俺がポケモンマスター   作:てんぞー

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カナズミシティ

「―――漸くカナズミに到着したな」

 

「僕はもう疲れたよ……」

 

「俺も割と疲れたわ」

 

 カナズミシティに到着する事には暗くなり始める頃だった。そしてトウカの森突入からカナズミシティへの到着までの間、割とノンストップで移動を続けてきたため、たっぷりと疲労が体に溜まっている。カナズミシティにおける最優先事項はデボンコーポレーションへと向かう事だが―――流石にこれだけ遅くなると、明日改めて向かった方がいいだろう。今からホテルの部屋を取るのも面倒だ、ポケモンセンターのタコ部屋を借りてしまうのが一番良いだろう。軽く帽子を手に取り、埃を掃う様に一回腿の辺りで叩き、そして被り直す。

 

「うっし、部屋を取りに行くか。喰う気すらしねぇ」

 

「もう、ただただ眠りたい……」

 

 軽く欠伸を口から漏らしつつあらかじめ調べておいたポケモンセンターの位置を思い出す。カナズミシティはカイナシティと同レベルの大都市だ。それこそ都市全体を回るには一日中時間が必要になって来るぐらいには。ここからポケモンセンターまで歩くのが激しくだるい。誰か運んでくれないかなぁ、と思いつつ歩きだそうとしたところで、

 

「―――部屋なら用意してあるよ」

 

 男の声に動きを止める。俯きがちだった顔を持ち上げて視線を正面へと向ければ、銀髪にスーツ姿の男がや、と声を零しながら片手を上げていた。その男の姿をよく知っている。いや、寧ろ知らなきゃおかしい。このホウエン地方でおそらくは最も有名で、嫉妬を集め、それでいてトレーナーの目標、

 

「ダイゴじゃねーか!」

 

「元気……にはどう足掻いても見えないね。ようこそカナズミシティへ、歓迎するよオニキス」

 

 ははは、と笑いあいながらダイゴへと近づき、拳を叩きあってから握手する。ガッチリと腕を組んだ所で軽く眠気が吹き飛ぶ。デボンコーポレーションへとは向かう予定だったが、まさかこんなところでダイゴと会うとは一切思っていなかった。そう、ダイゴ、ツワブキ・ダイゴ。デボンコーポレーションの御曹司であり、そしてそれでいてホウエン地方の現在のチャンピオン。このホウエン地方において最も有名な男は間違いなくコイツだろう。お、そうだ、と声を零しながらナチュラルへと視線を向ける。

 

「ナチュラル、紹介するわ。この無駄なイケメン野郎がホウエン地方で最も恵まれている石マニア、ツワブキ・ダイゴだ」

 

「大企業の御曹司な上にリーグチャンピオンという人生の勝ち組でごめんね負け組諸君。僕みたいな特権階級の人間は奇妙な趣味を持ってもイメージと立場で許されちゃうんだ。ほんとうに勝ち組でごめんね」

 

「初対面で喧嘩を売られたけどこれって殴ってもいいって事かな?」

 

 ナチュラルが疲れからか、受け流す事なく言葉を受け止め、そして拳を作るのをダイゴが笑って受け流す。しかし、ダイゴに会う事になるとは思っていなかった。どうせコイツの事だから流星の滝か石の洞窟で時間を潰しているのかとでも思っていたのだから。だからそれだけ意外だったが―――良く考えれば立場的に別にデボンコーポレーションで働いていてもおかしくはないのだ。まぁ、今はそれ以上に面倒なものを相手しなきゃいけないからダイゴにも遊ぶ時間はないが。

 

「ここで何やってるんだよお前」

 

「ん? トウカの森の件を僕でどうにかしようと思ったんだけどね、君が解決に乗りだしたって聞いたからね、だとしたらすぐに終わるだろうからここで待っていたんだよ」

 

「ちょうど良かったわ。トウカ側に荷物と荷物番を置いて来たんで、回収を頼む」

 

「手配しておこう。とりあえずデボンの名前で部屋を取っておいた、今夜はそこでゆっくり疲れを落として、明日ゆっくりと話をしよう。今夜はもうくたくたなんだろう?」

 

 ダイゴの言葉はありがたかった。トウカの森を出てからこっち、ウインディの事が気になって、あんまり野宿をしたくはない状態だったから強行軍で進んできたのだ。タコ部屋も割といいのだが、ちゃんとした部屋を用意してくれているのであれば、それに越したことはない。ここはダイゴの言葉に甘えて利用させてもらおうと思ったところで、ダイゴが視線を後方へと向ける。ダイゴの視線に合わせて視線を後方へと向ければ、無言でブリッジ中ピカネキがいる。

 

「ナニアレ」

 

「ピカネキ。おい、ホウエンチャンピオン様だ、挨拶してやれ」

 

 そう言うとピカネキがブリッジから復帰し、無駄に足音を立てずにモンローウォークでダイゴへと接近し、

 

「ピッピカぺっチュウ!」

 

「なんだこれ」

 

「ピカネキ」

 

 こいつがいるとネタを振らないで済むから色々と楽だなぁ、と思いつつピカネキをボールの中へと戻し、テロられて困惑状態のダイゴにさっさと案内をさせる。もう何でもいいからとりあえず眠りたかった。欠伸を何とか噛み殺しつつ、デボンコーポレーションが用意してくれた部屋へと泊まる為に、ダイゴの背中を押して歩き始める。

 

 

 

 

 ―――気絶する様に眠り、そして次の日に起きる頃には既に十一時近かった。

 

 ボールから出す事の出来るポケモン達も疲れているのか眠っているらしく、ゆっくりとベッドやソファの上で眠っていた。一部、姿の見えないポケモン達は恐らくトレーニングか、或いはホテル内の散策に出かけたのだろう。ナチュラルがまだ眠っているのを確認し、歯を磨き、シャワーを浴びてさっぱりとしてからカードキーを片手にポケモンも連れずに部屋を出て、ホテルの食堂へと向かう。

 

 デボンコーポレーションが経営するホテルの一つはまだシーズンではない事を踏まえ、客の数はまばらに見える。だがそれでも食堂へと向かえばそれなりに人の姿が見えるのは、食事だけでも利用する客がいるからかもしれない。そんな事を思いながら食堂を軽く見渡せば、四人用のテーブルの一つにダイゴがいるのを発見する。片手を上げて挨拶をすれば、珈琲を片手にダイゴも片手を上げて挨拶を返してくる。そのまま、ダイゴのいるテーブルの相対側へと座る。

 

「その様子を見ると良く眠れたようだね」

 

「流石に強行軍は疲れるからな。逃亡したと見せかけて奇襲する為に潜伏されていた……なんて場合に備えてずっと警戒してたからな。やっぱ街の中に入るまでは安心できねぇわ」

 

「ははは、お疲れ様。紅茶にする? 珈琲にする?」

 

「珈琲で。後は適当に何か食えるもん、なんでもいいわ」

 

「ん、解った。僕が見繕っておこう」

 

 サクサクとダイゴがウェイターを呼んで時間的にブランチの為の料理や珈琲を注文して来る。それをぼーっと眺め、ほどなくやって来た珈琲のカップを握り、軽く喉の中へと流し込み、それで意識を覚醒させながら息を吐く。旅は嫌いじゃない。嫌いじゃないが、こうやって良いホテルでゆったりするのも悪くはない。いや、旅で疲労するからこういうホテルで宿泊する事が良く感じるのだろう。とりあえず、漸く休めた、という感じだ。それを表情から態度で理解したのか、ダイゴが小さく笑う。

 

「なんかくたびれてるね、少しだけ老けて見えるよ」

 

「一応、俺28だからな。お前よりも年上だからな」

 

「僕も君も見た目じゃあまだ20前後にしか見えないんだけどね。ま、若く見られるほうが得だし、それはそれでいいんじゃないか?」

 

「えー」

 

 30を過ぎたらサカキの様な渋いチョイ悪オヤジ風になりたいというひそかな願望があるのだ。だがやっぱり、肉体的な加齢が遅いのは伝説種との契約との関係だろうか。まぁ、思い当たるのはホウオウ―――カグツチの存在なのだが。輪廻転生は禁止しておいたが、それ以外に関しては細かい禁止してないし、今度聞きだしてみるとするか。

 

「で、トウカの森の方はどうだった?」

 

「数週間は入れねぇ。統率してたのが色天賦のダークウインディだったわ。ポケリ級のトレーナーじゃなきゃ容赦なく殺されるクラスの化け物」

 

「逆に言えばポケモンリーグに出場するだけのレベルがあれば問題はない、か」

 

「まぁ、実力だけを考えるとな。ただ妙に頭がキレやがる。ダークポケモンの残酷性はいいが、迷う事無く群れのポケモンを肉壁にする発想なんて普通は思つきやしねぇし、それを躊躇なく実行できるダークポケモンなんて俺は知らねぇわ。基本的にダークポケモンは”狂暴”であって”外道”じゃねぇし―――」

 

「―――という事は誰かの介入か、入れ知恵があるって考えている訳だ」

 

 まぁ、少なくとも完全に関係はないとは思えない。だけど人間に対するあの殺意は本当に理由はないと思う。アレはそういう生物なのだから。考えれば考える程面倒だ。偶に全部投げ捨てて全裸になって走り回りたくなってくるが―――それは実家でやる事にしよう。風呂上がり、全裸で徘徊するのはアレ、意外と気持ちが良い。

 

「それはそれとして、お前の方は調子どうなってんだよ―――調査、終わったのか?」

 

 そう言うとそうだね、とダイゴは飲み終わった珈琲のカップを降ろし、お替わりを注文しながら腰に手を伸ばし、そして三つのモンスターボールをテーブルの上に広げる。その中に入っているのはただのポケモンではない。”伝説殺し”の経験が反応している為、その中に入っているポケモンが伝説に準ずる存在である事を理解させられる。つまり、提供した情報からゲットする事にダイゴが成功した、という事でもある。

 

「111番道路の砂漠遺跡のレジロック、105番水路の小島の横穴のレジアイス、120番道路の古代塚のレジスチル―――少し苦労したけど全部捕獲に成功したよ」

 

「これで四王の内、三王は見事こっちで捕獲完了かぁ……」

 

 レジスチル、レジロック、レジアイス、そしてレジギガスの四体を合わせて四王と呼ぶ。準伝説級であるレジスチル達とは違い、レジギガスは正真正銘の伝説級のポケモン、大陸そのものを動かしたという伝説を保有するポケモンである。ただレジギガスだけはその所在がシンオウ地方である為、この三体を揃えてからシンオウ地方へと向かわないと全て揃わないという事実がある。まぁ、そういう訳で四王の情報をリークしたのは自分だ。

 

 どう足掻いてもマグマ団とアクア団の暴走に間に合わなかった場合を想定して、最低限の戦力を用意する為に伝説に関する情報を信用できる人物たちに流したのだ。レジギガスはいない為三王になってしまうが、この三王に関してはグラードンとカイオーガがゲンシカイキしないのであれば、動きを封じ込める事が出来るだけの実力を持っている。

 

「しかし相変わらず呆れるよね、君には。一体伝説のポケモンに関する情報をどうやって集めているのか知りたくなってくるよ」

 

「それに関しちゃあ秘密……って言いたい所だが、そう難しい話でもねぇよ。ちょっとばかし、未来を知る手段が俺にはあったのさ。だから先をハッピーにするために動いている……間違っているか?」

 

「いや、間違ってなんかいないさ。立派な事だよ。ただこの三体を捕獲する時死にかけるかもしれないよ? って一言でもいいから忠告してくれたらキレなかったかもなぁ……」

 

「伝説だよ? 強いよ? 捕獲するなら死にかけて当たり前じゃねーか」

 

 ダイゴが笑顔のまま無言で中指を突きだして向けてくる。ありがとう、その姿が見たかった。そんな事をやっている内に、ダイゴが頼んでおいたブランチが運ばれてくる。やはり昼飯の分が混ざっているだけ、少々内容は重めで、サラダとスパゲティにスープ、焼き立てのバゲット等が運ばれてくる。ナプキンを膝の上に広げつつ、

 

「喰い終わったらツワブキ社長に会いに行くか」

 

「マグマ団にアクア団、目覚める可能性のあるグラードンとカイオーガ、そしてホウエン地方へと向かって落ちてくる隕石に暴れ出すダークポケモン。うーん、厄年かな? チャンピオンに就任してからこれだけ酷い状況は初めてかもしれない」

 

「そんなダイゴ君に朗報です。なんとフーパちゃんがホウエン地方で観測されました」

 

「先生、フーパちゃんって何ですか」

 

「自由自在に伝説のポケモンを召喚させられるキチガイポケモンです」

 

 無言でダイゴが両手で顔を覆う姿を見て、お前のその姿を見たかったんだよ、と心の中で愉悦しつつ―――ダイゴと協力してこの状況をどうにかしなきゃいけないのは自分だった、と思い出して絶望が心の中に蘇ってくる。

 

 それでも、それでも、

 

「ジラーチ、ジラーチにさえ祈れば……!」

 

「その願いは私の力を超えているとか言って逃げだしそう」

 

「想像できるからマジでやめろ」

 

「というかジラーチって現在休眠期であと数年は目覚めないんじゃなかったっけ」

 

 ご都合主義には頼れなかった。

 

 順調に三王、三鳥、そして三犬を確保出来ている状況とはいえ、どうしたものだろうか、これは。考えれば考える程、ホウエンの未来が闇に包まれている様に思える。




 石狂い:ホウエン三王
 ???:カントー三鳥
 鬼キス:ジョウト二鳥、ギラティナ
 Nな人:はじけるオーラ

 現在作中で保有が確認されている伝説・準伝説の所在。

 バトルの描写をする時、ポケモンバトルの文体みたいに「XXXの黒い眼差しが逃亡を許さず見つめ続ける」みたいな感じにやってるけど、このゲームの説明文っぽい形式と、普通に描写するのとどっちがいいんだろうね。割とノリが良くて気に言ってるんだけどさ、ゲームっぽい表現。

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