俺がポケモンマスター   作:てんぞー

4 / 72
103番道路

「―――おはようダブルバトルを申し込むでございます!」

 

 110番道路から103番道路へと入ったところで直ぐに、立ちはだかるトレーナーによって勝負を申し込まれた。服装は旅に向いた軽装で、真っ直ぐモンスターボールを突きつけてくる様な格好だ。この行動を不審者のそれだと言わずして、誰を不審者と呼ぶのだろうか。いきなり出現して上で勝負を挑むなんて、

 

「受けるに決まってるじゃねぇーか!」

 

 世界よ、これがポケモントレーナーだ。

 

「これだからトレーナーって生き物は……」

 

 プラスルとマイナンを抱きかかえたナチュラルが呆れた声を漏らすが、そんなものは聞こえてこない。さっさとルールの確認などを挑戦者と話しあって決めてしまう。基本的な部分は公式戦ルールだが、近くにポケモンセンターが存在しないことを考慮して4:4のダブルバトル。そう、ダブルバトルだ。環境的には野戦に近いが、シングル戦とダブル戦では戦い方も戦術も大きく変わってくる。ここ、ホウエンはこのダブルバトルが割と盛んになっている。その為、こうやって勝負を挑まれた時、ダブルバトルである場合が時々あるだろう。良い機会だから、ある程度ダブルバトルの方にも手を出しておいた方が良いだろう。

 

 十数秒、ルールに関して話しあえばそれでセッティングは完了。向こうも手持ちのレベルは100で統一されているらしく、レベルを調整する必要はなさそうだ。

 

 適当に距離を開けて、そして手持ちのメンバー選出の時間となる。4:4ルールという事はポケモンの数と役割が更に圧縮されるという事であり、ダブルバトルでは”交代受け”がほとんど機能し辛い状況になる。シングルであれば一人を狙えばいいが、ダブルバトルだとターゲットが分散する。その分、地味にバトルが複雑化するのだ。

 

 ダビデをボールの中へと戻し、

 

「んじゃホウエンでも軽く調子を確かめる為に、今回の面子は黒尾抜きでやるか。先発はミクマリとナタク、残りをスティングとダビデで行くか」

 

『えー! アタシの出番がなぁーい! 寄越せー! 出番を寄越せー!』

 

 約一名、凄まじく文句を口にしてぶーたれているのがいるが、あまり見せたくはないポケモンというか、変異特異個体を調子を確かめるのに使っても、正直微妙な所だ。彼女―――”カノン”には後で適当な機会を与える事を約束すると、黙ってくれる事を約束してくれた。まぁ、なんだかんだでチョロい気がする。ともあれ、そのチョロさに感謝しつつ、持たせる道具を確定させる。

 

 ミクマリ(レッドカード)

 ナタク(ラムのみ)

 スティング(メガストーン)

 ダビデ(きあいのタスキ)

 

 まぁ、こんなところだろう。モンスターボール越しに持ち物の設定を完了し、”電子化された持ち物を装備させる”。これでモンスターボールから放った時、ポケモンは道具を持った状態で戦闘に参加できる。

 

 ちなみに一部の持ち物、”ゴツゴツメット”や”とつげきチョッキ”は”完全な電子データ”となっている。これを持ちものとしてポケモンに装備させる事によって、それぞれの効果が発揮するのだ。無論、持ち物扱いなので破壊効果は受け付ける。ふぅ、と息を吐きながら基本的な情報の整理を終え、手の中にミクマリとナタクのモンスターボールを握る。それに相対する様に、三十メートル程離れた先にいるトレーナーも、モンスターボールを二つ握り、構えている。

 

「ナチュラル、審判頼む」

 

「解った。ただ、過剰に傷つけちゃダメだよ?」

 

「解ってらぁ」

 

 ナチュラルの言葉に苦笑し、帽子を少しだけ深く被り、その隙間から正面のトレーナーを睨む。放つ気配と闘志の刃に相手が一瞬だけ動きを止め、そしてやる気を見せる様な笑顔を浮かべる。もし、相手が此方を誰か理解して勝負を挑んでいる様であれば、大した馬鹿だと思う。将来に実に期待できるから本気で戦おう。そして相手が自分が誰かを理解していなくても―――本気で戦う。

 

 チャンピオンが手を抜いて戦う訳がない。

 

「お互い準備は出来たかな? それじゃあ構えて―――開始」

 

 ナチュラルの声が響くのと同時に、片手で握る二つのモンスターボールを前方へと向ける。素早く開閉ボタンを押し、その中に入っているポケモン達を繰り出す。此方側から繰り出すポケモン、ミクマリとナタクはどちらも亜人種のポケモンだ。

 

 まず最初に登場するのがミクマリの姿だ。惜しげもなく腹や臍をクリーム色のきつめのチューブトップで見せつけ、その豊かな胸を強調している。余計な装飾を身に纏う事はなく、下半身は光の加減によっては七色に変わり輝く、金色に近いパレオをスカートの様に腰回りに巻いており、髪は頂点で金髪だが、先へと進むごとに蒼色のグラデーションによってその色を変えて行く。色違い亜人種ミロカロス。それがミクマリの正体であり、出現と同時に雨が降り始める。その雨を纏う様にリングを形成し、アクアリングを発動させる。

 

 その横に静かに立ったのはナタクの姿だ。薄紫と白色のノースリーブ型のスリットドレスを装着しており、スリットドレスとは別パーツになっている、大きく余る、ダボついている袖を装着している。胸を支える様に両手を胸下で組んで登場し、長い薄紫の髪は首の裏でまとめられており、尻尾の様に伸びる様になっている。ただし、その両目は閉じており、開いて確認できる宝石のような紫の瞳は光を移さない―――盲目の”天賦”コジョンドだ。

 

「美しく決めましょう、ね?」

 

「参ります」

 

 出現した二人の前に相対する様に出現するのは緑色の蛙のキグルミを被った女の子の姿をした亜人種のポケモン、ニョロトノ、そして原生種のカポエラーだった。ニョロトノとカポエラーの組み合わせを確認し、そして理解する。相手の構成はおそらくは”雨パ”になっている。開幕で雨乞いを行えるポケモン、ニョロトノの存在は有名であり、雨パに関しては非常に起用されやすいポケモンだ。特に、自分みたいにあめふらしを育成で仕込めないトレーナーにとっては相棒とも言える存在になりえる。そんなニョロトノと一緒にカポエラーを繰り出すのはニョロトノや雨パの天敵であるナットレイなどのポケモンを安定して狩る為だ。

 

 カポエラー自身、猫騙しを使えるし、非常に有効な組み合わせだ―――というかダブルバトル前提の組み合わせだ。面白い、此方はシングル畑の人間で、シングル向けのポケモンだが、ダブルバトルが出来ない訳ではない。

 

 重要なのは読みだ。読みが状況を支配する。4:4という数ではあるが、相手はそれなりのガチパを構築してあるらしい―――まぁ、狩る事には変わりはない。ニョロトノとミクマリのあめふらしによって大雨が降り始めるなか、迷惑そうに逃れようとするナチュラルを野生のオオスバメが庇う様に翼を広げて守っている。

 

「―――ニョロトノ、カポエラー!」

 

「遅ぇ」

 

 一手目はボールからポケモンを放つ前に仕込んである。故に言葉を放つ前にミクマリとナタクが動いている。真っ直ぐ進んで猫騙しを放ってくる腕をナタクが払い叩き、ファストガードを完了させ、その瞬間しんぴのまもりを展開したミクマリの体をねっとうが直撃する。それを軽々と耐え抜きながら、ミクマリが保有していたレッドカードが発動し、ニョロトノが強制的にボールの中へと戻されて行く。その代わりにフィールドへと引きずりだされるのは―――ルンパッパだった。ファストガードを成功させたナタクが相手の腕を絡め取り、そのままあてみなげを連結させてカポエラーをトレーナーの下へと投げ返す。大地へと叩きつけられたカポエラーが立ち上がり、体勢を整える頃、

 

 雨に濡れたミクマリが水流に乗り、ボールの中へと戻ってくる。天候バトン効果を発動させながら、次に繰り出すのは―――ダビデだ。ミクマリが敷いた水流の道を滑る様に出現したダビデはアクアリングを引き継ぎながら登場と同時にスパークする。降り注ぐ雨に雷が乱反射し、それに触れる敵の姿を感電させる。タスキ潰しと雨と霰に適応された麻痺撒き効果によってカポエラーとルンパッパが両方とも麻痺の状態異常を押し付けられ、二体の動きが痺れる様に停止する。が、その内カポエラーが振り払う様に麻痺から回復する。

 

『……』

 

『……』

 

『あの、先輩達が解析した事を言いたくてウズウズしているんですが……』

 

「お前ら戦闘に参加してないから黙ってなさい……さて―――こうだな」

 

 ルンパッパから猫騙しが放たれるのを再びナタクのファストガードで妨害させつつ、そのまま受け流しの動きで追撃のはっけいがルンパッパへと叩き込まれ、あてみなげと繋げられ、ルンパッパの体が吹き飛ぶ。合わせる様にダビデへと接近していたカポエラーの攻撃を素早く回避したダビデがそのまま、水流に乗ってボールの中へと戻ってくる。そのままバトンをダビデからミクマリへと繋げ、場に再びアクアリングを纏ったミクマリを繰り出す。

 

「さあさ、美しく追いつめるわよ」

 

 ルンパッパとカポエラーのターゲットがミクマリに集中し、それを受け入れる様に笑みを浮かべながらミクマリが腕を広げる―――実際、彼女の存在は非常に面倒だ。ミロカロスという種族自体が耐久力に優れ、アクアリング、とぐろをまく、じこさいせい、ドラゴンテール、メロメロ、しんぴのまもり、と、凄まじくサポート能力が高い。次のポケモンへと繋げるという起点として考えるサポート役であれば、耐久力をそれなりに保有しており、その技幅から次へと繋げる役割には非常に有用であり、面倒な敵になる。つまり、迷う事無くこの状況でミクマリを潰さないと、強化されたポケモンを次々とバトン交代で繰り出されてくるという状況になるのだ。

 

 それを理解して潰しに来ようとするまでの判断が早い。

 

 だが二体の攻撃の前にナタクが立ちはだかる。迷う事無く攻撃の射線に入り、ルンパッパのハイドロポンプを喰らい、そしてカポエラーの繰りだすインファイトを掴み、受け流し、大地に叩きつけ、カウンターでインファイトを叩き込んでからあてみなげを繰りだしてカポエラーを瀕死に追い込む。

 

「こと、格闘においてはシバ殿のカイリキー以外には毛頭負ける気はありませんので、ご留意を」

 

「つっよっ―――」

 

 その理不尽さが”天賦”のポケモンなのだ。

 

 特にナタクは盲目、その分のリソースを他に回せている為、少々異質な意味で理不尽でもある。それを思い出しつつも、ミクマリを天候バトン効果でボールの中へと戻して行く。悔しそうな表情を相手が浮かべているが、それでも手は緩めない。ポケモンをミクマリから次に繋げるのは―――ダビデだ。合わせる様に相手が繰り出してきたポケモンはオレンジ髪に翼をもつ亜人種のポケモン―――カイリューだった。

 

 雨の時ならば暴風を避ける事は極限的に難しくなるのだろう、カイリューはそういう役目を持っていそうだと判断し、また、ナタクとダビデが出てくる事を予想しての死に出しだろう。ただこれは”誘導”でもある。ずっと居座っているコジョンドのナタク、そして交代で麻痺を撒いてくるバチュルのダビデ。飛行タイプ技、それでいて高命中度技を放つ事が出来るのはこの雨パ構成ならカイリューぐらいだろう。

 

 ダビデの登場と共に電撃がスパークし、体力が削られながら濡れた体を締め付ける様に電撃が神経を刺激し、麻痺へと叩き落とす。それを持っていたラムのみを食べる事でカイリューが脱出する。その姿を守る様にルンパッパがカイリューの前に立ち、雨を吹き飛ばす様な暴風がカイリューから放たれる。その衝撃にナタクが動きを止め―――ダビデがその超小型の体を生かして、必中効果を無視して回避する。汗を掻きながら素早く、濡れた大地を滑る様に回避したダビデがボールの中へと戻ってくる。合わせる様にギリギリ体力の残ったナタクへとボールを向け、ボールの中へと戻して行く。

 

「んっんー、ビューティフル!」

 

 ダビデとバトンタッチによって再びミクマリが出現し、そしてナタクと交代する様に出現するのは、

 

「マルチスケイルは剥がれた。やれ」

 

 スイッチする様にボールから放たれたスティングが閃光に包まれ、メガシンカを完了させる。その姿にエールを送る様に手を叩いたミクマリが先手を譲る様にルートを示した―――おさきにどうぞが成功し、先手を与えられたメガスピアーと化したスティングの赤い目がカイリューをロックオンし、そして必殺の刃を研ぎあげる。一瞬でカイリューの背後へと超加速から接近し、両手のニードルを最小限の動きで振るう。ダブルニードルを繰り出す動きで、

 

 一撃目で毒を喰らわせ、

 

 二撃目で毒素を爆発させてカイリューを潰した。

 

 二撃必殺。キョウが仕込んだ毒殺の奥義がこのバトルに置ける唯一にして最大の天敵を、その耐性を破壊しながら始末する事に完了させた。それを目撃したトレーナーが動きを止め、そしてあちゃぁ、と声を漏らしながら頭の後ろを掻く。

 

「……駄目だ、ここから勝てるイメージが思い浮かばないや」

 

「サレンダーするか?」

 

「うん、申し訳ないがこれ以上バトルしても傷つくだけだし、サレンダーさせて貰うよ」

 

「それじゃあそこまで! 勝負あり!」

 

 トレーナーが敗北を認めるのと同時に脱力したかのようにルンパッパが座りこみ、そして今まで場を支配していた大雨が終了する。ちょっと濡れてしまったなぁ、と跳ねかえった雨粒のせいで軽く濡れた自分の姿を確認しつつ、

 

 ホウエン地方における初戦を快調な滑り出しで開始できた。




 初ダブルバトル。ダブルはシングルと環境がかなり違うのです。

 ミクマリ(色違いミロカロス)
  支援型サポーター。シングル戦想定だけどリングやヴェール、設置除去や積み技からの交代が非常にウザイ。ビューティフォーの響きが気にいっている。

 ナタク(天賦コジョンド)
  盲目のコジョンド。自分から目を捨てる事によって更に武術の技や連携に磨きをかけた。特に何処かがおかしい、凄いというのではなくて”強い奴は強い”という理論を実践した固体。胸はサラシを巻いて抑えてるらしい。

 これで今季の面子で出現していないのは後一人だけかな。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。