俺がポケモンマスター   作:てんぞー

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カナズミジム

 ―――意外とツツジ戦は実りのある戦いだった。

 

 いや、間違いなくツツジ自身は未熟だ―――あくまでもジムリーダーという範疇で考えれば戦えるのは事実だが、それでも理論の方が先立ってやや実戦不足という感じはあった。もっと格上と戦い、経験を積み重ねればその能力をもっと尖らせる事もできよう。だから彼女としても十分いい経験が出来た筈だと思っている。そしてこっちとしては長い間、試合に出す事の出来なかったツクヨミを出して、公式試合とはいかないが、それでも出す事で戦闘欲求やストレスを発散させることが出来た。

 

 ポケモンバトルは理論だけでも、実戦だけでも成り立たない。忘れられがちだがポケモンバトルとは()()なのだ。何も考えない馬鹿では勝てないし、考えるだけの頭でっかちでも勝てはしない。そういう意味ではツツジは若干後者に入る部類だったのかもしれないのだが、そこら辺はまだ若いという事でどうにでもなる。ともあれ、

 

 バトルが一回終わったところで、それで終了という訳でもない。

 

 そもそも一日フリーにとったのはじっくりとバトル、指導する時間が取れるようにする為だ。昔、自分がボスから戦い方を教わったように、フリーの時代に他のトレーナーから戦い方を覚えたように、今では自分が頂点という誰かに教える立場にある。チャンピオンである以上、勝負から逃げる事は出来ないし、敗北する事も許されない。それでもポケモン協会側の意向として優秀なポケモントレーナーを育成するべく、秘伝や奥義の類でなければガンガン教えて育てろとのことなので、

 

 そのまま、メタれる様に此方だけ面子を変える事無く三、四戦そのまま連戦に突入する。歩いて旅をし、トレーニングを欠かしていないこちらよりも先にツツジが体力的にダウンする。それで休憩に入る―――訳はなく、

 

 そのまま面子を変える事無く今度はジムトレーナー相手に連戦に入る。ツツジに続きそのまま全戦全勝し、それが終わったらポケモンたちにクールダウンの時間を与える為に講義の時間に入る。相変わらず便利に動くツクヨミがホワイトボードやらをやぶれたせかいから引っ張ってくる為、そこらへんの準備はかなり楽に終わり、そのままポケモンバトルに関する講義が開始される。

 

 ポケモンスクールでは基本的な戦術、バトルの知識、その応用等に入る。その為、一々どこをどうすればいい、そういう類の話はせず、そのままもっとディープな部分の話に入る。

 

 たとえば現在、ポケモンリーグで考案されている事など。

 

 

 

 

「―――フリーフィールド形式、ですか」

 

「今、一番ポケモン協会で話題になっている事だ。と言っても一部の役員、そしてチャンピオンたちの間で話し合っている事だけどな」

 

 ホワイトボードにマーカーを使って従来のバトルフィールドを描く。それは長方形の普通のフィールドの様になっており、両サイドにトレーナーが立つスペースを用意する、というものだ。これに対して、その横に新たなフィールドの絵を描く。長方形である事に変わりはない。しかし、フィールドは従来の物よりも二回りほど大きく、ポケモンの戦闘領域が拡大し、そして同時にそのエリアを囲うようにトレーナーのフィールドが用意されている。絵にすれば解りやすい。

 

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 この図を従来のポケモンバトルの構図とする。黒がトレーナーがポケモンに対して指示を繰り出すためのエリアであり、そして白がポケモンのバトルフィールドだとする。

 

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「―――これが今、話し合われている新しいポケモンバトルのフィールドの原型となっている。簡単な話、今までワンサイドからしか試合を見て、指示を繰り出すことが出来なかった一部のトレーナーや関係者の話を聞いた結果、ちょっとそこらへんを見直そう、という話になったんだ。片側からしか見れないとステロとかで相手トレーナーの視界を封じて戦う、なんて戦術もあるわけだしな」

 

 もっと細かい話をすると、ポケモン協会側の上の人間のお話だと()()()()()()()()()()()()()()という判断でもあった。ポケモンがあくまでも主役ではあるが、それらを指揮しているトレーナーにあまりにも動きがなく、そして視界を封じたりする地味な戦術を止めたり、もっと的確に指示を出すことが出来るようになる方法はないのか。それを考えた結果、

 

 トレーナー側にフリーフィールド方式、つまりは一か所ではなくフィールド周囲を自由に走り回りながら指示を繰り出せるようにすればいいのではないか、という話が上がってきたのだ。

 

「ちなみにこれはまだ結構構想というか相談の段階の話だが―――実現の可能性は結構高い」

 

「え、そうなんですか?」

 

 ツツジからの驚くような声がするので、それに頷いて返答する。ここにダイゴがいればもうちょっと説明が楽なのだが、アレはアレで忙しく、ここにはいない。残念に思いながら話を続ける。

 

「そもそもいつもの規制やレギュレーションの更新とは違って俺達(チャンピオン)が割と乗り気だからな、これ。今まで突っ立ってでしか指示を繰り出せなかったわけだが―――これが実現するとなると所謂痒い所に手が届く、って状態になる。特に指示能力が高いトレーナーとなってくると、狙って急所への一撃を叩き込める様になってくる。今までは見れる範囲が制限されてたからそれも制限されてたが―――」

 

「―――あ、なるほど。自由に周りを動けるとなると更に指示のキレを上げられるんですね」

 

「そういう事だ。実際野戦とか野良のバトルでこういうバトルフィールドが存在しない場合、自由に走り回ってバトルを観察、指示を出しているトレーナーが多いって調査でも出てるからな。まぁ、だからある意味本来の形に適応するっても言える訳だが……まぁ、そういう話があるのは解っていてくれ。そして新しいルールや形式を広める場合」

 

「最前線で広めるのがジムリーダーとチャンピオンになる、という事ですね。把握しました」

 

 まぁ、とそこに言葉を付け加える。

 

「そこまで気合いを入れる必要はない。公式戦やジム環境でしかバトルをしていないトレーナーなんていまどき存在しないだろうし、野戦経験があるならそれなりに動くことだってできるだろうしな……まぁ、ただこれからのバトルは今まで以上にトレーナーが体力を使うという事が確定しているだろうから、そこだけは気を付けておくべきかね……と、現在のポケモン協会、バトルの最前線の話はまだあるわけだが……興味あるか?」

 

 ジムリーダー、ジムトレーナー合わせて頷きが返ってくる。まぁ、確かにそこら辺は興味があるよなぁ、とは思う。だから現在、リーグや協会からホットな話題を引っ張り出してくる。

 

「なぁ、今のポケモンバトルの環境、どう思ってる?」

 

「どう、とは」

 

 ジムトレーナーの返答に抽象的で解りづらいよな、と言葉を置き、唾を飲み込んで軽く喉を潤す。そうだなぁ、と再び言葉を置いて話を続ける。

 

「ポケモン協会の一部の人間の間で今のポケモンバトルは一部に対して有利じゃないか、って話があるわけだ」

 

 その言葉に首を傾げられる。これに関して口を出しているのは本当に少数な為、理解できない方が普通だ。だから説明を始める。

 

「まぁ、そいつらによるとポケモンを強くする事に対するハードルが()()()()()()()()って事らしいんだな。レベル100を超えて101へのブレイクスルーが発生してから、徐々に100の制限というものが破られつつある―――」

 

 ポケモンとは不思議な生き物だ。とある場所で一匹のポケモンが進化を迎えた。今までそのポケモンには進化が存在しなかった。だがその一匹の進化の成功がまるで伝播したかのように、世界中で同じ種族のポケモンが進化することが出来る様になった。また、ポケモンの卵も最初の一つが発見されたとたん、一気に世界で確認できるようになった。

 

 元々は伝説種の特権だったレベル100超え、それを今では一部のトレーナーだけだが、普通に突破する様になった。その現状にポケモンが慣れ、そして適応しつつある。嫌いな言い方だが―――()()()()()()()()()()()と言える現象が始まりつつある。

 

「レベル100を超えるのが上位トレーナーにとって普通になって、そしてそこに更に特性や特殊能力を付随するとなると、環境的にそうやって育成する能力の高いトレーナーが圧倒的に有利になってしまう、って話さ。それは少々ずるい、というか育成を苦手とするトレーナーにとって不利なんじゃないか? あと環境的に色々と習得できる天賦や色違いばかりが優遇されすぎじゃないか、って事もな」

 

 はぁ、とツツジから返答が返ってくる。

 

「でも、そういう育成やポケモンとの出会いも含めてトレーナーとしての実力で、ポケモンバトルの一部なんじゃないでしょうか」

 

「俺もそう思ってる。だからこっちはさっきのと違って割とウケが悪い。不公平なのは当たり前の話だろうよ、って事でな。まぁ、こっちの方は割と不評だから実現する事はおそらくないだろうがな。実現するとなったらレギュレーションの大幅改定になるし、ポケモン協会が今更そんなめんどくさい事に手を出すとは思えないし、話半分に覚えておいた方が良い」

 

 まぁ、どこの組織も大きくなりすぎるとそういう風になってくるものだ。組織が肥大化すると末端の方まで神経が通わなくなってくる。そうならない様に指導者が絶大なカリスマで組織を維持する必要がある―――たとえばボスの様に。なんだかんだでポケモン協会は長寿な組織で、指導者は何度か交代している。今の会長は良い人物ではあるが、すべてを率いるカリスマ性を持った男ではない。残念ながら彼ではすべてを掌握する事は出来ないだろうとは思っている。

 

「解っているかもしれないけどポケモン協会の新レギュレーションやバトルの方向性を最前線で話し合い、テストし、広めるのは俺達リーグの関係者だからな。草案が組みあがったらジムの方にも話は間違いなく来る。トレーナーを鍛え、指摘し、ポケモンバトルするだけじゃなくて環境を把握し、そしてしっかりと時勢を見極めるのもリーグの関係者、ジムリーダーやジムトレーナーとしての仕事だから、そこら辺はちゃんと意識しておけよ……オーケイ?」

 

 はい、と勢いのよい返事が返ってくる。講義に参加している全体を見渡せば、トレーナーの年齢が全体的に低い事が解る。ヤナギ等の高齢のジムリーダーは減り、今やジムリーダーの大半は十代後半、或いは二十代前半となっている。高齢のポケモントレーナーは大体リーグ級、四天王級ぐらいとなってきてしまった。

 

 世代交代という訳ではないが、近年の若いトレーナーの勢いというものはどうもすさまじく感じる。

 

 しかしそれはそれで不安を覚えるものだ。ホウエンリーグからベテランを数人派遣できないものか、そんなことを考えながら軽く息を吐き出して、それは自分ではなくホウエンリーグのチャンピオンの、ダイゴの仕事であると思い出す。

 

「ま、今日はこれぐらいでいいだろ。まだカナズミには残っているから育成と調整の問題でちょくちょく顔を出しに来る。興味があったり聞きたい事があるなら遠慮なく頼れ、大人はその為にいるんだしな。じゃあ解散! お兄さんは喋り疲れたから飲み物でも貰ってくるわ」

 

 お疲れ様でした、と声が聞こえるのに対して片手を上げてお疲れ、と返しつつ教室に背を向けて外へと向かって歩き出す。リーグのチャンピオンとして指導の義務があるとは言え、誰かに教えるのって自分の柄でもないんだよなぁ、ボス、等と軽く胸中の中で呟きつつ今夜はどうやって時間を過ごすかなどを考えていると、

 

「―――あの」

 

 背後から声がかかってくる。振り返れば若いジムリーダーの、ツツジの姿があった。

 

「本日は貴重な経験を本当にありがとうございました。それでお礼と言うわけではないんですが……」

 

 そこでツツジは一瞬だけ言い淀む。

 

「こ、今夜、私の家で晩御飯とかどうでしょうか!」

 

「既婚者のお兄さんをお持ち帰りしようとはこの娘、デキるな」

 

「な、なな、ち、違います! 違いますから!」

 

 顔を赤くして否定するツツジの若々しい仕草に笑い声を零しながら、了承する。相当恥ずかしかったのか、そのまま駆けてどこかへと去って行くツツジの姿を見送ってから小さく息を吐く。

 

「……家のメシかぁ……久しぶりだなぁ……」

 

 ホウエン―――随分と遠い所へと来たものだ。今は遠い自宅を思い浮かべながらそうつぶやいた。




 久々の更新なので慣らしの1話。フィールド関係がもうちょっと自由になりますよ、というお話。まぁ、ポケモンバトルは競技みたいなものだからね。たぶんコンマイ語のカードゲーム程じゃないけどそれなりにレギュレーションの変更とか禁止制限とか入れ替わってるんじゃないかな……。

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