俺がポケモンマスター   作:てんぞー

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フエンタウン

 フエンタウンに到着するころにはナチュラルの顔は土色をしており、逆に普段からドラゴンに乗り慣れているせいか、ヒガナの方は楽しそうな表情を浮かべていた。やはりどこかでまだインドア派なんだろうな、とナチュラルの事は考えるしかなくて―――そのまま放置する事にした。ともあれ、ピジョットとケーシィの高速飛行を終えて帰せばそこはフエンタウン―――ホウエンでも有名な温泉町になる。

 

 視線をフエンへと向ければタウン、つまりは村という規模で表現されてはいるが、それでもハジツゲタウンの様な限界集落とは比べ物にならないレベルでにぎわっているのが見える。到着したのが飛行ポケモン用の着地場だから仕方ないのかもしれない、目に映る光景は温泉宿が多く、それをビジネスに盛り上がっている姿が良く見える。浴衣姿で歩き、次はどの温泉を試そうか、そんな浮かれた声が風に乗って聞こえて来る。その楽しげな雰囲気を感じ取ったのか、ダウンしていたナチュラルも復活の兆しを見せた。

 

「さて、ようこそフエンタウンへ……つっても俺もフエンは初めてだからな、ちょい迷いそうだ」

 

 予想よりも広い都市だった、というのが一つ。そして予想よりも人が多い、というのももう一つだ。都会を名乗るには開いているが、村と名乗れる程小さくもない。フエンタウンの印象はそういうものだった。ボール内の馬鹿騒ぎも大分収まっており、漸く静けさを取り戻した所で、瞳を輝かせながらヒガナが口を開く。

 

「で、ここではどうするの?」

 

「とりあえず宿を取ってあるからそこへ行って、しばらくはそこで療養だよ。めちゃくちゃいいところを選んであるから、期待してもいいぞ」

 

「ヒャッホ―――!!」

 

 それで一気にテンションが上がったヒガナがナチュラルの背中を強く叩き、背筋を無理やり伸ばさせると元気よく腕を引っ張り、歩かせ始める。げんなりとしたナチュラルの後を追う様に歩き出しながら、自分が知っている情報としてのヒガナ、そして今見ているヒガナとの大きな違いを認識し、息を吐く。そろそろ本格的に情報がアテになりそうもないな、と。

 

「おいおい、こっちだぞ」

 

 違う方向へと向かいそうになっている子供二人を呼び戻しながら改めて敵、と呼べる存在に関する事を考え始める。いや、マグマ団とアクア団はスケジュール通りに動いているのだから、自分はその時登場した行動に合わせて対処すればいい、それだけの話だ。問題は知識外の幻のポケモンなどの襲撃、敵対だ。間違いなく自分の知らない存在が裏で糸を引いているのは解る―――だがそこからが判断できない。

 

 現状、相手の統率力が異常と呼べる領域にあるのは解る。幻のポケモンを複数完全に使役するのは余程の事ではないと不可能だ。少なくとも自分は条件を付けないと無理だ。そしてまるで未来を知るかのような発言、行動、それは同じ知識を持っている相手の様に思わせる。

 

 ―――転移者(トリッパー)

 

 もしかして、そういう存在が相手なのかもしれない。そもそも自分が転移者なのはいいが、自分以外に同じような存在がいるかどうか、それに関しては全く把握していないのだ。自分だって一度も誰かに―――ボスを除いて―――そういう背景がある事は喋ってはいない。そしてそれは吹聴するものでもないと思っている。まぁ、自分の様に魔境のど真ん中に投げ出された場合、余程運が良くなければ即死できるのだが、

 

 自分の様にどこかに、転移者がいてもおかしくはない。

 

 一人いるなら二人いたっておかしくはないのだから。

 

 まぁ、だが、敵を転移者と決めつけて話を終わらせてしまうのは思考停止だとも思える。とはいえ、判断材料が少ないというのも事実だ。相手が明確に何かを主張しているわけでもない所が辛い話だ。何かを主張さえしてくれればそこから可能性を絞り込めるのだが―――そこまで愚かな相手ではないらしい。ともあれ、襲撃してくるのは解っているのだから、後手に回って迎撃すればいい。件の相手に関してはそれしかないだろう。

 

 そうやって考えを巡らせている間に予約した温泉宿へと到着した。流石温泉地の元祖というべき場所なのか、昔、短い間拠点にしていたエンジュシティよりも遥かに立派でしっかりとした、高級宿が今回選んだ宿だった。初めて見る和風の高級宿にヒガナのみではなくナチュラルまで目を開いて興味津々に見ている。二人の姿から視線を外し、さっさと受付へと向かい、身分証を提示しながらチェックインを済ませる。チェックインを済ませると原生種のキュウコンが出現し、口に鍵を咥えて案内を始める。慣れているのか九本の尾でヒガナとナチュラルからするりと荷物を奪い、此方も荷物を渡して歩き出す。

 

 古く、しかし頑強なつくりをした煌びやかな高級宿を見て、案内をされながらヒガナが声を漏らす。

 

「……ここ、いくらぐらいするんだろ」

 

「止めてよ。考えないようにしているんだからそういうの」

 

「はっはっはっは! 奢られている内はそういう細かいのを気にしなくていいんだよ! フラっとジョウトに戻った時に荒稼ぎしてるからな、俺は。そんなことなしでも牧場として土地を貸し出してるからそれだけで大分収入入っているし? セキエイでグッズも出してるからな、俺は!」

 

「うーん、信じたくないけど一応超の付く有名人なんだよなぁ……」

 

 そう言うのなら、と、ポケモンマルチナビを取り出してそこに数字を打ち込んで行く―――それはこの宿の一人、一泊の宿泊料になる。打ち込んだその値段を振り返りながらヒガナとナチュラルへと向けて表示する。それを見たヒガナとナチュラルの足が完全に停止し、動かなくなる。それを盗み見ていたのか、案内のキュウコンが小さく笑い声を零すのが聞こえる。

 

「ちなみにカロス地方ミアレシティのグランドホテルシュールリッシュは手持ちのポケモン+トレーナー一人、一泊10万で高級ホテルとしては()()()()()()()()()だからな。世の中、相当なVIPじゃないと泊めてくれないホテルやレストランがあって、同地方のチャンピオン経験者以外お断りのレストランだと確か1コースで40万か50万はしたんじゃないか? まぁ、金なんて頑張りさえすればそれなりに何とかなるしな、それで満足できる程度に贅沢が出来ると思えばそれで贅沢すりゃあいいんだよ。才能とか運命だとか一番欲しいもんは金では手に入らないしな」

 

「ごめん、値段の次元が違いすぎてちょっとついていけない」

 

「右に同じく」

 

「いや、ナチュラルはお前、俺について回っている間にこれぐらい既に何度も奢られているからな。カナズミのホテルとかアレ―――」

 

「やめて……やめてください」

 

 震える様な声を絞り出すナチュラルの姿を見て笑い声を零す。若い連中で遊ぶのは楽しいなぁ、と思いつつ、目的地に到着したのかキュウコンは足を止める。それは旅館の一番奥、離れを利用した一件丸ごと使った宿泊施設だった。それに入る為の扉を器用に鍵を尻尾で握り、そして開けると部屋の中に入り込み、入口近くの荷物置き場に鞄等を下ろす。

 

「こぉーん……こぉん、こぉん」

 

「あいあい、了解了解。何か困ったことがあったら呼ぶさ」

 

「こんこん」

 

 キュウコンの言葉は長い間相棒と接しているだけに、良く理解できる。職務に対して真面目だな、などと思いつつ本来のキュウコンは気高い生き物で、安易に人を寄せ付けない性格だと思い出す。一般的なキュウコンと、そしてうちの黒尾を比べ、甘やかしすぎたかなぁ、何て事を考えてしまう。しかしそれも束の間、広い部屋を見ると足取りを重くしていたヒガナがナチュラルを蹴り飛ばして部屋の中に突撃する。

 

「君、僕になんか恨みでもあるの!?」

 

「緑髪が気に入らない―――髪切れよ」

 

「言っておくけど、僕は女だろうと容赦はしないって決めたからね―――たった今」

 

 即座に逃げ出したヒガナを追いかける様にナチュラルが駆け出す。崩れる様な音はしないが、それでも借りた部屋―――というよりは家を駆けまわる二人の足音が響く。それを無視しながら腰のボールベルトから中央の広間へと向けてポケモン達を放って行く。サイズが比較的普通の連中をまずは解放し、それから広間の奥、そこにある窓から外へと視線を向ければ大きい湖がある為、そこにモビー・ディックとメルトを放つ。流石最高級宿、いろんなポケモンに合わせて場所が作られている。エンジュシティの旅館ではモビー・ディックを出せなかったのが記憶に残る。

 

「ん―――ん、ふぅ……なんだかんだでボールから出るのは久しぶりだなぁ。まぁ、久しぶりの温泉だし俺ものんびりさせてもらうか」

 

 そう言って首から下を三日月の柄が入った黒いローブを装着する、頭に二つの長い、獣の耳を生やす()()姿()()()()()()ポケモン―――亜人種のブラッキーと化したナイトがぼやいた。基本的にボールの中、常に傍で分析と解析、アドバイスを行っているだけにボールからめったに出てこないだけ、その姿を見るのはレアい―――が、温泉は楽しみにしているのかそのローブの下から見える尻尾は大きく揺れている。

 

「感情が隠せてないのは若いわねぇ!」

 

「もっと私らの様に落ち着きを覚えるといいわよ!」

 

「ババア共はそれギャグで言っているの? 新しい芸風開拓したの?」

 

 カノンの羽は大きくパタパタ振るわれており、そしてツクヨミも背中から骨の様な翼を生やして大きく揺らしている。次に何かを言いそうだったミクマリの姿を探せば、いつの間にかわからないがナタクと並んで浴衣姿に着替え終わっており、横に桶と酒瓶を抱えていた。

 

「それでは」

 

「行ってきます」

 

 楽しみにしていたのが解るほどの雰囲気を撒き散らしながら二人は温泉へと向かって家を出て行った。その姿を慌てて追いかける様にシドがギター片手に走り出し、そして転びそうな姿を氷花が慌ててキャッチし、そのままポルターガイスト現象の応用で浮かべて運んでゆく。外を見ればメルトとモビー・ディックが日向ぼっこを始めており。それに合流する様にスティングとダビデが外へと出て行った。

 

 みんなが思い思いにそれぞれの休暇、療養を楽しみ始めた。まだ解散の声すら出していないのにほんと自由な連中だなぁ、何て事を考えつつ、息を吐く。まぁ、なんだかんだでみんな、フエンタウンの名物であるフエン温泉を楽しみにしていたのだ―――温泉に入って、酒を飲んで、フエンせんべいでも食べて、卓球でもやって、どれぐらいになるかは解らない、バトルとは全く関係のない休暇を楽しむのは決して悪い事ではないだろう。

 

 隕石が強奪されてしまっている以上、えんとつやまでの事件までそう遠くはない筈だ―――監視の目を設置しつつ、マグマ団とアクア団の数が増えたら警戒、そういう方針で進めればよい。ともあれ、まずは休暇だ、休暇。

 

「んじゃ俺も浴衣に着替えて、と」

 

「あ、浴衣持ってきますね」

 

「あぁ、サンキュ」

 

 黒爪九尾ではなく通常の黒いキュウコンの姿をしている黒尾はそう言うと浴衣を取りに探し始める。それじゃあ羽を伸ばすか。そう思っているとポケモンマルチナビが着信で揺れる。その着信先がセキエイリーグという表示になっているので、一瞬で夢を破壊されたかのような気持ちになり、嫌そうな表情を作るしかなかった。

 

 渋々と、通話ボタンを押す。

 

「はい、此方セキエイ最強の男」

 

『やったね、チャンピオン! お仕事だよ!』

 

「お前ほんと死ねよ。俺一応オフなんだぞ、オフ」

 

『今年度からポケモンリーグはブラック勤務が決まったんだ……ほら、君の名前みたいにな!』

 

「氷花ぁー! おーい、もう行っちゃったかー! 戻ってこーい! 呪殺! 呪殺できないかぁー! おーい!」

 

『死ねない、仕事が残っている内はな……!』

 

 見事な社畜根性、欠片も見習いたくはないな、とため息を吐く。ダークライの件があっただけに休暇を楽しみたかったのだが、セキエイからの要請は立場上、断る事は出来ない―――こういう時、妖怪喪女アイス狂いが知ったことか、と言わんばかりにフリーダムに活動しているのが羨ましくなる。

 

 ―――ますます結婚できなくなるように適当な噂を流してやろう。

 

 ともあれ、せっかくそこまで気を張らなくても良い感じの休暇に盛大に水を差されたような、そんな気分になってしまったが、それでも休暇は休暇であることに違いはない。ゲームでの出来事は同日内に発生したものだが、現実ではそうはいかない。

 

 金銀を巡る出来事が半年、リーグシーズン全体を通して発生したように、

 

 この戦いもまた、時間をかけて発生するものになるだろうと理解している。

 

 多少の邪魔は入っても―――それでも休暇の幕開けだった。




 やってきました温泉。一期ではエンジュが拠点だったので今回はこっちを拠点にしようかなぁ、と。キンセツも悪くはないんだけど全体的に景観とかを考慮するとフエンって結構良くね? って感じが。まぁ、温泉っていいよな、という話なのだが。

 という訳で次回からお仕事混ぜつつコミュラッシュになるのかな。

フエンタウン
 限界集落とは違うんだよ、限界集落とは。どっかのクソザコ限界集落とは違って温泉という最強兵器を保有している上に温泉をベースとした和風文化を持つ最強の療養地。俺もまた温泉旅したい(リアル話)

セキエイ高原
 セキエイ高原の支配者はポケモン協会であり、チャンピオンとはポケモン協会から与えられる地方における公式的な最強の存在の称号である。つまりポケモンリーグとはポケモン協会の下部組織であり、四天王とはチャンピオンの直属の部下とも言える立場にある。だけど四天王の所属がリーグとなっているので動かすんは協会の許可が必要、と軽々に動ける立場ではないらしい。なおそれがクソ面倒で勝手に動き回るのはどこの四天王もチャンピオンも一緒である。律儀に守っているのはジョウト、イッシュチャンプぐらいである。

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