俺がポケモンマスター   作:てんぞー

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vs マツブサ&アオギリ

「さて―――追い詰めたぜ、御両人。サクっと諦めて捕まる事をわずかに残った親切心からオススメする」

 

 えんとつやま、火口付近最奥―――そこには火口直上へと突き出た岩が存在し、機械が設置されてあった。記憶が正しければそれに隕石をセットする事によって火山をどうにかすることが出来る、という内容だったはずだ。或いは自然エネルギーを刺激してグラードンとカイオーガを呼び起こさせるだったか? どちらにしろ、まともではないのは事実だった。それだけは絶対に止めなくてはならない事だった。

 

「アオギリ……ここは共同戦線を張りませんか?おそらく一対一では絶対に勝てない相手でしょう」

 

「あぁ、見えるぜ。殺された部下共の怨念を背中に引きずりながらも一切屈服しねぇ化け物の姿が……こいつはヤクいぞ」

 

「おいおい、通りすがりのチャンピオンに対して酷い言葉だなぁ、お前ら―――まぁ、ギンガ団もフレア団もプラズマ団も全て皆殺しにしてきたからな。間違ってないぜ。()()()()()()()()()()()()()()つもりだからな。アカギもフラダリもゲーチスもぶっ殺してきた。そうするのが一番早いからな」

 

「各地方の大組織の首領ですか……完全に死神のそれですね、貴方の行動は」

 

「恐ろしいか? あぁ? 恐ろしく見えるか? んン? そりゃあつまりお前の中に()()()()()()()()()って罪悪感が残留しているって証拠だよ。俺は悪い事は言わねぇ。俺自身が昔、ロケット団で派手に犯罪やりまくってた分、ある意味寛容だ。今すぐカイオーガとグラードンを蘇えらせる事を諦めて、普通の環境団体に移れ―――無駄に絶望しなくて済む」

 

 グラードンとカイオーガ。この二体の伝説のポケモンは調べれば調べる程絶望できるポケモンだ。自然エネルギーを求め、力を求めて()()()()()()()()()ポケモンだったのだから。つまりグラードンとカイオーガが争うだけでそれだけの被害が生み出される可能性がある、という事だ。やはり伝説のポケモンだ。ジョウトのホウオウは無限の命を持つから伝説と呼ばれた。ジョウトのルギアは海においては最強の守護神だからこそ伝説と呼ばれた。強さや方向性はまるで違えど、グラードンとカイオーガも伝説だ。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()、そういう事に特化した伝説のポケモンだと解釈している。

 

 あえて分類するなら()()()()とも呼べるジャンルかもしれない。

 

 それをマツブサもアオギリも知らない―――そしてそれを説明しても理解できないだろう。故に最初から説得できるとは考えていない。殺す事が一番の慈悲だ。追い求めた希望が最悪の絶望だった時の落差、それは簡単に人の心を殺すだろう。そこに到達する前に殺す―――理想を追いかけた人間を救ってやるのもまた、仕事の一つかもしれない。

 

「仕方がねぇ……3:3で組んでポケモンを出し合うか」

 

「ダブルバトルが出来るほど器用でも息を合わせられる訳でもありませんし、妥当な所でしょうか」

 

「ポケモンバトルを挑むか、(チャンピオン)にそれを断る事は出来ないな―――戻れ、スティング」

 

 ボールの中へとスティングを戻しながら、ポケモンが戦えるように後ろへと下がり、スペースを作る。これによってマツブサとアオギリが機械へと触れるチャンスが生み出されたのだが、二人はそれに走り寄るような事はしなかった。勝負をすると決めた以上、絶対に勝負して勝つ。正々堂々としてポケモントレーナーらしい振る舞いを当たり前の様に行っていた。

 

 ―――それが出来るから誰かを殺すのは辛いのだ。

 

「幕を開き蘇れ決戦場! ここに決戦の理を宣言する! ルールは変則6:6のミックスドシングル、手持ちは初期公開せずに持ち物・選手の重複を禁止し、いかなる状況でもトレーナーへの攻撃は卑怯者の行いとして処罰に値する! 以降、この戦いはポケモン協会により裁定された最新レギュレーションに従うものとする!」

 

 決戦場の異能が軽い風と威圧感によって駆け抜けて行き、火口に広がる。確かに体を蝕む見えない重圧と緊張感がこの戦いが決戦であると宣言していた。逃亡は出来ず、ルールはほぼ、公式戦のそれとは変わりはない。つまり、いつも通り全力で戦えばいい。この勝負が終わるまではマツブサもアオギリも、変な事は一切出来ない様にルールによって縛られた。今から機械へと向かおうとしてもペナルティが作動し、妨害されるだろう。

 

 だからと言うべきか、マツブサがメガネを軽く調整しながら前へと出た。

 

「アオギリ、解析は私の方が上手です。序盤は任せてもらいましょう」

 

「終盤の爆発力と防御力なら俺のが上だ。要所で俺が守りに入る」

 

 こちらもボールを片手に待機し、マツブサとアオギリが話し合うのを静かに待つ。その間、ボールベルトの新しくジョウトから取り寄せた二つのボールへと視線を向け、そしてまた別のボールへと視線を向けてからマツブサとアオギリへと視線を戻した。

 

「……ナタク、スティング。お前らは今回休みだ―――お前らが一体誰とスタメンの座を争おうとしているのか、それを見て、学べ」

 

 返答はない。しかしマツブサとアオギリも相談を終えたようで、マツブサがアオギリの一歩前へと出る。それ以上言葉は必要なく、マツブサと目が合った瞬間、それがポケモントレーナーとしてのバトルの合図になる。後ろへとバックステップしながらボールを前へと放つ。

 

「黒尾、君に決めた!」

 

「行けぃ、グラエナ!」

 

 シンクロメガ進化が発動し、黒爪九尾に進化しながら黒尾がフィールドに降り立った。その存在で観客(野生のポケモン)を魅了し、決戦場に蓄積されるボルテージを上昇させる。それに合わせる様にグラエナが唇を噛み千切り、精神的な干渉を気合いで乗り切るのが見えた。根性入っているじゃねぇか、と軽く見直し、すかさずきつねだましによる先制攻撃が入る。

 

「戻れグラエナ!」

 

「このタイミングで差し込めばいいんだろ……!」

 

 きつねだましを外す様にグラエナがボールの中へと戻され、それと入れ替わる様にベトベトンの原生種が出現した。きつねだましを受けるとその流体のボディで衝撃を拡散させながら、流れる様にボールの中へと戻って行く。それに合わせ、マツブサが前へと踏み出し、

 

「グラエナっ!」

 

 再びグラエナが出現する。二回目の威嚇の発動に黒尾の攻撃力が大きく削がれる。此方の戦術に似たサイクル戦を挑まれているのが今ので良く見えた―――即席だが良いコンビネーションをしている。そこがトレーナーとして、ちょっと嬉しかった。

 

 どんな相手だろうと、悪い奴だろうと、相手が強くて、そして良い動きをすると―――嬉しくなってしまうのはやはりポケモントレーナーとしての抗えないサガなのだろう。

 

「ですが残念、私は先発なので居座らないのが仕事なので」

 

 すてぜりふを吐いて黒尾がボールの中へと戻って行く。合わせる様に次のボールが手の中に飛び込んでくる―――握るのはシドのボールだ。

 

「シド!」

 

「Yea! Yes! Ye―――s!」

 

 ギュイィィン、と音を響かせながらシドが登場する。登場と共にほろびのメロディを響かせ、グラエナに死のカウントダウン4を刻む。殺意に紛れる様にトリップワイヤーを設置し、攻撃を行う存在の体力を削る罠を設置完了させる。だがそのまま交代せず、ばくおんぱを放った。空気を震わせる一撃が大気を伝わり、一気にグラエナへと叩き付けられる。

 

「マツブサァ!」

 

「いいえ、このポケモンは攻撃力に乏しい!」

 

「Oh……バレちゃいましたか―――デスが」

 

 ばくおんぱが決戦場に鳴り響いた―――観客が盛り上がる。

 

 ギタープレイの音が決戦場に響く―――エコーする様に響く音がライブを更に盛り上げさせる。

 

 音が絶える事無く鳴り響く、テンションが一気に最高潮まで引き上げられる。

 

 シドの役割は死のカウントダウン付与による居座り型に対するメタと流し性能だけではない―――決戦場に対するリソース供給と観客へのアピールもある。忘れてはならないのはポケモンバトルが競技というジャンルである事だ。上の戦い程全国区で目撃されるものであり、観客を退屈されるバトルには意味はあっても価値はないのだ。故に音楽、芸能という方向性で一気に決戦場に多重にリソースを供給でき、なおかつ観客に対してアピールできるシドの存在は非常に希少だ。

 

「リソース供給の時間デス!」

 

 グラエナが放ってくるほのおのキバをすてゼリフによる下降分で耐えながら、シドをボールの中へと戻す。入れ替わる様に次のボールを手の中に握る。そうやって握るボールがほんのりと熱くなってくる。それによって確認するまでもなく、誰のボールを握っているのかが解る。故にボールを後ろへと引く。決戦場に蓄積された殺意が伝説の鳥ポケモン・ホウオウの加護に反応し、加熱する様に燃え上がる。ボールが炎の様に熱く、加熱し、燃え上がる。

 

 だが不思議と異能を制しているからか、全く痛みはない。

 

「―――久々の戦闘だ、気合いを入れろよ、アッシュ―――!」

 

 加熱と共にアッシュの姿を一気に前へと叩きだした―――姿は変わりない。新種である常時メガ個体のメガリザードンZ、特殊攻撃の方面に特化したそのポケモンは灰色のポケモンだった。その眼にはギラギラと戦意を宿しており、天賦としての圧倒的プレッシャーと覇気をその身に纏っていた。

 

「さあ、教えてやるぞ、マツブサ、アオギリ。貴様らが蘇らせようとしたポケモン、そいつらが持つ特性の片鱗をな」

 

「貴様、まさか―――!」

 

 決戦場に降り立ったアッシュの存在と共に空間が震える。空気が一気に湧き立つ。幻聴ではなく実際にドドド、と地響きのような音が鳴り響くのが聞こえて来る。そしてそれと共に、光が天に生まれた。暖かく、そして穏やかな陽射し―――それが殺意と入り混じる。それによって暖かな陽射しは変質する。明るく、黄色に天を染め上げる。優しかった陽射しは一気に強く、燃え上がる様に、温度そのものを一気に引き上げる様になり、そしてその熱だけでジリジリと露出した肌を焼き始め、その場にいるだけでも息苦しくなってくる。

 

「グルゥァ―――ァ―――ァ―――ォ―――ォォオオ―――!」

 

 アッシュが吠えるのと同時にそれは完成された。それは絶望の象徴だった。それは本当の解放では死を意味する劇毒だった。それはあらゆる草木を枯らしながら人類から()を奪う許してはならない力だった。競技という領域に落とす事によってはじめて、地上で運用する事が許された絶対的な絶滅の力だった。

 

お わ り の だ い ち

 

「―――伝説のポケモングラードンのメガ……いいえ、ゲンシの力、終わりの大地よ、総統さん。本来の世界規模のを縛って縛ってバトルフィールド規模にだけど完全に再現したものよ。どうかしら? この邪悪な光、とても美しく素敵だと思わない? おかげで私の弱点が一つ減ったのよね。さて、見てるかしら後輩共?」

 

 にやり、とアッシュが笑みを浮かべた。

 

「今回は特別にジョウトから呼ばれてきたのだから、先達で天賦らしい圧倒的暴力というものを私()が見せてアゲル……!」

 

 完全に動きの止まったマツブサを前に、アオギリがその体を退ける様に前に出る。

 

「クソ、やはり最恐のチャンピオン……!」

 

 アオギリの言葉にげらげらと笑い声を零しながらアッシュを前に構えた。

 

「言っただろ? ダイゴ程優しくはないって。悪いがこのままその心をへし折って蹂躙させてもらうぜ」

 

 げらげらと笑い声を決戦場へと響かせる―――ポケモンバトルはまだ始まったばかりだ。バトルを挑めば命だけは助かる。そんな甘ったれた考えを、

 

 その心を折る為に徹底的に蹂躙する―――これはケジメなのだ、オニキスという唯一結末を知っている男の。だから成さなきゃならない。その為には、

 

 一切の良心を捨てる事なんて容易い。




 という訳でvsマグアク団のトップ&ジョウト組が二体、このバトル限定加入ですわよ。そりゃあスタメン候補としてほかの地方にいる間も名前を残しているんだから、

 それ相応の実力と育成施されていますよ、という話

せんしゅしょーかい
アッシュ
 一期の読者には懐かしい存在。メガリザZとかいう新機軸。XYの後のZの発売はどうしたんでしょうねぇ……ひでり上位ということでおわりのだいちを引っ提げて遠征しに来た人。歳を少しだけとって、大人しくなるどころかパパ(オニキス)に増々似てきた子。好きな事は相手の心を折る事。

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