異界、影に生きる   作:梵唄会

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一年生飛ばしてしまいました。
閑話で暁の任務とか石の国の事など1年間の事を載せるかも知れません。

原作開始です。


8話・卒業と始まり(原作開始)

□主人公視点

 

 

 私が暁に入って、一年と少し過ぎた。その間の話は割愛しよう。ただ政務と雑務に追われる日々で面白い事など特に無いだろう。

 

「師匠。……俺、大丈夫かな?」

 

 いつもの如くナルト少年が私の屋台に訪れる。

 ミナトさん? 彼は最初ばかりはやる気を欠片は見せていたが飽きたのか最近は屋台に顔すら見せないよ。来るとしても客としてだ。今頃、石の隠れ里で忍びを鍛えている。私が減らしてしまったので少数精鋭だ。

 もう屋台は私のもので良いと思う。辞めるにもリピーターがついてしまったのでやめにくい。自分が言うのもなんだが、安い、旨い、美人の店員と三拍子揃ってる。

 速いじゃ無いのかって? 普通、おでんの屋台にそこまで速さを求めない。遅いのは問題だけど。

 ナルト少年はため息をしながら机につっ伏す。今日は元気がないな。そうか、明日は卒業試験か。

 

『らしく無いねナルトくん』

『いつもの自信は何処に行ったんだい?』

 

 石の国で開発したペン。特殊な鉱石を使い、チャクラを通し質を変化させる。チャクラは色のついた液状の状態へと変わり、それが棒の先から対象に付着していく。つまりチャクラがインクになるのだ。三十秒程でチャクラは霧散し文字は消えてしまう為紙代も場所も選ぶ必要がなく文字がかける。

 半分私の為に作られたのだが、謎の需要が一定数あるため売り上げはまぁまぁだ。忍びしか使えない筈なのに、何に使っているのだろう?

 

「そうは言ってもよ」

 

『では、占って上げます』

 

「師匠ってば、占いなんてできたのか? 見たことないってばよ」

 

『こう見えても私、数年先の限られた未来まで見通す事が出来るんですよ』

 

「おお! なんだかよくわからねーけど、すげーってばよ!」

 

 もちろん、嘘だ。占いなんてした事も無い。ただ先を最初から知っているだけだ。だけど、未来を教える事は出来ない。私が何もしなくともナルト少年は困難を乗り越えて行くだろう。助言は自己満足に過ぎない。

 

『むむむ』

『ナルトくんは試験に落ちるでしょう』

『しかし下忍となり成長しやがて火影になる未来が見えます』

 

「なーんか、胡散臭いってばよ。師匠知らないかもしんねーけど、次試験に落ちたら下忍に成れないんだぞ。それと、コレから試験を受けるっていう可愛い弟子に向かって落ちるってどうなんだ?」

 

『ごめんなさい』

 

「でも、そうだな! 俺ってば火影になるんだからこんなとこでうだうだしてらんねーな! 師匠サンキュ」

 

「……」

 

「ご馳走様! 師匠いくら?」

 

『私は金で買えないよ』

『ナルトくんが立派に成ったら5000万両で考えてあげる』

 

「じゃなくてさ!」

 

『いいよ、出世払いで』

『その代わり、ナルトくんが火影になってもご贔屓にしてね』

 

「!?……へへっ。じゃあさ! さっさと火影になって師匠のボロい屋台、立派にしてやるってばよ! じゃあな師匠」

 

 ブンブンと手を振りながら去っていくナルト少年。

 私の屋台はボロいのではない。趣があるというのだ。この魅力は子どもにはわからないだろう。

 そして、火影の力で私の屋台立派にしたら職権乱用じゃないのかな? まぁ楽しみにしていよう。ヒナタ嬢に恨まれない程度にせいぜい貢いでくれ。

 

 ナルト少年は実際に見ると、無邪気で可愛らしいから庇護浴をくすぐるのだ。男の頃は浮かばなかった、守りたいというのとは少し違う感情だ。こんなことを考えていると、やっぱり女になってしまったのだなぁと感慨深く思う。

 別段に女になった事に忌避感は無い。辛いと言われている月のものも来ないし、男より筋力は落ちるといっても身体能力も前世と比べてしまえば遥かに高い。

 ただ違和感が少しあったり、女性らしい思考をしてしまった時に羞恥を覚えるくらいだろうか。

 二十年以上も女として生きて今更なことか。

 

「ここ良いかね?」

 

『どうぞ』

 

「ふむ、失礼するよ」

 

『ご注文は……』

『火影様!』

 

「あぁ、かしこまらないで良い。あぁ大根を一つよいかな?」

 

『はい』

 

 火影様がなんでこんなしょぼい店に。あ、自分でしょぼいとか思ってしまった。いや、そうじゃなくて火影様が来るような店じゃ、……ナルト少年か。すっかり忘れていたがナルト少年は火影様の庇護下にあった。ならナルト少年が通っているここに来ても不思議ではない。

 正体はバレないだろうか。変化の術を応用し影の分身そのものを成長した自分に変えているが相手は火影様だ。

 イタチさんでも見破れなかったから大丈夫か? ナルト少年がうっかり話していなければ大丈夫なはず。

 

「ほう、それはチャクラ筆か」

 

『知っているのですか?』

 

「最近話題になっていたのでの。アカデミーで実用される話もあがっておる」

 

 私は普通に使ってしまっていたが、このペンで綺麗に文字を書くには高いチャクラ操作能力が必要だったらしい。チャクラを入れ過ぎれば文字は濃くなり、逆に少なければ薄くなる。

 習字と似たような感じだろう。だから、綺麗な文字を書くには繊細なチャクラ操作が必要なのだ。違うのは筆の力加減かチャクラの量の強弱かだ。

 その為、チャクラ量の感覚を鍛えるのに文字という指針で図れるコレは最適らしい。そして、文字の勉強に紙代もかからない。

 最近、忍者の卵たちの教育に流行しているらしい。知らなかった。まぁ、開発した後は商人に任せてしまったからな。

 

「それにしても見事に操るのぉ。お主」

 

 そして、その下忍ですら操作の難しいペンを自在に操るおでん屋のお姉さん。怪しすぎますね、分かります。

 それに、私は暁に入っちゃっているから、疑っているとしたらその懸念はビンゴだ。大当たりだよ。

 私が里を出てた事も記録には残っているだろう。私の資料には目を通してから来ていると考えていいだろう。ということはその場しのぎで嘘をつくとかえって怪しさが倍増してしまうか。

 

『昔、里を出た時に石の国で手に入れました』

『使っているうちになれました』

 

「確かにお主は十年ほど里をでていたのぉ。その時のお主は十ほどか」

 

『はい。九尾が里を襲った時に両親が亡くなったので、心をまとめる為に旅に出ておりました』

 

「ふむ。……そうか」

 

 私の話に矛盾点は無いだろう。十歳の少女が旅に出るというのは少しおかしいかもしれないが、そこは事実なので仕方ない。

 

「いや。辛いことを思い出させてすまんのぉ。本当は、お主のことを聞きに来のでは無いのじゃ」

 

『いえ』

 

 やりすごしたか?

 いや、まだ油断は出来ない。油断させたところで言質を取るなど大いに有り得る。

 

「……お主は知っているのか?」

 

『何をですか?』

 

「九尾の事じゃ」

 

 そういうことか。今日は私の正体を暴くために来たのではなかったか。たぶんそれも含まれていたのだろうけど、まだ白に近い灰色の状態だろう。完全に油断は出来ないが、警戒は下げていいだろう。

 今日ここに彼が来たのは三代目火影ではなくナルト少年の保護者としてだ。ならば、私もナルト少年の友として話せばいい。

 

『勿論、ナルトくんに九尾が封じられていることは知っています』

『まだ、子供だったとはいえその時代を生きましたから』

 

「……そうか」

 

『でも、里の人のようにナルト君を恨むつもりはありません』

『確かに、私の両親は九尾の事件に巻込まれ、命を失いました』

『しかし、それを行ったのはナルトくんではなく九尾です』

『ナルトくんを恨むのは筋違いだと思います』

『私は』

『ナルトくんは素直で元気で、とてもいい子なので好きですよ』

 

「そうか、そうか」

 

 嬉しそうに笑う三代目。愛されてるなぁ。

 

『お皿が空ですね』

『何か他にご注文は有りますか』

 

「そうじゃな。玉子と竹輪と……萵苣(ちしゃ)の肉巻きをいただこう」

 

『ありがとうございます。お酒はいかがですか?』

 

「ふむ。……それもいただこうか」

 

 

 

 翌日、夜。

 ナルト少年は、やはり試験に落ちて落ち込んでいた。

 ミズキが原作通り素直なナルト少年を利用して封印の書を盗み出させた。三代目はナルト少年の原作よりも強力なお色気の術でのされているがわざとだろう。たぶん。

 私は影の海に沈みミズキを追跡する。

 

 どうでも良いけど彼は本当に中忍だろうか。動きが、私の知っている忍びと比べるとどうにも拙い。

 まぁ私の知っている忍びの動きは暁とミナトさんとかだ。比べては可哀想か?

 だけど、それを考慮してもIQ200の天才しか受からなかった難関試験を突破出来たとは考えづらい。

 中忍試験は年に二回。同盟国の砂の里。近隣の里、全てを通して行われるのに対して、合格者は年間十人に満たない。中忍からの任務は致死率がぐんと上がる為、中忍試験の合格者よりも旬死者数の方が多い。それなのに中忍や上忍が多い気がするのは気のせいだろうか? もしかして戦争で増やし過ぎ、財政を圧迫してしまった為に大名や五影達が口裏を合わせて、試験を難しくしているのでは無いのだろうか。

 考え過ぎか。生憎、石の国にはその様な重要な資料は無かった。

 

「つまりお前が、イルカの両親を殺し! 里を壊滅させた九尾の妖狐なんだよ!」

 

 考えているうちに、場は進展している。ミズキがついにばらしてしまった。というか、ミズキはなんでこんなことをしでかしたのだろうか?

 十年以上もこの里で忍びをやっていて火影や上忍、暗部の人達を出し抜けると思えるとは思えない。三十歳すぎて未だに中忍のままの自分に焦ったか。

 

「どうしてイルカじゃないと分かった!」

 

「イルカは俺だ」

 

 イルカさんに変化していたミズキをナルト少年に変化していたイルカさんが体当たりした。

 可愛い戦いだな、と思ってしまうあたり、もう人として終わっているかもしれない。いや、全てはあの人外たちのせいで、感覚が麻痺しているだけだ。

 

 言いたい放題叫ぶミズキにイルカがゆっくりと諭す。それを陰で見ていたナルト少年が歯を食いしばり静かに涙している。ミナトさんにも見せてあげたかったな。

 

「うぅ、ナルトォ」

 

『いつの間に』

 

 気付けば、背後でミナトさんが男泣きしていた。確かに感動的なシーンであったが私は覚めてしまったよ。

 感無量で飛び出さないように影で縛り付けておく。

 

 ナルト少年が多重影分身を展開してので、範囲内から逃げる。

 もう大丈夫だな。私が心配するまでもなく、彼は私よりも余程強い心を持っている。誰よりも強く輝く心の煌めきが見えた気がした。

 

『流石ミナトさんとクシナさんの息子ですね』

 

「……そうだね」

 

 コレが親の顔というのだろうか。目を細めて優しくナルト少年を見つめるその顔はとても綺麗に見えた。いつもとは別人だ。少し羨ましく思う。

 

「「『卒業……おめでとう』」」


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