ハジツゲタウンを限界集落と表現しているが、それに間違いはない。実際にハジツゲタウンは存在自体が
ハジツゲタウンが滅ぶことを危惧して町長がわざおしえマニアとコンテスト会場を何とか呼び込むことに成功したが、それでもともと低予算だったハジツゲタウンの予算を食いつぶしたらしく、活性化するどころか過疎化が進んでいるらしく、今は一部の意識の高いガチトレーナーがわざおしえマニアに会いに行くために滞在するか、ソライシ博士の研究所へ行くために来る程度となっている。コンテストはそもそも別会場でも出来るので、そこまで効果はなかったらしい。
悲しき運営の現場である。
そんなハジツゲタウンへと到着して目撃した村の様子はとても静かだった。
人の気配はあるが、動く気配は一つとして存在しない、不気味なほどの静けさを保った、そういう場所になっていた。確かにツクヨミの限界を超えたという言葉は正しいかもしれない。この静けさはもはやおわった、という表現が正しく感じるモノだった。不自然な静けさに内心、警戒度を上げながらツクヨミを出しっぱなしにする。そのまま、左手は銃を握ったまま、ハジツゲタウンにいる唯一の知り合い、わざおしえマニアの家へと向かう。
「……何か、力を感じる」
「チョウワカル、ワカル」
「……何も感じ取れないなら解るフリをしなくてもいいのよ?」
「私、フリじゃないし……!」
子供たちは楽し気でいいなぁ、と思いつつハジツゲタウンの114番側出口近くにあるわざおしえマニアの家へと到着する。軽く扉をノックして反応を待つが、何も帰ってくるものはなく、家の窓から中を確かめても微妙に曇っており、動きの気配はない。家の中に入らないと情報はないか、と呟きながらドアの前へと移動し、鍵の種類を確かめる。
「……うっし、電子ロックか。チェーンロックとかの類だったらぶっ壊さなきゃいけないんだけどな。電子ロックだったらポケナビを近づけて―――ハイ、終了ー」
「恐ろしいぐらい手馴れてるなぁー」
「あぁ、うん。妙に犯罪者って言葉が似合うチャンピオンだよね」
「うるせぇ」
元ロケット団なのだからそこら辺は仕方がないのだ。そのイメージを払拭するためにチャンピオン就任後はポケモン協会やリーグの要請で取材やコマーシャルで非常に忙しかった時があるのだから。思い出すとなんだか恥ずかしくなってくる―――まぁ、バトルの映像とかが既に売りに出されているのだから、今更なのだが。
扉を開けて、わざおしえマニアの家に上がり込む。オーソドックスなホウエンスタイルの小さな家であり、一階しか存在しない。奥へと行けば私室が存在するのだろうが、そこまで奥へと行く必要はなかった。目的の人物であるわざおしえマニアは玄関で倒れていたのだから。急いで近づき、脈を図ろうとし、
「―――ぐぅ……」
その動作の途中で動きを止める。小さく寝息を立てていたのだ。そう、死んでいるのではなく寝ている。その能天気な姿に軽く溜息を吐きながら起こそうとゆさぶり、
「おい、起きろ」
起きない。
軽くイラつき、蹴りを叩き込む。
起きない。
ピカネキを出してバックブリーカーを繰り出させる。
起きない。
「起きないなぁ……」
「その前にピカネキを止めようよ。殺しそうだよ……?」
急いでピカネキをボールの中へと戻しながら再び眠っているわざおしえマニアを確認する。瞳孔を確認し、脈を図り、そして軽くポケナビでスキャンをかける。そうやって状態を確認するが、依然眠り状態、としか状態が確認できない。試しにカゴの実を取り出し、それを口の中へと押し込んで起きないかを試してみるが、それでも目覚める様子を見せない。……そろそろ本格的に異常事態に突っ込んでいる、という事実を受け入れるしかなかった。軽く溜息を吐きながら振り返り、視線をヒガナとナチュラルへと向ける。
「―――起きないなぁ……」
「いや、見ていれば超解るよ、それ」
「というかそこまでして起きないっていったいどういう事なの」
そうだなぁ、と呟き、そして軽く息を吐く。割と真面目に困った―――これがハジツゲタウン全体という規模なら、非常に残念な事ながら予想はついてしまうのだ。ただそれを言葉にして告げてしまうのは考えを狭めてしまう可能性もある為、口を閉ざす事にする。とりあえず、と言葉を口にする。
「通報するしかねぇか。ハジツゲ全体でこうなってるならさすがに外部か協会の方に連絡入れなきゃ駄目だな」
「至って真面目な判断なのになんで違和感を覚えるんだろ」
殴り飛ばすぞ貴様、と軽くナチュラルに脅迫を叩き込みながらポケモンマルチナビの通信機能を入れる―――だがそこに表示されるのは圏外という無常な現実だった。そうやって連絡の取れなくなったナビを二人の子供へと見せれば、ヒガナから真っ先に言葉が返ってきた。
「B級パニックホラーの定番みたいな流れになってきた……!」
「なんで君そんなに顔を輝かせてるの?」
「だってB級パニックホラーの紅一点だよ? 私はヒロインとして最後まで生き残る枠じゃん」
「今割とイラっときた」
基本的に身内で醜い争いをするよな、俺達って。そんなくだらない事を考えながらも、この次はどう動くべきかを考える。逃げるのはまずなしだ。その選択肢だけはない。だからと言ってすぐにこの状況を何とかできるか? と言われたらNO、としか答えられない。相手が
割と真面目に困る。情報と
―――だけどさて、どうすっかな……。
「―――……」
なるべく悟られないように思考を加速させ、判断を完了させる。よし、と言葉を吐いて視線をナチュラルとヒガナへと向ける。
「とりあえずハジツゲ全体を別れて探そう。こんな状況、よほど強いポケモンじゃないと無理だろうし、別れて探せば簡単に見つけられるだろう―――別に俺がいなくても平気だろ、お前ら?」
ナチュラルに関しては言うに及ばず、ヒガナの方にも気配を求めれば、腰のボールベルトからはシガナの使っていたラティオスの気配がしている。護衛の為にヒガナにラティオスを渡したとしたら相当過保護だと言わざるを得ないのだが、戦力が増えると考えれば悪い話ではない。二人ともトレーナーとしての腕前も結構あるのだから、割と自分が引っ付いている必要はないのだ。
特にナチュラルは割とどうにでもなる。
なんだかんだで最前線で
「という訳で解散。何かあったら派手に限界集落を更地にするか俺の名前を叫べば限界集落を更地にするわ」
「ハジツゲになんか恨みでもあるの?」
「名前がちょっと覚え難い。あとチョウジを思い出すのがちょっと嫌」
「あー」
ほんと、どうでもよくて、そしてどうしようもない事だった。後チョウジにはあまりいい思い出がないのが辛い。ヤナギは本当に強敵だった―――と、昔に浸るのもそこそこにしておいた方がいいだろう。とりあえずわざおしえマニアの前で三手に分かれて行動を開始する。ヒガナとナチュラルがそれぞれ違う方向へと向けて歩いたのを確認してからよし、と呟き、そして腰のモンスターボールへと向けて言葉を放つ。
「―――この中で俺の夢の中まで随伴できるのは?」
『こぉん』
『私も行けますわ』
最後にギュィィン、と鳴らすギターの音でロトムウマもサイコダイブは可能だと解った。夢の中に一緒に侵入できるのはこれで一番関係の深い黒尾、憑依する事で状態を共有できる氷花、そしてデルタ種とはいえゴーストとしての性質で同じく憑依できるロトムウマのコンビだけと言ったところか。これが異界由来の能力であればカノンやツクヨミでまた強引に突破できそうなものなのだが、それとはまた別の性質の話だ。今回の相手はぶっちゃけ、ほぼ無敵の塊のようなものだ。
『―――ダークライか。また面倒な相手だな』
ナイトはしっかりと此方の予測を理解していた。
ダークライ、それは
現状、外部からの治療に関してはクレセリア以外では成功した事がない、という事実だ。
「ツクヨミ、お前でも無理か?」
「んー、だーりんがダイブした後だったらライン辿って探せるけどちょっと時間かかるかも。というか探知に成功する前に殺される確率の方が高いかなぁー」
だけど止めはしない。俺が絶対に追いかけるだろう、という事をツクヨミは確信していた。そして俺はそうする。明らかにこれは待ち伏せの陣であり、俺を個人として狙っているのは目に見えている事だったからだ。ホウエン地方に存在しないはずのダークライが態々通り道に出現してくる可能性なんてそもそも存在しないだろうに。
というわけで、
「―――これから眠って悪夢に囚われて来る。そこでダークライをぶち殺す。ガキ共に言えば無駄に心配させるし、ソッコで潜ってソッコでぶっ殺して、ソッコで脱出するぞ」
『できるって根拠は?』
「俺に不可能があると思ってんのか?」
『割とあると! ―――けどやる時は嘘をつかないからな、お前は』
「まぁ、失敗したら全滅するだけだから安心してやろう……ぜ……?」
そんな事を言っている内に予想通り、段々と眠くなってきた。足元がふらふらと、世界がよろよろと揺らめき始める。その中で素早く腰へと手を伸ばし、氷花、ロトムウマ、黒尾の入ったボールを解放し、共に夢の中へと落ちる事が出来るようにする。段々と白く、そして黒く染まって行く視界の中で、緊張よりも、
心はドキドキと音を立てて、状況を楽しんでいた。
―――さすがに夢の世界へと挑戦しに行くのは初めてだ。
やはり、世界は楽しい。
それを再認識しながら痛みと共に完全に夢の中へと落ちた―――。
という訳でハジツゲのお話はダークライッなお話。きっと。長くならなければいいなぁ、とか(シガナ戦から目をそらして