「―――やっぱりPWCへと向けて、ポケモン協会も相当苦労しているみたいだな」
新しいリミットとレギュレーションが出されてきた。今回のは寧ろ、キンセツロイヤルカジノ杯へと向けた調整だろう―――なにせ、これが世界で初、アローラが他の地方と公式大会に出場するものとなるのだから。リミット、レギュレーション、そして
主な要素はシステム的な制約による戦闘時に使える技数の制限がある為に覚えている技を付け替えて戦いに挑む必要がある事。ポケモン一人が保有できる身体的や概念的なスキルとは別に、育成によって習得した固有スキルの保有数の制限と特性の保有制限。そして一部のポケモンが保有して良い技の制限だろう。まぁ、妥当な所だと個人的には思っている。今回のシステムアップデートによってポケモン・トレーナー共に色々とやりやすくなったなとは思う。
後は専用能力の発達、発掘、開花の話だ。
アローラという環境はシステマチックなバトルをしているこのカントーを中心とした地方とは違い、非常にカオスで自由な環境を持っているという。その風土柄、異能型トレーナーの数が非常に多く、そしてそれが影響して
―――Zワザ、専用スキルである。
通常に習得している技とは別の領域に専用スキルを異能を通して格納し、トレーナーとポケモンの結びつきによって発現させる、そのポケモンのみが習得する専用のスキルと言えるものとなっている。この専用スキル領域を確保する事によってZワザ等の奥義級の技をポケモンに個人的に覚えさせているらしい。育成家としては非常に気になり、そして驚かされる話だった。
アローラの環境は此方とではまるで違う為、非常に良い刺激になった。ククイもどうやら育成研究畑の人間らしく、カジノではついつい話し込んでしまった。その事もあり、この大会では間違いなく、新たなアローラ文化がバトルに取り入れられるだろう。というか既に取り入れた。新しいレギュレーションを守る様に既に黒尾だけは先行させて育成を終わらせておいた。シドもそこらへんは非常に楽だった。こういう時は育てやすいポケモンがいる事が喜ばしい。
ともあれ、アローラ地方からククイが持ってきたデータを参考にしつつ、とりあえずは黒尾とシドだけ、専用込みでの育成が完了した。既にポケモン協会に提出済みで、此方も許可を得ている。ちなみに黒尾の専用はこうなっている。
『異界:奈落に咲く煉獄の花』
60秒間(6T)の間、異界のみで上書き可能なら領域を形成する
領域展開中の間に回復効果が発生した場合、その効果を反転させる
1試合1回
効果はシンプルに回復の反転化となっている。たべのこし等を使った居座り、或いはじこさいせいやオボンのピンポイント読みで使えば一気に相手をそのまま自殺へと追い込む事も出来る。それだけではなく、黒尾が回復の反転が出来るという情報が相手に伝われば、それだけで相手は手持ちから回復効果を使えるポケモンを入れづらくなる。奇襲であっても美味しいし、バレても問題なく牽制になるという専用、異界効果になった。そして二つ目、シドのはこういう形になった。
『Nightmare Parade!』
悪タイプ、特殊、威力240、命中100、非接触の音技を繰り出す。奥義技
ダメージが超過した場合は並び順で次のポケモンに対して超過分のダメージを発生
1試合1回
此方はどちらかというと奥義、アローラで言うZワザに近い形になっている。アローラでは異能の才能がない人間はZクリスタルをポケモンに持たせて補っているらしいが、それ以外の人間は異能を使った拡張領域にポケモンにこういうスキルや技を覚えさせている為、そのやり方を真似たものになる。
「―――ま、どうせ他の連中も今頃は似たような実験や育成を試してるか」
アローラからもたらされた新たな環境の変化、それは今の固まった環境をまぜっかえす手段となる。場合によってはジャイアントキリングさえできるかもしれない。それだけのポテンシャルがアローラからもたらされる概念にはあった。故に、自分にも使えないかどうか、他の所も必死に試しているところだろう。
「とりあえずは次の大会に参加する面子を選出しなきゃなぁ……」
メイン6のサブ2で合計8体までの選出がカジノ杯では決まっている。現在、自分の手持ちで参加できるのは黒尾、シド、カノン、ナタク、氷花、メルト、ピカネキ、ミクマリ、ダビデ、そしてナイトの合計10体だ。スティングは流石に無理があり過ぎるので出場不可能。つまりこの10体の中から参加する8体を選ばなくてはならない。
まず黒尾、シド、メルトは確定だ。最近のバトル参加の事を考えればダビデとミクマリも出しておきたい。となるとアタッカー不足を解消する為に必然的にナタクが入る。後はカノンは正直現時点では隠しておきたい部分があるので出場を外し、ピカネキとナイトを実験する意味で投入。
不参加は氷花、カノンでそれ以外で参戦という所だろうか。スティングがいないとメインアタッカーがナタク一人に集中してしまうのがやや痛い編成だな、とは思う。とはいえ、チャンピオンの意地でこれぐらいの事はこなしてみせる。
「さて、出場確定しているので問題は―――」
ギーマ、テッセン、ククイの三人か、と息を吐く。
ギーマに関してはイッシュ地方の四天王という経歴があるだけに、ビデオを取り寄せればそれで対策も出来る。悪系統を好むギーマは生粋のギャンブラーで、奴は一つ、物凄くめんどくさい固有の異能を持っている。
12面サイコロを用意し、ダイスを振った結果を発動させる。ギーマが保有するこの異能で、既に確認されている効果は以下の通りだ。
1:必中を付与する
2:攻撃が急所に当たる
3:攻撃を回避する
4:攻撃を耐える
5:相手をくろいまなざし状態にする
6:てだすけ状態になる
7:マジックコート状態になる
8:優先度が+1になる
9:状態異常を回復する
10:体力を完全回復する
11:身を守る状態になる
12:一撃必殺を付与する
これだけを見れば凄まじいレベルで優秀な能力だろう―――だがここはギャンブラーらしく、
まぁ、ギーマは悪統一しているだけまだマシだ。何せ、格闘技の一貫性が非常に高い。こうなってくるとナタクとピカネキでそれぞれ3タテすれば問題なく勝利できるだろう―――そこまで甘い相手ではないが。ともあれ、此方はまず間違いなくイカサマダイスを持ち出してくるだろうが、対策は比較的に楽だ。年代もそう遠くはないから、純粋にトレーナーの腕前としての勝負になる。問題はククイとテッセン―――テッセンからだ。
キンセツシティジムリーダーテッセンは電気タイプの統一パーティー使いだ。それなりに年季が入っている他、電気統一としては非常に完成されたパーティーを持っている。テッセンの個人用パーティーは完全な電気統一ではなく、
この上で磁力の性質を使って鋼タイプの素交代不可の付与、そして鋼破壊の技を使ってくる。
流石に長い間ジムリーダーとして一線を張っているだけあって、かなり恐ろしく優秀だ。
そして最後にアローラのククイ。彼は手持ちのほとんどがアローラ地方独自のポケモンで構成されており、当然ながら
割と真面目な話、燃えてくる。
「ま、メタ読みによる対策は元々無駄な話だな、この領域に入ると……」
後はどれだけ相手の構築に対して、サブを含めて編成で戦術的に崩せるか、という点になるな、と思う。
「問題はナタクが落ちたら火力が一気に落ちる事か……いや、これはまだ何とかなる。だけどパーティーコンセプトを変えた結果スキルでの交代が減ったからテッセンの磁力拘束から逃れられない可能性の方が上がってきたな。ミクマリが出来るけどタイプ的な問題で相性は良くない。となるとそれを考慮して上から叩く必要があるか……」
呟きながら本土の方から送らせた資料を睨む。さて、頭の中に相手の指示や動きのクセを徹底して叩き込まなきゃな、
「お―――?」
と、思った所で、思考を中断する様に腹に黒い尻尾が巻き付いた。あららら、と声を零しながら資料を手放すと、ポケモン特有の剛力によってあっという間に持ち上げられ、更に追加で尻尾を巻きつけられ、そしてそのまま、後ろへと―――床に敷かれた布団の上へと引っ張り出されてしまった。その犯人である黒尾は後ろから抱き着く様に両腕を回し、逃がさないように尻尾を巻き付け、包囲網を作ってしまった。
「黒尾や、俺は今忙しいんだが」
「ここ数時間、休ませようとするたびに同じ言葉を繰り返すので強制的に休みです。時間が足りず、熱中しているのは解りますが、私の主としてその健康も大事にしてくださいね?」
「む」
「全く、歳は重ねても中身はまるで子供のままですね」
「そう言ってくれるな」
体から力を抜いて、黒尾のそのもふもふの尻尾に包まれながら息を吐く。何時もの事乍ら、こうやって全身を彼女の尻尾に沈めていると、その感触とは別に、安らぎや安心感とも言えるものが心に満たされて行く。あぁ、そう言えば黒尾に魂を食わせていたな、と思い出す。子供の頃は特に考えもしなかったけど、大きくなってポケモン図鑑を確認したり、情報を集めると意外と物騒な情報で多かったりするよなぁ、とも。とはいえ、黒尾との件は完全に合意なのだが。
「主?」
「いや、なんでもない。お前と一緒にいると落ち着くってだけの話だ」
「やるべき事が多いのは解っていますが、それでも倒れでもしたら困るのは貴方だけではなく周りもそうである事を自覚してくださいね? 年齢だけを見るなら十分に大人と呼べる年齢なのですから」
「あぁ、いや、解ってるさ。ただな、新しいものに触れるとどうしても興奮してしまってなぁ」
アローラの持ち込んだバトルの新概念は本当に面白いのだ。それに新しい技まで存在していた。これはきっと、俺が知らない世界の続きなのだろう。俺が此方へとトリップしてから新たに販売されたシリーズか、或いは純粋に世界はその程度ではなかったという話だ。だから、心の底から安心した。
世界は終わらない。まだ未来が残っている。
オメガルビー、アルファサファイアと呼ばれる物語が終わりを迎えても、消える訳じゃないのだ、と。俺の今までの苦労とケジメにもちゃんとした意味があったのだと、漸く答えを得た気分だった。
「明日が開会式で、予選が三日、そこから本戦開始まで四日の猶予がある。つまりは一週間程、俺の出番まで時間がある」
「それまでにどれだけアローラの専用の概念を取り入れられ、新しいシステムに適応させられるか、が勝負ですね?」
あぁ、と黒尾に答えながら目を閉じる。とはいえ、そろそろ脱落しそうなのもいるのも事実だし、スティングの治療もどうにかして見つけないといけない。アレはまだ心が折れていない。まだ戦えるつもりで
「ま、俺も育成力5段階評価の内、6段評価―――規格外評価を食らってるんだ、間に合わせて見せるさ」
最高のバトルを求めて。戦うのが好きなんじゃない。勝つのが好きなんじゃない。全力と本気を出しつくした上で勝利するのが好きなのだ。ポケモンバトルでだから、全力を尽くしたい。それが今の、己の人生の全てだ。
その為にも、サクっと優勝トロフィーは頂いて行こう。
という訳で休載している間にポケマススレを参考に裏でデータを再構築してた。やっぱテンプレの出来上がってるところは参考にするとデータ作りやすいかなぁ、って。
前々はもうちょっとフレーバー的にポケモンバトルをしていましたが、今回からはキチっとしたデータ作って、数値部分は曖昧にしているけど出来る事、出来ない事に関してはハッキリとした風にデータ固めました。サンプルの方がツイッターのログにあるので、興味のある人は其方へ。正直公開するかは迷ってる。まぁ、今までやってきてないしやらなくてもいいかなぁ、とは思ってるけど。
敵側のデータもちょくちょく作成しているし。
ちなみに今まで浸かっていた二律背反はデータ化するとこんなもんです。
『歪み捻じれ並ぶ二律背反』
フィールドや天候等、本来であれば発動する場合は上書きして発動する物を重ねて同時発動させる事が可能となる。
この異能は上書きが発生する時に宣告する事によってその効果を発揮する事が出来る。
1試合3回
まぁ、データスッキリさせたので前とは勝手が違ってますが、競技としてのポケモンバトルとしてはもっと読みの深さとか出たんじゃないかなぁ、って思う。