俺がポケモンマスター   作:てんぞー

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コミュニケーション????

「―――そっちの資料を頼む」

 

「はいはい」

 

 ナチュラルが資料を運んでくる。口の中に珈琲を流し込みながらナチュラルが運んできた資料を受け取って、その中身を確認する。そこに書かれているのは今期のポケモンリーグに関する資料、ルールの変更や新たに出現した制限に関する事が書かれているそれには、やはり狐火やみちづれに関する制限が書かれてあった。それ以外にもメガシンカに関する新しいルールも記載されている。

 

「―――今年からメガシンカは1試合に1回限定か……お、ワタルの奴も制限喰らってやがる。ざまぁみろ……持ち物の電子データ化が本格化してきて、きのみもデータ化して持たせる事が出来る様になって来たか、見た目じゃ持ち物が解らなくなってきた以上、解析能力は更に重要になってくるなぁ……」

 

 セキエイリーグでも環境の変化が進んできている。カントーとジョウトでは居座り型のパーティーが基本だったが、カロスやイッシュ、ホウエンやシンオウから新しい戦術などが入りこんで、環境の変化が進んでいる。今までとはトレーナーの考え方が変わってくるだろうし、サイクル対策も組んでくるだろう。そしてメガシンカ無双だった環境も、メガシンカの使用制限も入って、パーティーの選出も変わってくるだろう。

 

「サイクルを組むトレーナーと、サイクル対策を組むトレーナーが一気に増えてくるなぁ、こりゃあ……今まで以上に設置や設置除去に対して気を使うハメになりそうだわな」

 

 ふぅ、と息を吐いて珈琲を飲もうとして、中身が空っぽになっているのを確認する。壁にかかっている時計を確認すれば既に四時過ぎになっている。朝からポケモン協会に送られてきた資料とずっと睨めっこしていたからあまり気にしてはいなかったが、こうやって気付くとお腹が空いていることに気付くが―――やっぱり環境トップの人間としては、こういうものをいち早く確認するのは大事な事だ。大事な公式戦でルール違反をするわけにはいかないからだ。

 

 ―――おそらくはダイゴもデボンコーポレーションの本社か、或いは自室で同じように資料を確認しているに違いない。偶にキチガイな側面を見せているが、チャンピオンという立場に関しては誠実な存在だ。真面目にチェックして、パーティーの事等を考えているに違いない。

 

「もう少し読んだら休憩を入れるか……」

 

 そう思って次の資料に手を伸ばそうとしたところで、手を伸ばした場所には何もないのを感じる。首を傾げながら視線を持ち上げれば、ナチュラルに運ばせた資料が目の前にはなくなっており、その代わりにテーブルの向こう側にはドレスとロングコートに首輪から鎖を伸ばす、奇妙な恰好の女の姿があり、その両手には料理の乗った皿が握られている。

 

 そもそも昼時に睨めっこしているのを止められずにいた事を気付くべきだったかもしれない。

 

「お前、ホウエンに来てたのか―――ツクヨミ」

 

「ハローだぁーりん、来ちゃった」

 

 伝説種ギラティナ、ニックネーム・ツクヨミ。反物質と逆様の理を司るポケモンの姿がそこにはあった。3年前、ジョウト地方でケリを付けてからは嘘の様に大人しくなった、自分が保有している伝説のポケモンの一体だ。他にもジョウト地方にはルギアとホウオウのワダツミとカグツチが残っているが、基本的に公式試合に出場制限を持っている上に、強すぎるから草試合で使う事も出来ない。それに頼ってしまうと”もしもの時は伝説で”なんて思考を生んでしまう。

 

 つまり、弱体化の原因になりえる。

 

 だからジョウトに強いと断言できるポケモンは全て置いて来た。

 

 ツクヨミもその内の一人だ。まぁ、ツクヨミ自体は”やぶれたせかい”という反物質と反転された世界の主でもある為、そこを経由する事で自由に世界に出現する事が出来る。だからここに出現すること自体は不思議ではない。ただ、目の前のツクヨミの存在には違和感を感じるものがある。彼女の姿を見て、目の前に並ばれる皿を見ながらも首を傾げる。確認するツクヨミの姿自体は変わっていない。プラチナで編まれた鎖を胸の間に挟んで強調する辺り、人の趣味を良く解ってると小さく褒めたい所だが、そこじゃない。そして、気付く。

 

「……お前、弱くなってないか?」

 

「そうね、レベルで言えば100程度しかないわ。だってポケモンバトルするのに必要最低限の力を残して、ほぼ全部実家の地下に封印してきたし。今の私はちょっと特殊で、相性最高の良妻系伝説よ! 特技は虐殺で」

 

「タイムで」

 

 手を合わせてタイムを求めると許可をもらったので、迷う事無く椅子から飛び降りて隣の部屋へと走れば、壁の裏に隠れる様にナチュラルが張り付いていた。ナチュラルの襟を掴んで壁に叩きつける。

 

「なぜ何も言わなかった貴様……!」

 

「ははは、たまには君も理不尽な目に合えばいいんだ」

 

「こいつ……!」

 

 まぁ、と言葉が置かれ、

 

「一切の悪心がないし、僕と”彼”で今の彼女ならどうにかなるからね。だから特に問題はないと思たんだけど……違ったかな?」

 

「……まぁ、実際そうなんだけどさ」

 

 ナチュラルを解放し、壁の横から顔を出してツクヨミの方へと視線を向ければ、笑顔で手を振り返してくる彼女の姿が見える。その姿を見て観念する。世界間移動能力は健在だが、それでもかつての様にシャドーボール百個形成みたいな馬鹿な真似は出来ない、”競技としてのポケモンバトルに参加できるレベル”まで弱体化している。手加減ではない、彼女自身が自分の力を体から切り離して封印したのだ。逆に言えば、その封印を解除すれば元のフルパワーギラティナへと復活するのだろうが。

 

 それはそれとして、

 

「お前、なにしに来たの」

 

「ポケモンバトルに」

 

 簡潔に答えた。ポケモンバトルに、と。誰よりもおそらくは”魂的に一番相性の良い”ツクヨミだからこそ、彼女は此方の考えを、感情をある程度察せられる。それでおそらくは察したのだろう、伝説種である間は、同じ伝説種が相手でもない限りは、バトルで使う事はないだろうという事を。だから弱体化してきた、超級と言えるレベルだが、だが1:1で撃破出来るレベルまで、公式戦には出場できないが、それでも草試合であれば出場できるという程度には。

 

「愛されているな、俺」

 

「愛しているわよ、全霊で」

 

 いえーい、と言いながらツクヨミがピースを浮かべ、向けてくる。その姿を確認してから笑みを浮かべ、ゆっくりとナチュラルへと視線を向ける。それを受け取ったナチュラルが、

 

「自慢したいなら口に出してもいいんだよ? ―――僕がキレない保障はないけど」

 

 

 

 

「―――ピカネキの育成もある程度終わったんで、明日はツツジと模擬線を行う。ダイゴを通して既に申し込んで、許可は貰ってる。だから後は明日行って、一戦やらかすだけだ」

 

 時間は進み、午後、ホテルの部屋には大きすぎて入れないメルトがモンスターボールに入っている事を除けば、全員が座っているソファの前に集まっている。いや、唯一ツクヨミだけが横に座って腕にしがみついており、はなれないのでどうしようもないので放置している。黒尾のジト目が先程からツクヨミに突き刺さっているが、ツクヨミはそれに一切気にする事のない様子を見せている。お前ら、少しは仲良くしろよ、と内心思うが、口には出さない。

 

「とりあえず―――レギュレーションの変更でウチでダイレクトに影響を喰らったのは黒尾だ。悪いけど再育成が終了するまでは黒尾は試合に出す事は出来ない。っつーことで今回はお休みだ、悪いな」

 

「いえ、当然の事なので問題はありません」

 

「そう言ってくれるとありがたいな。んで、そうなると困ってくるのが今回の選抜メンバーって事になって来る。センリの時とは違って今回は6vs6でやる以上、戦術も戦力も最大の状態で勝負を挑んでくるから、此方も相応の覚悟で挑む必要が出てくる。相手がトレーナーズスクールの在校生だって舐めればぶっ殺されるのがバトルの世の中だ」

 

「それは解ってるからいいわよ、ボス。それよりも今回の試合、一体誰が出場するのかしら」

 

 ミクマリの言葉に頷き、集まっている連中を見る。全員、視線を此方へと向けて言葉に集中している。自分が試合に出る、出たいという意思を明確に感じる。センリの時はお互いにある程度調整という事で手を抜いている部分はあった。だからセンリの時とは違い、露骨に弱点を狙う様に選抜をする予定ではある。だから一旦言葉に間を置き、

 

「今回戦いに出すのはピカネキ、メルト、ミクマリ、氷花、”ナイトとツクヨミ”だ。前回のジム戦で選ばれなかった面子、なおかつ此方から弱点を狙える面子で行く。ナイトとツクヨミに関しては試合中で確かめたい所があるからの選出だ。ダビデとスティングには二回連続で出番をやれずにすまん、次の試合に期待しててくれ」

 

「ちゅらら」

 

「……」

 

 ダビデとスティングは特に残念そうな表情を浮かべる訳ではないが、出番を譲ってやる、という感じの雰囲気を仲間たちへと向けていた。それを受け、小さく笑みが零れる。レギュラー争いをしているのにドロドロとしないこの環境は中々居心地の良い場所だと思う。ポケモンにとって、そして自分にとっても。ともあれ、これで次の試合の選出するメンバーは決まった。明確に役割を与えるとこうなる、

 

 先発:ピカネキ

 受け:メルト

 サポートA:ミクマリ

 サポートB:氷花

 アドバイザー:ナイト

 両刀アタッカー:ツクヨミ

 

 若干火力不足に思えるかもしれないが、ピカネキが格闘技をタイプ一致で繰りだせる上にそれで弱点を突ける為、火力がかなり高いし、ツクヨミもツクヨミでかなり特殊なポケモンだ。弱体化した状態での数値はとって、ジムへと送って許可は取得してあるから問題はない。ミクマリはミロカロスとして優秀な水技を使えるし、氷花はそこにいて霰を発生させるだけでがんじょうを潰したりできるし、鬼火等をばらまけば火力の制限へと繋げられる。

 

「ツツジはもう知っているだろうが、岩タイプのジムリーダーで、ホウエンポケモンリーグを在校中に出場する事に成功した才女だ。タイプとしては天才型のトレーナーにありがちな頭のキレる指示タイプのトレーナー、特にこれ、といって目立った特徴がないように思えるが―――面倒なのは技の命中率を彼女が技量で支えている事だ」

 

 たとえばストーンエッジ、或いはワロスエッジ。

 

 あれの命中率を100%の状態まで彼女なら引き上げる事が出来る。

 

「ムラっけがある見たいだが、大体20~30%ぐらいは命中上げてくる―――つまりはじわれも6割で当たるって事なんだ!!」

 

「それ、制限されないの……?」

 

 ナチュラルの呟きはごもっともな話なのだが、異能や能力などではなく、純粋な技術と指示で命中率を上げているのだ―――つまり制限をするにしたって”指示禁止な!”程度にしか言えず、そうするとあまりにも制限が重すぎるため、どうにも出来ない領域的な話なのだ。

 

「これに関しちゃあどうしようもねぇ、何時も通り読んで、スカさせて、そしてぶっこんでくだけだ」

 

 ピカネキ:でんきだま

 メルト:オボンのみ

 ミクマリ:たべのこし

 氷花:ヨロギのみ

 ナイト:きあいのたすき

 ツクヨミ:ラムのみ

 

「定番と言っちゃあ定番だな。場合によっちゃあ居座ってでも妨害したいから氷花は一致弱点対策にヨロギを、ミクマリは除去や支援ばかりじゃなくて攻撃をする事も覚悟しておいてくれ。久々に6vs6で思いっきり戦う事になる」

 

 その言葉に吠える様な返答が返ってくる。結局、ポケモンバトルが好きなのは自分だけではない―――ここで自分の指示を待ってるポケモン達も、ポケモンバトルの世界で本気で戦う事に魂を燃やし、熱狂しているのだ。

 

 息を吐き、集まりを解散させ、そして窓の外へと視線を向ける。

 

 段々と暗くなって行くカナズミシティの姿が窓の外からは良く見えている。

 

「どうなんだろうなぁ……」

 

「んー?」

 

 呟きを拾ったツクヨミが体を寄せながら首を傾げてくる。だからいや、と言葉を置く。

 

「アルセウスは今、この世界を見てどう思ってんだろうな、なんてさ―――」

 

 とある物語の中で、現在の世界のあり方に疑問を抱いたアルセウスは世界を無へと帰そうとした事があった。未だ、そんな現象も予兆もないし、シント遺跡にそれらしいイベントの形跡はなかった。だけど、それでも、アルセウスはこの世界のどこかに存在して、見守っているのだ。

 

 今の世を見て、どう思っているのだろうか。

 

「実は試練中だったりして」

 

「ハハッ、まさかな―――ないよな……?」

 

 ホウエン地方の現状と遭遇するその未来を予測し、黒幕がアルセウスである可能性を思いつき、否定する。

 

 余計な事を考えるのは止めよう、明日はバトルが待っているのだから。




 ツクヨミ、合流。

Q.なんで許可でたん?
A.修羅勢「伝説と戦えるのに拒否するとか馬鹿じゃね」

Q.ナイトの描写少ねぇんだけど(半ギレ
A.次回に備えて映してねぇんだよ(半ギレ

 ツクヨミちゃんははっきんだまデフォ装備です。

 次回、カナズミジムでSANチェック☆

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