異界、影に生きる   作:梵唄会

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6話・戦いへ

□主人公視点

 

 

 石の国で政務に奔走する。崩壊寸前だった為に落ち着くまで一瞬の気も抜けない。財産を一度再分配し民衆を抑え士気を上げ、残る金でやりくりし立て直し、尚且国の基盤を作り上げていなかければならないし、各地の大名との顔合わせもあるし、里長として忍びもの面倒も診なくては成らない。

 政務に詳しい人は他国に逃げてしまっていたし、この国に残っていたのは金を使い潰していただけの能無しと、民、それから石隠れの残党しかいない。

 事の発端のミナトさんは私の分身との修行に夢中で使い物に成らない。そもそもミナトさんは火影だったとはいえ一年で殉職しているからノウハウも聞けそうに無い。

 現状、影ネットワークのある私だからどうにか成ってる。大蛇丸との戦いも控えているというのに、戦う前に過労死しそうだ。

 

『というわけで温泉行きましょう』

 

「ふふ、どういうわけですか? 影姉さん」

 

 可愛らしく、首をかしげる白たん。これだよ。私に今足りないのは癒しだ。

 

『私の大名就任祝い?』

 

「それは、おめでとうございます」

 

『あまり驚かないね』

 

「驚いてはいますが、影姉さんならと思いまして。次は大陸統一ですか?」

 

 いや、白さん。貴方の姉は何者なんだ。魑魅魍魎蔓延るこの世界で統一とか無理ゲー過ぎる。信頼が重過ぎるよ。

 ――けど、

 

『白が望むなら頑張るよ?』

 

「ふふ、僕が望むのは影姉さんだけですよ。だから、影姉さんの好きなようになさって下さい」

 

 逆に口説かれてしまった乙女の気分だ。白なら抱かれてもいいかも知れない。そこら辺の女の子より可愛いし。

 そもそも初潮が来ていないから、子どもも出来ないし意味無いか。

 

『ありがとう』

『ともあれ最近疲れが溜まっているので温泉に行こうかと』

『白も御一緒しませんか』

 

「お供します、影姉さん」

 

 

 

「そういえば、久しぶりですね。こうして影姉さんと二人で家を出るのは」

 

 大蛇丸が居たから白と一緒に出掛ける事が出来なかった。しかし、今は大蛇丸も準備でそれ所じゃないだろう。

 

『そうだね』

 

「ふふ、周りから見たら家族に見えるでしょうか?」

 

『見えると思うよ』

 

 ただし姉妹だが。勿論私が妹で白が姉だろう。

 ワスレナグサが彩られた薄水色の着物に身を包み、静々と歩むそれは大和撫子だ。立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は百合の花。そんな人はおとぎ話の世界だけのことと思っていたけど、ここに存在しのだ。ただし男だが。

 元々母の着物で、一生着る機会は無いだろうが持ってきたのだが、出来心で白にあげてしまったのだ。予想以上に喜んでいたが女物で良かったのだろうか。

 あ、そう言えば白に何かをプレゼントした事が無かったな。初プレゼントが女物の着物とか。……私は最低な女だぁ。

 

「あれは、なんでしょうか?」

 

『あれ?』

 

 ふとあがる白の声に、思考を中断し私は視線を向ける。人だかりが出来て随分と騒がしい。アレは賭博場か。昼間からご苦労なことだ。

 

『賭博場』

『駄目人間の行き着く場所』

 

 賭博場、駄目人間。そういって連想されるのは綱手姫か。手本となる人間が賭け事に狂ってるのはどうかと思う。そういえば、自来也は色情狂だし、大蛇丸は殺人鬼だ。致命的な欠点を持たないと伝説には成れないということか。終ってんな忍界。

 

「オラァ! 表でろや」

 

「上等!」

 

 白と共に見物に励んでいると中から怒声が飛び交い、入口が壊された。

 はて、あの金髪とでっかく“賭”の文字が刻まれたハッピはどこか見覚えがあるな。

 

「はわわ、綱手様」

 

 考えるまでもない。我らが三忍綱手様でした。ホントろくでもない。昼間から賭け事やら喧嘩やらどうしようもない。

 威嚇的な笑みで厳ついお兄さん方に睨みをきかす綱手姫。若々し過ぎる。あれで四十九歳とか詐欺だろ。

 

『白はああいう風に成っちゃダメだよ』

 

「はい。影姉さん」

 

 分かっているのかいないのか。相変わらずニコニコと素直に返事をする。まぁ、私の白に限ってグレるなど有り得ないな。

 ともあれ、綱手姫はスルーが吉だ。関わらない方がいい。今日は疲れを癒しに来たんだから。

 

「ぶっ殺してやる、死ねやボケェ!」

 

「はひぃ!」

 

 シズネさんの悲鳴が聞こえるが気にしない。どうかヤクザの方が逆にぶっ殺されない事を祈るばかりだ。

 

『行きましょう』

 

「はい」

 

 

 

 温泉は家族風呂のある所を予約した。男性風呂では白が襲われてしまうだろう。

 私たちは、何度も一緒に入ったし今更だ。それに私の身体はこの有様だ。コレでは欲情出来ないだろう。

 掴む所の無い胸を寄せる。コレを谷間と言えるのだろうか。コレではただの溝だな。線にしか見えない。

 

「痒い所は有りませんか?」

 

『大丈夫』

 

「分かりました。お湯を流すので目をつぶってくださいね」

 

「……」

 

 白は甲斐甲斐しく私の世話をしてくれるのだが、たまに子ども扱いされているんじゃないかと思う時がある。

 

『次は私が白の背中流すよ』

 

「ありがとうございます」

 

 立ち位置を交代しタオルに洗剤をかける。

 綺麗な背中だ。腰周りも細いし、首筋から除くうなじが色っぽい。白の裸と分かっても少し興奮しそうだ。

 私は首を振り煩悩を消し、白の背中に触れる。

 

「ん、少しくすぐったいです」

 

『ごめん、これでどう?』

 

「はい。んぁ、気持ちいいです、影姉さん」

 

「……」

 

 白の声が色っぽく聞こえるのは気のせいだろうか。気のせいに違いない。これはきっと煩悩多き私に課せられた試練なのだ。

 本当に男だろうか。視線を下に向ける。良かった、やっぱり男だ。いや、アレがあるからと言って男だと言えるのだろうか。

 

「影姉さん、ありがとうございました。スッキリです」

 

『どういたしまして』

 

 私の方は逆に悶々としたよ。良かったね、スッキリして。

 身体も洗い流し二人で広々とした風呂につかる。露天で星空が絶景だ。排気ガスで汚れた元の世界の日本では見られない光景だ。

 

「そういえば、さっきふと聞いたんですけど」

 

『なに?』

 

「ここの宿、出るみたいですよ」

 

 出るって何だろうか? 大蛇丸か?

 も、もしかして、幽霊とか? ゆ、幽霊なんて非科学的な。そんなものが居るとしたら、私は何人に憑かれているか分からない。でも、私自身が幽霊みたいなものだし。もしかすると本当に居るのかもしれない? あばばばば。

 姉としての威厳と怪談話を天秤にかける。要らんな威厳なんて。もともと有って無いようなものだ。

 

『怪談話とかだったら止めて』

『お願い』

『苦手』

 

「あれ? 影姉さんこの手の話苦手でしたか。おかしいなミナトさんが」

 

「……!?」

 

『ミナトさんが?』

 

「はい。ミナトさんが、影姉さんは怪談話が好きだと」

 

 ほう。波風ミナトさんが。判決。有罪(ギルティ)

 ミナトさんと修行中の私の分身が未完成の螺旋丸を叩き込む。するとミナトさんは錐揉みしながら崖に飛んでいった。威力は上がっているようだ。完成は近い。

 

「あ、もしかしてミナトさん。また影姉さんに悪戯しようとしたんですね!」

 

『ごめんね』

『折角用意したのに』

 

「いえ、僕こそ。影姉さんに嫌な事してしまうところでした。後でミナトさんに注意しておきますね!」

 

『いいよ、お仕置きしたから』

 

「そうですか? まったくミナトさんは。影姉さんで遊ばないようにといつも言ってるのに」

 

 私で遊ばないようにといつも言っているのか。……二人の間て私はどういう認識なのか気になる。

 

『ねえ』

 

「はい?」

 

『ホントに……でるの?』

 

「……今日は一緒にねますか?」

 

『いいの?』

 

「はい。喜んで」

 

 ……私のカリスマ値って今いくつだろ。

 

 

 

 何もこんな日で無くても良いのに。つくづく大蛇丸とは相性が悪い。折角、白とのデートでいい気分で一日を終えられると思ったのに。

 大蛇丸を見張っていた分身が大蛇丸の動きを察知した。螺旋丸は未完成だが。ナルト少年と一緒の状況だな。違うのは本番で一発成功なんていう主人公補正がついていない所だ。螺旋丸無しでもいいか。

 さてと、一仕事しますか。白、お姉ちゃんちょっと頑張ってくるよ。白の頭を一撫でしてエネルギーを補充した。

 

『ミナトさん』

『大蛇丸に動きがありました』

 

「あれ? 僕には出番は無かったよね」

 

『はい』

『ですが、黙っているとミナトさん怒りますので』

 

「あはは、そうかい。頑張ってくるんだよ。いざとなったら駆けつけるから」

 

『“いざ”は有りませんので、ごゆるりと待っていてください』

 

「頼もしいねぇ」

 

 私のやる事は、“大蛇丸の戦いを監視し、大蛇丸が死ねばそれで良し。原作通り大蛇丸が逃げるならば、その首をかすめ取る。だが、追い詰められた獣は危険だ。直ぐに仕留められなければ撤退。”これだけだ。何もむずかしい事はない。私はやれる事をやるだけだ。

 

『無理はしないので』

『目的と手段を履き違える気はありませんよ』

『取り敢えず修行した分くらいは頑張ってきます』

 

「うん。頑張って。あ、そうだ。俺も見にいっていいかな」

 

『構いませんが、何故?』

 

「僕も大蛇丸さんとは因縁があるし、イタチくんとも面識があるからね。見届けておきたいんだ」

 

『分かりました』

『この分身は消してしまいますね』

『では行きましょうか』


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