俺がポケモンマスター   作:てんぞー

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さよならカナズミ

「―――これでしばらく文明とさよならバイバイ……だと思うとちぃと寂しくなってくるな」

 

 ホテルを背にしながら軽く被っている帽子を脱ぎ、首を回してから再び帽子を被りなおす。振り返れば片手にキャリーバッグを引きずるナチュラルの姿が見える。その更に後方では浮かび上がる二匹のポケモンの姿―――即ちムウマとギターロトムの二匹がいる。当たり前の話だが、二匹とも普通にスカウトに成功しただけの話だ。

 

 まぁ―――多少汚くはあるが。

 

 境遇、経験、状況さえ理解していればあとは目の前に餌をぶら下げ、それにひっかけるだけの作業である。つまりやっている事は釣りと同じような事だ。まぁ、多少下衆であることは認めなくてはならないが、それでも欲しい、と思ったポケモンはどうしても手に入れたい……そういう事もあるのだ。それに洗脳や無理やり従わせているポケモンに関してはセキエイの方からチェックが入って解放されてしまう。

 

 ―――ポケモンバトルは上位になればなるほど()()()()()()()

 

 簡単な話、最近の最上位クラスの大会となってくると()()()の金があっさりと動く。基本的にポケモン協会はそこまで金にガメツイわけではないが、そこにスポンサーなどで参加する企業などに関しては非常に良い宣伝になる―――我が社はこういう力のあるトレーナーを持っているぞ、と。そういう事もあってポケモントレーナーのイメージとは非常に重要になってくる。企業の看板を背負う場合は負けてもいいから統一パ、コンセプトを決めたパーティー、そんな風に期待される。

 

 まぁ、つまりチャンピオンになって色々と抹消され、過去をクリーンにされてしまったわけでも―――調子に乗ったらカモすぞ、というのがセキエイの判断なわけで、完全なフリーハンドが自分に存在するわけではない。まぁ、それでも意地悪や悪戯、少し下衆なぐらいであれば問題はないが、昔やっていたように問答無用で殺す様な手段をとっていれば、資質に問題アリと判断されて排除されてしまうだろう。

 

 ともあれ、トレーナーのイメージとは重要な話だ。

 

 まず第一にビジネスとしてクリーンなイメージを持たせたい為、というのもあるのだがスカウトに応えて活躍するポケモンとは高いモチベーションへとそのまま繋がる。解りやすい話、内容が違うだけでやっている事はサッカー等のスポーツのプロリーグとそう変わらないのだ。

 

 と、いう訳で、

 

 ムウマとギターロトムの思考力を少々鈍らせて、話に乗せ、スカウトに成功するという所までは通した―――と言ってもこの程度、一週間もすれば簡単に解けてしまうものだ。だから重要なのはそこまでと、そしてそこからをどこまで()せる事が出来るかにかかっている。まぁ、言い方は悪いが、

 

 騙される方が悪い。乗せられる方が悪い。

 

 これぐらいは誰だってやっている―――たぶん。まぁ、つまりあまり酷すぎるスカウトが出来ないというのは事実だ。だから騙されている内に”このパーティーに所属したい”と思わせることが出来ればそれで勝利だ。

 

 

 そこらへん、絶対についてくるとは確信している為、心配など欠片もないのだが。

 

 ともあれ、漸くとも言うべきか、もうと言うべきなのか、カナズミシティを出る事となってしまった。本来はもう少しカナズミシティに滞在しておく予定だったが、謎の襲撃者の事を考えると速やかに情報収集をするべきだと判断してしまう。そういう事もあり、

 

「相変わらず空路は使わんが、ちょっとペース上げて115番道路を抜けて流星の滝へと向ける。ジョウトからモビーを送ってもらったし、今回はこいつで水辺を抜けて進む。少しだけ急ぐから休む回数は減るけど……大丈夫か?」

 

「こう見えて僕もだいぶ旅慣れてきているし、心配されるほどじゃないよ」

 

 視線をナチュラルからムウマ&ロトムへと向ける。視線を受け取った二匹は、ムウマがギターロトムをその小さい手で抱える様に構え、そして念力を使ってギタープレイで激しい音を慣らし、その元気さをアピールしてくる。ムウマといえばよなきポケモンな筈なのだが、このムウマはなんというか妙に元気というか、ロックなソウルを感じる。ニックネームをそっちの方向で考えておくか。

 

 そんな事を思いながら、ホテルに背を向けて歩き出す。

 

 新しく買い換えたコートに宝物のボルサリーノ帽をかぶり、腰のボールベルトには既に手持ちのポケモンと、新しくジョウトから呼び寄せたモビー・ディックのボールが装着されている。軽く手を伸ばし、そして触れれば手になじむようにしっくりとくる。何度も繰り返し、そして練習してきた動作だ。息をする様にポケモンを繰り出すことが出来る。圧縮保存で色んなお土産や食料、道具は用意したし、わざマシンも万が一の場合に備えてデパートで購入してきた。

 

 もう少しゆっくりしたかったが―――残る必要性はない。

 

「さて、行こうか、遅れるなよ」

 

「うん」

 

 ギターの音を聞きながらカナズミの大通りを北へ―――115番道路へと向けて歩いて行く。時間は割と朝早く、人通りが少ない。が、さすが都会だけあってそれでも出勤する人やトレーナーズスクールへと向かう姿をチラホラと見かける。その中でも一番多いのがデボンコーポレーションの社員である辺り、地元の大企業という感じを強く受ける。時折此方へと向けられる視線はやはり正体がばれてるのか、或いはただ単に姿に興味が湧いたからだろうか―――まぁ、どっちでもいい話だ。

 

 かなりの規模を保有するカナズミシティ、街を抜けるだけでも徒歩だとそれなりに時間を必要とするのだが、それでもトレーナーの基本は陸路だ。それにナチュラルがいる以上、バイクやスクーターで進むというのもあまり賢くはない。115番道路には水路もあるし、やはり徒歩が一番安定する。

 

 そんな事を考え、着々と街の外へと向かって歩いていると、

 

「―――どけ、どけー!」

 

 怒鳴りながら迫ってくる声が聞こえてくる。振り返りながら横へと体を滑らせれば、荷物を抱えて赤い姿が走って駆け抜けて行くのを目撃し、それを追いかける様に白帽子の少年が必死にその姿を追いかけて行くのが見える。その姿を数秒間だけ眺めていると、いつの間にか小さな笑い声を零している自分の姿に気づいた。

 

「アレ……止めないの?」

 

「別に……俺、救いの神でもご都合主義の化身でもないし―――」

 

 ホウエン地方の冒険におけるタイトルの名を冠する少年であればそこらへん、自分一人でどうにかしてしまうだろう。そんな事よりも自分は、そういう連中ではどうしようもない裏の部分を―――自分が存在している事でズレてしまった部分をどうにかしなくてはならない。それは完全にやると決めた、自分の責任だ。

 

「さ、行くぞ。予定は詰まってるんだ」

 

「はいはい……結局、あまりゆっくりはできなかったなぁ……」

 

「ミナモでまた大きなホテルをとるからそれで許してくれよ」

 

「ホウエンの反対側なんだよなぁ、そこ……」

 

 もうすでに疲れたような溜息を吐き出しているナチュラルのことは無視しつつ、そのまままっすぐ、既にシナリオが始まっているという事を意識しながら足を街の外へと向ける―――ルビー少年がカナズミにいるのは序盤の序盤だ。だがそれでも全体の物語が動き出した、という事でもある。多く見積もって残された期間は―――半年ほどだろう。

 

 時間は、あまり―――残されていない。

 

 

 

 

 115番道路はトレーナーがホウエンめぐりをする上では通る必要のない道とされている。

 

 その最大の理由はホウエン最北の辺境の街、ハジツゲタウンにジムが存在していないという所にある。ハジツゲタウンにはコンテスト会場が確かに存在するが、それ以外はさして重要な施設が存在しない。ジョウトにいる間、ポケモンリーグの要請で少しだけ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()弟子の様な存在がいるが、それを抜けば本当に何もない場所である。

 

 その為、コンテストに用事のある者以外はあまりハジツゲタウンには近寄らず、そして水道と流星の滝という二か所を抜けなきゃいけない必要があるため、交通の不便から非常に人気の無い道だったりする。それが災いして115番道路の道路とは割と名前だけだったりする。

 

 つまりは開発が進んでいない。水路を挟んでその先に滝があるから当然と言えば当然なのかもしれない。

 

 そのおかげで歩みは少し辛い。木々や草むら、そして整備されていない足場がさっそく前に立ちはだかってくる。キャリーバッグを引きずるには適さない道路が出たことにナチュラルがゲンナリし始めたので、ねんりきで荷物を運べるムウマにそこは任せ、ナチュラルを労働から解放し、そのまま前へと向かって進んで行く。

 

 とはいえ、いま出しているポケモンはムウマとギターロトムになる―――この二匹のレベルはそう高くはない。

 

 つまり、このあたりのポケモンに対して危機感を与えるほどにはならない。それに開発されていない自然の中にこそ多くのポケモンは潜む。

 

 115番道路に入り込んでから一時間ほどで、草むらの中からポケモンが飛び出してくる。飛び出してくるのは青い体にふわふわと雲の様な翼を生やしたポケモン―――チルットの群れだった。まとまった、五匹の集団で出現したチルットはムウマとロトムへと視線を向け、やる気に満ちた姿を見せている。これは丁度良い、と口に出す事無く呟く。能力や得意な事を確かめるには悪くはない相手だ―――努力値の類は育成で振り分ける、振り替える事だって可能だし、問題はない。

 

「ムウマ、ロトム……行けるな?」

 

「……! ……!」

 

 ギュィィン、とロトムの体を鳴らしてムウマが問題ないとアピールする。まぁ、スカウトはアレだったが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。これは特に余計な事をしなくてもいいかもしれない。

 

『まぁ、いざというときはこっちからもサポートを入れるから大丈夫だ。俺がパーティーに参加している時点で種族値に強化入るしな。レベル以上の戦闘力を見せてくれるはずだから……まぁ、五対一? 二? でも大丈夫だろう』

 

 こういう時、ナイトの存在は本当にありがたい。結局のところ、フィールドで判断を下すのはトレーナーの仕事なんだが、それに対してアドバイスを入れられる存在は現状、いない。それを分担できるナイトのポジションのフルバックを生み出したのはおそらく俺が初めてだろう。だがその有用性は既に証明されている。ポケモンを鍛えるうえで発生する自身の強化、それをナイトはキャパシティ上限まで一緒に戦闘に参加するパーティーへと支援、振り分けるという風に利用している。

 

 受けから転向するといった時は驚いたが、こうなると不動のポジションを確保したとも言える。

 

「待たせたな―――んじゃ、肩慣らしに初バトルだギタリストめ」

 

「……!」

 

 ナチュラルと自分を飛び越える様に前に出るムウマたちに合わせて後ろへとバックステップをとり、そしてチルットの群れが戦闘開始の気配に攻撃を開始し始めるムウマの行動に割り込むように一斉に歌い出し、その音で―――りんしょうで先制攻撃を放ってくる。それに対してギターを前に出すようにムウマが構える。ギターロトムのタイプは電気・鋼の複合タイプであり、ノーマル技であるりんしょうに対しては受けが良い。それを理解してやっているのだろうか、一瞬だけそう思った直後、

 

 命令もなしにムウマがギターロトムを鳴らし始めた。

 

ロ ッ ク ユ ー!(ほろびのうた)

 

 りんしょうに対抗心を燃やしたムウマが最大音量、範囲を一切気にせず、全力でほろびのうた―――いや、ギターを鳴らしてロトムと共にやっているのだから、或いは”ほろびのメロディー”とも言うべき物を鳴り響かせていた。その爆音でりんしょうを掻き消しながら115番道路にはた迷惑な騒音テロをかまし、超気持ちがよさそうに目を瞑ってシャウトまで入れている。

 

 それを聞いた瞬間、チルットが全力で背を向けて逃げた。

 

『偉くロックな奴だな……』

 

『ロックを超えてテロじゃないかしらこれ』

 

『ピカネキと同じような気配を感じる……』

 

ゴリィ(あ゛ぁ゛)……?』

 

「いや、お前はそこにライバル意識を感じるなよ。ネタじゃなくてバトルの方で頑張れよお前」

 

 ムウマとロトムへと視線を向ける。既にそこにチルットの姿はない。しかし、自由にギターを鳴らしてソロライブが出来るのが楽しいのか、チルットがいなくなってもワンマンライブは続いている。というかこの一帯のオーディエンスが騒音とほろびのうたテロで死滅しそうなのでどうにかして止めないとならない。こういう時、一番頼りになるナチュラルは開幕ロックなショックで倒れて使い物にならない。

 

 だけど、うん、

 

「こういう変な奴は妙に相性いいよな、俺……まぁいいや。ナタク、制圧」

 

「拝承しました」

 

 モンスターボールからナタクを繰り出し、地上五連コンボから空中十連コンボに入ってムウマとロトムに容赦なくお仕置きを叩き込むナタクを眺めつつ、この旅は、

 

 いろんな意味で騒がしく、普通にならないだろうなぁ、と確信せざるを得なかった。




 という訳でギターフリーク、或いはロックソウル、そんな感じのムウマをゲットでした。今日からほろびのうたテロで君もライブだ!! ピカネキに続くいろんな意味でのテロ要員。チャンピオンのクセしてこいつなんでテロるポケモンばっかりなんだ。

 あとちょっと表記テストで強調したい言葉を中央に表示させる感じで。というかポケモン実機で遊ぶ場合「きゅうしょに あたった!」みたいな一部強調される感じを演出したいけど、そこに困っている感じ。

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