俺がポケモンマスター   作:てんぞー

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スロット&ルーレット

「―――これ、どうしよ」

 

「どうしようかね……」

 

 目の前のテーブルには換金されたチップが置かれてあった。ギャンブルで使うのに必要なチップで、最少単位で10万だった。この時点で何を言ってるんだお前、って感じだったりする。だけど問題はポンとあの魔王系チャンピオンが投げてよこした金額は、そんな最少単位チップであっても重なって山に見える量だった。世界最高峰のカジノと言われるだけはあった。そして最低限これだけ無きゃ遊べないというのも良く理解したくなかった。

 

「普通、お小遣いでポンと1000万投げないよね……」

 

「というかこれだけないとまともに遊べないの……?」

 

「―――お客様、宜しいでしょうか」

 

 バニーガールが近づいてきた。その姿にビクリ、としながらやや声を震わせ、は、はい、と答える。後ろに逃げたヒガナがやーい、童貞やーい、と挑発してくるが、お前と交代してもいいんだぞ、と心の中で呟いておく。金髪のバニーガールは此方が困っているのを見て、色々とシステムに関して説明を始めてくれる。

 

「お客様、当キンセツロイヤルカジノは世界最高峰のカジノを謳っており、チップとはべつに、テーブルやゲーム毎に最少ベットレートが設定されています。たとえば彼方はポーカーテーブルですが、あのテーブルはワンゲーム、200万で、彼方のテーブルはワンゲーム50万から、という風なっています」

 

「ひえっ」

 

 カジノには色々とルールがあると聞いていたが、まさかこんなお金がかかるとは欠片も思いもしなかった。一度でいいからカジノに行ってみたいなぁ、とか寝言を抜かしていた自分を殴りつけたかった。もはや、自分の心には大量の金銭を消費してしまう事に対する恐怖しかなかった。オニキスはこれだけのお金をポンと投げて、本当に頭おかしいんじゃないだろうか?

 

「最少レートで遊ぶ事となりますと、ルーレットやスロットマシンの方がオススメとなります。どちらも10万チップから参加する事が出来ます。スロットは純粋に運との勝負になりますし、ルーレットの方は雰囲気を楽しむだけでしたら赤か黒、どちらか一方にベットすればお手軽にお楽しみいただけます。勿論、お手軽という事はリターンも少ないという事ですが……」

 

「……大人しくちびちびやります」

 

「えぇ、それが一番でしょう。カジノは人生を賭ける為の場所ではなく、日常の中で僅かなスリルを感じる為の場所です。適度に、身を滅ぼさない程度に手を出すのが一番でしょう。それではゆるりとお楽しみください」

 

 そう言うと笑みを残してバニーガールが去って行った。去って行くその姿を眺めていると、後ろからヒガナの声がした。

 

「―――いいケツと胸してたね……」

 

「緊張してた僕が馬鹿みたいだね……とりあえず1000万分あるから500万と500万で分けて二人で溶かそうか。うん、なんか成功するヴィジョンが見えてこない」

 

「そこで迷わず溶かすって言える辺り割と精神普通じゃないんだよなぁ……まぁいいや。折角だからブラックジャックでもやってこようかな。1ゲーム200万ぐらいで一気に溶かしてくるー」

 

「行ってらっしゃいー」

 

 2ゲームだけで大体終わるのだが彼女はそれでいいのだろうか? そんな事を考えながらカジノの二階部分を見れば、ガラス張りの壁の向こう側で酒を飲みながら老紳士と話しているオニキスが見えた。あっちはあっちで結構忙しそうに見える。普段は忘れがちだが、何だかんだで二地方のチャンピオン扱いなのだから、そりゃあ当然、重要な立場で、そういう話も出来る。普段はそういう姿を全く見せない癖に。

 

「……まぁ、スロットで適当に時間を潰そうか」

 

 お小遣い程度にお金が増えたら万歳、という事で。

 

 バニーガールに教わった事を忘れずに、レートが一番低いスロット台を選ぶ。基本的に1ラインで10万チップ1枚で、最大3ラインでラインを追加するごとにチップを1枚追加する。もっと掛け金の大きいスロット台はあるのだが、身を破滅する予感しかしないので、この一番安いスロットで遊ぶ事にする。とりあえず3ラインで遊んでると直ぐにスってしまいそうな気がするので、1ラインでスロットを開始する。

 

 10万チップを投入し、横のレバーを引く。回転し出すリールを眺め、変化する絵柄を見定める。

 

 ボタンを3回押し―――止めた。

 

 ―――7―――7―――B―――。

 

「……」

 

 惜しい、そう思いながら再びチップを投入してスロットを起動させる。だが先ほどのは偶然だったのか、今度は滅茶苦茶な絵柄だった。まぁ、こんなもんだよな、と思いながら一つ下のラインを確認する。

 

 ―――7―――7―――7―――。

 

「……」

 

 もう一度一つ下のラインを確認したら、スリーセブンが揃っていた。だが投入したチップは一枚。稼働しているのは中央のライン一つ。それを見て、無言で腕を組み、そして誘われるままにチップを三枚、投入した。そうやって3ライン全てを稼働させながら成程、と納得する。確かにこれはギャンブルにハマる訳だ。あと少し、という所で揃わないと、滅茶苦茶悔しい。

 

「……少しだけ本気出してやってみよう……!」

 

 

 

 

 イグニスとの話や交渉を終えてカジノに戻ってくる。さて、ガキどもはどんな調子かなぁ、と思っていると、まず最初に見つけたのはナチュラルだった。1ライン10万の一番安いのを延々と3ラインで回していた。やや作業的かなぁ、と思いつつもその表情は真面目で、真剣にスロットを相手にしているという事が解った。しばらくの間、後ろからその様子を黙って眺めていると、漸く気づいたのか動きを止めてナチュラルが振り返ってくる。

 

「わっ、驚いた。見てるなら言ってよ」

 

「いや、偉く集中してるもんだから邪魔するのも悪いかと思ってな。楽しいか?」

 

「うーん……楽しいというよりはいい暇つぶしになる? 計算して回せば損なく遊び続けられるかなぁ、って」

 

 そう言えば数理関係では天才的頭脳を持つ少年だったな、と思い出す。これだったらカードを全て覚えてさえいればある程度は安定するブラックジャックでもやらせれば結構儲けられそうだなぁ、なんて事を考えていると、ナチュラルの周りにヒガナがいねぇなぁ、という事実に気付いた。周りを見渡し、ヒガナの姿を探せば、ルーレット周りが物凄く賑わっているのが見えた。とりあえずはナチュラルを置き、ルーレットの方の様子を見に行く。

 

 大量の人が集まる中で、山の様に重ねられたチップが見える。その向こう側に見えるのは一人の少女だった。

 

「―――龍神様、龍神様、汝の加護を我に与えたまえ……!」

 

 ヒガナが勝手にレックウザの力を借りようとしていた。しかも感じからすると完全に否認されている気がする。それに気にする事なく、ヒガナがチップをオールベットし、ルーレットが回り出す。ヒガナが選んだのは赤の32。ボールが転がり、そして最終的に止まった場所は―――赤の32だった。

 

「レックウザ様の加護ぞある……!」

 

 これにはレックウザも困惑である。何やってんだこいつ、と思いながらもどうやら元手から大分増やしたらしく、積まれたチップを見るからに3000万ぐらいは持っていそうだった。次辺りスっちゃうかなぁ、なんて事を考えながらもう少し遊ばせておくかと思っていると、ヒガナがこっちに気づいた。今までの連勝の流れを完全に捨て、チップを全て回収するとピースサインを向けながらやってきた。

 

「私、将来ここに住むわ」

 

「まぁ、それだけツキがありゃあな。というか良くそれだけ当てられたな……」

 

「うん? まぁ、なんか、なんとなーく? どっちへ転がるか解るような感じがしたし」

 

 一応イカサマ対策にサイキッカーやエスパーポケモン、後警備用ゲンガーが店内に隠れていたりするのだが、それとはまた別の超直感、第六感とも言える野性的な部分で突き抜けているのかもしれない。羨ましい話だ、と思っているとヒガナが俺がギャンブルしないのか、と聞いてくる。いや、なんというか、

 

「基本的に俺は運が悪いからな。混乱で自傷ばっか引くとか。眠りの時間が長かったりとか。追加効果の上昇効果を引けないとか。まぁ、今じゃまだマシだけど、昔は割と酷かったし、ギャンブルは基本的に損をする前提でしか遊べないけど―――」

 

 まぁ、と呟きながらブラックジャックのテーブルを見る。アレだけなら収支プラスで遊べるかなぁ、という気持ちだった。少なくともポケモンバトルよりは脳を使わない。ナチュラルとヒガナが大損するようであれば、サクっとそっちで稼ぎ直そうかと思ったのだが、どうやら自分が思っていた以上にこの二人の子供は金運に恵まれていたらしい。

 

「まぁ、本当に金が欲しくなったらポケモンリーグから仕事を持ってくるか、出張で大会に出てくればいいからな。そうすりゃあ軽く数千万から億単位でお金稼げるしなぁ」

 

「改めて次元が違うよね」

 

「まぁ、2、3億あっても設備整えたり、投資や付き合い、研究とかでサクっと蒸発するからどれだけ稼いでも金は足りないもんよ。今だってホテルで数百万とかザラに使ってるからな。まぁ、俺達富裕層が金を大量に消費する事によって回る経済ってのもあるから、溜め込むんじゃなくて金はしっかりどっかで使えよ」

 

 まぁ、それはともあれ、と言葉を置く。ナチュラルの方も小金ではあるが、マイナスではなくプラスで終わらせる事が出来たらしい。基本的に優秀だよなぁ、お前ら、羨ましいと思いつつも換金所へと向かいつつ、話を進める。

 

「とりあえず今夜はイグニス氏の好意で最高級ホテルに部屋を貰った。そっちで一泊してからフエンの旅館に戻る。だから今夜はヒルズ内だったら好きに遊び回ってもいい。ただ、それとは別にキンセツで大規模大会をやる事になって、俺もゲストとして参戦する事になった。だからそっちの準備も進めていくぞ」

 

「え、大会あるの?」

 

「俺は免除されるが予選ありで最終的に10人規模の総当たり形式の大会がな。それをさっきイグニス氏に申し込まれ、相談してたんだよ。レギュレーションとかを含めて、な。まぁ、相変わらず拠点はフエンの旅館になるけどな。移動はテレポート屋を雇ってサクっと終わらせる」

 

 キンセツシティのジムリーダーテッセンは参戦ほぼ確定、現在のアローラ代表として、そしてこの世界に対してアローラ地方をアピールする為に来たククイ博士も確定枠だ。驚いたのはイッシュ地方の四天王、ギーマが普通にカジノの高額レートテーブルで遊んでいた事で、そして参戦するという話だ。遠征組である以上、彼は予選を通る必要があるだろう。とはいえ、ほぼ確実に突破してくるだろうとは思う。

 

 それに加え、規模はマスターズ級、つまりはポケモンリーグやそれに匹敵する最上位リーグクラスの規模と決定されている為、PWCへと向けた調整や情報収集の為には非常に良い場所となっている。何よりも自分も、新しく調整された面子の様子を見る機会だと思っている。全ての手持ちが異界の展開に適応出来た訳ではないし、全てがそうする必要はない。基点とする異界は2、3あれば良い。バウンスが異界を展開出来たってそこまで意味がある訳ではないのだから。

 

 ―――ともかく、

 

「練習試合を探していたつもりだが、思わぬ掘り出しものだった。俺は早速ポケモンリーグに申請したりしなきゃいけないし、忙しくなるな」

 

「凄く楽しそう」

 

 そりゃあ勿論そうだ。面倒な仕事は多いし、雑誌取材に応えなきゃいけない事はあるし、自由な時間だって大きく減るだろう。それに何時死ぬのだって解りもしないし、義務も多く存在する。それでも好きなんだ、

 

 ポケモンバトルが。

 

 全力で鍛え上げ、導くポケモン達と戦うあの舞台が何よりも。だから、

 

「ま、苦にはならないさ」

 

 苦笑しながら今夜の宿へと向かう事にした。




 という訳で大会はいりまーす。意外と金運のあるガキ共。そして次回から大会準備で。情報公開+作戦会議って感じっすな。

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