俺がポケモンマスター   作:てんぞー

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ハジツゲタウンを旅立つ

 ―――結論から話せばハジツゲタウンはかなりあっさりと救われた。

 

 住人達の眠りは俺が眠った直後に終わったらしく、どうやらダークライは最初から俺のみを目的としていたらしい。それで俺が眠った後はすべての住人を解放し、そして俺を夢に閉じ込める為に全リソースを割いた。それでも俺が忘れずに記憶を保ち、そして夢の中を動けたのはダークライ側としては予想外だったのだろうか、メガフーディンによるセキエイ式プロテクト法、今度セキエイに戻った時に予算を上げないといけないかもしれない。

 

 ともあれ、現実でも二日間眠っていたらしく、その間にハジツゲタウンでは少し事件があった。一つはマグマ団とアクア団の小競り合い、衝突があってソライシ研究所で研究用に保管されていた隕石が強奪された事。そして俺が目を覚まさないと連絡を入れた結果、ホウエンリーグが少々大慌てをしてしまったことだった。独断専行に関する酷い注意と説教を何時間かホウエン、セキエイリーグ両方から受け、報告書を書き上げ、軽くソライシ研究所の被害を調査して、

 

 ハジツゲタウンでの事件は終わった。

 

 それで漸く、一息をつける様になった。

 

 

 

 

「あぁ、クッソ、ダークライめ」

 

「まだ言ってる」

 

 健康診断を終えてポケモンセンターの外に出る。二日間も眠っていたために体がアチコチ硬いような気もするが、眠っている間に適度に体を解してくれていたらしく、硬直はない。おかげで即座に行動に移せる。ダークライの夢から目覚めて一日が経過、これでハジツゲタウンには合計三日程留まってしまっている。元々数時間程度しか止まらない筈の場所だったのに、無駄に時間を消費してしまったことに頭が痛い。

 

「嫁にしこたま怒られたしなー。おのれダークライ」

 

「それ、関係なくない?」

 

「というか結婚してたんだ。かなりハジケてるからポケモンしか相手がいないと思ってた」

 

「失礼な女だなお前! 俺だってちっとはモテるよ―――ごめん、嘘ついた。結婚先にして愛情はあとからってタイプなのよ。ほんとすまんな、でも結婚してるんだ俺。へへ……ナチュラル君は何時かなぁ! ピカネキがタンバリン鳴らしながら熱視線送っているぜ!!」

 

「ピカネキの目、潰れないかなぁ……」

 

 トモダチ至上主義者だったナチュラルからこんな言葉が出てくるのだからピカネキってすごいよな、なんてくだらない事を呟きつつも、ハジツゲタウンを出る準備は完了した。寝ている間にマグマ団、アクア団をスルーしてしまったのは完全に痛い話だったが、どうやら俺が寝ているところでナチュラルとヒガナがルビーとサファイアと交流を持ったようだし、

 

 つくづく、本筋には強引に入ろうとしない限り混ざれないよな、と思ってしまう。

 

 ともあれ、

 

「予定より時間食っちまったし、さっさとフエンに行くか」

 

「空路だっけ?」

 

 後ろで温泉コールをしているヒガナを無視しながらナチュラルが確認してくる。その言葉に頷く。別にツクヨミをポケモンの姿にして飛んで行くってのも悪くはないが、つい先ほどリーグの方から気を付けろと釘を刺されたばかりなので、数日は普通に、或いは常識的に行動しておきたい。その為、VIP専用の飛行手段をポケモンセンターで手配しておいたのだ。時間的にはそうかからない筈だ。そう思いながら空へと視線を向ければ、黒い影が見えた。

 

「お、来た来た」

 

「え?」

 

「おぉ、これは凄い……」

 

 頭上に見える黒い影は段々と大きくなって、それこそあっさりと此方の身長を抜き、民家よりも大きく見える。ポケモンセンター前の開いたスペースにゆっくりと翼を震わせながら着地してくる。足が大地に付く瞬間は振動を伴い、ズシン、とその重量が大地を通して伝わってくる。その背には人を乗せる為のカゴが存在するが、そのサイズもおかしいと呼べる大きさを持っている。

 

 登場したのはピジョット―――それも全長40メートル程もある、異常と呼べるサイズのピジョットだった。首にスカーフを巻き、目にはゴーグルを装着し、そして足の周りに所属する会社のエンブレムが彫ってある腕章を装着していた。ピジョットに近づき、用意しておいたポフィンを労う代わりに投げて、食べさせる。おいしそうにそれを食べるピジョットから背を向け、ナチュラルとヒガナへと視線を向ける。

 

「現在世界で確認されている最大サイズのピジョットだ。ピジョットがマッハで飛行できるのは知っているだろう? その速度を利用して人や物に拘らない運送会社に所属しているんだこいつは。背中のカゴにサムズアップしてるケーシィが見えるだろう? あいつがこのピジョットの相方でマッハで飛行する間、サイコキネシスで俺達を守ってくれるんだ、ッと!」

 

 もう一個、ポフィンをカゴの中のケーシィへと投げ渡す。ケーシィがそれをサイコキネシスで掴み、ダブルサムズアップを向けて来る。

 

「まぁ、人を高速で運ぶのはちょいと要人向けのサービスなんだけどな。縁があって割引してもらえるし今回は頼っちゃおうかなぁ、って」

 

「縁、って?」

 

「この二匹の育成、総額1200万を700万まで割引きした」

 

「鬼か」

 

「寧ろクッソ安い方なんだよなぁ……」

 

 別に気に入ったポケモン、相手だったら無料で育成してもいい、というのが個人的な意見なのだが、それは許されない。俺の育成能力が異常であり、それを無料で育成する様な事になれば、簡単に環境を崩壊させてしまう事が可能だし、他の育成屋の看板を一瞬で破壊する所業でもある。その為、セキエイの方からは家族関係以外のポケモンの育成を頼まれた場合は()()()()()()()()()()()と言われている。

 

 ちなみにこれ、当初は一匹に付き600万、と言わなかったのでピジョットとケーシィ合わせて700万で育成した結果、セキエイがキレて一匹につきに決まってんだろ、と怒鳴り込んで来られたことがある。セキエイもセキエイで環境を破壊しすぎない、破壊を急がせすぎない、一般企業の利益を守る、ルールとレギュレーションの監視をする、等々と非常に苦労しているのは解っている手前、あまり強く申し出る事は出来ない。

 

「……ちなみにこいつら、ギャラは普通のサラリーマンより多かったりする。あとついでに言っておくけど俺も割と手持ちのポケモンには不自由しないレベルでギャラ払ってる。企業や団体を代表するトレーナーとなるとポケモン側にも給料発生するからそこらへん注意な。おろそかにするとグッドモーニング・りゅうせいぐん組合がやってくるから」

 

「逞しいなぁ……」

 

「そりゃあポケモンだぞ? 人類と並ぶこの世界の住人だぜ? 逞しくない理由があるか」

 

「おーい! まだ乗らないのー?」

 

 もう既にヒガナがカゴの中に乗り込んでいた。あの少女、めっちゃくちゃバイタリティ高いなぁ、とほんわかしていると、ナチュラルが溜息を吐きながらヒガナに続くようにピジョットの背のカゴに乗り込んで行く。ナチュラルが足をひっかけてカゴの中に転んで落ちる姿を見てヒガナが笑い、ナチュラルが半分キレる様に睨み返す姿を見て、小さく笑う。

 

『おいおい、まだまだ若いんだから老けたようなリアクションはやめてくれよ』

 

『まだ三十路にもなってないなら赤ん坊も一緒よ!』

 

『そうそう、千年経過してから漸く成人したって言えるのよ!』

 

『筆頭グランマズがベリーロックなのデス……』

 

『あぁ、うん。筆頭ババア共はいい加減落ち着けよ。お前らこの星を探しても最年長の部類に入るぞ』

 

『ヴ……ヴヴ……』

 

 スティングが呆れたような羽音を鳴らしている。まぁ、言いたいことは良く解る。だから手招きしている二人の子供の姿を見て、解った、と答えながら軽い助走をつけて一気に大地を蹴り、籠の中へと飛び込んで着地する。40メートルという凄まじい巨体の背に乗せてある籠なだけに、それなりに広さがある。ドライバーか、或いは機長気取りのケーシィが帽子を脱いで一礼すると、被りなおし、正面へと視線を向けた。

 

 ケーシィのテレパシーによる声が響く。

 

『―――飛行中に吐くとゲロが綺麗なラインを描くぜ……!』

 

 ロトマージがボールの中からガンガンと叩いてくる。

 

『チャンピオン! マイチャンピオン! そのケーシィからはすごいロックなソウルを感じるデスよ! 私をレットミーアウトよ!』

 

「最近まともなトモダチに会えていない気がするよ」

 

「ホウエンの中でも田舎だからね、ここ」

 

 田舎には変人が集まるという風評被害をどうにかしてやろうかと一瞬だけ考えたが、直後、大地を蹴って大空へと体を投げ飛ばしたピジョットが一瞬でブレイブバードを放つ姿勢へと体を移し、ケーシィがサイコキネシスによるコントロールを始めていた。

 

「ちょ―――」

 

『舌を噛むぜ……ベイベエェ―――!』

 

『チャンピオン! マイチャンピオン! 出してください! レットミーアウト!! セッション! セッションを望むよ!!』

 

 言葉を放つ余裕を与える事無く、一瞬でピジョットが風の壁を叩き割りながら加速した。ハジツゲタウン、ポケモンセンター前の大地が砕けてえぐれているのを見ればピジョットが一体どれだけの速度を出して、どれだけの力を叩き込んだのかを見れる。おぉ、すげぇ、やっぱ早いなぁ、なんて感想を自分が抱いている間、予想を遥かに超える速度に、一瞬でナチュラルとヒガナがカゴの後ろ側へと投げ出されていた。ぎゃああという悲鳴と、きゃああという楽しそうな悲鳴が響く中、

 

 モンスターボールの中からついにギターの音が響きだす。

 

『出れないならここからセッションデス……! ヘイ、グランマズも参加するよ!』

 

『YEAH!』

 

『あたまがいたい』

 

「ボールがうるせぇぇぇぇぇ―――!! クソ! 決めたぞ! ロトマージ、貴様のニックネームはシドだ! シド・ヴィシャスってキチガイから取った名前だからな! 誇りに思えよお前!! 俺が手放しでキチガイ認定するのはほんと珍しいからな!」

 

『ファック&ロック!』

 

「ニックネームつけた瞬間それっぽくなるから本当に才能あるよな、お前」

 

 本格的にモンスターボールの中がロックな感じにうるさくなってくる。それに合わせる様にケーシィもテンションが上がってきたのか、ピジョットにバレルロール等を頼み始めるのが聞こえる。これ、大人しくツクヨミに移動を頼んだ方が遥かに静かで楽に済んだのではないだろうかと思ったが、ヒガナとナチュラルが先ほどからずっと地獄を経験して辛そうなので、それはそれでもういいか、と諦める。

 

 ただスティングとナタクの入ったボールから濃密な殺意がバンド組へと向かって放たれているので、降りた直後にストレス解消目的で解放するか。そんな事を考え、夢の中ではない、

 

 現実の馬鹿騒ぎの日常へと戻ってきた。昔は昔で良かったかもしれない―――だがやはり、一番楽しいのは現在だ。

 

「さあ、フエン温泉が俺達を待っている! もっとスピードを上げろ機長!」

 

『チビるなよ……!』

 

「助けて……」

 

 ナチュラルの助けを求める声を掻き消す様にピジョットがさらに加速する。笑い声を響かせながらまっすぐ―――フエンタウンへと向かって、最速で突き進んで行く。




 一部、育成力に特化したトレーナーは協会、或いはリーグ所属である場合はリーグ側から制限を受けて、育成を行う場合に関するいくつかの条件を付けられる。カントー・ジョウトでその筆頭はグリーン、カリン、及び僕らの黒爪ニキである。両者共に育成出来る数、他人のを育成した場合は金額の請求と育成の報告を提出、環境への配慮を義務付けられている。

 オニキスニキ実は超リッチ説。まぁ、こんな役職で金を持ってないわけねぇよな、と。

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