俺がポケモンマスター   作:てんぞー

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破壊神・イベルタル

「追撃してそのまま殺し潰せェ!」

 

「―――」

 

「息をする間を与えるな……!」

 

 忠実にスティングがその言葉を実行する。絶え間のないシザークロスの連撃、悪タイプのみを抽出して狙った一撃は全て効果抜群となってイベルタルの巨体に響く。その威力はその巨体を一気に空から大地へと叩き落とすほどにある。先手を取った上での不意打ちと異能のコンビネーションによって放たれた通常のポケモンであれば完全に殺害しているであろう攻撃の連続はしかし、イベルタルを空から落とすという結果しか生み出していなかった。息苦しさを覚えながらそれを精神力で克服し、スティングに追撃の指示を与えた。

 

 空から大地へと叩き落とされたイベルタルの体がえんとつやまへと衝突し、粉塵を巻き上げながらえんとつやまにその巨体のクレーターを刻み込む。しかしそこで一切動きを緩める事も止める事もなく、必殺の毒針を掲げ、それでシザークロスを流れる様に、何十、何百、何千回も繰り返してきたように大地に落ちたイベルタルの体へと貫き通した。衝撃が空気を抜け、パイルバンカーを放ったような轟音が周囲に響き渡る。イベルタルの体に僅かな傷が生まれるが、それは攻撃の動作へと入っている間に徐々に塞がれつつあった。

 

 そしてスティングは徐々に衰弱していた。

 

 イベルタルは何もしていない。戦ってすらいない―――それなのに追い詰められているのは間違いなく此方だった。

 

 ライフドレイン。それが即ちイベルタルに備わった能力だった。そこに存在しているだけで生態系を破壊してしまい、そして一度戦い出せばあらゆる理不尽で敵を蹂躙する。その能力の全ては何かを破壊するという行為に対して特化している―――まさに破壊神の名に相応しい伝説のポケモンだった。今のイベルタルは遊んでいる。自分よりも弱い虫けらが必死に抗う様を楽しんでいるのが良く解る。

 

 既に状況に対してブチギレてはいる―――だからこそ逆に冷静になって考え、最善手を即座に導き出して対応する。だから出来る事はひたすら、スティングを信じ、そして、

 

「―――シザークロス!!」

 

 その命令を繰り出す事だけだった。ペナルティの発動により、決戦場には溢れんばかりの殺意と、そして粛清の権限が備わっていた。ただ伝説という存在相手にはそれも効果が薄い。意味があるのは伝説殺しの業のみ―――だがそれもライフドレインという無限回復状態、そして反撃でデスウィングを喰らう事のリスクを比べればあまり活躍させる事は出来ない。こんな時、ワダツミとカグツチ―――ジョウト地方の伝説の二体が居れば、間違いなく確実に勝てた勝負なのだ。

 

 命を新生し続けるカグツチは石化しても即座に死んで蘇り、自爆特攻を仕掛け続ければいい。

 

 ワダツミはフエンタウンを水に沈めて、そこにイベルタルを引きずり落とせば勝てる。

 

 だがワダツミもカグツチも現在の居場所はジョウト地方だ―――そして伝説種と言うのは基本、ホイホイその土地から動かせるものではない、権限的に考えて。ツクヨミのホウエン遠征も今のところ、チャンピオンであるから、と言うのを理由に許可されている部分が大きい。真面目な話、これ以上ないピンチであるのは間違いがなかった。今、ここで、

 

「限界程度超えられないなら俺と歩む価値などない! バトルの間でもポケモンはレベルが上がる―――なら戦闘中にも育成は可能だ! さあ、強くなれ! それでしか俺もお前も生き残れない!」

 

 シザークロスの威力が上がる。更に重く、そして響く一撃がイベルタルを捉え、更に大地を陥没させた。それにイベルタルは次へと続く何かを見出したのか、ぼうふうを発生させる。イベルタルの周囲を守る様に発生したぼうふう、それを無視し、ダメージを食いしばって無効化しながら更に威力を上昇させたシザークロスがイベルタルに突き立てられた。

 

「―――」

 

「―――」

 

 スティングもイベルタルもどちらも言葉を口から放たない―――だがイベルタルの纏う悪意は上がった。イベルタルに突き立てられた先ほどの一撃、それは治りが遅かった―――それをもって、漸く敵としての認識が始まった。

 

破 壊 の オ ー ラ が 弾 け る

 

回 復 封 じ が 砕 け 散 る !

 

「チ―――」

 

 体に圧し掛かるプレッシャーが一気に跳ね上がる。が、唇を噛んで、その痛みで全身に活力を叩き込みながら前へと向かって走り、視界を確保する為に動き出す。その間に片手を使ってスティングに指示を繰り出し、即座に見切ったぼうふうの安全ルートを通して、イベルタルへとスティングを最速で導く。対応するイベルタルが大地を破壊して飛翔するスペースを無理やり生み出した。火口内部へと直通で空いた穴を通して溶岩が津波の様に吹き出し、それを瞬間的に回避するスティングを狙い打つようにあくのはどうが襲い掛かる。

 

「だらっしゃぁぁぁ―――!! 育成力5段階中6段階評価を舐めるんじゃねぇ……!」

 

 戦闘軌道中のスティングに相性任せで無理やりシンクロして介入、育成力をもって特性を即座に変更させる―――てきおうりょくという火力を確保する手段から、対イベルタル用の特性、()()()()()()()()()()()()()()()()。放たれたあくのはどうはダークオーラによりありえないほどの破壊力を持っていた。

 

 しかし、本来秩序を司るポケモンが持つその特性がその影響を遮断できる。

 

 ―――その特性がオーラブレイクだ。

 

 故に、あくのはどうは目に見えて弱体化する。完全ではない。波動として広がる一撃に回避する場所はない。故にスティングはそれを受けるしかない。スティングの目を通してそれを見ることが出来る。ポケモン達は何度も何度もこんなものをバトルで受けているのか―――そう思った直後、あくのはどうが体に衝突し、凄まじい激痛が抜けて行く。痛みにブラックアウトしそうなものを覚えるが―――駄目だ、まだまだだ、

 

 ここからが本番なのだから。

 

「死中に活あり―――」

 

 瀕死の状態となったスティングが全ての保身を捨て去った。命以上に、魂そのものを燃やして、限界を超えて戦闘を続行する。それは後遺症を抱えるレベルの領域に足を突っ込むという事―――ポケモンセンターの治療ではどうにもならない故障を抱えるという可能性を抱く事でもある。だがそれを一切気にせず、特性を再びてきおうりょくへと上書きし、

 

 保身も命も魂さえも捨て去った、殺意と復讐のみを込めた鍛錬された針の一撃をイベルタルへと叩き込んだ。

 

 イベルタルがそれを受けて怯み―――はしない。伝説なのだ、その身に纏う破壊のオーラはもはやオーラブレイクを真似たものでは押し込めるものではない。ドレインを含め、攻撃の度に逆にスティングの針に亀裂を生んで行く。シンクロを行っているせいか、それが幻痛として体に伝わってくる。その痛みをスティングが一切表現する事はない。故に、そのマスターである自分も、痛みに吠える事は一切ありえない。

 

 そのまま、自身を顧みない一撃をイベルタルに叩き込む。破壊神を破壊する為に。

 

「―――」

 

 イベルタルの目に戦意が宿り、楽しそうにスティングの一撃を受けながら相対する。破壊するという事も、そして()()()()()()()()()()()()()()()()生粋の破壊魔の笑みだった。スティングの渾身、必殺の一撃を受けながらイベルタルは浮かび上がった体を後ろへと流し、そうやって生み出された距離の中で、体を広げながらあくのはどうを再び、ダークオーラを纏って放った。その衝撃を根本で喰らってえんとつやまの大地が抉れ、衝撃にデコボコ山道が崩れる。広がる波動に逃げ道はない。それは此方も同じだ。

 

 歯を食いしばり、来るべき衝撃に岩を壁にして耐える。

 

 ―――その間もスティングが突き進む。魂を燃焼させて描く軌跡であくのはどうを喰らいながらも突破し、羽を千切りながらイベルタルに肉薄する。あくのはどうを掻き分けて進むのに使った左の針が砕け散る。あくのはどうがスティングだけではなく、此方にも届く。岩を砕きながら到達する黒い波動が肉を抉り、削いでくるが、それを踏み込みながら抜ける―――最も痛いのはそれをほぼ根元で喰らったスティングの方なのだから。

 

 だから耐えて、踏み込んで、見上げて、右針を掲げたスティングに最善、必殺の指示を与える。

 

 それに応える様にスティングの持つメガストーンが共鳴限界へと達し、砕け散る―――宇宙より来訪したメガストーンのエネルギーが解放され、一瞬だけ、繰り出せるはずのエネルギーを容易に上回る。

 

「これが、トキワの奥義だ―――!」

 

 全身全霊、メガストーンが砕け、スピアーとなった状態で一撃が放たれた。それは的確にイベルタルの心臓を見抜いて穿ち、その胸に穴を空けながら背後、岩盤を貫通して破壊の痕跡を通した。限界を超えて戦い続けたスティングがついにその終わりを迎え、色素を抜かしながら落下して行く。その姿を掴むために走り、落ちて来る姿が大地にぶつかる前に回りこもうとする。

 

 が―――その前に大地が枯れる。

 

 命という命が吸い上げられ、破壊されて行く。イベルタルの心臓の穴が吸い上げられた命によって塞がって行く。それこそ活火山であったえんとつやまが一瞬でその命を奪われて行く程にそのドレインは凄まじく、そしてその視線は、戦意は、殺意は此方と、そしてスティングにのみ向けられていた。

 

 翼が大きく広げられ、そしてそれは禍々しい黒の色に染まっていた。ダークオーラを最大限に輝かせながらも、破壊の力が一気にイベルタルに湧き上がっていた。それは解りやすく言えば本気の一撃だった。どんな命であろうが、受ければ間違いなく絶命する、破壊という概念にだけ特化した伝説のポケモンの奥義。そう、奥義級。先ほどのトキワの奥義の伝説規模のもの。

 

 ―――即ちはデスウィング。

 

 落ちてきた、真っ白と燃え尽きたような色になってしまったスティングを受け止めつつ、此方へとまっすぐ向けられたイベルタルの悪意と視線ににらみを返す。その瞳の奥に見えたのは―――或いは敬意だったのかもしれない。どこからどう見ても虫けらとしか評価できないスピアーという種が一回、ほぼ殺害に近い状態までイベルタルという伝説のポケモンを追い込んだ事に対して。だからこそ、言葉を零すしかなかった。

 

「ほんと、良くやったよ―――」

 

 イベルタルの腕が限界まで広げられ、そしてデスウィングが始まる。

 

「―――()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 デスウィングが放たれる直前―――世界が歪んだ。あらゆる現象と摂理がひっくり返った。空間そのものが正しくある事を拒否してねじ曲がった。概念が真っ直ぐある事を否定して逆様に進行を進める。あらゆる事象は反転し、そして裏側の世界への扉が砕けた。絶対に勝利すべき運命が極限まで開かれ、そしてあらゆる状況、環境、摂理、その全てを砕く至高の雷霆が空に轟く。

 

 そして、

 

反 物 質 が 世 界 を 蝕 む

 

勝 利 の 星 が 輝 く

 

テ ラ ボ ル テ ー ジ

 

「お疲れスティング……お前が奴に敵として認識されたおかげで隙が作れたぜ」

 

 それは一瞬の決着だった。スティングは明確な敵としてイベルタルに認められた。だからこそ全力のデスウィングを放とうとした―――その瞬間、スティングと俺を破壊する事のみしか見えていなかったイベルタルには異界の侵略が見えなかっただろう。

 

 最初から数を揃えていれば間違いなくデスウィングで駆逐しに来た。その場合、どうあがいても被害は増えていたし、最悪泥沼の戦いになっていた。

 

 最初からツクヨミを出していれば間違いなく最大に警戒されていた。伝説という相手に対して本気の本気、生存のための闘争が始まる―――その結果を考えたくはない。

 

 油断させ、そして警戒させ、敵として認定させるための捨て駒が必要だった。

 

 その結果、テラボルテージによって全ての摂理を無視した反物質の奥義がイベルタルのいる空間を消し去る様に放たれた。

 

『―――これで無力化完了、っと』

 

 反物質の奥義によって両腕を消し飛ばされたイベルタルの姿が大地に落ちる。それを固定する様に出現したゴルカイザーが10m級の杭をイベルタルの体に上から二本打ち込み、その体を大地に打ち付ける。ゴルカイザーの肩の上にはダイゴが、そしてビクティニとナイトの姿があった。それを眺め、燃え尽きたスティングを肩に背負い、

 

「……ふぅ、終わったか」

 

 ため息を吐くしか……それしか出来る事がなかった。




 というわけで決着ー。被害とかはおそらく次回で。

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