□主人公視点
二日後。私たちはあらかじめ用意された商業船に紛れ込み水の国に入った。島国である水の国には普通の方法で入ってもバレてしまうだろう。ちなみに私は貞操を守りきったとだけ記しておこう。
到着した私の里の子達は先にいる私を見ても驚く事は無い。私がそういうモノだと知っているからだ。
里の子達は、私に対して必要以上に畏怖しているが、これは多分子どもの頃怖かった父親の印象で大人になっても頭が上がらないのと似たようなものだろう。あの時は少しやり過ぎちゃったかな、とは思わなくも無いがそれが戦争というものだ。仕方が無い。
「お待ちしておりました。私は照美メイ。よろしく」
「ん、ご丁寧にどうも。俺はトナミ、副リーダみたいなものだよ。よろしくね。うちの卯月君預かってくれてありがとう」
「……再不斬だ」
一応、再不斬さんが立ち上げた組織ということで来ているので、皆額あてを取り、兎の面で統一している。暗部のような感じだ。
一応、ミナトたちには、リーダー再不斬さん。副リーダーミナトさんもといトナミさん。私の立ち位置としては団員その一と説明をしている。
「……再不斬。久し振りね。取り敢えず五体満足でよかったわ。それと卯月君のことなら気にしないで。むしろ終わった後もずっとうちの里に居てくれて構わないわ」
『え"?』
「いーよ。ちゃんと可愛がってね」
「えぇ。勿論」
ちょっと何を勝手に私の未来を決めているんだ。ミナトさんはアイコンタクトで『減るものでも無いし、ひとりくらい良いよね』と笑っている。実際はお面で笑っているかは分からないが気配は笑っていた。
確かに減るものでも無いが、私の心がすり減るのだ。この人は私が沢山いると思って平気で無茶振りをしてくる。
団員その一として上の言葉には逆らえない。それも承知の上でミナトさんは私を追い詰めるのだ。妻がクシナさんのような人だから違うと思っていたけど、この人はきっとドSだ。夜はクシナさんを虐めて
というか、真面目な顔合わせの場で私を抱き抱えるのはどうなのだろうか。先ほど再不斬さんに『この人と知り合いだろ。助けて』とサインを送ったのに『ざまぁ』と返された。相変わらずのツンデレっぷりだ。いい笑顔だったよ。
しかし、いつまでもこのままグダグダやるのも時間の無駄だ。私が進めてしまうか。
『すみません』
『早速ですが今作戦の確認をさせて頂きます』
ミナトさんの側に控えていた、影ちゃん。つまり私が注目を集める。
「あら? その子は?」
「ん? あぁ。この子は黒兎ちゃん。卯月君の双子の妹だよ」
『申し遅れました、黒兎と申します』
「そうなの? ふふ、良かったら貴女もうちの里に来る?」
「……」
『勿体ない話ではありますが遠慮させて頂きます』
「そう? ふふ、気が変わったら何時でも言ってね」
戦慄した。この人はショタコンに加えロリもイケるのか。
もしかしたら、霧の里行きが確定している我が一部と一緒がいいと思った、という可能性もあるのかも知れないが。
『ありがとうございます』
『では、説明を続けます』
『今作戦は今夜決行。まず里の北の裏側より侵入、照美様たちの先導で水影様を目指します。我々再不斬様と他三名が身柄を拘束し青様による幻術解除が第一目標。解除不可能と判断された場合、青様の合図により討伐に切り替えます』
『討伐となった場合大規模な戦闘になる可能性が高いので、我々以下七名と照美様達の持つ戦力で霧隠れの里に潜む敵対勢力の鎮圧に当てます』
『尚、不確定要素として、うちはマダラの介入が予想される為、カウンター要員としてトナミ様と私が控えます』
『以上ご質問はありますか?』
「マダラが来た場合は本当に貴方達に任せて大丈夫なのかしら」
説明が終わり質問があるか聞くとメイさんは真面目な声で聞いた。しかし、私を抱いたままなので締まらないが。
元々部下だった、再不斬さん率いる組織の二番手と団員その一があのうちはマダラを対処すると言っているのだ。疑いたくなる気持ちもわかるだろう。私も正体がオビトさんと分かっていても胃が痛い。
「ん。大丈夫。コッチは任せておいて」
そもそも、私とミナトさんの目的はオビトさんなのだ。ミナトさんも過去の因縁が有るのだろう。自ら戦わせて欲しいと言って居たから、サポートに徹するつもりである。ただし、容易に神威を使わせる気も無いが。
来ると確定してない敵に気負ってもせんのないことだけど。戦闘になっても最低限勝てなくとも負けない自身はある。ミナトさんが。
やっちゃえミナトさん!
「……」
「大丈夫。之でも戦闘は自信があるんだ。それにね、再不斬君も昔のままだと思わない方がいいよ」
「……分かりました」
傲慢不敵だがこれくらいに言ってくれた方がいいだろう。メイさんもしぶしぶではあるが納得したように了承してくれた。
再不斬さんは、昔の水遁に加え螺旋丸、飛雷神の術。そして雷遁を幾つか習得していた。原作で最後に命を絶たれた雷遁を発現するのは因果な事だと思う。しかし、あまり使っている人を見ない組み合わせではあるが雷遁と水遁の組み合わせは凶悪だ。
水遁に雷遁を通し、戦況が進むにつれて逃げ場を段々と削り、飛雷神の術と螺旋丸で止めを刺す陰湿な戦闘法は、元々サイレントキル(笑)をうたっていた再不斬さんにピッタリだけど。
「ん、他に聞きたいことはないかな? 無いなら、俺達はこれから夕刻まで休息をとり、日がおちたら行動開始にするけど」
「大丈夫ですわ」
「ん、それじゃ解散。各自しっかり身体を休めるように」
ミナトさんの言葉で顔合わせは終了となる。しかし、話し合いに完全に我関せずの再不斬さんは一応リーダーになってるという事の自覚があるのだろうか? こんなところでサイレント発動してどうするんだ。
□
「じゃ、再不斬君、虎目さん、メノウくん、琥珀ちゃん。宜しくね。散ッ!」
再不斬さんと、石垣虎目さん、メノウさん、葛葉コハクちゃんが瞬身の術で散開し青さんがそれに追随した。
他の七名はメイさん達と別行動を取っていた。
『後は待つだけですね』
「……ん」
ミナトさんは小さく返事を返す。その横顔からは感情を読み取ることは出来なかったが、この人なら戦闘に感情を持ち込む事は無いだろう。
私達は何時でも動けるように、戦況を見守る。
「……土遁・
先ずは虎目さんが、ヤグラくんが住む家を石の結界で覆い退路を絶った。
「誰だ」
「久し振りだな。水影」
「貴様、再不斬」
「土遁・
「クッ!」
地面から反り立つ石の柱。しかし、この技の本命は攻撃ではなく、ソレに彫られているマーキングの印が本質。造形が得意なコハクちゃんのオリジナル忍術だ。
「飛雷神の術」
「ちぃッ!」
マーキングの施された石柱から飛雷神で移動したコハクちゃんが、螺旋丸でやぐらくんを狙う。やぐらくんギリギリで避ける事には成功したが――。
「残念だが終わりだ。「
「なっ!? ガア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!!」
コハクちゃんのマーキングに飛雷神で移動した再不斬さんと再不斬の水分身による水雷牢の術で捕獲された。
というか、飛雷神使える人が複数居るのは反則くさい。
水雷牢の術は水牢の術に水分身が雷遁を使い強化した術だ。水遁の使い手でも逃れる事は難しいだろう。
まぁ、尾獣を使わず、奇襲となればこんなものだろう。もし、操られていなかったならば、簡単にはいかなかっただろうが、フットワークを重視した忍び三人とやぐらくんの水鏡の術では相性が良いのでどちらにしても負けは無いと思うが 。
「申し訳ございません、水影様」
「ア゙オ゙ォ゙ぎざまア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!!」
青さんが、拘束されたやぐらくんの前に立つ。どの様にして別天神を解くか興味があるが――。
見学もここまでだ。
やはり、すんなり終わらせてくれるハズも無いか。あちらはもう一人の私と仲間達に任せて、私は夜陰に乗じてやってきた一人の人影の前に立ち塞がる。
『来てくれると信じてましたよ。うちはマダラ』
「……何処のどいつか知らないが、俺の邪魔立てをするなら後悔してもらおう」
「何処のどいつとは……。忘れるなんて、酷いね」
私達は予定通りに現れた、うちはマダラ、否、うちはオビトの行く手を遮った。私達にとってオビトさんは不確定要素であるが彼にとって私達もそうである。彼がそれを、みすみす見逃す筈が無いと信じていた。
ミナトさんは仮面を外すと、いつもの笑顔を潜め嵐の様な殺気で相手を威圧していた。こんなミナトさんを見るのははじめてかも知れない。
「ッ! 貴様は四代目! ……亡霊が何の用か知らんが、生き汚い事だな」
『貴方がソレを言いますか』
生き汚さに関しては、マダラさん、オビトさん。どちらにしても一流のものだろう。私は肩を震わせて笑う。
「おしゃべりはここまでだよ。何を企んで居るか知らないが十二年前の借り、今返させて貰う!」
「芸の無い、ソレはもう知っている!」
マーキングの入ったクナイを投げるが、オビトさんは神威を使わずにかわす。飛雷神弐の段を警戒しての事だろうが、私は置き物じゃないのだ。忘れてもらっては困る。
――影遁・影錐槍の術。
クナイを避けたマダラを、地面から伸びる八本の鋭い影が襲う。
しかし、貫いたのは丸太。変わり身か。
コレはヘイトが私に付いてしまっただろうか。
「木遁・挿し木の術」
――影化。
腕から伸びくる木の槍を、影化する事で回避する。オビトさんは術が効かなかった事を瞬時に見抜き寅の印を結ぶ。
「火遁・豪火球の術!」
――圧縮、セット、解放。
眼前を覆い尽くすような豪火球を影が呑み込み、レーザーのような熱線を放射する。
オビトさんには当たらなかったが元々狙っていない。狙いは――。
「飛雷神・導雷」
ミナトさんに向かい飛んだ熱線は、ミナトさんの作り出した時空の裂け目に吸い込まれ、次の瞬間オビトさんの頭上から放射された。轟音と共に周囲を巻き込み焼き尽くす。
まるで長年連れ添った夫婦のようなコンビネーションだ。おっと、これ以上は怒られてしまう。主にミナトさんが。
「この程度ッガッァッ!」
「で、倒せない事はもう知っていたよ」
「クッ……何故」
「飛雷神のマーキングは決して消えない。ソレは、知らなかったようだね」
煙が晴れる前に飛雷神の術で飛んだミナトさんの螺旋丸が、オビトさんの背中に突き刺さる。おそらく、神威で躱されあの一撃では倒せない事を読んでいたのだろう。
「アガッ……。最早これまでか。この戦いはお前達の勝ちで良い。だが、必ず計画は成功させる!」
ミナトさんの螺旋丸を受けたオビトさんは、ボロボロになりながらも最後に言葉を残し消えていった。
「なっ!」
『神威でしょう』
全く写輪眼は便利な瞳だ。
だけどね、オビトさん。
□
「グッ! 逃げ切ったか……」
『いいえ』
『知らなかったのですか?』
暗い穴蔵に声が響く。転移し終えたのだろう。荒い息を整えているようだ。
しかし、安心するのは早すぎだ。あなたは一つ思い違いをしている――。
『私からは逃げられない』
「ぐあッ!」
私は、先程の戦闘で攻撃がかすった時に付けたマーキングから分身を作ると、倒れるオビトさんを踏み付け右目の写輪眼を潰す。そして、ここの穴蔵の奥に目をむける。
――うちはマダラ。
やっと貴方にたどり着いた。
コレは想定していた作戦の中で最高の結果だ。
フフッ! アハハハハハ! 感謝するよオビトさん。
『はじめまして、うちはマダラさん』
「クッ 月詠!」
『悪いがこの身が幻術に囚われる事は無いんです』
『疾く死ね』
私が殺気を向けると、マダラさんはどうやら月詠を行ったらしい。しかし、幻術は私にとって悪手だ。
私は何故か幻術にかかる事が無い。多分、数多の思考回路を持つ故にその一つが異常をきたしたとしても、自動的に他の思考が補完的役割を果たすのだろう。
いくら強かったとしても、手札の無い動けぬ老人など私にとってタダの的だ。バラバラに引き裂き輪廻眼を潰した。
『さて、オビトさん』
「ッ!」
『月の眼計画でしたか?』
『悪いですがここまでです』
「ふざけるな。コレは平和な世界を作るための!」
「……」
『私、言葉がうまく無いから上手く伝えられないけどさ』
『なんなの、それ』
『そんなの誰も頼んで無いんだからさ』
『貴方は自分のエゴを通す為に力を振り翳す事を選んだ』
『どんな崇高な目的があったにしろ、私は私の価値観でそれを拒絶し抗った』
『その結果私が勝ち貴方は負けた』
「……」
『力の単純さに慣れ、対話する事を諦めた奴が今更何を言った所で詭弁だよ』
「……そうだな。だが、ゆめゆめ忘れるな。お前のその利己的な意志は厄災を産む。それもまた呪われた世界の一部でしかない事を知るだろう。いずれ、向けた刃が己を切り刻む事だろう。ガハッ……」
「……」
『それでも私は君達の意思を踏み躙り進むよ』
『それがこの世界に落とされた私が出来る唯一の復讐だから』
対話する事を諦め力を振り翳す。いつか私も、オビトさんの様に他の誰かによって潰える時が来るかもしれない。だけど、そんな事は今更言われるまでも無い。
私は賢くないし正義感もない。ただ物語通りに朽ちる事の出来なかった臆病者だ。
『じゃあね』
『良い旅を』
おやすみオビトさん。
負けるその時が来るまで、私は私の意思で抗い続けるよ。
少しだけ魔王っぽくなってしまったかも知れません。