俺がポケモンマスター   作:てんぞー

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キンセツロイヤルカジノ杯

 ―――キンセツシティには一つの巨大なスタジアムがある。

 

 無論、それはキンセツシティのものでありながら、ヒルズに住まう者達が資金提供した影響で無駄に豪華に、そして大きくなったポケモンスタジアムだ。だがそれだけスタジアムの機能としては信頼できるという事でもある。バトルの殿堂。それぞれのリーグが保有する最大スタジアム規模のキンセツスタジアムは、大規模なバトルを行える、ホウエン地方屈指のスタジアムとなっている。そんなキンセツスタジアムは凄まじい規模の観客で溢れかえっており、座れる席は全て埋まっていた。それだけではなく立ち見に漕ぎつける者までおり、ホウエン地方だけではなく、他地方のメディアまで入り込んでいた。客席を見ればそこらに紛れ込んでいるレポーターとカメラマンの姿が見える。

 

「―――やれやれ、大騒ぎになっていますね、イグニス氏」

 

「えぇ、喜ばしい事ながら、誰もが注目していたのでしょう。アローラ地方とそれによって変わってくるポケモンバトルの環境を実際、私も全く興奮を隠せませんよ、この大会で繰り広げられるバトルを思うと。私もトレーナーとしての才能があれば良かったのですがなぁ」

 

「いえ、イグニス氏は此方の才能があったからこそ今のバトルを盛り上げられるので、悲観する事はないかと」

 

「ははは、嬉しい事をおっしゃってくれますなぁ。では開会の挨拶を行いましょうか」

 

 イグニスの後ろを付いてスタジアム全体を見下ろせた貴賓席からスタジアム内へと移動する。所々に感じるガード等の気配を察知しつつ、ナチュラルとヒガナの方は大丈夫かと少しだけ、心配する。あの二人はこういう大舞台に全く慣れていない。いや、バトルの場となれば話は変わってくるだろう。だが開会式の挨拶に参加出来る程神経は太くはない。

 

『まぁ、何だかんだで中身は子供だからな、二人とも。まだまださ』

 

 再育成の完了したナイトにそうだな、と息の下で答えつつ、関係者席で今頃ジュースでも飲んでいる二人の姿を想像し、軽く笑い声を零した。まぁ、子供は笑っていられる方が良いだろう。変な苦労は此方である程度、潰れない程度には請け負えばよい。そんな事を考えている内にスタジアムの上部から降りてグラウンドフロアへと下がり、そのまま関係者用通路を通る。スタジアム中央へと繋がる通路の入口で、足を止める。

 

「それでは私は此方の方で」

 

「えぇ、お呼びするまでは少々お待ちください。それでは開会式の挨拶を始めてきますな」

 

 スタジアム中央へと向かうイグニス氏を見送りながらも、小さく呟く。

 

「ツクヨミ」

 

「敵の気配も形跡もないから大丈夫よ? ヤー子がいるおかげで完全な警戒態勢は出来てるし」

 

 ガードが此方へと視線を向ける。しかしそこには誰も存在しない。既にツクヨミもヤベルタルも、次元の向こう側―――やぶれたせかいへと姿を隠している。人間や並のポケモンでその姿を探し出す事は不可能だ。一応、あのフーパ使いの事を警戒しているのだが、最近は全く気配を感じない……何か別の事に着手しているのだろうか? ともあれ、スタジアム中央に到達したイグニス老へと視線を向けた。マイクを手に、この大会の開催経緯を彼は口にしていた。

 

「―――私は、ポケモンが好きです。子供の頃はポケモンマスターになるのだと憧れた一人でもありました。ですが、そうするには私は決定的にトレーナーとしての才能に恵まれませんでした。ポケモンをまともに育てられず、バトルの読みも下手で、ポケモンを同時に指揮する事も出来ませんでした。私は、トレーナーになれませんでした」

 

 それは有名な話だった。彼はポケモントレーナーとしての才能に恵まれなかった。だからこそ、

 

「私は、バトルが好きです。ですが結局の所、自分が戦うのではなく、バトルという行い自体が好きだと解りました。皆さんも解る筈です。極限まで鍛え上げられたポケモン達をトレーナーが最善を得る為に相手の動きを読み、出し抜こうとし、指揮し、そして技を突き刺そうとするあの勇姿が、あの熱狂が私は忘れられませんでした。応援しているトレーナーが頑張る姿を見ているとまるで自分が戦っているような気分になりました。私は、トレーナーではありません。才能がありませんでした。ですが、そんなトレーナー達が安定して戦い続けられる環境を創る事が出来るかもしれないと私は思ったんです」

 

 それがこの老人の人生だった。

 

「ポケモンバトル、その環境維持、団体の管理、多くの面で金銭を必要とします。ですから私は毎年、多額の寄付をポケモン協会へと行っています。何故か? 答えは簡単です―――私がポケモンバトルを愛しているから。それだけです。ええ、そしてそんな道楽が興じて、ついにはこんな大会まで個人で開催する様に至りました。ですが今大会は私の道楽だけではありません」

 

 皆、知っている筈です、と言葉が置かれた。

 

「―――ポケモン・ワールド・チャンピオンシップ、通称PWC」

 

 その言葉に会場内の沈黙が破られ、ざわめきが起き始める。やはり知っている者は知っていたらしい。ある程度協会の方から情報がリークされているが、世間一般で確実に認知されている訳ではなかった。こうやって明確にマスメディアに公開されるのは初めての出来事ではないだろうか、漸く、本当のPWC開催の情報が、そのベールが解かれた。

 

「2年後、アローラ地方でこれが開催される事になります。既に参加資格のある地方チャンピオン、四天王、地方リーグ優勝経験者はこれを通知されており、2年後の大舞台に向けてポケモンの育成と経験の取得に走っています。えぇ、もうお分かりいただけたでしょう。このPWCは今までのものとはまるで違います」

 

 ざわめきの中で、彼の声はマイクに乗って強く響いていた。

 

「現在のポケモンマスターの称号はそれぞれのリーグがチャンピオンやチャンピオン討伐者に対して与えられる名誉の称号です。ですがこのPWCは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()そうです。この意味が解りますかな? えぇ、そうです。本当に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という大会でもあります」

 

 ポケモンマスターの称号の返却、それは大きな波乱を呼ぶだろう。だが、それで文句を言うような奴は純粋なトレーナーではない。

 

 ―――ポケモントレーナーとなったからには、ポケモンマスターを目指す以外の選択肢はない。

 

 その為に今の名誉を返却する何て事、問題ですらない。

 

「―――故に、私は此度、PWCの先駆けとして、世間の皆さんに2年後に開催されるアローラという地、そしてその環境の違いを肌で感じて貰いたいと思い、ゲストをお呼びしました。……ククイ博士、どうぞ登場お願いします」

 

 イグニスの呼びかけに応じて、一瞬の吹雪が発生する。イグニスを囲む様に発生した竜巻の様な吹雪は空に大量の結晶をばら撒きながら、消えるのと同時にその中央に新たな姿を見せる事となった。そこに出現したのは褐色肌のラフな格好をするアローラ出身のトレーナーにして博士、ククイの姿だった。その横に立つのは白く、そして尾の形状が違うキュウコン―――アローラにしか生息しない、アローラという土地に適応したリージョンフォームのキュウコン、アローラキュウコンだった。その美しさはカントー等で目撃するキュウコンに匹敵し、幻想的な光景と合わせ、一瞬でスタジアムの人々から呼吸を奪った。

 

 その中で、ククイはマイクを受け取った。

 

「やあ皆さん、アローラ! あぁ、アローラというのは僕が来たアローラ地方における一般的な挨拶です。そういう訳で、僕がアローラ地方でポケモンの生態と、そして技に関する研究を行っているククイ博士です。今回は暫定的なアローラ代表という地位を得て、このホウエン地方までイグニスさんの招待もあって遠征してきました……ですが、皆さんが興味あるのはそういう所ではないでしょう」

 

 頷きと早く教えろ、という声が響いてくる。それを聞いてククイが苦笑する。

 

「えぇ、ご覧のとおり、彼女はキュウコンです。ですが普通のキュウコンではなく、アローラにしか生息しないアローラキュウコン、と呼ばれる地域によって異なる進化を得たキュウコンです。此方の地方では炎タイプのキュウコンが一般的らしいですが、此方ではフェアリーと氷タイプの複合タイプのキュウコンが見つかります」

 

 ククイの話を聞いて思う。絶対にドラゴンを殺すという殺意を感じさせるタイプ相性だな、と。アレで基本的な特性がゆきふらしらしいし、氷統一かあられパの利用者が凄まじく歓喜しそうなポケモンだよな、と思う。

 

「えぇ、ご覧のとおり、アローラでは独自の進化を得たポケモンが多いです。それだけではなく、環境に合わせてバトルの環境、そして人々の資質まで大きく違います! そう、全く違うんです! ここ、ホウエン地方と、そして僕がやってきたアローラではまるで環境が違う! 学者として、ポケモントレーナーとしてこれまでに興奮する事はあるでしょうか? 私はアローラが他の地方の環境、文化に触れる事によっておきる新たな環境がとても楽しみでしょうがない! きっと、ポケモン達もその変化を受け止め、新たな進化を見せてくれるに違いないと思っている!」

 

 ククイの言葉にスタジアムが熱狂し始める。いや、既に熱狂している。アローラ地方はリゾート地としては話題に上がるが、ポケモンバトルとは程遠い場所にあった為、環境の事に関してはほぼ未知の領域だ。その中で熟成されたアローラのバトル文化がこの最新の世界でどういう影響を与えるかを、誰もが想像している。

 

「そういう事で、僕は改めて今回、参戦できる事を誇りに思う。そして同時に、ゼンリョクの超熱いバトルが出来る事を信じている! なぜなら―――」

 

「えぇ、最後のゲストに出て来て貰いましょう」

 

 此方へとイグニスが目配せしてくる。それに従い、帽子を片手で抑え、黒いコートを揺らしながら歩いてスタジアムに出る。既にホウエン地方を歩き回って姿が露見しているとはいえ、堂々と大会に出場するとは思わなかったのだろう―――この姿がスタジアムに出現するのと同時に、様々な歓声が爆発する様に響いた。心地よい、観客たちの声だ。それを受け止めつつククイとイグニスの横まで歩いて進み、待っている間に受け取ったマイクを持ち上げる。

 

 開いている左手で帽子を押さえたまま、低く声をマイクに通す。

 

「―――静粛に」

 

 瞬間、全ての声がスタジアムから消失した。

 

 統率とは即ち()()()()に通じる。異能がフィールドや異界となったのも大きく影響したのは支配、統率、指揮、という資質に影響を受けてのものだと思っている。そして観客とは統率者にとっては味方でありながら敵であり、バトル中に支配す(魅せ)る存在である。故にこのぐらいは容易に出来る。

 

『スティング使い潰した辺りからここらへん、貫録が非常に出てきたな。大分ボスに近い感じだ。プライベートじゃまだまだだけどな』

 

 あの背中にはまだ遠い。そう思いながら、口を開く。

 

「俺の名は―――もはや言うまでもないだろう。見れば解るだろう、俺が誰であるか、なんて。そんな事は欠片も重要じゃない。それは今、俺を見ている貴様らだからこそ解る事だ。あぁ、正直に言おう。俺にもPWCの誘いは既に来ている。そして既にその準備や調整を進めている……無論、この大会も俺のパーティーの調整や実験で参加するつもりだ。この意味が解るか?」

 

 スタジアムからは声が起き上がらない。此方の声に従って沈黙を保っている。

 

「俺はPWCに出る。貴様らはどうだ? 出るのか? 或いは出たいのか? どちらにしろ、出るのであれば―――貴様らは()()()()()()()()()になる。或いは()()()()()()()()()、それを計るいい機会でもある。貴様らとて、滅多な機会では挑めぬ頂きと勝負するチャンスだ。逃したくないだろう? 逃す訳もないだろう。賞金だとか、偵察だとか、忘れてかかって来い、俺は常に全力で戦える挑戦者を求めている。貴様らが真に俺の好敵手たり得るか、それを確かめてやる」

 

 顔を持ち上げ、スタジアムを見渡す。大量の観客たちが此方へと視線を向ける中に、幾つか闘争心の入り混じる視線を感じる。

 

 基本的にチャンピオンは自由に大会に出場し、戦える訳じゃない。今回は本当に特別な舞台となっている。その為、経験を重ねるチャンスなのは俺だけにとってではない。

 

 この大会に参加したトレーナー達にとって、世界最高峰のクラスを感じ取り、どのラインを目指せばいいのかを理解する為のチャンスである。セキエイリーグも良くも、まぁ、これを許可した。やはり、出資者をないがしろには出来ないという事だろうか? どうでもいい話だ。

 

 俺も新しい戦術、構築、自分の資質と向き合い、競技場で試せる。

 

「残念ながら俺の予選は免除されている。故に俺と戦いたい者は勝ち抜き本戦で会おう―――以上だ、俺にホウエンの流儀とやらを見せてくれ」

 

 歓声が爆発した。この様子を見るに、相手の心配を考える必要はなさそうだった。果たして参加者たちの目からはどういう風に映るのだろうか? 頂点に立つ憧れか、打倒すべき魔王か、はたまた自身と競い合う好敵手か。

 

 どちらにしろ、

 

「楽しみにしている」

 

 それは本心の言葉だった。




 ポケマススレ式にデータあ大分近くなったんで、どこまで見せて良いものか困っている……が、まぁ、次回は予選の様子+戦闘準備です。

 皆も現在の選出8体でククイ、テッセン、ギーマ相手に誰と何の道具を選出するか、考えてみよう。カノン・スティング抜きの選出なので打撃力はナタクとピカネキしかないというのがポイント。

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