俺がポケモンマスター   作:てんぞー

7 / 72
トウカシティ

「―――うし、トウカシティ到着だな」

 

 102番道路を抜けてトウカシティへと到着する。カナズミシティとは違って、トウカシティはそこまで開発の手が伸びていない。その為、街中でも緑の姿をよく見かける事が出来る―――自然の多いホウエン地方の中でも、そこそこ多い方だ。一番は間違いなくヒワダタウンなのだろうが、あそこはもはや完全に違う様なものだ、勘定に入れるのは違うだろう。目的地へと到着したし、さっそくトウカジムへと向かわせてもらおう。その前に同行者を確認する。

 

 一人目、ナチュラルくん。完全な敗北を経験したせいか若干昔のレイプ目が復活している。

 

 二人……目? ピカネキ。葉巻を優雅に咥えながら上半身をブレさせない歩みで直ぐ横をマークしながらついてきてくれている。さっそく理解の限界を突破してくれた。もう何も考えずにそういう生き物だと思って諦めよう。レイプ目で歩みがおぼつかないナチュラルを肩に担いで運ぶようにピカネキに指示し、そのままトウカジムへと向かう。

 

 トウカシティの住民がショックと驚愕の表情を受けながらピカネキと晒し者になっているナチュラルへと視線を向けるが、写真を撮ってSNSへとアップロードする様な鬼畜精神の持ち主は存在しなかったらしい。なんて優しい世界なのだろうか―――俺は写真を残すが。

 

 そんな事を考えながら、新たに荷物持ちというジョブを取得したピカネキが上半身を一切ブレさずに荷物と荷物(ナチュラル)を運び、トウカジムへと向かう。ジム内部からは人の気配を感じるが、それも一人だけだ。いるな、と判断した所で迷う事無くジムの自動ドアを抜けて、ジム内部へと入る。

 

 扉を抜けた先にはジムのロビーがある。そこは道場風の内装になっており、実家近くのエンジュシティの事を思い出させる。周りへと視線を向けるが、受け付けのカウンターにも、ここでトレーナーにアドバイスを送るアドバイザーの姿もない。まだまだ、ジムとして始動したばかりの姿をしている。ジムの仕掛けも、おそらくはまだ起動していないのだろう。となると奥へ行くのは楽だろうが、そんな事をする必要はない。

 

 数秒間、何かをするわけでもなくそこで立っていると、

 

「すまない、待たせたな―――」

 

 そう言って奥の部屋から若い男の姿が―――トウカジムのジムリーダー、センリの姿が現れる。何て事はない。センリもポケモンリーグで勝ち抜いてくるだけの実力を誇る男だ、少しだけ、闘気を垂れ流せば、敏感に闘争の気配を察して反応してくるだけの事だ。だからそれを利用し、言葉も使わずにセンリをジムの奥から呼び出したのだ。そして出てきたセンリは此方の姿を両目で捉えると、驚いたような表情を浮かべ、そして笑みを浮かべる。

 

「これはセキエイチャンプ!」

 

「久しぶりセンリ。……つっても前シーズンぶりだし、たったの数か月の話だな」

 

「えぇ、久しぶりです。まさかホウエンに来ていたなんて―――公務ですか?」

 

「いや、ちょっとした趣味と修行だよ。ついでにオダマキ博士にスパー相手を頼まれたからいっちょ、暇なら相手でもしてもらおうかと思うんだけど……既に報酬を押し付けられちゃったし」

 

 視線をピカネキへと向ける。それに釣られる様にセンリも視線をピカネキへと向ける。視線を受けたピカネキが葉巻を加えたまま、ピカチュウの愛らしい顔で笑顔を浮かべてサムズアップを向けてくるが、その肉体が全てを台無しにしていた。しかも耳から煙が少し漏れている。お前の体内構造どうなってんの。

 

「……なんかすまない」

 

「……慣れたしいいよ」

 

 頭の中でオダマキの笑っている表情が思い浮かぶが、このオニキス、セキエイチャンピオンは決して受けた恩と恨みは忘れはしない。覚悟しておいてほしい、一番いやらしいタイミングで爆発させてやるから。ともあれ、センリへと視線を向け直し、どう、と視線で聞く。それにセンリが頷いて答える。

 

「助かりました。一戦、本気でポケモン達を動かしてから細かい調整とかを入れたかったんです。実はホウエンに来る前にジョウトの方で二人ほど既に調整段階に入ってしまったので、残りは四人程になるんですが……4:4でかまいませんよね? ルールはレベル無制限の公式で」

 

「俺は問題ないさ。どんなルールでも勝利するだけだしな」

 

 そういうとセンリが戦意ある表情を浮かべる。恐らくセンリは”ホウエン最強クラスのトレーナー”だろう。ホウエン四天王に迫るレベル、或いは匹敵するレベルのトレーナーだ。6:6で勝負する事が出来ないから完全な本気とは言えないが、それでも勝負するだけの価値は間違いなくある。頭の上の帽子を軽く押さえ、深めに被り直しながら小さく笑い声を零す。駄目だ、やっぱりトレーナーという生き物は業が深い。

 

 強敵との戦いを前にすると血が沸き立つ。

 

 数年前までは自分が追いかける側だった。

 

 今は追いかけられる側―――引きずり落とされようとする側だ。

 

 殺意が籠ってしまう程に全力でポケモンを指示するトレーナーと戦うのは―――楽しい。

 

 センリがジムのフィールドの場所、その場所への進み方を教えてから姿を消すように先に奥へと進んだ。此方が気にする事なく面子の選択と道具のセッティングを行える様に、というセンリの配慮なのだろう。別にそこまでする必要はないのに、と思いつつ頭の中で今回のバトルに使用するポケモンを決めて行く。センリは、トウカジムは”ノーマルタイプのジム”だ。つまり、センリは間違いなくノーマル統一で戦って来る。まぁ、ある程度センリの手持ちは割れている。だからまず間違いなく出てくるポケモンを知っている。

 

 ―――それを考慮し、メンバーを選出する。

 

 黒尾(きあいのタスキ)

 メルト(だっしゅつボタン)

 カノン(いのちのたま)

 ナタク(たつじんのおび)

 

「―――ま、こんなところだろう」

 

 ノーマルタイプのポケモンの技で一番採用率が高いのがノーマルと格闘タイプの技だ―――と思ってはいけない。近年のポケモンバトル環境において、優秀なサブウェポンを教える事が段々とだが広まっているし、センリもそこは初心者じゃない。対面不利、或いはゴースト相手でも落とせる様に優秀なサブウェポンを積んだポケモンを持ってくるだろう。まぁ、それでも格闘とノーマル技を交代受けで無力化させられる氷花をパーティーに加えない理由は簡単だ。

 

 ”甘え”だ。

 

 甘えはトレーナーを腐らせる。もっともっと自分を追い込まなくてはならない。安易にメタパを使って勝利するなんて事は成長に繋がらない。苦境ではない、対等な”血闘”こそがトレーナーを磨く何よりもの研磨剤なのだ。だから残念ながら氷花の採用は見送り、ミクマリは特殊受けと支援サポートを考えたポケモンだが4:4の状況だと状況が早く動きすぎてかえって使いづらい、ダビデの採用はセンリが相手だと少々火力が足りなくなってくるから採用見送りだ。最後にスティングだが、聊か相性が悪いだろう、というのもスティングの耐久力はそこまでは高くはない。ノーマルタイプに昆布戦法は行えないが、それでもセンリのエース、天賦のケッキングを相手にするとなると恐らく毒を一回ぐらい無効化して来るだろう。となるとその隙に殺されてくる。

 

 となるとパーティー面子は固定される。

 

 先発で天候を夜に変える事が出来、尚且つ対面する事である程度相手の能力を看破できる相棒の黒尾。このパーティーで天候に関しては一番適応と適性を保有している、ウルガモスの特異個体であるカノン。超重量級で物理と特殊両方の受けを担当できるヌメルゴンのメルト。そして最後に、このパーティーで唯一タイプ一致で弱点を攻める事の出来る天賦コジョンドのナタクだ。このパーティー、攻撃性能に関してはカノンとナタクが担当している。この二人が落とされた場合、勝利はないと思っても良いだろう。

 

 何せ、黒尾とメルトからは攻撃力のほとんどがオミットされているのだ。黒尾ももう昔の様にVジェネレートを放つ事は出来ない様に調整されている。それと引き換えに手にしたのが、経験と俺と一緒にいる事によって覚えた、育成家として相手を見抜く能力、能力の解析なのだから。

 

「黒尾、メルト、カノン、ナタク。今回はお前ら四人に任せる。相手は格下だからと油断すれば一瞬で喰い殺してくるタイプの人間だ、欠片も慢心するなよ」

 

『慢心する理由がありません』

 

『ぬめーん』

 

『やぁっとアタシの番ね! もう、待ちくたびれちゃったわ』

 

『何時も通り、ただ勝利するのみです』

 

 手持ちのポケモン達の戦意は十分なようだ。いや、この面子の中でバトルに対して気後れする様なポケモンは存在しないだろう。多少、無茶や悪い事をして手に入れたポケモンが存在する事は認めざるを得ないが、バトルに対するモチベーションに関しては俺から吹っかけた事は”一度もない”のだ。バトルに対して勝利したいという気持ちは純粋にポケモン達に生まれ、そして俺はそれを育てているに過ぎない。

 

 誰かのために戦うのは動機が弱すぎる。

 

 他人の為という自分の為ならまだ納得できるが。

 

「ふぅー……センリの手持ちが去年から変わってないなら耐久特化型輝石ラッキー、破壊の遺伝子が内蔵された”闘神”ケンタロス、メガシンカに開眼したガルーラ、怠ける事を止めた天賦ケッキング、復讐の刃のザングース、んで全天候型ポワルンって所だけど―――」

 

 恐らくセンリが本気で戦うというのならこの六匹で来るのは間違いがないだろう。ただこの六匹の内、二匹は調整の関係で参加してこない。その中で、メガガルーラへとメガシンカしてくるガルーラと、そして輝石ラッキーが来ない事だけを心の底から祈っておく。メガガルーラに関してはもはや説明をする必要は存在しないと思うが、輝石ラッキーはあの凄まじい耐久性に加えて麻痺や火傷を容赦なくばら撒き、その上で積み技を重ねてバトンタッチしてくる。

 

「……いや、決めた事を変えるのは駄目だな」

 

 積み消し、みちづれ、ほろびのカウント、割合ダメージ。輝石ラッキーを潰すというのであれば、まさしく氷花の存在が最適なのだ。それこそメタを取れるというレベルで。だがそうするとあまりにもあっさりと相手の受け起点を破壊出来てしまう。そうなると正直、こっちにもあっちにも得はない―――勝つのではなく、調整を最終的な目的としたスパーに来ているのだから。

 

 それはそれとして絶対勝つのだが。

 

「ま、こんなところだろう。4:4で此方が有利、冷静になってセンリの手の内を読めば負ける事はない、読めれば―――」

 

 その”読み”というのが凄まじく難しい。経験とセンスの差がどうしても見えてしまう部分だ。これだ、これが自分の弱点であり、鍛えなくてはならない。サカキやアデクレベルの”魔性の読み”や”絶技”と表現できるポケモンに対する指示。ああいうベテランに入って経験が極まっている指示型のトレーナーに勝利するには、素の読みの力を鍛えるしかないのだ。

 

 オニキスのトレーナーとしての能力は8割、9割完成している。

 

 それゆえに求める、更に先へと進み、成長する事を。

 

 男として生まれたのであれば、一度は最強を目指さないとならない。

 

 それは病気の様なものであり、どうしようもない衝動であり、

 

 ―――大人になったつもりで、それでもまだ誰にも敗北しない最強の座を目指すのは、大人になり切れていない部分があるのかもしれない。だとしたら、

 

 世の中、馬鹿な子供(トレーナー)で溢れているのかもしれない。

 

「……良し、ホウエンのジムリーダー達とのバトルは間違いなく良い経験になる。ホウエン最初のジム戦だ、危なげなく勝利して次へと繋げるぞ」

 

『はい!』

 

「ピカネキ、いい加減ナチュラルを叩き起こしてくれ。そいつが審判をしないと話が始まらない」

 

 後ろでおうふくビンタがさく裂する音を耳にしながら、ポケモンバトルを果たすために前へと、奥のフィールドへと向かって歩き進む。




 ピカネキの朝は紅茶と葉巻で始まる。ナチュラルを見つけたらプロテインを叩きつけ、スクワットしながら紅茶と葉巻を嗜むのだ。そしてナチュラルは死ぬ。

 SAN値が徐々に削れる。

 という訳で次回、vsセンリですわ。準備をしたり、対策を考えたりするのも”ポケモン”かなぁ、と思う。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。