□主人公視点
ナルト少年への監視が無い事を確認すると、ミナトさんは独りでブランコをこぐナルト少年の下へ行く。どうでもいいことだけど、独りでブランコに乗ると孤独感が倍増するのは何故だろう。
「なんかよう」
ブスっとした表情で、ミナトさんに問いかける。お、珍しくミナトさんが困っている。面白いので静観しよう。
「はは、そんな所に1人で居るから暇なんだろ。暇なら俺と遊ぼうぜ!」
あっ、対応に困ってキャラが壊れた。爆走兄弟レッツ&ゴーに登場する司会兼解説役のミニ四ファイター氏みたいになってる。どうか、ナルト少年と分かれる時には元に戻りますように。私は静かに神に祈った。
「え? 兄ちゃんいいのか? 俺ってば……」
「なんだ、用事があるのか?」
「いや、そんなの無いってばよ! あのさ、あのさ! 兄ちゃんってばアカデミーに居ないよな」
「ああ!」
「じゃあさ、忍術とか見た事無いんだろ。俺が開発した忍術、特別に見せてやるってばよ!」
「そうか! ソレは楽しみだな!」
「へへっ」
そう言って2人は走り去って行く。暑苦しいテンションに付いていけない。
……いや! 私がついて行かないとミナトさん消えちゃうじゃん! ちょ、二人とも。声が出せないから、追いかけるしか無い。クソッ。なんで無駄に走るんだあの二人は。
□
「なになに? ねぇーちゃんも教えて欲しいの?」
「……」
「アレ? 反応がねぇってばよ」
「あ、ごめんね。うちのお姉ちゃん声が出ないんだ」
「そっか……。(それより、兄ちゃんってば大丈夫か? 顔がボロボロだってばよ)」
「(大丈夫。いつもの事だよ)」
「(女ってこえぇな)」
「(……あぁ)」
小声で話しているが全部聞こえている。ミナトさんがボロボロなのは、いい加減あのノリがウザかったからだ。仕方のない事なのだ。
それよりナルト少年が開発したというのはかの有名なお色気の術だろうか。卒業試験まであと二年あるはずだが、この頃から覚えていたのか。
「まぁ、ねぇーちゃんにも教えてやっても良いんだけどさ。女にはあんまり良さがわからねーからなぁ」
「まぁまぁ。仲間外れにしちゃ可哀想でしょ」
「……それもそっか!」
「……」
別に仲間から外してくれて大いに結構だ。ただ、またどっかに行って仕舞わないように、目が離せないだけだ。仲間に入れて欲しい訳では断じてない。いや、ツンデレとかじゃなくて、マジで。
「じゃあ早速見せるってばよ! 忍法、お色気の術!」
煙と共に、現れる全裸の女性。ミナトさんは真顔で冷静を保っているが、鼻から血が止まらない。親が子のエロ忍術にやられるってどうなんだ?
まぁ、私から言わせてもらえば、……30点だな。まだ子どもだから仕方ないといえば仕方ないが、先ず全裸と言うのが安直すぎる。持論になるが、全裸=エロでは断じてない。煙で大事な所を隠しているがチラリズムでもない、ただ知識が無いから隠しているだけだ。「うっふーん」という台詞も色気よりギャグが先に立つ。そして、原作であった「お色気の術」の上位版「ハーレムの術」。エロス界において質より量が勝ることはない。それを証明してやる。
私はナルト少年を殴り術を解除する。
"挑戦者よ"
"血肉の仮面・万象・羽搏き・ヒトの名を冠す者よ"
"真理と節理"
"罪知らぬ夢の壁に僅かに爪を立てよ"
……変化!
「な、なんだってばよ」
「す、凄まじい! なんて気迫だ!」
(黙れ! 見よ、コレがエロスだ!)
変化の煙が晴れて、半分脱げかけの、それでいて大事な所は隠す白い着物を来た十七歳程の女性が現れる。モデルは未来の私だ。……永遠に訪れないだろう未来だが。胸は大き過ぎずバランスを意識し腰周りからヒップにかけての曲線美を作り上げ、それを肌に吸い付く濡れた布で身体のラインを表現する。着物の真っ白な透明感が火照った身体を強調し、なんとも言えない女性の艶かしさを見せつけた。完成とは程遠いが、……そもそもエロに完成は、無い!
「し、師匠」
私の言いたい事は伝わったようだ。言葉がなくても通じ合える。素晴らしい。コレを機会に今後も精進して欲しい。
「ふ、どうやらナルトも本物の女性には、敵わなかったようだね(後でその術ゆっくり見せてくれない?)」
ミナトさんの言葉で冷静になる。やっちゃった。暴走してしまったようだ。気分を盛り上げる為に他の漫画の詠唱まで使ってしまった。まだまだ私も未熟なのだな。反省しよう。
それと、また一つクシナさんに報告することが増えてしまったらしい。残念だよ、ミナトさん。
というか、変化の術は初めて使ったが見様見真似で出来てしまったな。コレがエロスの力か。
「そろそろ日も落ちて来たし、一楽でも行こうか。僕がラーメンをおごるよ」
「まじか! 兄ちゃんいいヤツだな」
「はっはっは」
ラーメンは良いんだけど、その鼻血止めてからにした方がいい。さっきから出っぱなしだ。
□
「じゃあな! 兄ちゃんと師匠」
元気に手を振りながらナルト少年は去って行く。
結局、師匠で定着してしまったのは予想外の痛手だ。コレが何時か災いを産む気がしてならない。まぁいいか。
ナルト少年は、元気が過ぎるが親が居ないにもかかわらず純粋で真っ直ぐに育っている。
「だろ?」
心を読むな。
「さてと、宿に行こうか」
そう言い歩き出そうとするミナトさんの服を引っ張り停止させ、私は拾った枝で地面に文字を書く。影文字が使えないと本当に面倒くさい。
『宿は宿代が勿体無いからキャンセルしました』
『以前私が住んでいた家の所有権が私のままに成っていたので』
「え? 影ちゃん木の葉の里に住んでたんだ」
『はい、その時は両親も一緒でしたが』
「……そっか」
『まだ、使えそうだったので掃除しておきました』
『そちらに、行きましょう』
「わざわざ、ありがとね影ちゃん」
私は干していた布団を中に入れる。もう一度使うと思わかなったな。
「うわ、影ちゃん、コレ少しかび臭いよ」
「……」
十年使ってなかったからなぁ。やっぱり駄目になってたか。私は、影から二つ寝具を取り出して並べる。……少し離しておこう。さっきのセリフを思い出した。いや、まぁ、私が悪いんだけども。
『コレを使って下さい』
「いやぁ、本当に便利だね影ちゃん。一家に一人必需品だよ」
そう言いながら布団に入っていく。もう寝るのか。別にいいんだけど、布団敷いたとたんに飛び込むとか、子どもか。
「影ちゃんのぬくもりを感じるね」
『死にますか?』
「すみません冗談です」
干していたあと、そのまま収納したからその状態で出てきたのだろう。私のぬくもりではない。ミナトさんはやっぱり床の上にでも寝れば良いんじゃ無いだろうか。
私は腰を下ろしそのままに座禅を組んだ。身体能力は本体が運動しないと成長しないが、チャクラや影の制御の修行は分身で充分だった。多分、思考がリンクしている恩恵だろう。だから、分身に時間が出来ればこのコントロールの修行を習慣づけている。
それに私は肉体的には十一歳。多くを吸収する成長期だ。実際には成長していないから永遠の成長期と言っても過言ではない。だから、精神的な修行が一番伸びるのだ。
「影ちゃんさ。木の葉の里に近づかなかったのって、やっぱり両親のせい?」
修行を続ける私の側でミナトさんが、ボソッと呟いた。柱状に回転させていた数十の影が少し歪む。いや、動揺したわけじゃなくて、ミナトさんの珍しい真面目な声に驚いただけだから。……私は誰に言い訳しているんだ?
確かに、いくら危険でも両親が生きていて木の葉の里に残るならば私も側に居たのだろう。そう言う意味では両親が亡くなったから木の葉の里を離れたと言えなくもない。
私は、形成していた影を消した。思考に集中し頭を冷やしていく。
そもそも、最初に木の葉の里から出たのは危険だからだ。一般人の私が原作主人公に関われば命が幾つあっても足りない。
だけど、この世界では何処にいても危険なのは同じ。むしろ、原作開始前までは木の葉の里の方が安全だったかもしれない。
それでも頑なに、それも分身すら木の葉の里から避けていたのはどうしてだろう。……避けていた。そっか、逃げていたんだ。両親の死を原作のせいにしてこの世界の現実から。
それでも、ミナトさんにそれを教える気はない。ミナトさんに気付かされたとか悔し過ぎる。まぁ、ミナトさんだけではなく木の葉の里に来てセンチメンタルになっていた影響も無くはないだろうけど。
『違いますよ』
『ただ大蛇丸とかイタチやマダラなど生み出してきた魔境が怖すぎて近づかなかっただけです』
「はは、違いない。影ちゃんも木の葉出身だしね」
『どういう意味ですか』
心の違いを見透かされたか。この人は飄々としながら鋭過ぎる。いつの間にか、この人の手のひらの上で転がされている気がする。まあいいか。
『……私の分身が木の葉にあったら便利ですね』
「え?」
『そしたら、ミナトさんがいつでもナルトくんに会えるから』
「く、アハハハ。そうだね、ありがとう影ちゃん。ぷぷ」
何故笑われるか意味不明。殴っておこう。
「な、何故?」
『愛です』
「……それは……重いな(物理的に)」