えても分からぬ事か。今はそれよりも――)

 

「綱手。もう一度火影の件考え直してくれぬか。今の敵といい恐ろしく強い脅威が迫っておる。お主の力が必要なのだ」

 

「……あぁ。分かった。その話受けよう」

 

 三忍の二人を相手に無傷で圧倒できる、その程度の実力者が暁には複数居るのだと自来也達は考えた。

 そして、その脅威が奇しくも綱手がもう一度木の葉に戻る決意をさせたのだった。




最初ナルト視点で書いたのですが、色々思考するナルトがどうにもナルトっぽく無くなってしまい結局三人称にしました。

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