俺がポケモンマスター   作:てんぞー

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vsシガナ A

 ―――伝承者シガナ。

 

 その名には覚えがある。

 

 伝承者ヒガナの前に伝承者を務めていた人物であり、ヒガナが可愛がっているゴニョニョのニックネームでもある。彼女の存在は長らく不明であり、公式―――つまりは任天堂から詳細な設定の発表もなく、憶測のみを残される人物であった。ここで己が立てた予測とはシガナの死亡説だった。死亡したからこそ伝承者の立場はシガナからヒガナへと継承されたのだ、と。しかし、今、長老の隣に立っているのは健康的に見える女の……シガナの姿だった。そうなると彼女は死んだわけではないし、

 

 或いはまた彼女も今までの登場人物たちの様に、シナリオから逸脱してしまった存在なのかもしれない。ただ重要なのは彼女が今、伝承者としてそこに立っているという事であり、そして戦意を見せる様に覇気を纏っていた事だ。先ほどの男達とは比べ物にならないほど強いとは直感的に理解できることだった。おそらくは四天王レベルはあるだろう、と予測をつける。そして彼女が伝承者である以上、

 

 誰よりも彼女を納得させなくてはならない。

 

 シガナと長老を見上げ、そして答える。

 

「―――すいません、ちょっとタイムお願いします」

 

「……」

 

 シガナと長老が視線を合わせ、無言で頷き、そして視線を返してくる。

 

「あ、どうぞ」

 

「ありがとうございます。それでは―――作戦タァァァァァイッム!!!」

 

 振り返り、ナチュラルと肩を組み、そのままシガナ達に背を向ける様にしゃがんで、頭を寄せ合って話し始める。

 

「おい、これどうするんだよ。あいつが伝承者って俺ちょっと知らなかったんだよ」

 

「それを僕に言ってどうするんだよ。僕には洗脳と覚醒と会話しか出来ないよ!」

 

「それでも十分すげぇだろう。いや、ほら、お前のこうナチュパワー! みたいな感じで能力を感知だとかなぁ……」

 

「君は僕の事を少し便利に考えすぎてない……? 僕も一応人間なんだからね……?」

 

 そこで一応と入れて来る辺り、本当に自分が人間かどうかを疑っている。その気持ちは良く解る。偶にはかいこうせんを受けて生き残ってる人間を見るとお前マサラ人? て言いたくなる事は自分にも多々ある。しかしポケモンの育成に携わっているとそこそこ見る光景だからやはりこの世界、基礎のスペックでどっかぶっ壊れているところがあると思う。ともあれ、重要なところはそんなところではない。大事なのはこれからだ。

 

 シガナを納得させないといけない。

 

 それもポケモンバトルで。

 

「―――さっきみたいにただ勝てばいいって訳じゃないだろうな」

 

「たぶん性格とか性質とか、君の邪悪な根本的な部分を見たいんじゃないかな。見られた結果納得させられない事に一票」

 

「貴様、ピカネキの横で眠らせるぞ」

 

「僕も天に帰る時が来たんだね……」

 

 あきらめの早すぎるナチュラルを現実に引っ張り戻しながらさて、と言葉を置く。軽い茶番でお互いに頭は温まった。ここから真面目に考える時間だ。ふぅ、と軽く息を吐きながら後ろで警戒してくれているスティングに軽く視線を向け、すぐにこちらへと視線を戻す。

 

「―――まぁ、()()()()()()()()()使()()だろう。感じる威圧感、気配がワタルに似てる」

 

「うん。それに関しては確定してもいいかも。ボールの中から感じるよ……竜特有の強い生命力の気配が。だから間違いなくドラゴンのトモダチで戦ってくると思うよ」

 

 ナチュラルの言葉に良し、と頷きながら頭を上げ、そして首だけ動かして振り返る。

 

「ルール! ルール!」

 

「あ、3vs3、道具は一つまで、トレーナーへの攻撃はなしで」

 

「はーい、ありがとうございますタイム続行だオラァ!! ついでに選出タイムもな!」

 

 ドラパ―――つまりはドラゴンポケモン統一パーティー。弱点は氷、フェアリー、そして同じくドラゴン。メタを張るならフェアリーを一体入れるだけでほぼ機能停止に追い込めるだろう。ただ、属性統一パに良くある話だが、メタ対策はこういうパーティーこそ完成度が高かったりする。だから安易にフェアリー等を投入しようとすれば、逆に狩られるだろう―――元々手持ちにフェアリーはいないのだが。

 

「とりあえず真面目な話をするとさっきのバトルで出したトモダチは疲れているし、見られているから出せないよ」

 

 ナチュラルがそう言う。その言葉は正しい。ダビデとミクマリは未だに瀕死状態、スティングもまだ戦えるが、手の内が見られている以上出す事は止めた方がいいだろう。しかしナチュラルがまるで助手みたいな発言をすることには違和感を覚える。今まで審判はすることがあっても、ここまで積極的に関わる事は見たことがないからだ。まぁ、モチベーションが高いのは決して悪い事ではない。変な茶々を入れるのはやめておこう。

 

「となると残った面子での選出だな……相手がドラゴンで来る事を考えると弱点で攻められる技の持ち主が欲しい所だけど―――安直には行きたくないな。……うっし、vsシガナ戦の面子発表へと移ろうか」

 

 サックリと自分の中で対シガナに対して出す面子を決定する。

 

「偉く早いね?」

 

「まぁ、選択肢はそう多くはないからな」

 

 現在連れているポケモンは全部で十三体になる。この内ピカネキ、黒尾、ロトムウマはレベル等が原因で出す事が出来ない。そして更に三体、スティングとミクマリとダビデが二戦目故に出すことが出来ない。更にモビー・ディックは厳密には戦闘用のポケモンではない。その為、自然と候補から外れる。そうなってくると選択肢から除外されるポケモンは全部で七体、残りの六体が候補になってくる。

 

 そして3vs3の環境だと理想編成はアタッカー2、受け1。もしくはアタッカー1、アシスト1、受け1になる。先ほどの戦闘は先発のダビデがアシスト、ミクマリが受けの要員として活躍していた。だがドラゴンポケモンとの対決を考えると体力値の低いポケモンを出すべきではない、彼らの種族値の暴力は理不尽なものがある。アシストを回す余裕はおそらくはないだろう。となると編成はアタッカー2、受け1となる。

 

 この場合残された受け要員はメルトのみとなる。故にメルトが確定枠その1。

 

 そして必然的に残されたアタッカーはカノン、ナタク、ツクヨミとなる。まずツクヨミはトラウマを残しかねないので今回は自粛する。そうすると面子は自然と決まる。

 

「センリ戦から黒尾を抜いた面子、だね?」

 

「あぁ、さすがにドラゴン相手で3vs3だと選択肢が少なすぎるんだよなぁ……」

 

 ナチュラルの言葉に頷く。瞬間、虚空が割れてツクヨミが文句を言いに来たが即座にカウンターをスティングが叩き込み、黙らせたために被害は出なかった。相変わらず自重しない伝説だよなぁ、なんてことを思いつつメンバーの選出を完了させ、そして持たせるもちものを決定する。こちらも特に悩む必要はない。

 

先発:カノン……きあいのタスキ

受け:メルト……オボンの実

アタッカー:ナタク……おうじゃのしるし

 

 カノンは先制されて事故が起きた場合の対策としてきあいのタスキを装備、メルトは基本的にオボンの実を持たせるのが最善の性能をしている為、メタを張らない限りはオボンの実かレッドカードの二択だろう。育成によって受けてボールへと戻る事も前よりもスムーズにできるようになったため、脱出装置も不要になった。そして―――ナタクだ。

 

 彼女に関してはナチュラルがいるおかげで試せる事がある。その為、持ち物をいのちのたまにするかどうかで悩んだが、結果としておうじゃのしるしを起用する。これが通常のエリートトレーナーだったら一落ちもせずに3タテ出来る面子だとは思うのだが、正直な話、シガナの人間性も能力も、その背景が一切見えてこないのが恐ろしい。

 

 なんだかんだで強敵とのバトルは()()()調()()()()()()()()()()()()だった。その為、ある程度対策と戦術を組むことが出来た。しかし今回、シガナに対してはそれを行うことが出来ないのが怖い。

 

「ま、いつも通り戦って―――勝つか」

 

「大丈夫、足りない所は僕が補う。戦わなくてもやりようはあるさ」

 

 言葉と共にスクラムを解除してシガナ達の方へと向き直る。シガナは一歩前へと進み出ており、長老の斜め前に立っていた。その立ち位置はまるで自分とナチュラルの立ち位置の様であり、あの長老もまた、戦闘中に何らかの方法でシガナを支援するつもりであるというのは目に見えていた。シガナは此方へとまっすぐな、曇りのない綺麗な碧い瞳を向けていた。

 

「準備は終わったようですね」

 

「あぁ、待たせたな」

 

 そうですね、とシガナが言葉を置く。

 

「身分を隠して観察させていただいた事、申し訳ありません。ですが私も貴方もトレーナー―――千の言葉で飾るよりも一回の勝負を通してお互い、その心の底まで曝け出せるでしょう。セキエイの王者(チャンピオン)よ、侮るつもりはありません」

 

 ボールを握る。心臓が跳ねる。血液が血管の中で熱く滾り、そして()()という感覚があった。覚えている。この感覚は強敵と戦う時に感じる熱狂だ。その前兆が背筋を這いあがる様にやってきていた。自然と唇の端が吊り上がって行き、それを止める事が出来ない。まぁ、でも、悪くはないだろう―――だって、ポケモンバトルって、

 

 楽しいじゃないか。

 

 蹂躙するのも、されるのも、苦戦するのも、逆境に陥るのも、それを跳ね返すのも、逆転されるのも。その為の準備も、考える時間も、全部、全部―――全部、楽しいのだから。だからそう、強敵の予感に笑ってしまってもしょうがないのだ。

 

『仕方のない人ですね……』

 

『あら、でも好きな事で純粋に笑えるってのは素敵じゃないかしら?』

 

「時と場合って言葉があると僕は思うけどね」

 

 ポケモン達とナチュラルの言葉に小さく笑い声を零し、息を吐き、

 

 ―――シガナを見た。ボールを見える様に持ち上げ、右半身を前に、銃を構える様にボールを構える。それに合わせる様にシガナがモンスターボールを前へと向かって突き出す。

 

 開始の合図は必要なかった。互いに構えれば、もうその瞬間からバトルは開始される。

 

 ボールのセンタースイッチを押し込むのは同時だった。ボールから放たれたカノンは登場と共に天候への干渉を開始する。そしてそれに合わせる様にシガナのモンスターボールから繰り出されたポケモンが、原生種のクリムガンがエネルギーを纏い始めるのが見える。天が移り変わる。空の色は急速に黒へと変わって行き、満点の星空―――天候”ほしぞら”へと場を変更させる。それが完了し、カノンが乾いたフィールドの大地へと着地し、

 

 ―――クリムガンのエネルギーが爆発した。

 

B R E A K !

 

 メガシンカを果たす事のないポケモン、進化をするはずのないポケモン―――それが限界を突破(ブレイク)して進化する金色に輝くメガシンカを行えないポケモンの最終進化、限界突破方法。自分もまだ成功せず、そして理論のみである為に再現に苦労している進化、

 

 ―――BREAK進化を実現させたクリムガンがそこにはいた。

 

 金色に輝くその体こそまさにBREAK進化によって種族に定められた限界を突破した証だった。だがそれで終わる事はなかった。未だにエネルギーは集束を続けていた。刹那の思考、カノンかクリムガン、どちらの速度が相手を追い抜くか。先制の奪い合いが発生する。

 

「見て、感じ、そして覚えなさい―――これが―――」

 

 謎の乱気流が発生する。ほしぞらを破るほどの威力はないが、それが風を束ね、混ぜ上げ、そして破壊へと変貌させる。その力はシガナから溢れ出し、クリムガンへと注がれ、クリムガンがBREAK進化によって発生させたエネルギーと混じり合う。

 

「―――奥義、ガリョウテンセイです……!」

 

 ガリョウテンセイ、空の奥義が放たれた。伝説種レックウザが放つべきその奥義は大幅にダウングレードされているが、再現ではなく直系の継承者によってポケモンに一時的に付与され、発揮される()()()()()であるが故に回避の概念は当然発生せず、

 

 最強クラスの異能能力者の保有する奥義、その波動が異能を持たぬ存在を優先度をぶち抜いた―――発生した奥義が岩場を粉々に粉砕しながらカノンから先制の可能性を完全に奪い去り、

 

 たやすくタスキを消し飛ばした。




 シガナちゃんが化け物能力者という事でガリョウテンセイに優先度+2、そして威力が180になりました。なに? レックウザが使えばどうなるのか? 一発で街が消し飛ぶ。伝説とはそういう生き物なんじゃ……。

 そしてBREAK進化初登場。ポケモンカードでメガシンカを持たぬポケモンの進化方法として登場、BREAK状態になると黄金に輝くという特徴があり、チート化する。なおBREAKゼルネアスなるバケモンが存在する為メガ非対応の伝説もBREAK出来る模様(震え声

本日の選手紹介
カノン 
 特異個体ウルガモス亜人種。天候を自由に変え、それにタイプが変化する。いつも出番を欲しがっていてアピールしている上にハイテンションで一部からウザがられている。若干アイドル意識がある為にこっそり歌の練習をしている。ロトムウマバンドにボーカルとして自分を売込み中。

ナチュラルくん
 最近ますます便利になって軽くポケモン協会に報告したら「え、お前ピンチになったらポケモンを有利な方向へ覚醒させるの? こわっ」という当然のリアクションで公式戦出場禁止という、赤帽子ですら成せなかった出場せずに出禁と言う快挙を果たした。天才で頭は良く回るけど最近はバカになる方を選んだ。

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