俺がポケモンマスター   作:てんぞー

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vsシガナ B

 タスキが乱気流に飲まれて消えた。

 

 クリムガンを通して発動したシガナのガリョウテンセイはフィールドをえぐる様に文字通り蹂躙した。その証拠として岩は砕け、そしてその余波を回避するためにナチュラルを片腕で抱えながら自分も跳躍する必要があった。その結果として、データ化されていたはずのきあいのタスキが実体化し、ぼろぼろにちぎれながら宙に舞った。それが視界の外へと消えて行くのを追わない。

 

 バトルはまだ続いているのだから。

 

「ギリギリねぇ―――」

 

 ―――カノンの姿は健在だった。その姿はボロボロであり、服も大きく破けている。文句を言いそうな格好をしているカノンはしかし、自身についた傷跡を軽く抉り、そこから吹き出した血を紅の代わりに唇に塗り、更に飾りながら踊る様に動き、笑みを浮かべた。

 

「とっても激しいタイプなのね! でも駄目よ……私、身持ちが硬いの。アイドルに触れてはいけないって習わなかったかしら?」

 

 楽しそうに笑い声を零すカノンの姿にBREAKクリムガンとシガナの動きが完全に停止する。信じられないものを見る様な視線を向ける。確かに、ウルガモスの耐久力であのガリョウテンセイを受け止めるのは不可能だ。きあいのタスキの容量を遥かに超える一撃、これが公式戦であれば耐えれたかもしれないが、こういう野良試合では無理だ。だからカノンは落ちる筈だった。

 

 ネタの種は二つある。

 

 ほしぞらによって変更できるタイプは竜、もしくは鋼である為に耐性の高い鋼を選択した事。

 

 ―――そしてギリギリで反応したナチュラルがカノンの能力を一瞬だけ覚醒させ、守らせた事。

 

「喜べ、ボーナスもんの動きだぜ今のはよ……!」

 

「ボーナスとかいいから待遇の改善を要求するよ!」

 

 考えておくと、カノンに合わせる様に狂笑を響かせながらカノンを動かした。既に天候は変化してある。場の掌握は完了している故に、必要以上に欲を掻く必要はない。何よりガリョウテンセイを受ける事は不可能だ。連射可能だった場合、限りなく最悪の状況が待っている。故にほしぞらに浮かぶ星の光がまた一つ消えるのに合わせ、カノンをボールの中へと戻し、

 

「回すぞメルト!」

 

 素早くメルトを繰り出す。こちらの動きで正気に戻ったシガナが言葉を超えて指示を繰り出す。通常のクリムガンの反応速度を容易に上回るBREAK状態はもはや黄金の残像のみを残し、一気にメルトへと接近する。鍛えられた動体視力でその爪が赤熱化しているのを看破し、放たれる技がドラゴンクローであるのを見る。呼吸をメルトに合わせ、指示を叩き込む。

 

 横から、その巨体を大地に固定する様に体を固めてロックし、繰り出されたドラゴンクローを受けて、そして止めた。その接触によってぬめぬめがBREAKクリムガンのもちものを破壊し、数瞬後に発生させた反動によってメルトが()()()()()()()。ちょうど、ボールの中へと戻ってくるようにメルトが帰還する。

 

 ボールをスナップさせ、入れ替え、素早くポケモンを繰り出す。ドラゴンクロー程度ではBREAK状態とはいえ、メルトを止められない。何より今のドラゴンクローを見て確信した―――ガリョウテンセイは連続で放てる技ではない。おそらく繰り出す事に何らかの特殊な条件を持っている。そのルールを守るからこそおそらくあの180、或いは200クラスの威力を発揮しているのだろう。

 

 頭上で星がまた新たに煌めく。

 

「どんなに硬くとも刃は通る―――ナタク!」

 

 フィールドに天候と交代とバトンによる能力強化の恩恵を得たナタクが着地する。そのまま間髪入れず、前へと飛び出すように両手を広げ、叩く。登場からの最速のねこだましにBREAKクリムガンが怯み、動きが停止する。その怯みに行動を追加する様に入り込んだナタクが接近、クリムガンを掴み、ともえなげでシガナの後方へとその黄金の巨体を投げ飛ばした。強制的に交代を促す技であるともえなげの強制力により、クリムガンが強制的にボールの中へと戻らされて行く。

 

「二回とも拳が傷つきませんでした……そうなると特性はちからづくかかたやぶりどちらかとなりますね……私も次へと繋げます。今回ねこだましが重要な武器になりそうですし」

 

 投げ飛ばした反動を利用し、ナタクが流れる様な動きでボールの中へと戻ってくる。フィールドからはすべてのポケモンが消失し、新たなボールを握るシガナ、そしてこちらの姿がある。シガナがガリョウテンセイと言う切り札を保有する限り、此方は常に警戒してどこかでメルトを繰り出す必要がある。もしくはナタクへと交代し、ねこだましで妨害しながら強制交代で出先を挫く必要がある。

 

 だがねこだましは使えるタイミングが限られている―――つまりナタクを出すタイミングを間違えれば逆に繰り出した後を狩られるという事だ。

 

 面倒な相手だ。

 

 だが強い相手だ―――実に、楽しくなってきた。

 

 笑みを浮かべながらボールを手に取る。力を発揮したいとその中から主張してくる意志を強く感じる。ならば良い―――それを許そう。それを飲み込んで統率するのがトレーナーという存在なのだから。その欲望、どこまで業が深くても自分が受け入れ、そして飲み干そう。自分についてくるような奇特な連中は全霊で率いて見せる。

 

「それだけやる気があるなら十分だ。やる気だけでも、そして育てるだけでも発揮できない眠っている君の能力、才能。その一歩先へと進みたいというのなら僕が引き出す―――!」

 

 モンスターボールを握り、繰り出す態勢に入る。シガナもシガナでボールを新しく握る姿が見えている。ポケモンを繰り出すのは同時になるだろうとは思える。ならば此方から先制すればいい、それだけの事なのだ。ボールが割れ、光がその中から弾ける。中から赤い閃光を白く染め上げてカノンの姿が出現する。ステップを踏むように柔らかく、しかし確かに大地を踏み、天が彼女に従う様に変化を見せ、

 

 そして環境そのものが揺らめく。

 

 空間がその重圧に敗北し、天候の変化能力がナチュラルの後押しを受けてその一歩先へと進化を果たす。

 

 即ち天の支配から世界の支配へ。

 

「アタシ、思ったのよね。天候を操ってそれで終わりってちょっと地味じゃないか、って。ツクヨミを見てたら”あ、コレできるんじゃない? いけるんじゃね?”ってずっと思ってたのよね―――」

 

 ―――そうして、異界が展開される。展開された世界はカノンが住まうというにはあまりにも地味すぎる空間だった。それはぼろぼろに崩れた廃墟―――否、城だった。ウルガモスという種族の魂の奥深くに刻まれているかつては栄華を誇った過去の象徴。砂に埋もれ、風に削れ、炎に焼かれ、そして歴史は洗い流された。その残骸がここに展開された。

 

「うーん、地味ね。リフォームは必要だとして、発揮できる能力も最低限なものだけね―――でも十分でしょ? アタシのポケモンマスター様!」

 

 そこまで言われたらやるしかない。大声で笑いを響かせたいのを堪えつつ、正面、繰り出されるポケモンを見た。青いコートに翼の様に広がる赤いマフラー姿は亜人種のポケモン―――ボーマンダだ。だがその姿は登場するのと同時に虹色を描く。殻を形成し、その中から更に成長した姿は叩き割りながら出現する。

 

「オオオオォォォォ―――!!」

 

「メガシンカか―――!」

 

 ボーマンダ、ドラゴン・飛行の複合タイプのポケモンだ。つまりはタイプ一致による恩恵がガリョウテンセイに発生するポケモンになる。……おそらくはガリョウテンセイを放つ為に特化された個体だろう。まもるやみきりさえぶち抜く、それだけの意志と破壊力を宿す、そういうコンセプトのボーマンダだ。が、その咆哮を縛る様に、

 

 ―――異界、カノンの古城から古き者共の災厄が溢れだす。

 

 災厄が呪いとなってボーマンダの体を運命を捻じ曲げて縫い付け、その優先度を強制的に-1の状態へと上書きする。どんな最速の行動を発揮しようが、展開された異界の災厄がそれを許さず、どんな状況、どんな場合でも絶対に後手に回るという運命を与えた。

 

「というわけでばいばーい!」

 

 優先度と言う覆せない絶対の速度差、それを利用して接近したカノンが顔面に蹴りを入れる様にとんぼがえりを放つ。失敗する理由もなく、当然の様に成功した一撃に乗ってとんぼがえりしたカノンがボールの中へと戻ってくる。カノンの帰還に合わせて古城の異界が罅割れ、そして砕け散った―――覚醒したての状態ではカノンがいる場合にしか展開出来ない模様だと認識し、迎撃の為に素早くメルトを繰り出す。優先度の呪いによって漸くボーマンダの動きが解放され、

 

ブ チ ギ レ た ぜ !(全能力最大上昇)

 

「怒りを燃料に放ちます―――ガリョウテンセイ―――!」

 

 おそらくは拘束、或いは制限による反動から発生する上昇効果―――プライドの高いドラゴンにはよく見られる能力、限界まで極まっているそれがガリョウテンセイと共にフィールドを吹き飛ばすように放たれる。一切合財、それに衝突した生物を亡ぼす為の奥義、それが一直線に受けという役割を果たす為のメルトへと向かい、

 

超 痛 い で す 。(気合いで食いしばった)

 

 ガリョウテンセイがメルトを穿った―――しかしあらゆる攻撃能力を排除して防御力、耐えるという事に特化したメルトであれば意識すれば一回ぐらいは体力が削られていようが瀕死への攻撃を食いしばって耐えられる。ガリョウテンセイと言うトンデモ奥義に対してそれに見事合わせることが出来たメルトの闘争心、或いはプロ根性に対して惜しみない賞賛を送りたかった。

 

 しかし、

 

「まだ、まだぁ―――!」

 

 乱気流が発生する。それはガリョウテンセイを放つ為の前準備だ。それが発生していた。だがそれはおかしい。もし連続でガリョウテンセイが放てるならもうすでにやっているはず。

 

 故に条件は()()()()()()()()()()()()と個人的に予想をつけていたのだが―――。

 

「―――おそらく()()は正しい憶測です。ある程度制限をつけなきゃ使えないからこその奥義ですが―――」

 

「儂も昔は伝承者だった、それだけの話じゃよ」

 

 長老の言葉が挟み終わるのと同時に乱気流によってガリョウテンセイが形成される。一瞬、この一瞬だけはポケモンを入れ替える隙がある。自分の技量であれば一瞬で入れ替えることが出来るだろう。だがナタクもカノンもどちらも能力は攻撃力に投げ込んでいる。6vs6と言う環境ならサブで受けを担当出来るポケモンを入れる事でダメージを分散させる事が出来る。

 

 だが3vs3、この編成だと被害を受け持てるのは一人だけだ―――さすがにガリョウテンセイの威力が高すぎる、というのは言い訳に出来ない。故に判断はその一瞬の間に下される。モンスターボールへと手を伸ばし、入れ替えず、

 

 メルトを捨てる。

 

 逆鱗に触れられたボーマンダが怒りのボルテージを天元突破させながら乱気流と共に奥義を放つ。

 

ぶ っ 死 ね(ガリョウテンセイ)

 

だ が 断 る(気合いで耐え抜いた)

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

「えぇー……」

 

 最初はある程度整地されていたフィールド、三度のガリョウテンセイによって粉々に砕かれ、まるで月面の様なデコボコな姿を見せている。当たり前だが通常の技ではこんな風にはならない。あくまでもガリョウテンセイという奥義の威力が凄まじいのだ。本来使われるべき威力から遥かにダウングレードさせようとも、それでも人間がくらえばはかいこうせんなんて目じゃないレベルで血風さえ残さず消し飛ばすだろう。これはそういう奥義だ。

 

 それをメルトはもう許して、という感じの表情を浮かべながら気合いで食いしばっていた。しかもぬるぬると滑りながら戻ってくる姿が見える為、瀕死になっていないのは確定事項だった。体力はレッドゾーンを超えて気合いだけで動いているのは解ったが―――少し、いや、かなり驚かされた。

 

「……アレが回転の軸だからここで確実に落としたかったが……焦ったかのぉ。これシガナ。バトルはまだ続いておるぞ」

 

「え、だけど、え、えぇー……」

 

 シガナの狼狽する気持ちは良く解る―――が、それでも耐え抜いたのだ。そして誰もあきらめてはいない。

 

 即ち、バトルはまだ続く。

 

 状況は依然3:3のイーヴン、しかし被害は此方の方がガリョウテンセイによる奇襲で重い。何より先ほどの奇跡はもうないだろう。しっかりとメルトを使い潰すタイミングを見極めないとならない。

 

 ―――観察と把握は終わった。ここからは巻き返しの時間だ。




 ヒガナとかいらなかったんや!!! なおヒガナダンスは先祖代々伝わる初代の悪戯の模様。

選手紹介
シガナさん
 原作ではおそらく死亡扱いだったので好き勝手設定を組み込める人。白髪、巨乳、儚い系、どっかの誰かの趣味が見えてきそう。奥義ガリョウテンセイは威力180~200で安定せず、ポケモンを繰り出した時にのみ発動可能との事。早く出禁にされろ。

長老さん
 ヒガナに日常的にクソババァ死ねと言われているお婆さん。キレるとガリョウテンセイを生身で放ってくるクリーチャー。流星の民は早く滅ぶべき。二連ガリョウテンセイのネタは長老が精神コマンド再行動を叩き込んでいるようなもの。

メガボーマンダさん
 作者のミスによって弱体化修正された子。一致飛行によってガリョウテンセイを1.5倍とかちょっと言っている意味が解りませんねぇな状態にするチートポケモン。まもみきを貫通する事まで可能にしているので本格的に出禁される三秒前。なおドラポケでも特にプライドが高く、拘束、弱体化の類を超嫌っていて食らうとキレて強化される。出禁はよ。

 シガナ戦、Cパートへ続く。合計1万文字で終わらないバトルとか久々だなぁ……。

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